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第三十三話 魔龍討滅戦 白龍ケテル

①! エゼルミアという女

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※不快感を催しかねない内容が含まれておりますので、ご注意下さい。


 五勇者の一人、“全能”のエゼルミア。
 彼女はいったい如何様な人物であったか。

 ――もし一言で表すというのであれば、凡庸な女性・・・・・であった。



 彼女は、人里離れた森の中にある集落で生を受けた。
 森の民“エルフ”としては、極々普通の生まれである。
 長の子として産まれた訳では無い。
 巫女として望まれた訳でも無い。
 本当に平凡な・・・子として産まれたのだ。

 取り立てて、才能も無かった。
 他人より優れた部分は無く、しかし特に劣った部分も無い。
 容貌はそれなりに整っていたが、それとて平均を大きく逸脱していたものでもない。
 どこをとっても、目立つ特徴の無い少女だったのだ。
 ……もっとも、容姿についてはあくまで美男美女が揃うエルフ族を基準とした話であって、他種族から見れば十分“絶世の美女”と呼ぶにふさわしいのだが。



 例えば、彼女の一日はこんな感じだ。

「ロズ、もう朝ですよ。
 ほら、そろそろ起きなさい」

 エゼルミアの朝は、弟達の世話から始まる。
 まだ夢の世界に浸っている2人の弟を揺り起こすのが、彼女の日課だ。

「むにゃむにゃ……まだ眠いよぅ。
 あと5分……5分だけ……」

 そして弟が素直に起きないのもまた、いつものことであった。
 エゼルミアは“怖い笑み”を浮かべると、口調を強くして、

「起・き・な・さ・い!」

「はいっ」

 なんだかんだでお姉ちゃん子(エゼルミア談)なロズは、ささっと目を覚ましてくれた。

 そんな弟の朝食を用意するのも彼女の役目。
 ついでの掃除や洗濯も済ます。

 別に両親が怠けているわけでは無い。
 親は親で早朝から仕事があるのだ。
 父は狩猟兼周囲の見回り、母は果実園の手入れ。
 日が昇ってすぐに両親はでかけている。
 必然的に、家の仕事はエゼルミアにお鉢が回るわけだ。



 弟を外遊びに追いやったところで、朝は終わる。
 気付けば日は高くなり、もうすぐ昼の時間だ。
 エゼルミアは身支度を済ませると、お弁当を持って外へ出かける。

「ラファル♪ お昼、持ってきましたよ♪」

 ニコニコと笑みを浮かべ話しかけると、

「ああ、今日もありがとう、エゼルミア」

 相手もまた微笑みながら返事をした。
 ちょうど木彫り細工をしているこの青年は、エゼルミアの彼氏である。
 つまりは恋人である。
 要するに将来を誓い合った男性である。

 何度も重ねたが、まあそういうことだ。
 エゼルミアは一般的な年頃の少女らしく、恋愛だってしていたのだ。
 ……なお、エルフ族は数百年単位で外見の成長が起きないため、割といい歳してても自分のことを年頃の女の子と自称する女性も多い。
 いや、この時のエゼルミアはしっかりと少女な年齢であったのには間違いない。

 閑話休題。
 仲睦まじい2人はそのままランチタイムに入ったようで、

「はい、あーんして下さい♪」

「ハハ、ちょっと恥ずかしいな……」

「ふふふ、こんなことで恥ずかしがっていては夜の私とは付き合えませんよ?」

「……エゼルミアって、偶に滅茶苦茶大胆なこと言うよね」

「私、子供は3人くらい欲しいです♪」

「こ、子供? 話が飛び過ぎてない? 会話のキャッチボールしようよ!?」

 今日日、女性から仕掛ける位当たり前である。
 この程度なら、“普通”の範囲だ――たぶん。
 彼らがこの日の夜、どれだけハッスルハッスルしたのかは、敢えて記すことは無い。






 ともあれ、エゼルミアとは、斯様に凡人であった。
 そんな普通の生活を送っていた彼女が。
 その時代において極々当たり前に起きる出来事――“魔族による襲撃”にも出くわすのも、やはり必然だったのだ。



 燃える森。
 立ち込める煙。
 集落のあちこちからエルフ達の悲鳴が聞こえる――いや、断末魔か。

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 そんな中を、エゼルミアは駆けていた。
 魔族に立ち向かうため――な訳が無い。
 彼女にそんな力は無い。
 全くの逆で、エゼルミアは逃げているのだ。

「ラファル! ロズ! どこ!?」

 はぐれてしまった家族と恋人の名を叫ぶ。
 本来、彼等を探す余裕など在りはしない。
 一刻も早くここを離れなければ、魔族に見つかってしまう。
 大声を出すなど以ての外だ。

「ロズぅ!! ラファルぅ!!」

 そんなこと、エゼルミアもしっかり理解している。
 しかしそれでも叫ばずにいられなかった。
 つい先刻、両親が殺されるところを・・・・・・・・見てしまったからだ・・・・・・・・・
 父も母も、エゼルミアを逃がすために魔族へと攻撃を仕掛け――そのまま帰らぬ人となった。
 彼女の親だけでなく、多くのエルフ達が同じような末路を辿っている。
 故に、それが危険な好意だと分かっていても、残された家族や恋人との合流に躍起になっているのだ。



 果たして。
 それは、ある意味で・・・・・叶った。


「あれあれぇ? こんなところで可愛いエルフちゃんはっけ~ん♡」


 ……最悪の形で、だが。

「え、エゼルミア」

「姉ちゃん……」

 恋人と弟は、魔族に捕えられていた。
 そしてそんな2人と再会したということは、つまるところエゼルミアは魔族に見つかってしまったということだ。
 周りは既に幾人もの魔族達に囲われている。
 もう、逃げられない。

「へぇへぇへぇ? 察するところ、エルフちゃんはこいつらを探してたってわけぇ?」

 魔族の一人――おそらくはリーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「弟と恋人を探すため、せっかく逃げられる機会を放り投げたってわけだ。
 好きだぜぇ、オレ、そういう話ぃ」

「……ひっ」

 小さく悲鳴を上げてしまう。
 言葉と裏腹に、男の瞳には剣呑な光が宿っていたからだ。

「基本的に男は殺す流儀だったんだけどぉ。
 男のエルフ玩具も欲しいって知り合いの変態に頼まれちゃっててさ。
 こいつらは殺さずにとっといたんだよねぇ。
 いやぁ、運命感じちゃわない?」

 面白そうにくつくつと嗤う、魔族の男。
 奴はさらに、こう続けた。

「こういう縁は大事にしないと、って思うんだよねぇ。
 いやぁ、エルフちゃんは凄く運がいい!
 オレはキミを見逃してあげようと思う。
 キミの大事な人と一緒にねぇ」

「え?」

 思いもよらぬ提案だった。
 そんな美味い話があるわけないと分かっていても、思わず反応してしまう。

「ただぁし!!」

 突如、魔族の叫びが響く。

「助けるのは、どっちか片方だけだ!
 キミはここで重大な決断をしなくてはならなぁい!
 誰が死に、誰が助けるのか、選ぶのはキミだ・・・・・・・!!
 ……キミが選んで、君が殺せ・・
 生き残った方とキミの命は、オレが責任もって保証しよう!!」

「――え」

 その言葉に思考が停止する。
 恋人か、それとも弟か。
 そのどちらかを選択しろ、と?

「さささ、早く選んでっちゃってくれよぉ!
 仮にもエルフなんだから人殺すくらい魔法でちゃちゃっとできるだろう!?
 オレは気が長い方じゃないからねぇ。
 あんま時間かかるようなら、約束破っちゃうかも♡」

「え、え、え――?」

 到底、無理な話だった。
 片方を選択するというだけでも無理難題だというのに、さらに選ばなかった方の命をエゼルミア自身の手で奪えと言っているのだ。
 できない。
 できる筈が無い。
 しかしやらなかったら3人共魔族に捕まる。
 その後どうなるかは――想像したくもない。

(あ、あ、あ、あ――)

 涙が出てきた。
 唇が震える。
 頭が混乱する。
 視界がぼやける。

 その時、

「ね、姉ちゃん」

 ロズが口を開いた。
 少年もまた涙を流しながら、

「お、俺なら、だいじょうぶ、だよ。
 うん、別に、し、死ぬのとか、ぜ、ぜ、全然、怖くねぇし。
 それで、ら、ラファル兄ちゃん、と、幸せに――」

「駄目だ、エゼルミア!」

 恐怖を押し殺し、必死に紡がれた言葉を遮ったのは、ラファルであった。
 青年は鬼気迫る表情で、

「殺すのは、僕にするんだ!
 自分の家族を手にかけるなんてこと、やっちゃいけない!
 ……君に、辛い選択をさせてしまって、本当にすまない。
 こんな情けない男のことなんか忘れて――どうか、生き延びてくれ」

 最後は、エゼルミアへの懇願になっていた。
 自分を殺して欲しい、という懇願。

「あっはっはっは!!
 いいね、いいねぇ!!
 こういうのを見たかったんだ、オレはぁっ!!」

 すぐ隣で、腹立たしく笑う魔族。
 こいつを殺したい衝動に駆られるが、それは全く意味のない選択肢だ。
 それができるのならば、今こんな窮状に至っていない。

(で、でも、どうしれば――どうしよう――どうしたら――?)

 頭は未だ不明瞭だ。
 何を為せばいいのか、まるで分からない。
 どうしたらいいのか、何も閃かない。
 ただただ、時間だけが過ぎていく。
 焦れば焦る程、決断から遠ざかっていく。


 ――そして。

「はーい、時間切れぇ♡
 残念賞!」

 場違いな位ににこやかな笑みを浮かべ。
 魔族の男は、ラファルとロズの首を捩じ切る・・・・

「あ、え?」

 一瞬、何が起きたか理解できなかった。
 理解できなかったけれども、しかし視界には顔のない恋人と弟の身体が、そして地面に転がる2人の頭が映っている。

「な、な、な、なん、なん、で」

 だんだんと思考が追い付いてくる。
 今、魔族が何をしたのか把握してしまう。

「なんで、殺した、の……?」

 殺す必要は無かったはずだ。
 ロズもラファルも、その身柄を魔族達は欲していた――例えそれが、玩具としての需要であったとしても。
 だから、最悪の場合でもこの場で殺されることは無い、と思っていたのに。

「んー、いや、まー、ノリ? みたいな?
 こうした方が面白そうっていう、その場の勢いとかあるじゃん?」

 余りにも気軽に、そう言ってのける魔族。
 そんな軽い感覚で、エゼルミアの最愛の人達は命を落とした。
 殺されてしまった。

「ま、別に男のエルフはこいつらだけじゃないしねぇ。
 別のとこ襲った時にでも、確保することにするわ」

 そう言って、肩を竦める男。
 彼にとってはそちらの方が重要らしい。

(――こ、の!!!)

 ふつふつと暗い感情が湧き上がるのを感じる。
 沸騰しそうな程に、血が沸き立つ。

「……殺す」

 エゼルミアの瞳孔が開いた。
 目から光が消えた。
 ただ殺意のみが頭を支配する。

「殺してやる!! 絶対に、絶対に殺してやる!!
 その喉元、掻き切ってやるっ!!!」

 絶叫する。
 本当にそれを実行しそうな程に、殺気が漲っていた。
 そんな彼女の姿を見て、魔族の男はヒューッと口笛を吹く。

「へー、いいねぇ?
 そういうのも好物だよぉ、オレ。
 せいぜい足掻いてみせてよ、エルフちゃん♡」

 太々しく、そう宣う。
 それを合図に、周囲の魔族がエゼルミアに襲いかかった。
 成す術も無く、組み伏される彼女。
 しかしその目は、憎悪を滾らせて目の前の男を睨み続けていた。
 ――必ず報いを受けさせると、その誓いを心に刻み付けて。






 それから、100年・・・・の月日が過ぎる。
 今、エゼルミアは――

「あぁああん♡
 おちんぽっ♡ おちんぽ下さいまし♡
 この雌犬のおまんこに、おちんぽぶち込んで下さぁい♡」

 ――堕ちていた・・・・・
 銀髪の少女は四つん這いになり、浅ましく尻を振っている。
 周りには、ソレを鑑賞する幾人もの魔族達。

「はぁぁああああ♡
 おちんぽ来たぁああああ♡」

 一人の魔族が――ロズとラファルを殺した魔族の男であり、この集団のリーダーでもある男が、彼女の女性器目掛けイチモツを突き挿した。

「どうだぁい、俺のちんこの味は?
 美味しいかい?」

「はいっ、ちんぽ美味しいです♡
 雌犬のみすぼらしい穴に立派なおちんぽを頂き、凄く嬉しいです♡
 あ、ああ、あ、あぁぁああああああん♡ ありがとうございますぅうううっ♡」

「あっはっは、すっかり雌犬っぷりが板についたねぇ」

 感慨深く、己の“成果”を見つめる魔族。
 エゼルミアは上の口からも舌の口からも涎を垂らし、男の肉棒に酔いしれていた。

「はぁああああああんっ♡ あぁぁああああああんっ♡」

 起伏に乏しくも美麗な肢体を、淫らにくねらせる少女。
 その有様は、確かに雌犬と称す他ない。



 エゼルミアは魔族に囚われてからこれまで、服を着ていない。
 二足歩行も禁じられ、四足歩行の生活を始めてもう数十年《・・・》。
 彼女の足は歩き方はおろか、立ち方すら忘れている。
 ザーメン塗れの食事は、寧ろご馳走だ。
 魔族の命令に絶対服従なのは当たり前。
 常に彼らの機嫌を伺う卑屈さも身につけた。


 ……彼等への反抗など無意味だった。
 口答えでもしようものなら、動けなくなるまで痛めつけられる。
 本当に死ぬ前に魔法で治療をされるのだが、逆に言えば永続的に暴行を受け続けるということでもある。
 抵抗すれば殴られ、抵抗しなければ犯された。
 ヒトとして最低限の生活すら送れず、矜持は次々と毟り取られる。
 強姦された。
 拷問された。
 輪姦された。
 糞尿を食わされた。
 子を孕まされた。
 子を■された。
 その子を■■■せられた。

 そんな日々がただひたすらに延々と繰り返され――とうとう、エゼルミアは壊れたのだ。
 どこに出しても恥ずかしくない、立派な雌奴隷に仕上がったのである。



「ほぅら、なかで出すよぉ」

「あひぃぃいいいいいん♡
 熱い精液、注がれてますぅぅうう♡」

 溜まった性欲をエゼルミアへ吐き出す魔族。
 少女もまた、悦んでそれを受け入れる。

「はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡」

 恍惚とした表情で、エルフは横たわっていた。
 その様をしげしげと見つめてから、魔族の男がぽつりと呟く。

「……飽きたな」

 とてつもなく、身勝手な台詞。
 その発言に他の魔族達も眉をひそめた。

「飽きたって――こんな上玉、そうそう手に入りませんよ?」

「いや、綺麗だけどねぇ。
 でもエルフって大体皆こんな顔じゃん?
 それに幾ら美人でもこんだけ長い間抱いてりゃ、飽きも来るってもんさぁ。
 お前まだ若いから分かんないだろうけどさぁ、俺こいつとの付き合いもう100年になるんだよぉ?」

「あー、倦怠期ってやつですか」

「そうかな? そうかも。いや違うかな?
 うーん、反抗してくれてた時期は面白かったんだけどねぇ。
 毎日、次はどうやって屈服させてやろうか考えるの楽しかったし」

 大きくため息をつく。
 だが他の魔族は納得いかないようで、

「いい塩梅に育ったと思うんですけどねー。
 ほら、他の奴らは廃人になっちゃいましたけど、こいつまだヒトっぽく振る舞う・・・・・・・・・じゃないですか」

「エルフちゃん、才能があったのかもねぇ。
 それとも俺の育て方が良かったかな?
 ま、でも問題は他にもあってさ――」

 男はつま先でエゼルミアの股間を蹴り上げた。
 彼女の女性器に、脚の先端が突き刺さる。

「んほぉおおお♡」

 普通なら激痛にのたうち回ってもおかしくない行為だが、エゼルミアにとってはそれさえも“ご褒美”になる。
 しかし魔族の方はつまらなそうな顔をしながら埋め込まれた足をぐりぐりと動かし、

「もうガバガバなんだよねぇ、こいつのまんこ。
 ぶっちゃけ、大して気持ち良くない」

「んー、確かに、雰囲気で射精してるとこありますね、俺達も」

「だろ? 締め付けだけならその辺の女の方がよっぽどいいんだよねぇ」

 そう言って、肩を竦めた。
 散々嬲った結果なのだが、それを指摘する者はこの場に居ない。

「んじゃどうします?
 殺しますか?」

「それが後腐れも無くていいかなー。
 でもただ殺すんじゃなくて何かこう、趣向を凝らしたいんだよねぇ」

 魔族は腕を組んでしばし考え事をした後、ぽんと手を叩く。

「あ、こんなのはどうだろ」



 そして。
 エゼルミアの前に、金属の棒が置かれた。
 男の二の腕程はある、太い棒。
 しかしただの棒では無い。
 先端が赤熱した・・・・金属棒だ。
 鍛冶屋が鉄を打つ際に炉で熱した時のように、赤く輝いていた。
 自身の灼熱を証明するかのように、一部溶けだしてさえいる。

 そんな“棒”を指さしながら、魔族の男がにこやかに指示を出してきた。

「エルフちゃん、コレ使ってオナニーしてよぉ♪」

「…………え」

 一瞬、“戸惑い”を見せるエゼルミア。
 今の彼女をして、それは躊躇を産む命令だった。
 あんなモノ・・・・・を自身の胎に突き込んだらどうなるかなど、容易に想像できる。
 “死ね”と言われて迷うだけの感情を、まだ彼女は残していたのだ。
 しかし、男はその反応に意を介さず。

「まさか嫌なんて言わないよねぇ?
 エルフちゃんはいい子だもんね、言われたことをちゃんとやってくれる子だもんねぇ?
 ――早くやれよ」

「え?――あ、はい――え?――分かり、ました?――え?――え?」

 感情が入り乱れている。
 雌の笑顔を顔に張り付けながら、瞳からは涙が流れた。
 手脚がプルプルと細かく震える。
 思考が――魔族に忠実にあるべしと洗脳されつくした思考が、己の“死”を受け入れていいのかどうか、判断しかねているのだ。

 だがしかし。
 それでも・・・・エゼルミアの身体は動いた。
 魔族の言う通りに、おずおずと燃え盛る金属棒を手に取り、自分の股へと――



「ぎぃやぁああああああああああああああああっ!?!?!!!?!?!?!」



「あはははははははっ!!
 マジか!? マジで!? やりやがった!!
 普通やるかい、そんなこと!!?
 最期に笑わせてくれたねぇっ!!」






 こうして、エゼルミアの人生は幕を閉じた。
 ……いや、閉じる筈だった。

 彼女には一つ、本人も気付いていない才能があった。
 “龍適性”である。
 エゼルミアは六龍の力を行使できる適性が――当時の魔王とは比べるべくもないが――極めて高かったのだ。
 それに、白龍ケテルが目を付けた。
 龍は、放置され今にも死にゆく彼女へと語りかけたのだ。

『自分に協力すれば、魔族に対抗できる力を与えてやる』と。

 一も二も無く、エゼルミアは受け入れた。
 そもそも他に選択肢など無いし、ケテルの提案は彼女にとってこの上なく魅力的だったからだ。

 白龍の目的が、“魔素に染まりきったこの大陸の全生命を・・・・一掃すること”なのも。
 エゼルミアに魔族への敵意を刻み込むため、“敢えて彼女を見捨てていた”ことも。
 全て、些末事であった。
 “最も魔素の影響を色濃く受けた種族――つまりは、魔族を滅ぼす”という一点で互いの利害が一致している以上、他のことなどどうでもよい。






 龍の力を得たエゼルミアが手始めに行ったのは、大事な人達を殺し、自分を穢した者達への復讐であった。
 仮にもエルフの集落を陥落させ、100年もの間自分を監禁調教してきた相手。
 多少の苦戦は覚悟していたのだが――結果として、余りにあっさりと・・・・・成し遂げられた。


「あ……が……あ……ば、ばけもの……」
「ひっ……いてぇ……いてぇよぉ……」
「あ、足……オレの足、どこ……?」


 彼女の周囲には数十人の魔族が倒れ伏せている。
 ある者の身体は焼け焦げ、ある者は凍てつき、ある者は斬り刻まれ、ある者は引き千切られ――誰もが瀕死の重傷だ。
 死人がほとんどいないのは慈悲でも情けでもなく、単により苦しませてから殺そうという判断である。
 一方、エゼルミアには返り血すらかかっていない。

(……こんなモノですか)

 涼しげな顔で、憎き連中の惨状を見下ろしている。
 ケテルに与えられた力は、それ程までに圧倒的だった。

 ――“ヒト”の間にある力の優劣など、神のそれに比べれば誤差にすらならない、ということだ。

 ここまで簡単だと大した達成感も得られない。
 そのことに一抹の不満を抱えながら、エゼルミアは一人の魔族に近づく。
 直接手を下した、この集団を統率する男。
 他と同様、こいつもエゼルミアによって浅くない傷を負っている。

「ぜぇっ……ぜぇっ……は、はは、随分と強くなったじゃないか、エルフちゃ――ぎゃぁああああああああああっ!!!?」

 この期に及んで軽口を叩こうとしたので、手をへし折ってやった。
 その悲鳴はエゼルミアを実に痛快な気分にさせる。

「ふふふ、大分お世話になりましたからね。
 楽に死ねるとは思わないことです」

 自然と、笑みが浮かぶ。
 これからこの男に、どれだけの責め苦を与えてやろうか、考えただけで心が躍った。

(と、これではどちらが悪者か分かりませんね)

 己の嗜虐的な一面を一応戒める。
 これは悪を懲らしめるために行う、正当な制裁なのだから。

(もっとも、どれだけ泣き叫んで命乞いしても、応じはしませんけれど)

 気を引き締める。
 万に一つも、魔族の惨めな姿に同情をしてしまわないように。
 憐れみを感じて、手を緩めてしまわないように。

 そんな覚悟を持っていたエゼルミアだからこそ、次に男が吐く台詞を予想できなかった。

「……た、頼む、俺はどうなってもいい・・・・・・・・・・から……他の奴らの命だけは、助けてくれ……」

「――――は?」

 有り得ない言葉に、身体が固まる。
 その間にも、魔族は喋り続けた。

「あんたの里を襲ったのも……あんたを凌辱したのも……全部、俺の指示なんだ。
 他の連中は皆、乗り気じゃ無かった……止めようとする奴もいた。
 ……あんたを、助けようとする奴だって、いたんだ。
 だから、俺が悪いんだ……俺だけを、殺してくれ」

「――――!」

 頭が真っ白になりかける。
 手が震えだした。
 それ程、この男の台詞は衝撃だったのだ。

 彼等の真実に驚愕した訳ではない。
 こんな言葉は嘘だ。
 そんなことは分かり切っている。
 誰もがエ愉しんでエルフ達を弄んでいたのは、自明だった。
 しかしエゼルミアがショックを受けたのはそこではなく――

「――ああ、そうですか」

 極めて冷徹な声で、告げる。

「貴方だけが責任を負うというなら、どんなことをされても文句は無い筈ですね!?
 耐えられる筈ですよね、責任を負うんですから!!」

「あっ!? ぎぃっ!? がぁあああああああああああああっ!?!!?!?!」

 四肢の骨を粉砕し、その後じっくり時間をかけて焼いてやった。
 腹を踏み抜き、内臓を一つずつ破裂させてやった。
 さらには魔法で神経をいじくり、痛覚を倍増させてやった。
 間違いなく、地獄の苦しみを――死んだ方が増しな苦しみを味わっている筈だ。
 だというのに・・・・・・

「……だ、だのむ……あいづらは、がんげい、ないんだ……
 ゆ、ゆるじで、やっで……」

「こ、の――!!」

 性懲りも無く同じ台詞を繰り返す魔族に、激昂しそうになるのをかろうじて抑える。
 何故、死が間近に迫っているのに、無様に泣き喚かない。
 何故、ここまで嬲られてなお、命懸けで他人を庇える。
 それは。
 その行為は。

(ヒトの善性・・が為せる行動でしょう!!?)

 そうだ。
 そうなのだ。
 それは、善良な人々・・・・・のみが行える尊い御業なのだ。
 悪性の塊である、魔族には行える筈がない言動なのだ。


『お、俺なら、だいじょうぶ、だよ。
 うん、別に、し、死ぬのとか、ぜ、ぜ、全然、怖くねぇし』

『殺すのは、僕にするんだ!
 こんな情けない男のことなんか忘れて――どうか、生き延びてくれ』


 頭に蘇るのは、弟と恋人がかつて遺した言葉。
 どうして。
 何ゆえに。
 悪鬼たる魔族が、同じ台詞を口にする!?

「……死ね」

 言葉を絞り出す。

「死ね! 死ね死ね死ね死ね!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」

 狂ったように――いや、実際に狂ったのだろう――魔法をばら撒いた。
 炎が、氷が、雷が暴れ狂い、周囲を蹂躙した。

 ……気が付けば、生きているのはエゼルミア一人になっていた。

「ふ、ふ、ふふ、ふ」

 渇いた笑いが漏れる。

「ふ、ふふ、ふふふ、ふふふふ」

 目を見開きながら、エゼルミアは笑った・・・
 とても笑顔と呼べる顔では無い凄惨さであったが。

「ふふ、ふふふ、そうですね。
 わたくしとしたことが何を取り乱していたのでしょう」

 聞く者など誰もいないにもかかわらず、彼女は一人言葉を零す。

「魔族は、魔族であるという時点・・・・・・・・・・で“悪”なのです。
 その悪性から生み出される言動は全て詐称・欺瞞。
 殊更に取り立ててやる必要などなく――そもそも考慮に値するものですらない」

 自分へ言い聞かせるように、そう帰結する。
 いや――寧ろ、最初に誓った通りではないか。

「魔族は、全て・・殺す」

 魔族は、魔族であるというだけで万死に値する罪人である。
 彼女は、その咎人共を殲滅させる。
 ただそれだけ。
 それで、万事が解決する。

「ふふ、ふふふ、ふふふふふふ――」






 だから、エゼルミアは殺し続けた。
 ただ平凡に生きるだけの魔族を殺した。
 幸せに生きる恋人同士の魔族を殺した。
 家族を庇う魔族を殺した。
 当然、その家族も殺した。
 魔族を裏切り、魔族と戦う魔族を殺した。
 平和の尊さを説き、魔族と他種族との和平を願う魔族を殺した。
 ありとあらゆる魔族を、等しく皆殺しにした。






 このようにして、後の五勇者『“全能”のエゼルミア』は完成したのだ。






 第三十三話②へ続く
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