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36 兄妹じゃない兄妹

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 泉歌は、顔を洗うためにお手洗いに入った。次は、叶矢とスコルピーの番だ。2人は、向かい合わせに座った。
「……きょうやの方に傾いてて、怖い。」
「仕方ないだろ。すーが軽いんだから。」
「うわぁ、落ちそう!」
椅子から転げ落ちそうになるスコルピーを、叶矢は拾い上げた。自分の膝の上に乗せる。
「きょうや。」
「ん?」
「……きょうやとせんかちゃんは……兄妹じゃないの?」
「突然。なんでそう思うの?」
「せんかちゃんはね、きょうやが遊園地にいつ行ったか、知らなかったの。」
「あぁ、そう……そうだよ。俺と泉歌は、血の繋がりは無いんだ。」
「どういうこと?」
「エヴァーラスティンには、結婚ってある?」
「けっこん?」
「自分のパートナーを見つけて、その人と家族になるための契約。」
「チャルスと一緒?」
「どんなやつ?」
「2人で子供を育てるための契約。」
「あー、まぁ、そうだね。近いかな。人間は、それを取り消す事ができるんだ。」
「えっ、どうして?」
「さぁ……。俺の母さん泉歌のお父さんは最初のパートナーと、その契約を取り消した。そして、今度は俺の母さんと泉歌のお父さんが、2年前にその契約を結んだ。」
「へぇ……。」
「難しい話かもね。とにかく、俺たちは同じお母さんのお腹から生まれてきていない兄妹なんだよ。」
「じゃあ、2年前よりも前は、2人はどんな人だったの?」
「泉歌の事はよく知らないけど、泉歌には妹がいたらしいよ。だからあんなにしっかりしているのかな……。」
「へえ……じゃあ、きょうやは?」
「俺は、嘘ついてない時の俺と一緒だよ。面倒くさがりで適当な奴。あと、兄貴がいた。」
「きょうやは弟だったの?」
「そうそう。出来のいい兄がいたんだよ。嫌いだったけどね。仲悪かったし。……嘘ついてる時の俺は、それの真似。だから、嘘つきの俺も嫌い。」
「……。」
「でも、すーと出逢って変わったんだと思う、俺。」
「変わった?」
「うん。もっと、冷たくて嫌な人間だったはずなのにさ。すーと泉歌の事、守りたいと思うなんて、偽善者かよ……。」
「ち、違うよ……!それが本当のきょうやなんだよ。本当は優しい人なんだよ。それを、今まで押さえつけてたんだよ。自分にレッテルを貼って。」
「……それはあるかもな。幸せになったらダメなんだ、俺は幸せを知らないんだって、知らなくていいんだって思ってたかもな。」
「今も思ってる?」
「……幸せが何か、知らないから分からないけど、今までどうでも良かったことを、考えるようになった。例えば、すーが待ってるから早く教室に帰ろう、とか。泉歌は体育で疲れてるから、作りやすいものをリクエストしよう、とか。料理以外の事なら、俺が出来るかな、とか……いつからそんな良い奴になったんだよ俺って笑える。けど、それは多分、すーと泉歌だからなんだよ。2人が笑ってると……俺だって嬉しいんだ。……変なの。」
「変じゃないよ。」
「……すーのおかげだよ、全部。」
その儚げな笑みに、スコルピーは目を奪われた。
「……すー?」
「……今日のきょうやは、かっこよくて心臓に悪い……。」
「何言ってんの。」
「すーはね、今すごく幸せ。」
「そう。」
「でも……心のどこかで、すーが幸せでいいのかなぁって思うんだ。自分の家族の事、忘れてんのにって。……すーの家族は、すーに忘れられて悲しいかな。それとも、嬉しいのかな。すーは、なんで家族と一緒にいないんだろうね。」
「思い出したい?」
「……うん。だって、すーが家族だったら、忘れられたら嫌だもん。思い出して、それで、会いたい……。」
"会いたい"。叶矢は、その言葉に胸が痛んだ。

家族に会いたい。
そんな寂しい心を抱えた3人だから、出逢ってしまったのかもしれない。
自分の家族の行方も分からない、ひとりぼっちの3人だから。

「どうやったら思い出せるかな?」
「うーん……色々な手がかりを探せば?すーが怖いものとか、トラウマとか、なんかの参考になるんじゃない?」
「すーの怖いもの……。」
「うん。帰ったら書き出してみよっか。もう着く。」
叶矢は、スコルピーを肩に乗せて立ち上がった。


To be continued…
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