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第2章

第三話 ⑤ ~二つ名の出処が新聞部だと初めて知りました……~

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 第三話  ⑤



 皆が昼ごはんを購入し、丸テーブルへと戻ってくる。

 焼肉が食べたくなった俺は詩織さんと同じく焼肉を、健はラーメンセット、佐藤さんと朱里と怜音先輩は日替わり定食を頼んでいた。

「おぉ!!聖女様はやはり焼肉なんだね!!」

 と、怜音先輩は詩織さんの昼ごはんを見てそう言う。

「……先輩。私をそう呼ぶのは辞めて貰えませんか?」

 名前で呼んでもらいたいです。

 と、詩織さんは不機嫌そうに返した。

「そうかそうか。それはごめん!!黒瀬さんって呼ぶことにするよ!!」
「はい。それでお願いします」

 二人のやり取りが穏便に終わったことに安堵し、俺は皆に言う。

「じゃあそろそろ食べようか」

 全員が頷いたので、いただきます。と音頭を取った。

 俺は、焼肉を箸でつかみ、ご飯の上に載せる。

 タレの染みたご飯と一緒に肉を食べる。

 あぁ……うめぇ

 俺は焼肉に舌鼓を打つ。

 詩織さんが毎日食べたくなるのもわかる美味しさだよな。


 なんてことを考えながらご飯を食べていると、怜音先輩が俺に言ってきた。

「桐崎くん。君は二つ名の出処がどこか知りたがって居たね?」
「……はい」
「ふーん。そうか。まあ白状すると私なんだよね」

 と、怜音先輩はなんてことも無いように、コロッケを食べながら言っていた。

「……え?」
 そ、そんな軽く言えるものなのか?

「私の後輩……まぁ君の同学年だね。その子が新聞部として男子生徒の好感度調査をした際に、実に八割の女生徒が君に好意的な感情を抱いていた」
「……そんな調査があったの?」

 俺は三人に聞く。

「そう言えば去年の夏くらいにそんなのもあったね。私は悠斗が好きだよーって言っといた」
「好きの人居るか?って聞かれたからいーんちょーって言っといた」
「私はその時はそう言うのには興味ありませんし、お答えする義理もありません。と拒否しました」

「そうそう。そんな感じで好きな男、まぁ恋愛的なものでなくても、好意的に思ってる人と、不快に思ってる人を調査したんよね。そしたらそんな結果が出たもんだからさ」

 でだ。軽く君を調べてもらったら、ほとんどの女子は君から親切を受けていたことがわかった。

 そこで私が、
 まるで『女たらしのハーレム王』だね!!

「なんて呟いたら、新聞部の中では君のことはそう呼ばれることになったんだ」
「り、理不尽過ぎる……」

 俺は机に突っ伏して嘆いた。

「あ、あの……三輪先輩」
「桐崎くん。私は名前で良いよ?妹の琴音と区別が付かないでしょ?」
「あ、はい。じゃあ……怜音先輩」

 その、女たらしのハーレム王って、家庭でも言ってたりしますか?

「してるよ?」
「じゃ、じゃあ!!俺がなんか三輪先輩からなんか過剰に反応されてるのって!!??」
「あぁ……あるかもね」

 と、怜音先輩は初めて困ったような表情をしていた。

「ま、まあ!!良いじゃないか。君には可愛い彼女が居るんだし!!妹一人くらいに避けられても平気でしょ?」
「お、同じ生徒会なのに、気まずすぎません!?」

 俺のその言葉に、怜音先輩はあははと笑いながら

「え、えーと!!そうだ桐崎くん。山野先生から聞いてるよ?私に言いたいことがあったんでしょ?」
「話の逸らし方が露骨過ぎませんか……」

 俺は半眼で先輩を睨む。が、これからものを頼む立場なのであまり追求するのも良くないと思い、辞めることにした。

「そうですね。怜音先輩。実はお願いしたいことがあるんです」

 と、俺は真剣な表情で切り出す。

「へぇ。そういう顔もできるんんだ」

 いいよ。話して。

 と、怜音先輩が話の許可を出す。

「詳しい話は放課後に話そうかと思いますが、来週の頭にある部活動の予算会議と、それに至るまでに新聞部にお願いしたいことがいくつかありまして」
「へぇ……それって私たちにとっても面白い話?」

 そう言う怜音先輩に、俺はニヤリと笑う。

「俺は生徒会に入って最初に蒼井会長に言ってあるんです。『広報の活性化は学園全体の活性化に繋がる』と。この場では人の目があるので話せませんが、新聞部に利益のある話だと言うことは約束します」
「ふぅん……君ってなかなか面白い男だね」

 ただの優男では無さそうだ。

 怜音先輩はぼそっとそう呟くと、最後に残していたひと口大のコロッケを食べる。

「いいよ。放課後に新聞部の部室に来てよ。その時に詳しく話を聞かせてもらうから」
「ありがとうございます」

 俺はそう言うと、頭を下げる。

「頭を上げなよ桐崎くん。私はまだ話を聞くだけで、やるとは言ってないよ?」
「いえ、話さえ聞いてくれるなら必ず怜音先輩は食いつきますよ」
「へぇ……大した自信だ。なら期待してるよ」

 怜音先輩はそう言うと、食器を持って席を立つ。

「期待はずれなら、君のその不名誉な二つ名にプラスして、ペテン師ってのも加えるから。そのつもりで」

 くるりと踵を返して先輩は歩いて行った。




「ねぇ、悠斗。部活動の予算って結構大変なの?」

 今のやり取りから、朱里がそう聞いてくる。

「そうだね。ここだけの話にして欲しいけど。お金が足りないんだ」
「そ、そうなんだ……」
「足りないお金の詳しい額は避けるけど、それを工面するために新聞部への依頼が必要不可欠でね」
「なぁ悠斗。予算は減るのか?」

 健が少しだけ不安そうにそう言う。

「この場では言えない」

 俺は首を横に振る。

「そうか。ならもう聞かない。全ては来週だな!!」

 と、健は明るく言う。

「ひとつだけ言えるのは、みんなが損をするようなことにはしない。それだけは約束する」
「うん。大変だとは思うけど、頑張ってね。悠斗」
「まぁいーんちょーならなんだかんだで上手くやってくれるよね」
「ふふふ。皆さん忘れてるかも知れませんが、私も会計として悠斗くんを支えていますので。今この場で皆さんが知りえない情報も知っています」
「詩織ちゃん……」

 詩織さんの言葉に、朱里が微妙な顔をする。

「悠斗くんからも報酬をいただけることになっていますし、頑張ろうと思います」

「ほ、報酬!?」

 朱里が俺を見る。

 俺はひとつため息を吐くと、言う。

「今度の中間テストの点数を競うことになった。これが詩織さんが求めた報酬」
「そ、そうなんだ……」
「で、いーんちょー。その結果に対して何かあるんでしょ?」

 さすが佐藤さん。鋭いな。

「そうだね。その結果に対してだけど、」
「私が悠斗くんに勝ったら、二人きりで恋人同士のようなデートをしてください。そう言いました。そして、それは悠斗くんも了承済です」

「いーんちょー……」
「悠斗……」

 佐藤さんと朱里が俺を見てる。

「大丈夫。負けるつもりは微塵もない。それに、俺としてもいつまでも二番で居るつもりはないならね」
「ふふふ。そういう事ですので。報酬と言っても勝負の約束だけですし、私が悠斗くんに負けてしまえばそれまでです」

 まぁ、私も負けるつもりはありませんが?

 と詩織さんは不敵に笑った。

「俺はこっちの方が好感が持てるな」
「健?」

 俺の言葉に健が言う。

「変な策略や罠みたいなことをしないで、こうやって真っ向勝負を挑む姿勢は悪くねぇなって思ったって話だ。悠斗だってそうだろ?」
「あぁ、そうだな。俺が勝てばいいだけの話だからな」

 俺の言葉に健が笑う。

「頑張れよ、悠斗!!」
「おぅ!!」




 そんな俺たちを見ながら、朱里は小さく何かを呟いていたが、俺はそれを聞き取れなかった。
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