上 下
6 / 164
第1章 前編

永久 side ① 後編

しおりを挟む
 永久side ① 後編






「小学生の時。虐められてた私を助けてくれましたよね。お久しぶりです、北島永久です……」

「北島さん!?」

 私のその言葉に、桜井くんは少しだけ思案した後に、昔のことを思い出してくれたようです。

「確か、あの後引越しして転校したんだったよね?」

 あぁ……嬉しいです。覚えていてくれました……

「はい。ですが桜井くんのことを忘れた日は一度だってありません……」

 私はそう言うと、目尻の涙を拭いました。
 春休みの間に練習したお化粧は大丈夫でしょうか。
 はしたない顔を桜井くんに見られるのは嫌です……

 ですが、私は覚悟を決めました。

「今、クラス分けの紙を見て居た時に、あなたの名前を見つけました。本当に驚きました。ですが、その時から、もしかしたら会えるかもしれない。あの時、言えなかった私の気持ちを、今度こそ言える。そう思っていました」
「そ、そうなんだ。ちなみにクラス分けはどうだった?」

 私は彼のその質問に、笑顔で答えます。

「神様が私たちを祝福してくれているのでしょうね。同じクラスでした」
「そ、それは良かったね」

 桜井くんも私の声で紙を確認しました。
 その目には、自分の名前と私の名前が映っているはずです。

 そして、私はひとつ息を吸って、心を鎮めます。

「桜井霧都くん」
「……え?」

 私は彼をフルネームで呼びます。

「小学生の頃から、今日に至るまで、あなたの事を忘れた日はありません。愛が重いと言われるかも知れませんが、これが私です」
「…………北島さん」

 私は真剣な目で桜井くんを見ます。
 彼も、私が何を言おうとしているのか、わかっているような気がします。

 臆してはダメ!!この言葉を言えずに後悔していた、涙を流していた、小学生の頃を忘れたの!?

 私は自分を叱咤激励します。

 そして、一字一句、噛まないように、しっかりと聞こえるように、伝わるように、言葉にしました。

「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」

 私はそう言って、彼の身体を抱きしめました。

 好きです。好きです。好きです。

 私の気持ちを全て込めるように、ギュッと……

「き、北島さん……」

 桜井くんからは、嫌がるような素振りは見えません。

 良かった……振り払われたら立ち直れませんでした……


 ドサリ……


 と、彼の後ろで何かが落ちるような音がしました。

「……え?」

 桜井と私は同時に後ろを確認しました。

「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」

 そこに居たのはツインテールの似合う可愛い女の子でした。
 そ、その髪型には見覚えがあります!!
 確か、小学生のときに隣のクラスにいた女の子がツインテールでした!!

 ですが、気になるところがありました。
 それは、桜井くんが彼女のことを『凛音』と名前で呼んでいることです。

 ……ど、どんな関係なのでしょうか……

 ま、まさか……お付き合いしてる……

 い、イヤです!!諦めたくありません!!

 もし仮に、あの方が彼の彼女だったとしても、私はこの気持ちをそう簡単には捨てられません!!


「……桜井くん、その方は?」

 私は勇気を出して桜井くんに聞きました。

 も、もし仮に、お付き合いされてる方なら……

 お、思い出として、ほ、ほっぺにチューくらいをして逃げましょう!!

 そのくらいならきっと許してくれます!!

 そんな覚悟を決めた私に、彼は言いました。




「……え、えーと。彼女は俺の『幼馴染』だよ」

「お、幼馴染……」
「…………え?き、霧都、何言ってるの」

 彼の言葉に、私と彼女は驚きました。

 ……え?私より、彼女の方が驚いているように見えます。

「えーとね、彼女は南野凛音って言って、幼稚園の頃からの幼馴染だよ。………………それ以上でも以下でも無い」

 何故だかすごく辛そうに、桜井くんがそう言いました。

 そして、その言葉に一番ショックを受けているのは

「う、嘘でしょ……な、な、何言ってるのよ……」

 焦点の合ってない目で、彼を見ている彼女。

 な、なんだか少し怖いです……

「き、北島さん!!」
「は、はい!!」

 突然、桜井くんに呼ばれた私は声を上ずらせながら返事をします。

「つ、募る話もあるだろうから……その、教室に行って話さないか?」
「……え?あ、あの女性はあのままで……あ……」

 桜井くんは私の手を取って歩き出します。

 手……繋いでくれてます……


「ま、待ってよ……霧都……」


 後ろの女性……南野さんが何かを言っている様でしたが、気にしないことにしました。

 多分……いや、絶対に、彼女は私のライバルです。

 きっと、桜井くんとはなにかすれ違いがあったのでしょう。

 そして、これは私に訪れた『チャンス』です。

 桜井くんは彼女を『幼馴染』だと言いました。

 彼女としては桜井くんを『幼馴染』としては見ていなかった。

 だから驚いて、絶望したような表情をしていたのでしょう。

 本当なら生まれるはずのない『溝』が二人の間に開いた瞬間なのでしょう。
 そして、これまでならそれは時間と共に塞がっていたんです。



 そうはさせません!!


「桜井くん。さっきの告白の返事ですが、いつでもいいですよ?」
「…………え?」

 私はそう言うと、驚く彼の手を引いて腕を抱きしめました。
 す、少しだけ恥ずかしいですけど、む、胸に押し当てます。

「こ、これからいっぱいアプローチをかけて行きますので、覚悟してくださいね?」

 私は自分の顔が真っ赤になってるのをわかっていながら、そう言いました。



 これは、私の覚悟です。
 南野凛音さん。あなたには絶対に負けませんから!!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,207pt お気に入り:2,218

落ちこぼれ[☆1]魔法使いは、今日も無意識にチートを使う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,131pt お気に入り:25,353

夏の終わりに、きみを見失って

BL / 連載中 24h.ポイント:376pt お気に入り:3

七つの心臓~強大な魔力を持つ選ばれし魔法使いだった件~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,214pt お気に入り:35

俺の魔力は甘いらしい

BL / 完結 24h.ポイント:745pt お気に入り:162

処理中です...