異世界の侯爵ライフは他人任せ

ぐうたら怪人Z

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第3話 VS 吸血鬼

① ウィンシュタット領に戻って

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 帝都を訪問し、皇帝陛下への挨拶を済ませてから、既に1週間ほど経過した。
 私はといえば、いつも通りの業務に戻り、日々を過ごしていた――わけではなく。
 隣国クレアスとの会見に臨むため、アレやコレやと準備の真っ最中だ。
 向こうから“帝国傘下に加わりたい”と申し出た以上、こちらが圧倒的優位の立場ではあるものの――いや、優位な立場であるからこそ、隙を見せられない。
 我がウィンシュタット領の“完璧さ”を見せつけ、きっちり主導権をこちらが確保するつもりだ。

 ここで、クレアスの簡単な説明でもしておこうか。
 かの国は東部諸国連合に所属する、王政を敷いた国である。
 他国からは小王国などと揶揄される程に規模は小さいが、東部諸国連合の国としては平均よりやや大きい程度。
 連合は大陸東部に散在する小国が、大国に対抗するため手を組んだ代物だからだ。
 一つ一つは小さいものの、連合全体としてならば帝国に肩を並べる程の領土を誇る。

 ……説明がそれてしまった。
 クレアスの特徴としては、険しい山々の多さが挙げられる。
 戦争の観点でみれば、守りやすく攻められにくい領土と言える。
 だからこそ、かつての帝国による侵略を防ぎきれたのだろう。
 しかしその一方で土地の生産性は低い。
 起伏が多い土地であるため開墾が困難な上、肥沃とは言い難い土地柄もあって作物が育ちにくいという二重苦。
 帝国への防波堤になっているという事情から連合各国の支援もあって、どうにか食いつないでいた――のだが。
 近年、帝国が(というか我がウィンシュタット領が)東部諸国連合に対し宥和政策的姿勢を取り続けてきたため、帝国への恐怖が薄らぎ、支援が打ち切られ始めたのだ。
 そこへ飢饉まで発生したせいで、クレアスの内政は立ちいかなくなってしまったのである。

 うん、我が父ながらなかなかえげつないことをする。
 正に真綿で首を絞める行為。
 クレアス側は、まさか父の平和外交がその実、侵略外交の側面も持っていたなど思いもしないことだろう。
 目論見通りいけば労せず国を手に入れられ、目論見が外れても平和は維持できるという、優れた戦略である。
 ……もっとも父上の言動を見るに、彼としては後者が主目的であり、前者の狙いはおまけ程度だったようだが。

 さて、ここでそんな“土地の痩せた”国を手に入れて何かメリットがあるのか、と疑問に思うこともあるかもしれない。
 まず帝国にとっては、東部諸国連合の“防波堤”を引き剥がせるという何にもまして大きな成果がある。
 とはいえ、これは私にとって余り有難い話では無い。
 私は戦争なんぞ望んでいないからだ。
 こちとら平和な日本出身。
 戦争なんぞ御免被る。

 そして多少意見は違えど、宰相も同じ考え。
 彼もまた、帝国の侵略戦争に否定的な“派閥”に属しているのだ。
 だからこそ、クライブ先生は非戦派であるウィンシュタット家の手にクレアスを収めておいて欲しかったわけである。
 皇帝陛下との面会でのやりとりには、そういった裏事情があった。

 では、私にとっての利益とは何か。
 答えは簡単、クレアスの広大な土地が欲しいのだ。
 斜面が多いだの痩せているだの散々けなしてしまったが、実のところそこは余り大きな問題では無い。
 何故なら、ジャガイモやトマトを始めとした、“痩せた土地でも育ちやすい作物”を既に確保しているからだ。
 我がウィンシュタット家が長年かけて作物の研究を進めていた――というわけではなく。
 私の持つ“現代社会の知識”を活かし、商人からそれらの種や苗を買い占めておいたのである。
 なんのかんのと色々役に立つものだ、現代の知識というのは。
 一から研究開発を始めたのでは、それら作物の特徴を把握するのにどれだけの年月が必要か分かったものでは無い。

 ……どうにも説明が長くなってしまった。
 まあそれ程重要な話というわけでもないから読み飛ばしてくれても構わない。
 私にとって一番重要なのは――

「――と、なんだ?」

 廊下からバタバタと慌ただしい足音が聞こえる。
 まっすぐに、今私が居る執務室に向かっているようだ。
 それはどんどん大きくなり、

「エイルぅっ!!」

 そんな声と共に、ドアが開け放たれた。
 現われたのは長い金髪を後ろで束ねた絶世の美少女――もとい、美少年。

「ああ、ルカか。
 ようやく到着したんだな」

 帝国三公爵家の公子であり、私の親友愛人でもあるルカ・アシュフィールドだった。

「うんうん、到着したよ、しましたよー!
 愛しのエイルに早く会いたいと、馬かっ飛ばしたやってきたよぉ!!」

 ニコニコの笑顔で迫ってくるルカ。
 男にそんな真似されても嬉しくもなんともないのだが、こいつの場合は話が別だ。
 美麗な少女に近寄られて悪い気になる男なんて存在しない。
 いや、ルカは一応男ではあるけれども。

「それにしてもどうした、その上機嫌ぶりは?
 何かいい事でもあったのか?」

「どうしたもこうしたも!
 ほれほれ、これ!!」

 じゃじゃーん、という効果音が付きそうな勢いで彼が見せつけてみたのは、一つの勲章だ。

「見ろよ、これ!! なんだか分かるか!?」

「近衛軍大隊長の勲章だな」

「そう! それ!!
 僕はとうとう、帝国の誇る最強軍団の大隊長に任命されたのだ!!」

 ふんす、と胸を張るルカ。
 彼が公爵家の次男であることを鑑みればそこまで誇れる役職でもないように思うのだが、それは言わぬが華だろう。
 実際、然程高い官位ではないものの、軍部の中ではかなり人気のある職なのだし。

「で! で!
 これ、エイルが陛下に推薦してくれたんだろ!?
 宰相から聞いたぞ!!
 ううう、ありがとぅうううっ!!
 これで食いっぱぐれずに済むよぉ!!」

 目尻に涙まで溜めて喜んでいる。
 ……アシュフィールド家は成人したら食い扶持は自分で用意せよとの鉄の掟があるそうなのだが、そこまで厳しいのか。
 これ程に感動してくれたのなら、私も推挙した甲斐があったというものだ。

「……ま、君が希望していた将軍職を用意はできなかったがな」

「もう、クールにそんなこと言ってくれちゃって、この♪
 エイル、愛してるぅううっ!!」

 執務机を飛び越え、私に抱き着いてくる。
 うむうむ、愛い奴め。
 しかし飛びついてくるのは止めなさい、危うく椅子ごと倒れそうになったから。

「あー、エイルエイルエイルエイルー!」

 こちらの事情などお構いなしに、ルカは私の胸へすりすりと頬ずりしだす。
 なんともこそばゆい。
 あと仄かに女性のような甘い匂いを醸し出しているが、まあいつものことなので疑問には思わない。
 生物学的におかしくても、外見にはピッタリ合致しているのだから何の問題も無いだろう。

「……ふぅ。
 ああ、堪能した」

 しばらくの間そうしてから、ルカは満足げな表情と共に一旦身を離す。
 ……何を堪能したんだろう?

「しかしお前も大したもんだなぁ。
 お前が帰ってから、王城ではエイルの噂で持ち切りだったぞ」

「そうか?」

 まあ、そうだろうな。
 皇帝陛下より直々に、隣国クレアスの統治権と近衛軍大隊を譲り受けたのだ。
 父上の功績とクライブ宰相の思惑に乗っただけとはいえ、事情の知らない人から見れば大それた成果を挙げたように見えるだろう。
 過大評価であるものの、人から良く思われるのは悪くない気分だ。
 自然、笑みを浮かべてしまう。

「そうそう、もう会う人会う人皆口を揃えて言ってたぞ。
 “陛下の次の妃・・・はエイル・ウィンシュタット卿で決まりか!”って」

「おい待て」

 一瞬で笑顔が引っ込んだ。

「なんだその内容!!
 おかしいだろう!?」

「いやだって、陛下が領土と虎の子の軍隊をぽんと渡したんだから。
 こりゃもう“あの2人はそういう仲・・・・・なんだな”って思われても仕方ないだろ」

「仕方なくないぞ!?」

 発想が飛躍し過ぎている。
 褒美をもらったら懇ろの仲を疑われるとかどうなってるんだ。

「陛下は!? 陛下は止めなかったのか、その噂を!?」

「うーん、2人の関係について質問を受けても、“今はまだそれを語る時ではない”とか言ってたらしいけど」

「永遠にこねぇよ、それを語る時なんざ!!」

 確信犯か! あのホモジジィ!!

「ああ、でもクライブ宰相は必死になって否定してた」

「そ、そうか」

 先生は常識的に対応してくれたんだな。
 いや、助かった。

「……必死過ぎてキモかったけどな」

「ん?」

「いや、なんでもないなんでもない」

 誤魔化すように首を振る。
 何なんだろう?

「それと、勿論僕もちゃんと言っておいたからね。
 エイル卿は陛下の期先になんかならない。
 彼は僕のモノだ、と」

「それは違う」

「え?」

 ルカがきょとんとした顔をした。
 だがここははっきりとしておかねば。

「私が君のモノなのではない。
 君が私のモノなのだ」

「……それ、重要なのか?」

「重要だとも」

 モノの順序は大事である。
 リバなど認めない。

「そうだな、君にはこの際“上下関係”を分からせてやる必要があるようだ」

「ど、どうしたエイル?
 凄く悪い顔してるぞ?」

 ふっふっふ。
 そうかな?
 そうかもしれないなぁ?

「まずは――今回の“お礼”も兼ねて、足でも舐めて貰おうか」

「なにぃ!?」

 ルカが目を見開いた。
 構わず、私は彼の方へ自分の脚を向けると、

「まさか、断りはしないな?
 私は君に大隊長の役職を与えた恩人だぞ?」

「あ、ああ、あ――」

 狼狽えるルカ。
 ……いや、勿論ジョークだけれども。
 王城で変な噂が立ったことへの腹いせともいう。
 幾らなんでも友人にそんなことをさせる趣味は無い。
 趣味は無いが、面白そうなのでもう少し演じてみる。

「さ、舐めやすくしてやろう」

 と言って、履いている靴を脱ごうとすると――

「待て!」

 ――ルカが止めてきた。
 いつの間にか真剣な顔になっている。
 流石に怒らせてしまったようだ。
 一つ謝っておくか――と思ったら。

「自分で脱ぐんじゃない。
 僕が脱がす」

「何を言ってるんだ君は」

 とんでもないことを言いだした。
 彼も冗談に乗ってきた――わけではないようで。

「あ、おい、こら、脚にしがみ付くな!
 靴を外そうとするんじゃない!!」

「うるさい!!
 お前が言い出したことだろ!?
 吐いた唾は飲み込めないぞこの野郎!!」

 本気で私の靴を脱がしにかかってきた。
 逃げようにもがっしり掴まれていて上手く身動きできない。
 やばい、ルカのやつ本気だ。
 まさかこいつがここまで変態だったとは――!

「ほら、脱げた!」

「あー!?」

 そうこうしている内に、私は靴を、ついでに靴下まで脱がされてしまった。

「はぁっ、はぁっ――これが、エイルの生足――!」

 ルカの息が荒い。
 今にも足にむしゃぶりつきそうだ。

「やめろ、本気でやめろ!
 顔をそれ以上近づけるな!
 何処の世界に男の足を舐める公子がいる!?」

「ここにいる!!」

 目が真剣マジだった。
 ベロを出して、その先端を私の足指に近寄らせていく。
 艶かしいその舌の動きを見ると、少し舐められてみたい気がしないでもないが――いや駄目だ駄目だ!
 こんな場面、誰かに見られたら――


 「失礼いたします、坊ちゃま。
  クレアスへの対応について、ご確認頂きたいことがございます」


 ――見られちゃった。
 執務室の扉を開けたのは、私専属の侍女であるセシリア。

「…………」
「…………」

 ルカと私の身体が硬直する。
 つまりは、公子が私の足を舐める直前の姿勢で固まっているわけなのだが。
 そんな私達を銀髪の少女は食い入るように見つめてから、

「――ごゆるりと」

 一礼して、去っていった。
 廊下から響く規則正しい足音。
 遠ざかっていくその音を数秒聞いた後――私とルカは同時に駆け出した。

「ま、待て待て待ってぇっ!!?」

「誤解だ、セシリア!!」

 誤解じゃないけど誤解なんだ!!


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