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第二十三話 決戦

② ローラ・リヴェリ

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 結局、セドリックに荷物持ちをさせて、ローラは店への帰路を歩いている。
 店が見えてきたところで。

「――あら?」

「店の前に人がいるようだね。
 お客さんかな?」

 セドリックが言うように、ローラの店の前に銀髪の男が一人立っている。
 金属製の軽鎧を装備しているところを見るに、冒険者だろうか。
 そういうことに詳しくないローラが見ても、相当な高級品に身を固めていることが分かった。

(誰でしょうか?)

 あれ程にレベルが高そうな冒険者は、この街でもなかなかお目にかかれない。
 そんな人物が、何故自分の店の前に居るのか。
 正直なところ、ローラのお店はそれ程高価なアイテムを取り扱ってはいなかったりする。

「すいません、お店になにか御用でしょうか?」

 声が届く距離まで近づいてから、ローラは男に挨拶をした。
 彼の方もこちらに気付いたようで、軽く会釈をしてから答える。

「こんにちは。
 いや、お店に用があるわけじゃないんだ。
 用があるのは、君にさ。
 ローラ・リヴェリ」

「え?」

 予想していなかった答えに、反応が遅れた。
 その間に、男性は言葉をさらに紡ぐ。

「僕の名はデュスト。
 “光迅”のデュストだ。
 キョウヤ様に与している君の前に、僕が現れた意味――分かるよね?」

「………!!」

 理解した。
 理解できてしまった。

 同じくキョウヤの(というか黒田の)協力者であるリアが、デュストに殺されかけたという話は、ローラも耳にしていた。
 穏健な理由で、そんな相手が自分の目の前に現れるはずがない。

(『遭遇したらまず逃げられないから諦めろ』とかキョウヤ様は冗談めかして言ってましたけど…!)

 実際に会ってしまったのだから冗談では済まされない。

「うん、分かってくれているようだね、結構結構。
 じゃあ――あまり、抵抗はしないでくれるかな。
 そちらの方が、君にとっても楽だよ。
 なに、素直にしていてくれれば、痛みも感じさせないまま“終わらせて”あげるさ」

 硬直して動けないローラの姿を見て、向こうは勝手に合点いったようだ。
 腰に備えた長剣を抜き、切っ先を自分に向けてくる。
 彼が放つ殺気のような圧力にローラの身体は竦み、逃げるという選択肢が塗り潰されてしまった。

 代わりに、精一杯気力を振り絞り、相手に問いかける。

「な、何が、目的なんですか?
 私を殺したところで、貴方に何か利益があるとは思えないのですが」

「目的かい?
 そう大したことじゃないんだ。
 ちょっと、クロダ・セイイチを“怒らせたくて”ね」

「お、怒らせる……?」

「そう。
 激昂して、力を十全に発揮するクロダ・セイイチと戦いたいんだ。
 そういうわけで、協力してもらうよ」

 そんな滅茶苦茶な――という言葉は出せなかった。
 デュストが剣を振りかぶったからだ。
 ただそれだけの行為なのに、ローラは自分が死ぬのだということを確信した。
 殺気とも違う、相手に死の覚悟を強要させる、『迫力』のようなもの。
 それに、ローラは飲み込まれたのだ。

 ――だが。

「ま、待ちたまえ!!
 急に何を言っているんだね!!?」

 間に割ってはいってくる人物がいた。
 セドリックだ。

「君があのデュスト!? クロダ君と戦う!?
 馬鹿も休み休み言ってくれないかね!」

 相手が抜き身の剣を持っているのもお構いなく、猛然と言い放つセドリック。
 デュストもそれを無視できなかったようで、セドリックへ向き直った。

「……セドリック・ジェラードか。
 余り事態を理解できていない人間に水を差されたくないんだけどね。
 まあ、君もターゲット候補だから、斬る分には然程問題ないわけだけれど」

「何をぶつぶつと。
 生憎と私達は忙しくてね。
 君のようなおかしな男の相手をしている暇は――」

 セドリックの言葉が途切れた。
 大きく目を開き、ある一点――デュストの右手を凝視している。
 そこには、金色に輝くカードがあった。

「――そのカード」

「うん、僕が五勇者である証拠だね。
 あれこれ押し問答するのも面倒だからさ。
 これで信じてくれたかな」

「……信じたくはないがね。
 それを持っている以上、間違いないわけか」

 大きく息を吐くセドリック。
 流石に物的証拠を目にしては認めざるを得なかったのだろう。
 深呼吸を一つしてから、大声で言い放つ。

「こんな“ガキ”が!
 かの五勇者だとは!
 いや、まったくもって信じたくはない事実だ!」

「セドリックさん!?」

 突然の暴言に、ローラは慌てる。

「……なに?」

 デュストも表情が変わった。
 笑みを消し、目つきが鋭くなる。
 だが、それに気づいていないのか、セドリックの言葉は止まらなかった。

「女性に対していきなり剣を抜くような輩が五勇者だとはねぇ!?
 こんな狼藉を平気で働く奴が勇者だとは、世間の評価もあてにならないものだ。
 なんなら7年前に私も名乗りをあげればよかったかな!?
 君ができるっていうのなら、私でも十分勤まるんだろう、五勇者ってのは!」

「――お前」

 剣呑な光がデュストの瞳に宿った。
 ローラの本能が、危険を知らせる警鐘をならせ続ける。

 まずい。
 セドリックを止めないと、この男デュストは何をするか分からない。

 だが、彼女が何かをするよりも早く、デュストは動いていた。

「――!」

 セドリックの顔が歪む。
 自分のすぐ目の前――比喩ではなく、彼の“目”に切っ先が触れる位置に、デュストは剣を突きつけていた。

「余り大口を叩くものじゃない。
 自分の立場を理解できていないのかな?」

 不敵な笑みを浮かべて、デュスト。
 だが――

「ほほう?
 これはいったい何の意思表示かね?
 いやぁ、歳を取ったもんでね、言いたいことはきちんと言葉にしてくれないと分からないだよ!!」

 セドリックはまるで怖気づかなかった。
 さっきまでと変わらぬ口調で、デュストへ言葉を投げつける。

「いやまさか!?
 “命が惜しければ自分を敬え”なんてことは無いだろうねぇ!?
 あの五勇者が!!
 そんな陳腐なことをするわけがない、そうだよねぇ!?」

「貴様!!」

 今度はデュストが顔を歪める番だった。
 もっとも、彼の場合は『怒り』の表情であったが。

「せ、セドリックさ――」

 もういつデュストが『爆発』するか分からない。
 そのことをセドリックに告げようとしたローラだが、彼の瞳に押し留められた。
 セドリックは、意味ありげに自分へと目配せする。

(まさか――)

 今のうちに逃げろ、と彼は言っているのか。
 この、一連の滅茶苦茶な言動は、デュストを怒らせ、彼の注意を全てセドリックへ引き付けるためのものだったと。

 確かに、デュストの意識は今、完全にセドリックへと向けられている。
 それこそ、ローラなど眼中にないという程に。

(でも、それだと)

 セドリックを見捨てることになる。
 いや、もうこの状況から彼を助ける手段などあるのかどうかも怪しいのだが。
 ローラとて、セドリックを犠牲にして逃げれるかどうかも分からないというのに。

 彼女が迷っている間にも、セドリックとデュストの危険な会話は続いた。

「彼女よりも先に死にたいのか、お前」

「おおっと、今度は大分直接的な表現できたね!」

 セドリックは煽るように笑顔を浮かべてから、ふっとそれを消す。

「……やってみろ、若造。
 こんな中年の親父に言い負かされて、駄々をこねるように暴力を振るってみろ。
 勇者とはこんな幼稚な人間なんですと、証明してみるがいい!!」

「…………」

 ローラには、デュストの腕から先が一瞬消えたように見えた。
 彼が剣を振るったのだと気づいたのは――セドリックの両腕が地面に落ちてからだった。

「――っっ!!!」

 悲鳴を上げそうになるのを必死に堪える。
 今ここでローラにまた注意を向けられれば、セドリックが必死で行ってきたことが無駄になってしまう。

 セドリックは無くなった手へとしばし視線を向けてから、

「おやおや。
 私を殺すんじゃなかったのかな?」

 平然とした態度で、話を再開した。

「――なっ!?」

 これには、デュストも面食らったようだ。

「なんだい、その顔は?
 まさか私が恐怖に怯えるとでも思ったのかな?
 泣いて命乞いをするとでも考えたのかな?
 はははは、そうやって君のちっぽけな自尊心を満足させようと考えたわけだ!
 やろうと思えばすぐにでも殺せる私を、敢えて殺さずにおいてね!!」

「う、ぐっ!」

 たじろいでいる。
 あのデュストが、セドリックの気迫に気圧されている。

 セドリックの腕からはおびただしい量の血が流れていた。
 放っておけば、デュストが何かをするよりも早く彼は出血によって死に至るだろう。
 それは当の本人も分かっているはず。
 だというのに、セドリックは腕のことなど気にも留めず、デュストを嘲笑っていた。

(……私も、覚悟を決めないと)

 ローラは、ゆっくりとその場を離れる。
 セドリックの目論見通り、デュストは今、彼女のことを気にも留めていなかった。
 一歩、また一歩と動いても、勇者はこちらを見る気配すらない。

「さぁ!!
 次はどうするのかね!?
 今度は足を斬るか!?
 それとも首を裂くのかな!?
 好きなだけやればいい!!
 好きなだけやってみろ!!
 無力な一市民を、暴力によって支配するのが君の勇者としての在り方なわけだろう!!」

「――ぬ、ぐ、う」

 デュストが片手で頭を抱えだした。
 まるで何かに苦しんでいるように。

「だ、黙れ――」

「黙れ!?
 おやぁ、勇者様は私に口を閉じて欲しいと言う訳か!?
 どうしたんだい、勇者様!!
 言葉じゃ勝てず、暴力で止められず、とうとう懇願してきたというわけかい!?
 はっはははは!! こりゃ滑稽だ!!
 勇者がこんな中年親父に負けを認めた!!」

「黙れと言っただろうがっ!!!」

 デュストが剣をセドリックの腹に刺した。
 だが、セドリックは呻き声一つ上げない。
 ただただ嘲笑を浮かべ、デュストを見つめる。

 その顔が気に食わなかったのか、デュストは一度剣を引き抜いてから、さらにセドリックの身体へと突き立てた。

「こんな――こんな、弱さで、貧弱さでっ!!
 勇者がどうのと語るんじゃない!!
 ふざけるなよ、お前っ!!
 ああっ!? どうしたっ!!
 何か言ってみろっ!!
 何か言ってみろぉおおっ!!!」

 そのまま、何度も何度もセドリックを刺し続けるデュスト。
 セドリックが崩れ落ちても、なおやめない。
 必死の形相で。
 執拗なまでに、繰り返す。

 その余りにも残虐な愚かな姿を見て――ローラは、足を止めた。






 セドリックが微動だにしなくなってから、ようやくデュストは剣を離した。

「はーっ…はーっ…はーっ…はーっ」

 興奮しすぎたせいか、息が乱れる。
 こんな薄汚いヤツにここまでしてしまうとは、酷い失態だ。

「偉そうな口を叩くから、こうなるっ!」

 物言わぬセドリックを、さらに罵る。
 そうしてから、はっと気づく。

(……そうだ。
 ローラ・リヴェリは!?)

 ようやく、当初の目的を思い出した。
 慌てて周囲を見渡すと、少し離れたところに目的の女性はいた。

(――なるほど。
 この隙に逃げようとしていたわけか。
 どうもそれは叶わなかったようだが)

 セドリックの末路に怖気づいたのか、ローラはそれ以上離れるでもなく、棒立ちしていた。

(……んん?)

 だが、デュストはそんな彼女に違和感を感じる。

 ――彼女の表情から、恐怖の感情が伺えないのだ。
 それどころか、冷めた視線をこちらに向けていた。

「……驚いたね。
 知人がこんな風になったというのに、そんな顔をするとは。
 やはり、かつて自分を破滅させた男に対して思う所があったのかな?」

「今、分かりました」

 デュストのからかいを込めた台詞を一切無視し、ローラは口を開いた。

「貴方はつまり、こうしないとクロダさんに勝てないんですね」

「……何?」

 予想外の言葉に、デュストは眉を顰めた。

「だって貴方、“弱い”じゃないですか。
 武器も持たないセドリックさん相手に自棄を起こして。
 そんな『弱虫』がクロダさんに勝てるわけが無い」

「……言ってくれるね。
 仮に僕が弱いとして、それで君と僕の力関係が変わるわけじゃないんだよ?」

「ええ、そうですね。
 私は弱い貴方よりもさらに弱いです。
 抵抗なんてできるはずがありません」

 あっさりとローラは認めた。

「だから、さっさと殺せばいいんじゃないですか?
 私の死体を見せて、クロダさんの動揺を誘えばいい。
 何をしたところで貴方の負けは変わりませんけれど」

「――っ!」

 反論しようとした。
 反論しようとしたのに、言葉が出ない。

(何でだ――何で!!)

 さっきの男といい、この女といい。
 何故、ここまで圧倒的な力の差を前にして、怯えない。
 五勇者である自分を前にして、毅然としていられる。

(あってはならない!
 あってはならないっ!!)

 こんな。
 こんな、戦う術を碌に持たないような弱者達から。

 キョウヤの目を連想してしまうなど。
 アレッシアの顔を思い浮かべてしまうなど。

 絶対に、あってはならないのだ。

(やめろ、その目を!)

 そんな、蔑んだ眩い目で自分を見るな。
 そんな、気分が悪くなる素晴らしい顔を自分に見せるな。

 破壊したくて守りたくて破壊したくて守りたくて仕方なくなる!
 こんな小生意気な連中を殺せばこんな人達を守りたくて実に晴れやかな心になるだろう僕は戦ってきたんだ

「どうしました?
 気分でも悪いのですか?
 大分、苦し気ですけれど」

「……うるさい」

 剣を彼女に向ける。

 もういい。
 不愉快な会話はここまでだ。
 この女は、さっさと殺そうやめろ

 ゆっくりと剣を振り上げるやめろ
 そして、ローラの首を目掛けてそれを振り下ろしたやめろ

「……どうしたんですか?
 剣を持ったまま、固まって」

 ――剣は、頭上に掲げたままだった。
 その状態のまま、デュストは動けなくなっている。

「殺せばいいじゃないですか。
 セドリックさんのように、私も!
 そんなこともできない程、意気地なしですか、貴方は!」

「――ぐ、うぅうっ!!」

 呻く。
 身体が震える。

(ダメだ。
 これ以上僕を挑発するな)

 もう限界だった。
 今すぐ、この女を排除しなければこれ以上は抑えられない
 黒田の目の前で嬲ってやろうかクロダはまだ来ないのかという考えもよぎったが、別にその必要もないか早く来い!

「……言ってくれたな、ローラ・リヴェリ」

 喉から絞り出すように声を出す。

「そんなに殺されたいなら、望み通りにしてやる!!」

 デュストの顔が険しいモノへと豹変する。
 そしてここまでの溜めに溜めた鬱憤を晴らすかのように、剣を全力でローラへと叩きつけた。


 「――え?」
 「――あ?」


 殺そうとした男と、殺されそうになった女、2人が同時に声を出した。
 剣は、逸れていた。
 上段から降ろされた剣撃はローラではなく、大地を割っている。
 その威力は驚嘆すべきものなのだが、生憎ここにはそれに注意を払う人間はいなかった。

 2人が浮かべた疑問は一つ。
 “何故、当たらなかったのか”

「……これは」

 先に気付いたのはデュストだった。
 振り下ろされた剣を弾いた『モノ』を見つけたのだ。

 それは、“一本の矢”であった。

「――!!」

 次にローラが気づく。
 その矢を放った人物を目に入れて。
 満面の笑みを浮かべ、『彼』の名を叫ぶ。

「――クロダさんっ!!」

 果たして。

 ――黒い軍服に身を包み、紅く輝く籠手と脚鎧を纏った男。
 ――黒い髪に黄色い肌、中肉中背の<来訪者日本人

 黒田誠一が、そこに立っていた。












 イネスは、“眼前に立つ男”を睨み付ける。
 自分の結界を破壊し、黒田を逃がした下手人へ、憎悪の視線を送る。

「自分が何をしたか、分かっているんですか、“ガルム”?」

「分かっているとも」

 短く答えるガルム。
 その堂々とした様子に、イネスは苛立ちを募らせた。

「へー?
 アナタは誠ちゃ――黒田誠一と仲が良かった風に見えたんですけどねー。
 所詮、捨て駒ですか」

「……分かっておらんようでござるな、イネス殿」

 こちらの皮肉にまるで動じず、ガルムは言葉を紡ぐ。

「戦うべき時に戦えなかった男の辛さ。
 それは死に勝るモノなのでござるよ」

「ふーん?
 だから、わざわざ<次元迷宮>からこっちまで飛び出してきたと。
 ご苦労なことですねー。
 ちょっと本気でむかつくんで、殺していいですか?」

「やるというのなら受けるが、意味がないでござろう。
 勝ち目のない戦いがご所望か?」

「ちっ」

 舌打ちを入れる。
 非常に腹立たしいが、今ガルムと戦うことにメリットは何一つない。
 ただ、自分が負けるだけだ。

 ガルムは続ける。

「それにな、イネス殿。
 セイイチ殿は、勇者ではない」

「そりゃそうでしょうよ」

「違うでござる。
 拙者が言いたいのは――つまるところ勇気だとか奇跡だとか、そういうものを当てにして戦う人種ではないということ。
 セイイチ殿は、理論を重ねて勝機を見出す類の男」

「いや、それが普通でしょう?
 勝ち目もないのに戦う馬鹿なんて――アタシ達だけで十分ですよ」

「そうその通り、セイイチ殿は凡人にござる。
 その凡庸な男が、あのデュスト殿と戦うと決めた。
 ……見えているのでござろう。
 セイイチ殿には、何かしらの勝算が」

「勝算?
 デュストに対して、どうやって勝つと?
 まともに戦うことすら難しいっていうのに?」

「それは拙者にも分からぬ」

「……役に立たないですね」

「申し訳無いでござる」

 頭を下げるガルム。
 無責任な発言に、イネスの頭は急騰する。

(そこまで言うなら、責任とって腹でも斬れってんですよ!
 この日本カブレが!!)

 罵詈雑言を浴びせたくなるが、どうにか堪える。
 彼も言ったように、意味がないことだ。

「どちらにせよ、セイイチ殿とデュスト殿の戦いは始まってしまった。
 勇者同士の戦いに、他の勇者は介入できない取り決めにござる。
 ここに至っては、戦いの結果を見届けるしかないでござろう」

「…………ええ、そうですね」

 不服であることを隠そうともせず、不機嫌にイネスは応える。
 もう、自分が黒田にできることは何もない。

(誠ちゃん、せめて、死なないで)

 死んでさえいなければ、身体の傷はどうとでも修復できる。
 死亡以外の形で決着がついたのなら、彼を救う手段はあるのだ。
 そんな終わり方を、デュストが許すとはとても思えないが。

(祈るべき神様がいないのって、こういう時不便ですねー)

 ちょっとした愚痴も零しながら、イネスは黒田とデュストの戦いを見守った。



 第二十三話③へ続く
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