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16 英語と美術

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 翌朝。と言っても、1時間半後。午前6時30分。叶矢が家を出る時間。
「お兄ちゃん、今日は学校でも私がすーちゃんのお世話をしても良いですか?」
「良いけど、どうして?」
「お兄ちゃん1人に任せるのは申し訳なくて。」
「そう。僕は全然構わないよ。スコルピーも喜ぶんじゃない?」
「では、そうしますね。」
「あ、昼休みは教室でご飯食べにくかったら理科準備室に行きなね。行ってきまーす。」
「はい!行ってらっしゃい!」
泉歌は、笑顔で兄を見送った。これで、今日一日はスコルピーは自分のもの。
 7時30分。家を出る。
「すーちゃん。」
「ん?」
スコルピーが、補助バッグにぶら下げられている巾着袋から顔を出した。
「今日は、お昼ご飯も私と一緒に食べましょうね。」
「そうなの?」
「嫌でした?」
「ううん!せんかちゃんとお弁当、楽しみ!」
「そうですか!よかったです。」
「……ねぇねぇ、せんかちゃんは、何が得意?得意教科。」
「得意教科?それは、5教科の中ですか?」
「ごきょーか?」
「あ、国語、数学、理科、社会、英語です。」
「んー、全部合わせて!」
「うーん……英語、ですかねぇ。」
「英語かぁ。すーはね、数学が好き!」
「数学。なぜですか?」
「エヴァーラスティンにもあるから!国語とか英語は、ないもん。」
「数学はあるんですか!」
「うん!あとね、美術とか、音楽とかはあるよー。」
「そうなんですか!」
「うん!きょうやはね、美術が好きって言ってたよ。」
「絵が上手ですからね。」
「そうなの?あ、でもせんかちゃんは美術部だよね?」
「そうですよ。絵を描くのが好きなんです。」
「そうなんだぁ。せんかちゃんの絵も見て見たいなぁ。」
「人に見せられるようなものではありません。」
「えぇ。見たいなぁ。」
「き、機会があれば。」
クラスメイトが近付いてくる。スコルピーは、素早く巾着袋の中に入った。
 昼休み。日中、スコルピーは泉歌の机の中にいた。
「先生の所に行くの?」
「島田先生ですか?」
「うん。」
「はい。」
理科準備室には、見慣れた面々が。
「あ!きょうや!!」
「やっほー☆」
「親父~、しょうゆ借りるぜ~。」
「おう。瀬戸口さんも、その辺に座りな。」
「あ、はい。」
叶矢と龍斗が座る実験台にスコルピーと自分のお弁当を置き、泉歌は兄の隣に腰掛けた。
「きょうや~。」
スコルピーが、叶矢のお弁当の中のちくわを食べる。
「あ、自分の食べてよ。」
叶矢がスコルピーをつまんでお弁当から遠ざけると、スコルピーは嬉しそうに自分のお弁当に駆け寄った。
「スコルピーくんよ、少しは俺にも反応してくれ。」
「りゅうとくんだー。」
「真顔かよ。」
自分の思いがいかに一方通行か。泉歌の胸は、今にも張り裂けそうだった。
「あ、泉歌のお弁当にも、ちくわ入ってるよ。」
叶矢が指差すと、スコルピーが駆け寄って食べた。
「おいしいですか?」
「うん!せんかちゃんは怒んないの?」
「怒りませんよ。」
兄の気遣いさえも、痛い。


To be continued…
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