社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第二十八話 “鉤狼”のガルム/黄龍ティファレト

① 埒外の戦い

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 私の目の前には、2人の人物がいる。

 一人は、ローラさん。
 白濁液に塗れた姿は、彼女が今まで何をされていたかを如実に語っていた。

 もう一人は――人狼。
 二足歩行する巨大な狼という出で立ちの男。
 私は、彼を知っている。
 何度か共に戦った・・・・・こともあった。
 五勇者の一人“鉤狼”のガルムと呼ばれる男――――いや。
 “こいつ”をそう呼ぶのは、相応しくない。

「貴様に、“親友”などと呼ばれる謂れは無い」

「おやおや、つれない返事だなぁ?」

 今、目の前にいる“こいつ”は断じてガルムではない。
 元々の彼にあった、親しみやすさを、どこか情けない雰囲気を、微塵も感じさせない。
 そう、“こいつ”は――

「黄龍ティファレト。
 ガルムの身体を乗っ取ったか」

「んー? そうだなぁ? そうかもしれねぇなぁ?
 ま、どーでもいいじゃねぇか、そんなこと」

 大仰に肩を竦める人狼。
 狼の姿をしていながら、その仕草は非常に人間臭い。

「しかし随分と遅かったな。
 待ちくたびれちまったぜ。
 ちゃんと“間に合う”ように来なけりゃ駄目だろ、親友?」

「――――」

 言い返せない。
 ローラさんが、既に蹂躙され尽くした・・・・・・・・のは、私でも分かる。
 遅きに失したのだ。

いつもの・・・・美咲なら、ちゃっちゃと勘付きそうなもんだが。
 ひゃははは、オトコが出来て鈍ったか?
 あの女も可愛らしいところがあるじゃねぇか!」

「……貴様が、美咲さんについて語るな」

「おお、怖い怖い。
 そう睨むなよ、あの女を取って食ったりはしねぇさ。
 親友のオンナなんだからなぁ?」

 こちらを小馬鹿にしたような口調だ。
 私はゆっくりと拳を突き出し、中段に構える。

「お、なんだ、もうヤるのか?」

「敵を前にして、戦わない訳にはいかないだろう」

「へえ?
 たった一人で、“龍”に勝てるつもりだってか?」

 確かに。
 赤龍ゲブラーは、別に私一人で斃せたわけでは無い。
 全体から見れば私の功績など微々たるものだろう。
 故に、黄龍ティファレトに独りで挑むなど、無謀にも程があるのだ、が。

「……退く気はねぇか。
 度胸は座ってんな」

 動かぬ私を見て、ティファレトはそう呟いた。

「いいだろう、ちっとばかし遊んでやる・・・・・
 だがその前に――まずは“掃除”をしなくちゃなぁ?」

 そう言って、人狼は口元を歪めた。











「あ、あのー」

「なんですか?」

 ローラさんの声に、私は答える。

「な、何をしておられるのでしょうか?」

「何って、掃除ですが」

 言いながら、床にこびり付いた精液を雑巾で拭く。
 まったく、酷い有様だ。
 こんな状態で放置していたら、精液臭くて他の客が利用できなくなってしまうだろう。

「おーい、親友。
 そっちのそれ、取ってくれ」

「分かりました」

 新しく水を汲んできたバケツを渡す。
 ティファレトもまた、意外と器用に床掃除をしていた。
 この分なら、そう時間もかからず清掃は終わりそうだ。

「……えーっと」

 一方で、ローラさんは思案顔。

「先程からどうしたんですか?
 具合でも悪くしたとか?」

「それはまあ、つい先刻まであんなことされてたわけですから、具合が良いわけないんですけれど。
 私が言いたいのはそういうことじゃなくてですね」

 彼女は私とティファレトを指さして、

「――なんで普通に掃除してるんですか?」

「いえしかし、このまま放置していては宿に申し訳が立ちませんし」

「この建物は木造だからなぁ。
 木材ってのは腐りやすいんだぞ?」

「いやいや、おかしいでしょう!?」

 私達の答えに、彼女は納得できないようだ。

「ついさっきまで、凄いシリアスな雰囲気でバトル一歩手前な感じだったじゃないですか!
 それがどうして和気藹々とお掃除してるんです!?」

「そう申されましても」

 確かに龍との戦いは大事だが、それが掃除を疎かにしていい理由にはならない。
 立つ鳥跡を濁さずという言葉もある。
 あと私とティファレトは別に和気藹々とはしていない。
 奴とは不倶戴天の敵同士である。
 ただ、大事の前の小事ということで今は協力しているだけだ。

「……大事と小事って、掃除はそこまで重要な行事なんですか?」

 無論である。
 部屋が綺麗にしていれば心も綺麗になるのだ。

「心が綺麗……?」

 おっと、そこに疑問を持たれますか。
 確かに私は、自分が清廉潔白な人間であると胸を張って言える人間ではない。

 ――あと気のせいか、なんだかさっきからローラさん、私の心を読んでいませんか?

「それとそこの貴方!!
 さっきは私を抱えて連れ去ろうとしてた癖に、何でせっせとベッドメイキングしてるんですか!!」

 今度はティファレトへ矛先を向ける彼女。
 龍を相手に怒鳴りつけるとは、凄い胆力だ。

「さっきまでのプレイで寝床もかなり乱しちまったからなぁ。
 だいたい、お前を動かしたのは単に作業の邪魔にならなそうな場所へ移そうとしただけだし?」

「窓から飛び出そうとしてたのは!?」

「換気のために開けたんだよ」

「換気!?」

 私が来た時点で、部屋はあなり精液臭かった。
 まず空気を換えようとしたのは、妥当な判断だろう。

「それよりもローラさん、いつまで裸でいるんですか」

「そうだぜ。
 早くシャワー浴びて服着て来いよ。
 あんましはしたない格好でうろつかないで欲しいもんだ」

「レイプ犯に、はしたないとか言われました!?」

 ショックを受けるローラさん。
 確かに、ティファレトだって(毛皮があるとはいえ)裸のようなものなのだから、彼に裸云々を語られたくは無いだろう。
 男性器をぶらさげながらシーツを広げている姿は滑稽ですらある。

「んじゃま、ちゃっちゃと片付けるぞ」

「ええ」

「……おかしい。
 絶対におかしい」

 ぶつぶつ言いながらシャワーを浴びに行ったローラさんをしり目に、私達は部屋の清掃を続けた。











「さぁて、仕切り直しだ」

「随分と時間をかけてくれたな、ティファレト」

「へ、お前の方こそ、仕事が雑だったんじゃねぇか、親友?」

「手間をかければいいというものでもない。
 クオリティを維持しつつ短時間で業務を完遂してこそのプロだ」

「大口叩いてくれるじゃねぇか!」

 “鉤狼”ティファレトと睨み合う。
 奴から放たれる圧倒的な威圧感。
 気を抜けば、身体が勝手に後退してしまいそうだ。

「……シリアスっぽくしてますけど、話してる内容は掃除のこと」

 横でぼそっとローラさんが呟いた。
 何故かげっそりした顔つきだ。
 ティファレトに犯されたのが本当に辛かったのだろう。

「ティファレト。
 ローラさんを穢した罪も、贖って貰うぞ」

「穢しただぁ?
 女なんてのは、男を悦ばしてなんぼだろうが!
 そのためにこの世に産まれたんだからなぁ?」

「貴様――!」

 余りの言い分に激昂する。
 まるで女性をモノのように扱うとは!

「気にかけて頂けてるのは結構なんですけれど。
 なんかすっごい安っぽい台詞に聞こえるのは、私の心が汚れてしまったからなんですかね」

 ――くっ。
 あの素直なローラさんが、ここまで斜に構えた態度をとるとは。
 おのれ、ティファレト!
 許せん!!

「それにあの女、最終的にはアンアン鳴いてたし。
 どれだけ強引にナニをしちまったとしても、最終的に気持ち良くなったなら特に問題は発生しねぇいだろう!?」

「ぐっ!?
 へ、減らず口を!!」

 ――くそ、言い返せない。
 一部の隙も無い、完璧に理論的な返答だ。
 頭の軽そうな話し方をしながら、知能の高さが窺い知れる。
 流石は龍、と言ったところか。

「何故返答に窮しているんですか。
 結果がどうであろうと、合意の無かった時点で犯罪ですからね?
 たぶん言っても無駄なんでしょうが……」

 疲れた口調で言ってから、彼女は俯いてしまった。

「ううう、なんだかデュスト様のときと何もかも違い過ぎます……
 あんな感じで今回も格好良いクロダさんが見れると思ったのに――」

「ひゃはははっ!
 俺様をあんな負け犬共と一緒にするんじゃねぇよ!」

「言われなくとも一緒にするつもりなんてありません。
 デュスト様に失礼過ぎて」

 しかし今日のローラさん、物怖じしないな。
 つい先刻まで自分を犯し抜いた人狼相手に、退くことなく会話している。
 今度は彼女、私の方を向き、

「というかクロダさん、ティファレトと面識があったのですか?
 掃除のときも、妙にツーカーでしたし」

「ああ、それは――」

 私が答える前に、ティファレトが割って入る。

「ひゃはははっ! 何言ってやがる!!
 こいつにケセドの“契約文字”をくれてやったのが誰だと思ってんだぁ!!?」

「ええっ!?」

 ローラさんの驚きの声。
 流石に想像していなかったか。

 以前説明したが、私はこの世界に来てから、世界の知識や冒険者のノウハウ、戦いの技術等をガルムから習っていた。
 その時に数回だけティファレトの・・・・・・・人格になった・・・・・・“ガルム”と対面したことがあるのだ。
 ――龍からすれば、如何に強力な力を持つ勇者とはいえ、ただの人間の人格を乗っ取るなどそう難しいことではないのだろう。

 しかし、である。
 今の台詞には語弊があった。
 私はそれを修正すべく、口を開く。

「いえ、“契約文字”はケセド自身から貰ったものですが」

「うん、まあ、そうなんだけどさ」

「ええー」

 あっさり認めるティファレト、そして呆れるローラさん。
 だが人狼は何故か粘ってきた。

「そこはほれ、ケセドの奴に渡りをつけてやったのは俺様なわけで。
 俺様が親友に契約文字を授けたっつうことにしても問題は無いんでなかろーか」

「いや、情報は正確に伝えませんと」

「ぬう――」

 確かに、ティファレトの協力なしに“契約文字”の入手は無かったであろうから、奴の功績も大きいと言えば大きい。
 ただ、同じことを“ガルム”もしようとしてくれていたので、手放しに感謝はしたくないところだ。

「……なんだか、凄い疲れてきました」

「あんなことがあった後です、無理はいけません。
 ローラさんは、下がっていて下さい。
 奴とは、私がきっちり決着けりを付けてきます」

「――クロダさん。
 その台詞は、掃除をやる前に聞きたかったです……」

 どこか憂いを帯びたローラさんの瞳。
 涙の輝きすら見える。

「じゃあ、そろそろ移動しようぜ。
 流石にここじゃまずいだろ」

「そうですね。
 近くに暴れるのい適した空き地がありますから、そこでやりましょう」

「おっけー」

「……急に馴れ馴れしい感じになるし」

 部屋の中で戦えば宿がどうなるか分かったものでは無い。
 私達は連れ添って、部屋を後にした。

「……しかも普通に玄関から外に出るんですね」

 そんなローラさんの呟きを、背中に投げかけられながら。







 目的の場所に着いた。
 宿からほど近い広場である。
 ここなら、周囲の被害はある程度抑えられるだろう。
 ――ティファレトがその気になれば、この街そのものを破壊することすらできるので、気休めでしかないが。

「……クロダさん」

「はい?」

 ローラさんが話しかけてくる。
 宿に残っているよう言ったのだが、どうしてもとついてきたのだ。

「緊張感の無さに流されてしまいましたけれど、相手は六龍なんですよね?
 ミサキ様達に知らせた方がいいんじゃ――」

「いえ、援軍が欲しいのは山々ですが、それを許してくれる相手ではないでしょう」

 いつ戦闘が始まってもおかしくない、一触即発な状況なのだ。
 加えて、ケブラーのような巨大な龍の形態であるならばとにかく、ガルムの身体を使っている状態では大勢で挑んでも非効率的という理由もある。

「で、でもそれでは、本当に一人で六龍と戦うことに――」

「おいおい、戦う訳でもねぇ奴が怯えてんじゃねぇよ」

「っ!?」

 ローラさんの言葉に、ティファレトが反応した。

り合うのは、俺様と親友だ。
 横から口挟むんじゃねぇ」

「う、あ――」

 宿の時とは打って変わり、強烈な殺気を放つティファレト。
 ローラさんはその“気”に当たり、たじろいでしまう。

「ま、しかし。
 お前の心配は分かる。
 ひゃ、はははっ――今すぐそれを晴らしてやるよ!」

 言うが早いか。
 人狼は駆けた。
 私に向け、疾走する。

 巨躯からは想像できない速度。
 身構える間もなく、肉薄され――

「――おらぁっ!!」

 鋭い爪が迫る。
 回避――できないっ!


 周囲に血が飛び散った。


「……え?」

 ローラさんの気の抜けた声。
 呆然と私達を――いや。
 血が噴き出し・・・・・・あちこちが裂け・・・・・・・不自然な方向へ・・・・・・・折れ曲がった・・・・・・、ティファレトの腕を見ていた。

「やっぱりか」

 しかし重傷を負ったにも関わらず、ティファレトの態度は飄々としている。
 まるで“こうなること”が分かっていたかのようだ。

「ど、ど、どういうことですか、クロダさん!?」

「ケセドの“契約”ですよ」

「契約!?」

 ローラさんの質問に答える。

「勇者の戦いは、ケセドの“契約の力”によっていくつかの制約ルールが課せられています。
 基本的に、戦いを滞りなく進めるために制定されたのですが……
 その中に、“勇者同士の戦いに他の勇者は介入できない”というものがある」

「――あ」

 彼女も気付いたようだ。

「現在、私は“エゼルミアさんと戦闘を行っている”ことになっています。
 つまり、ティファレトが――ガルムの身体を操っているティファレトが私と戦うことは、『ルール違反』ということです」

「その代償が、コレってわけだ」

 手をプラプラと振って、笑うティファレト。

「ひゃはははっ!
 なーにが、室坂陽葵を助けるため、だ。
 お前等は、最初からコレ目当て・・・・・でエゼルミアと取引したんだろう?
 ケセドの“契約”を文字通り『盾』にして、俺様とイネスを消す腹積もりだったわけだ。
 何せ、“戦闘中の勇者”には手を出せないが、“戦闘を行っていない勇者”には手を出せるからなぁ!!」

「――知っていたのか」

「ああ、分かっていたとも!
 ひゃははははっ!
 ケテルもつくづく人間ってもんが見えてねぇ!
 エゼルミアがただ魔族を殺したい一辺倒で行動するとでも思ったかね!
 あの女は確かに魔族嫌いの気狂いだが――しかし、自分が勇者であることの矜持も持ってやがるのさ!」

 ティファレトの言う通りだった。
 この“作戦”をそもそも提案してきたのは、エゼルミアさんだったのだ。

「エゼルミア様が――」

 感嘆の声を出すローラさん。
 この世界の住人である彼女としては、五勇者が“勇者として行動していた”ことに、感じ入るものがあるのだろう。

 ――もっとも、彼女が魔族の絶滅を企てていることも事実。
 危険人物であることにも、変わりはないのだが。

「そこまで理解していて、何故私と戦うと?」

 抱いていた疑問を口にする。
 今までの台詞が確かならば、ティファレトは己が不利を自覚して戦いに臨んだということになる。

「あん?
 何言ってやがる。
 だからこそ・・・・・、だろうが!」

「むっ!?」

 目を見張った。

 みるみると、人狼の腕が治っていく。
 まるで逆再生をしているかのようだ。
 これが、人狼の回復力か。
 ガルムから聞いてはいたが――想像以上だ。
 ティファレトが司るという、『生命』の力とやらも上乗せされているのか?

「美咲から叩き込まれた“戦闘技術”に、契約を利用して得た“ケセドの力”!
 これでようやくお前は――俺様と、対等の戦い・・・・・ができるってわけだっ!!」

「んなっ!?」

 人狼は、治った腕を振りかぶり、何の躊躇も無く私に振り下ろした。
 その気迫に、反射的に手でガードする。

「――ぐぁっ!!?」

 吹き飛んだ。
 今度は、私の身体・・・・が吹き飛んだ。

「うぉおおおっ!?」

 <射出>を使用して姿勢を制御、どうにか着地する。
 爪で撃たれた腕が、ビリビリと痺れている。

「クロダさんっ!?」

「――大丈夫です」

 叫ぶローラさんを安心させるべく、片手を上げて無事をアピールする。
 実際の所、驚愕で鼓動がやたら早くなっていたが。

 ……馬鹿な。
 ケセドの契約を無効化したのか――?

「いいぞ、親友。
 よく耐えた。
 いきなり終わりじゃ、呆気なさすぎるからなぁ?」

「――っ!」

 ティファレトの姿を見て、私は息を飲む。

 違った。
 契約は無効になどなっていなかった。
 その証拠に、人狼の腕は再度ズタズタに切り裂かれている・・・・・・・・
 つまり奴は――

「ケセドの“契約”の上から、力づくで攻撃してきたのか――!?」

「おうよ」

 ティファレトがニヤリと笑った。

 考えてみれば、奴の攻撃が直接当たれば私など一たまりも無いのだ。
 ケセドの“契約”があったからこそ、私はこうして生きているというわけで。
 ……いやしかし、だからといって自分に返ってくるダメージお構いなしに仕掛けてくるとは――

「――無茶苦茶だ」

「ひゃはははっ!!
 無茶苦茶、実に結構!!
 俺様はな、他の“誰か”の思惑に乗って行動するのが、大ッ嫌いなんだよぉっ!!」

 狼の腕が瞬時に治る――と同時に、再度こちらへ突貫。

 まずい。
 すぐ態勢を整えねば、られる。

 ――奥義“風迅バースト・オーバー”!

「ひゃっははははははぁっ!!」

「うぉおおおおおっ!!!」

 ティファレトの鉤爪を、超加速した上段蹴りで迎え撃つ。
 爪と接触する直前、光の文字ケセドの契約が私の脚鎧を包み――

「「――ぬあっ!!?」」

 弾かれる。
 衝突の衝撃で、ティファレトは仰け反り、私は後ずさった。
 人狼の腕は今回も傷を負ったが、すぐ元に戻る。
 一方で私の脚には鈍い痛みが残った。

「いい感じだぁっ!!」

「くっ!」

 来る!
 今度は逆腕!
 正拳突きで撃ち落とす!

「まだまだぁっ!!」

「ぬぁああっ!!」

 連撃が迫る!

 下からの斬り上げ!
 踵落としで撃墜!

 横薙ぎ!
 回し蹴りで潰す!

「だりゃぁっ!!」

 こちらから貫手!
 ケセドの力によるものか、容易くティファレトの胸に突き刺さる!
 ――が、相手は止まらない!

「痒い痒いっ!!」

 蹴りつけが迫る!
 両腕で受け止め!

 体当たり!
 受けは無理だ避けろ!!

「ひゃははは! いい反応するじゃねぇかっ!!
 ガルムの特訓が効いてるなっ!!」

「お陰様で!!」

 跳び退り、数mの距離を置いて対峙。

 瞬く間に息が上がる。
 ティファレトが攻撃する度に光る契約文字が私を守るが、奴は全く持って意に介さない。
 腕が砕けようと足が裂けようと、手を休めなかった。
 すぐさま完治させ、次の攻撃に移る。

 発生しているダメージ自体は遥かにティファレトの方が上だが、とてもじゃないが有利に戦いを進めている気がしない。
 というより、疲労が溜まっていく分こちらが明らかに不利か。

「ふぅぅぅ――」

 息を整え、低く構える。

 有効打は与えられていないが、ティファレトの動きは大分見れた・・・
 そろそろ“社畜”の効果が発揮できる。
 ガルムと何度も手合わせした・・・・・・・・・おかげだ。
 身体の主がティファレトに変わっても、基本的な動きは似通っている。

 ――だが。

「うーむ。
 もう、無理そうだな」

 あっさりと、人狼はそう言った。

「なに?」

「いや、もうお前に攻撃は通用しねぇだろうなってことさ。
 “社畜”、もう効き出してんだろ?
 なら、俺様の攻撃はもう親友には当たらん」

 軽く断言してくる。

「……では、どうする。
 もう止めるのか」

「まさか。
 当たらねぇとは言ったが――それは、このままなら・・・・・・の話だ」

「何?」

 どういう意味か。
 聞く間は無かった。
 すぐに“答え”が分かったからだ。

「はぁああああっ!!」

 変わっていく。
 人狼の“色”が変わっていく。
 気品さすら漂う白い毛並みが、燃えるような赤色へと。
 ――いや、比喩ではない。
 その身体は確かに炎を纏っていた。

 な、なんだ、これは――?

「ひゃはははは、ちょっとした形態変化フォームチェンジってやつだ。
 最近のお約束だな?」

 ……確かにゲームのボスが“変身”するのはお約束と言えばお約束だが。
 これは、かなり、まずい!
 私は、こんな展開、予想していない・・・・・・・!!

「さぁて、踏ん張りどころだぜ、親友。
 “社畜”が使えるようになるまで、耐えきれるかな?
 ――赤い俺様は、白い時よりちぃっと熱いぜ」

「――っ!!」

 赤い狼が飛び掛かってくる。
 ティファレトの猛攻が始まった。



 第二十八話②へ続く
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