勇者の処分いたします

はにわ

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勇者への誘拐の嫌疑

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応接室に現れた勇者ゼルスは、屋敷住まいではあるが贅沢はしていないらしく、身に着けている衣服も特に高級品というわけではなさそうだった。普通に市井が着るレベルの服だ。

顔は優男に見えるが、眼光は鋭さを持ち、体は細くとも筋肉で引き締まっている。確かに勇者ゼルスで間違いないのかなとシンは思った。


「失礼いたします」


いつの間にかメイが煎れた紅茶がシン達の前に置かれた。


「さぁ、どうぞ」


ゼルスはシン達に飲むように促すと、自分も紅茶に口をつける。
レイはどうしたものかと躊躇ったが、先に口をつけたゼルスを見てシンも紅茶に口をつけた。


(ふむ・・・)


高い茶葉ではない。少し値は張るが、これも市井には買えない物ではなかった。
屋敷に住んでこそいるが、生活レベルは決して貴族のそれと同じようにしているわけではないということがわかった。


「それで、王室調査室の方が本日はどのようなご用向きで?」


ゼルスは微笑を浮かべながら切り出した。


「率直に申し上げまして、勇者ゼルス様には誘拐の嫌疑がかけられておりまして、それについてです」


シンがそう答えた瞬間、部屋の空気が音を立てそうなくらい張り詰めるのをレイは感じた。
傍に控えているメイが、シンをきつく睨みつけていた。緊迫した空気に、レイはうっすらと冷や汗を浮かばせるが、シンはあくまで平淡な様子であり、言われた当のゼルスも穏やかな笑みと雰囲気をまるで崩さなかった。


「それは穏やかではありませんね。僕が誘拐をしたのですか?」


「はい。訴えもありましたし、我々もそのように考えております」


淡々とそう答えるシンに食ってかかろうとするメイだが、ゼルスはそれを手で制した。ゼルスの表情はまだ笑みを浮かべたままだ。


「ふむ、それは困りましたね。はっきり言いまして、それは誤解ですよ。僕は誰一人として誘拐などしておりません」


「なるほど。勇者ゼルス様としてはそのように認識されておるわけですね」


シンはコクリと頷いてから、再び口を開いた。


「エイミー・ノア伯爵夫人をご存じですか?」


ピリッと、再びはっきりとわかるくらいに空気が張り詰めた。
空気を張り詰めさせているのは、他でもないゼルスだった。


「ノア伯爵からご夫人の誘拐について届けがなされておりまして、その主犯がゼルス様であると伺っております」


シンは淡々と言葉を続ける。
ゼルスの笑みを浮かべていたはずの顔は、能面のように無表情になっていた。
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