異世界の侯爵ライフは他人任せ

ぐうたら怪人Z

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第3話 VS 吸血鬼

⑤ 逆転、逆転、また逆転

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 サーベルをドラキュラへ突き付け、ルカはニヤリと笑う。

「ふっふっふ、ここから先は僕の見せ場だ!
 皆、手を出すんじゃないぞ!」

 って、おい。
 いきなりそういうことを言うのは止めろ。
 公子がそんなこと口にしたら――

 「お、おい、どうする?」
 「え、えーと、どうしよう?」

 ――ほら、ルカに加勢しようとしていた兵士達が足を止めてしまっただろうが。
 もう少し自分の発言力というものを考慮して欲しいものだ。
 せっかく頭数はこちらが勝っているのだから、皆で囲ってしまえばいいだろうに。

 ……まあ、とはいえ。
 この場に居る兵達がルカの邪魔にならないか・・・・・・・・は、怪しいところなのだけれども。

「では行くぞ、自称・・伯爵。
 僕についてこれるかな?」

「ハハハ、未だ爵位を持っていない君に言われてもね」

 ――むぅ。
 挑発を挑発で返されたルカは、眉毛をピクっと震わすと、

「ぬかせっ!」

 掛け声と共に駆け出す。

「えっ!? 速っ!?」

 驚きの声を上げたのは、ディアナ王女だ。
 確かに、虚を突かれると遠目で見ていても見失いかねない速度。
 彼女の反応も無理はない。
 ドラキュラ伯爵ですら、目を見開いたのだから。

「せいやっ!!」

「むぅ!!」

 右薙ぎの一閃。
 ドラキュラは身を捻ってギリギリで交わす。

「まだまだぁっ!!」

 追撃の逆袈裟。
 刃は伯爵を捉える、が。

「甘い」

 相手は意に介さない・・・・・・
 己の身体を切り裂かれながら、その鉤爪でルカを狙う。

「おわっ!?」

 大きく仰け反り、それを交わすルカ。
 上半身が床に付きかねない程の反りっぷり。

「やってくれたな!」

 そんな無茶な体勢から全身のバネを使って一瞬で体勢を戻し――その勢いでドラキュラを斬りつける。

「甘いと言った!」

 しかし伯爵は伯爵で開き直っていた。
 ルカの斬撃を対処しないものと決め、お構いなしに攻撃を仕掛ける。

「よっ! ほっ! せっ!!」

 公子は公子で、空気をつんざくような爪の一撃を紙一重で交わしながら、サーベルを振るっていた。
 傍からは、ドラキュラ伯爵の攻撃を華麗に避けながら一方的に切刻んでいるようにも見える。

「ええぇぇえええ――アイツ、あんなに強かったの!?」

 そんな光景に王女は仰天し続けていた。

「ルカならあれ位はやる。
 士官学校の実戦訓練で、彼に勝てる生徒は一人も居なかった位だ」

「へ、へー……人は見かけに依らないのね」

 感心したように、ディアナ王女が吐息を漏らす。
 どうやらルカは名誉を多少挽回できたようだ。

 しかし、である。
 この状況、実のところセシリアの時と変わっていない。
 結局のところ、ドラキュラ伯爵に対して致命傷を与えられていないのだから。
 ルカのサーベルが刻んだ傷もまた、瞬く間に回復してしまっている。
 まあ、戦闘の経験が豊富な分、彼女より安定感をもって戦えてはいる――っと!?

「おわっ!!?」

 ルカの肩が切り裂かれる。
 伯爵の爪によって――ではない。
 彼の“血”によって、だ。

「ど、どうなってるんだ、それ!?」

 公子が戸惑いの声を上げた。
 それも仕方が無いだろう。
 ドラキュラの身体から噴き出た血が、突如“刃”に変われば戸惑いもする。
 ルカは、伯爵の生み出した“血の刃”に斬りつけられたのだ。
 そんな公子の様子を見て、吸血鬼はクツクツと嗤った。

「フフフ、普通に・・・戦っていたのでは埒が明かないのでね。
 奥の手を一つ切った訳だ」

 言う間にも、ドラキュラから流れる血が――おそらくは敢えて・・・治癒していない傷から流れる血が、次々と変貌していく。
 右肩の血は剣、左足の血は鎌、脇腹の血は矛。
 他にも無数の武器が生み出される。
 奴の持つ“変化”の力の応用だろうか?

 しかもただ武器を作製したわけではない。
 それらの“血製武器”は伯爵が手に取った訳でもないのに宙へ浮かび・・・・・
 それぞれがルカへと飛びかかってくる。

「反則じゃないか!?」

「殺し合いに禁じ手があるとでも?」

 初めて、公子が完全に守勢へ回った。
 要するに、逃げ回った。
 “剣”をサーベルで受け、“鎌”は屈んで避け、“矛”はバク転して躱す。
 無論、ドラキュラ伯爵もそれをただ見ているわけではない。
 彼自身もそこへ加わり、ルカを追い立てていく。

「うおっ! と! と! と! と! とっ!?」

 その連携を驚異的な反射神経でいなすルカ。
 時には真後ろからの攻撃すら回避する彼は、ある意味ドラキュラと同レベルの化け物と言っていい。
 しかしその顔に余裕は全くなく。
 持てる能力をフル稼働して、いつ崩れるかも分からないギリギリの均衡を保っていた。

 と、これは流石にまずいな。
 私も悠長に説明している場合ではない。
 即刻手助けせねば最悪の事態に陥りかねない。

「い、いや、大丈夫!
 まだまだ全然平気だから!」

 そんな私の思考を視線で察知したのか、ルカが慌てて言い訳してきた。
 ……曲芸染みた動きで敵の攻撃をかわしながら話しかけてくるとは、なんて器用な真似を。

「そう言うなら、さっさと何とかしろ、ルカ」

「わ、分かってるって!
 てりゃぁあああああああああっ!!!」

 発破をかけると、ルカの動きがさらに加速する。
 飛んで来る“血製武器”をサーベルで斬り壊し、さらに迫り来るドラキュラを蹴りつけ――反動で、大きく後ろへ跳躍する。

「……大したものだな」

 伯爵から感嘆の声が漏れた。

「ど、どうだ!
 なんとかしたぞ!!」

 肩で息をしながらこちらに向けてガッツポーズするルカ。
 確かに凄まじい動きではあるが、やったことは単に敵から距離をとっただけなのだが。
 ドラキュラもそれを分かってか、悠然と笑みを浮かべる。

「仕切り直しか。
 ……そろそろ後ろに控える兵士の助力を請うたらどうかね?
 キミ一人に、ワタシの相手は荷が重かろう」

「冗談言っちゃ困るな。
 お前の相手なんて、僕一人でお釣りが来るさ!」

 いや、さっきはかなり厳しかっただろう。
 思わずそう突っ込みたくなるのを、ぐっと堪える。
 何故なら――ルカにはまだ、切り札が残っている・・・・・・・・・からだ。

「ドラキュラ。
 光栄に思いたまえ――君に、僕の“魔法”をご披露してあげよう」

「ほう?
 それは興味深いな。
 見せてみたまえ」

 自分の優位に絶対的な自信があるのだろう。
 ドラキュラはルカが魔法を行使するのを妨げるつもりが無いようだった。
 ……ぬかったな、伯爵。
 その油断は、致命的だぞ。

 一方でルカはサーベルを高く掲げ、

「――<覚醒せよ、我が魂ウェイク・アップ>!」

 彼がほぼ唯一まともに扱える――そして誰よりもその扱いに熟達した“魔法”が発動する。
 途端、ルカの身体を黄金色の炎が取り巻いた。
 正確には炎のように見える力の波動――謂わば“オーラ”を身に纏ったのだ。

「……お待たせしたね。
 ここからは、本気モードだ」

「言うではないか、アシュフィールド公子。
 なかなか派手・・な姿になったが――どの程度のものか、拝見させて貰おう」

「お望みどおりに!」

 ルカがそう宣言した次の瞬間。
 ドラキュラの身体が両断された・・・・・

「……え?」

 呆気にとられたような呟きが、伯爵自身の口から零れる。
 なんてことはない。
 公子が手に持ったサーベルでドラキュラを斬ったのだ。
 ただそのスピードが、パワーが、これまでより格段に高まった・・・・・・・だけで。

「なんだ、今のは……?」

 斬られて崩れ落ちそうになる半身を腕で掴み、無理やり接合させる伯爵。
 その表情には、これまで浮かばなかった緊張の色が浮かんでいた。

「おいおい、ドラキュラ。
 いったい何を焦っているんだ?
 端正な顔が台無しだぞ」

 その様を見て、ニヤリと笑うルカ。
 実にドヤっとした顔である。
 これ以上ない程、イイ気になっているようだ。

 そんな彼を見て、不意に王女が声を零す。

「……ねえ、エイル卿。
 これってもしかして――」

「ご想像の通り。
 あれがヴァルファス帝国が誇る“身体強化魔法”だ」

 その疑問へ、端的に答えた。

 ルカが今使用したのは、“強化魔法”の一種。
 魔法には触媒が必要であり、それが大きな束縛になっていることはこれまで散々説明した通りである。
 しかし、この世界の人々も馬鹿ではない。
 課題解決のため、様々な手法が模索されてきた。
 その一つの“答え”として、ヴァルファス帝国が行き着いた終着点がコレなのである。
 効果は己の身体能力各種を飛躍的に高める、というもの。
 そしてその効能故に、必要な触媒は“自分の肉体”のみ。
 成果が大きく、それでいて触媒を携帯する必要が無い――というか、常に有るものを触媒としているため、利便性も極めて高い。
 一挙両得な魔法であり、士官学校では必修となっている。

 そして。
 ただでさえ常人の域を越えた身体能力を誇るルカが、そんな能力向上ステータスアップを受ければどうなるか。
 しかも彼は、“身体強化魔法”に関してのみ特異的に才能を発揮するのだ。
 この魔法の扱いに関して、公子の右に出るものは帝国全土を見渡してもそうそういない。

 ――結果、超人的な戦士が完成される。

「さて吸血鬼、覚悟はいいな?
 遊び一切なしに終わらせるぞ」

「ぐっ!?」

 ドラキュラが怯む・・
 ルカから距離を置こうと後方へ跳ぶが、

「遅い遅い!」

 当然、見逃すはずがない。
 金色のオーラを纏ったルカは、後ずさる伯爵を追い越して・・・・・さらに後方へ回り込み。
 持ったサーベルで彼を切り裂いていく。

「ぐ、ぬぅううううっ!!?」

 響く、ドラキュラの苦悶の声。
 再生が追いつかない・・・・・・
 斬られた傷が治癒しきる前に、次の傷が刻まれる。
 自慢の鉤爪は、とうに斬り飛ばされた。
 血の武器で反撃を試みても、それごと・・・・切刻まれる始末。
 ついには――

「ふっふっふ、いいザマ・・になったじゃないか、吸血鬼。
 魔物風情にはこっちの方が相応しい」

 ――不敵な笑顔を作るルカ。
 その手は、上半身だけになった・・・・・・・・・ドラキュラの頭を掴んでいた。
 下半身の方はどうしたかと言えば、八つ裂き――という言葉が生温い感じる程に、細切れになっている。
 傷の治る速度も目に見えて遅くなっていた。
 幾度にも振られた公子の刃が、とうとう吸血鬼の再生能力を上回ったのだ。
 ……これで、決着がついたのだろうか?

「く、ふ。
 フフ、ハハハハ」

 と、そう思ったのもつかの間。
 胸から上しか残っていない伯爵が、喋り出した・・・・・
 おいおい、そんな状態でまだ生きているのか?
 そう思ったのはルカも同じのようで、

「うわ、まだ生きてる!?」

 私と同じ感想を口にした。
 その反応に満足したか、ドラキュラはこんな状況だというのに笑みを浮かべる。

「ハハ、見事。
 本当に――見事だ。
 人の身でここまでの強さを身につけるとは、なかなかこの世界は・・・・・侮れん」

「……随分と余裕が残ってるじゃないか。
 まさかここから逆転できるとでも思っているのか?」

「いや――まともな勝負でキミに勝つことは困難だろう。
 それはよく分かったとも。
 キミはワタシよりも強い」

「なら――」

「だからもう一つ・・・・、奥の手を見せることにした」

 言うや否や、床に散らばったドラキュラの“血”が、“肉片”が、蠢動しだす。
 質量保存の法則など完全に無視して、小さな欠片だった・・・それらは急速に膨張していった。

「な、なんだ? なんだ?」

 予想外の光景に狼狽えるルカ。
 別に彼だけではない。
 この部屋にいる誰もが――ドラキュラ伯爵を除いて――何が起きようとしているのか、把握できなかった。

 そうしている内にも“欠片”達は蠢き続ける。
 各々が人と同じ、いやそれ以上の大きさにまで成長すると、今度は形が変わってゆく。
 最終的に――

「――魔物?」

 誰かが呟く。
 全く持って同感だ。
 散らばっていた血肉は、一つは巨大な犬へ、一つは悍ましい虎へ、一つは恐ろしい鬼へ――他にも様々な形状の魔物へと変貌していた。
 共通しているのは、どいつもこいつも剥き出しの肉と血が混じり合ったような、なんとも気味の悪い“肉体”をしているということか。

「――ふんっ、何をするかと思えば」

 無数の魔物達を前にして、ルカが鼻を鳴らした。

「確かに大した“手品”だけどね。
 こいつら、どう見たってお前より弱い・・じゃないか。
 今更“雑魚”を増やしたところで、何が変わるというんだ?」

「――ふむ、本当にそう思うかね?」

 ドラキュラもまた、動じた様子はない。

「当たり前だろ。
 まさか、こんな連中相手にまで僕が一人で戦ってやるとでも?
 これまで1対1で戦ってやったのは、お前が大将首だからさ」

「なるほど。
 この程度の魔物、兵士達で十分対処できると言いたいわけだ」

「分かってるじゃないか」

 まあ確かに。
 部屋の中にも外にもウィンシュタット家の兵が待機しているし、セシリアだっている。
 ルカの言う通り、こんなことで状況はひっくり返らな――――あ、いや。

 ……まずい。
 これはかなりまずい!

「ドラキュラ伯爵!!」

 声を張り上げた。
 私の挙動にルカが怪訝な顔をするが、説明する暇はない。

「貴様――貴様まさか――!!」

「フハハ、気付いたか!
 やはりキミは気づいたのか、ウィンシュタット卿!
 美麗な侍女も可憐な騎士もワタシを十分愉しませてくれたが、やはりキミは格別だな!!」

 高笑いするドラキュラ。
 五月蠅い、少し黙れ。
 ふざけるなよ、この野郎。

「――貴様、この街に魔物を放ったな!!?」

「そう! 御明察だ!!」

 私の想像を、吸血鬼は嬉々として肯定してきた。




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