10 / 34
第2話 いざ、帝都へ
① 天馬の馬車
しおりを挟む侯爵位授与式から2日が経った。
式の後処理は昨日で完了し、今日からは通常業務に戻――らない。
寧ろ、ある意味で式よりも重要な仕事が本日から始まるのだ。
前にも少し触れたが、皇帝陛下との面会である。
基本的にヴァルファス帝国では爵位授与に皇帝の許可が必要であり、私のように親から子へと継がれる場合であっても事後連絡を欠くことは許されない。
とはいえ長い式が開かれるわけでも無く、極端に言えば皇帝へ挨拶するだけなのだが。
ただそれだけではあるのだが、このウィンシュタット領の場所に少々問題がある。
何せここは帝国の“東端”。
隣国である東部諸国連合との国境沿いに位置するのが我が領地なのだ。
当然、帝国の中心に鎮座する帝都ヴァルキスとはかなりの距離があり、顔見せに行くだけでも相当な労力となる。
もし徒歩で行こうとするなら、最低でも2週間は見積もっておく必要のある行程だ。
まあ、私は侯爵であるが故に、馬車を使わせてもらうが。
そういう訳で、これから楽しい楽しい帝都旅行に出発するわけである。
――うん、なかなかに面倒臭い。
「坊ちゃま、出立の準備整いました」
そうこうしている内に、銀髪の美少女――私専属の侍女であるセシリアが迎えに来た。
手には大きな旅行鞄を持っている。
今日もメイド服をきっちりと着こなし、凛とした佇まいが美しい。
もっとも、そんな凛々しい彼女を私は好きにしてしまっているのだけれどね!
……まあ、一昨日は情けない姿を見せた。
前の世界で人生歩んで三十余年、コチラの世界でも十余年生きてきたというのに、純情な少年のような反応をしてしまった。
しかし、もう大丈夫。
セシリアとの体験を経て、私は一つ上の男になったのだ。
もうあんな無様は曝さない。
その証拠に――
「セシリア」
「はい、何でございま――んんっ!?」
――返事を最後まで言わさず、彼女の唇を奪う。
「んんっ――んっ――は、ぅぅぅ――」
セシリアの口内へ強引に舌を割り込ませ。
「あ、んんんっ――れろっ――はぅっ――れろっんっ――」
互いの舌を絡ませ合う。
……繊細だ。
とても繊細で、柔らかで、滑らか。
セシリアの舌は、そんな触感だった。
「――は、あっ」
このまま何時までも堪能していたいところだが、今日は時間が無い。
一旦口を離す。
「ふぅ、なかなか良かったぞ。
君とのキスは最高だな」
嘘偽りない本音だった。
ただ口づけを交わすだけでこれ程の官能を味わえるとは。
これまでの人生で経験のないことだった――いやその、セシリア程の美少女とキスをした経験自体、経験が無かったわけだけれども。
「さ、そろそろ行こうか。
余り御者を待たせるわけにもいかない」
余裕をもった態度でセシリアを促し、部屋を出ようとする――が。
「…………」
彼女が動かない。
「……? どうした、セシリア? そろそろ時間なんじゃないのか?」
「…………」
「お、おーい、セシリア?」
「…………」
フリーズしている。
微動だにしない。
視線が空中の一点を見つめたまま固定されている。
「せ、セシリアぁっ!?」
――動き出すのに、たっぷり10分はかかった。
私は、そんなに嫌われていたのだろうか――い、いや、そんなはずは、無い、と信じたい。
「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「い、いや、別に大丈夫だ」
場所は既に馬車の中。
私達は向かい合う形で座っていた。
仄かに顔を赤らめて、セシリアは先程の弁解を口にする。
「ただその、なんだ――い、嫌なら、そう言ってくれていいんだぞ。
君に無理はさせたく――」
「そんなことはございません!!」
途中で遮られた上に思い切り否定された。
ここまで強い口調を彼女が使うのは実に珍しい。
「そ、そう?」
「はい!
何でしたら、いついかなる時でも接吻をお受けいたします!!」
「……そ、そうか。
それなら、いいんだ」
嫌がっていたわけではないと知って、ほっとする。
ああ、しかし、余り油断してもいけないか。
犯した“失点”を取り戻すため、必死になっているだけかもしれないのだから。
セシリアとの付き合いはもう十年以上になるし、大よそ彼女のことは理解しているつもりでいるが、やはり女性の思考を男が把握するのは難しい。
ちなみに、だが。
広い馬車の中には現在、私とセシリアだけ。
頑丈な造りで、車内の会話は外の御者には伝わらない。
だからこそ、こんなちょっと恥ずかしい会話をしているのだ。
それはつまり、この帝都旅行は二人きりで行く、ということでもある。
これはもう、新婚旅行と言っても過言ではないのではなかろうか――いやすまない、ちょっと気が逸り過ぎた。
ここで、侯爵ともあろう者がこんな少人数で帝都へ行くのか、という疑問を持つかもしれない。
しかし考えてもみて欲しい。
今回は皇帝陛下に挨拶するだけなので、身の回りの世話をしてくれる使用人さえいれば不都合はないのだ。
しかも帝都側で受け入れの用意――宿泊場所や食事等――もしてくれるため、持ち物も最低限でいい。
加えて、余り大勢でいくと経費が無駄にかさむというのもある。
最後は若干アレな理由だが、とにかく以上のことから私はセシリアだけを伴った帝都行きを決断したのだ。
――彼女と2人だけの旅行もしたかったし。
「坊ちゃま、随分と嬉しそうですね」
思考の最中、セシリアが話しかけてきた。
「……そうだったか?」
「はい、微笑んでいらっしゃいました」
私としたことが、顔に出ていたのか。
うん、陛下への面会は面倒事だが、セシリアと旅ができることを考えればそう悪いものでもない。
私は素直にその気持ちを吐露する。
「これから数日、私と君で水入らずだからな。
どうしたって、嬉しい気持ちになるさ」
「…………ぴゅう」
なんだセシリアその鳴き声。
凄く可愛いぞ。
「――し、失礼いたしました」
「う、うん、まあ、深くは問わない」
恥ずかしさで顔を真っ赤にに女性に対し、アレコレ詮索するのも不作法だろう。
しかし今のは非常に愛らしかったので、是非またやって欲しい。
「あ、坊ちゃま、見て下さい。
とても良い景色でございますね」
「ああ、そうだな」
セシリアが窓の外へ視線を向けた。
露骨な話題転換。
だがそこへ敢えて乗る。
これが大人の気配りというものだ。
「なんとも不思議なものです、空を飛ぶというのは」
「……そうか。
君は天馬の馬車は初めてだったな」
「はい。
何度か見かけたことはありましたが、実際に乗り込むのは本日が初にございます」
天馬の馬車。
この初めて出す単語について、説明しなければなるまい。
といっても、物自体はそのものズバリだ。
一対の翼を持ち空を飛ぶことができる馬“ペガサス”に馬車を引かせている、というただそれだけ。
ペガサスは現代日本でも有名な生物なので、細かい説明は要らないだろう。
漫画だの小説だのに出てくるペガサスを想像してくれれば、それとほぼ違わない。
敢えて違いを挙げるとするなら、地球では空想上の存在だったが、ライナール大陸では実際に生息している、ということだろうか。
「坊ちゃまは、士官学校へ赴く際に使用しておりましたね」
「ああ。
コレのおかげで帝都まで1日で到着する。
便利なものだ」
「平民にはなかなか手の出せない代物ではございますが」
天馬の馬車は空を移動でき、しかもペガサスの飛行はちょっとした自動車並みの速度が出る。
そのため、歩いて2週間はかかる距離の帝都へ、一日で――より正確には10時間程度で到着してしまう。
下手すると自動車より使い勝手の良い乗り物なのだ。
だが、欠点もある。
セシリアも触れたように、天馬の馬車は非常に高価なのだ。
レンタルするだけでも、相当な量の金貨が消えていく。
ペガサスは帝国内で棲息数が少なくかつ飼育に手間がかかり、その上御者にも専門的な操馬技術が必要になるのが、高コストの理由だ。
故に、平民ではまず使うことなどできず、貴族であっても普段使いは難しい。
帝都旅行を少人数で行うのは、この辺りの事情を鑑みた結果でもある。
いずれペガサスを量産し、誰もがこの乗り物を使うことができるようにしたいものだ。
交通の便が良くなれば、交易が活発になり、経済が発展する。
「しかし坊ちゃま、この乗り心地の良さは何なのでしょう?
ペガサスに牽引されて空を飛ぶわけですから、もっと揺れるものだとばかり考えておりました」
年相応に不思議そうな表情をするセシリア。
うむ、実に良い質問だ。
「ああ、それは――」
ペガサスが、鳥のように揚力を利用して飛行しているのではなく、“魔力”によって浮遊しているからだ。
この世界、どんな生物も大なり小なり魔力という力を保有している。
人はそれを魔法という形で行使するが、ペガサスは自らの飛翔にそれを使用しているのである。
そしてその“浮かぶ力”は、馬車そのものにも作用する。
故に、天馬の馬車は快適な乗り心地を提供してくれるのである。
「余談だが、専門家はこの現象の解釈として『ペガサスが飛行魔法を使っている』説と『ペガサスは魔力を飛行能力に転用できる』説で争っていたりする」
「そこに、議論の必要はあるのでしょうか?」
「どれだけ調べても、今のところペガサスが魔法を使う証拠を見つけられていない。
しかしペガサスも魔法を使用していると仮定した方が、魔法理論の適用範囲が広がる――要は、魔法学者の権威が高まる」
「……学者様も苦労なされているのですね」
「下らない権威争いだ」
こういうのは現代社会でもあった。
どこに居ても、人のすることなんて似たようなもの、ということだ。
「まあ、この話はここまでにしよう。
せっかくの旅なんだ、もっと楽しいことを時間を費やさねば」
ここまでにも何も、自分で始めた話ではあるのだが。
ともあれ、私は窓枠に手を伸ばして戸を閉める。
「どうされました、坊ちゃま?
徐に窓などお閉めになって。
景色を楽しむのではないのでしょうか?」
「ああいや、楽しむのは景色ではないんだ」
馬車にある他の窓も閉めていく。
採光窓に閉ざしたので、今馬車内の光源は天井に釣らされたランプだけ。
中から外は見えず、反対に外からも中は見えなくなった。
ついでにこの馬車は防音もしっかりしているため、音も漏れない。
ここでナニが起ころうと、御者にすら察知されないわけだ。
「あの、坊ちゃま?」
「ん? なんだ、セシリア」
返事しながら、彼女のすぐ隣へ腰を下ろす。
余りにも近くに座ったせいで、肌と肌が触れ合ってしまう。
「あのその――坊ちゃま?」
「ん? どうした?」
適当に相槌を打ちながら、手をセシリアの太ももに這わせる。
「ひゃんっ」
可愛らしい彼女の声。
私以外、この世界でこの声を聞いた者はいないだろう。
そして太もものすべすべなこと。
無駄肉が付いているような様子はないのに柔らかく、それでいて弾力もある。
「ぼ、坊ちゃま。
いけません、こんなところで――」
「誰も私達のすることに気付きはしないさ」
スカートを捲る。
色っぽい太ももが露わになっていき――む、グレーのショーツか。
クールビューティーなセシリアには、なかなか似合っている。
「――や、やはり、ダメです。
こんな――坊ちゃまのお召し物も汚れてしまいます」
「セシリア」
少し強い口調で、彼女に告げる。
「股を、開くんだ」
「……はい」
セシリアは素直に従った。
太ももと太ももが離れていく。
その間に手を滑り込ませると、ゆっくりと手をその付け根へ向けて近寄らせた。
と同時に彼女へ寄りかかり、その美しい首筋へ舌を添わせる。
「ああっ! いけません――いけません、坊ちゃまっ――ダメ――――ダ、メ――――♡」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる