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第2章

第八話 ⑪ ~昼休み~ 蒼井視点 後編

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 第八話  ⑪




「それで、蒼井さんは悠斗にどんなお話があったんですか?」

 昼の食事が進んで来た頃。藤崎さんが僕にそう問いかけてきた。

「うん。実を言うとね、生徒会の件とは直接関係がある話では無いんだよね」

 僕のその言葉に、藤崎さんと黒瀬さんの眉が少しだけ動く。
 予算会議の時にはあまり上手く出来なかったけど、本来の僕は人のこう言う感情の機微を読み取りながら生きてきた人間だ。

 今の僕のひと言で、『桐崎くんとの私情の話』というのを察したのだろうね。だから少しだけ警戒をした。

「あはは……そんな怖い顔をしないでくれ」

 僕はそう言って手をパタパタと振った。

「この間の予算会議のことは知ってるだろう?」
「はい」
「私はその場にいましたからね」

 僕のその言葉に、二人が首を縦に振る。

「ここだけの話。裏の予算会議のことだって、藤崎さんは知ってると思って話をするよ?」
「……はい」

 部外者二人がいるけど、彼と彼女なら口を割ることは無いだろう。

「桐崎くんはね、僕に対しての『負い目』を感じている。まぁ、理由としては『僕のことを生徒会の悲劇のヒロインとして祭り上げる』なんて事をしてしまった。という部分だろうね」
「……まぁ、悠斗の性格なら当然かと」
「その件に関して何かあるんですか?」

「生徒会長と副会長の間がギクシャクしてしまうのは、運営にも支障が出てしまうからね。何とかして解消したいと考えているんだ」
「なるほど……」
「そうですか……」

 僕はそこまで話すと、水をひと口飲んで喉を潤す。

「具体的には『僕と桐崎くんの二人でどこかに出掛けようかな』と考えてるんだ」
「「……っ!!??」」

 目に見える驚き。そうだね、僕からそんな言葉が出るとは思って無かっただろう?

 そして、本当なら『愛しの彼を他の女と二人で出掛けさせる』なんて許せないだろうけど、二人が私に対して思っている『油断』を利用することにする。

「あはは。何も僕は君たち二人から桐崎くんを奪おうなんて考えてないよ」
「…………」
「…………」

「自分の人生の全てを賭けて、彼を取りに行く。そのくらいの覚悟がないと、君たちの間には入れない。残念だけど、僕はそこまでの覚悟はしてないよ」

 嘘だ。それはもうしている。
 だが、それを表に出してはいけない。

 あくまでも彼女たちには、

『僕はたいした敵では無い』

 と思わせなければならない。

「で、どうかな?具体的には駅から少し歩いたところにあるアミューズメント施設で身体を動かして来ようと思ってる」

 頭を空っぽにするには身体を動かすのが一番だからね。

 僕がそこまで話すと、藤崎さんが答える。

「はい。いいですよ」

 …………よし。『本命』からの許可は出た。

「ありがとう、藤崎さん。なに、彼に対して変なことはしないよ。そんなことをしたら余計にギクシャクしてしまうからね」

 と、僕は笑いながら言う。

「黒瀬さんはどうかな?」
「はい。朱里さんが許可しているものを、私が不許可にすることは出来ませんよ」

 黒瀬さんも了承を出した、

 ……よし。『側室』の許可も出た。

 それもこれも、二人の僕に対して持っている『考えの甘さ』が招いた失態だ。

 僕はこの一日を使って、桐崎くんとの仲を一気に進めるつもりだ。

 具体的には、『二つの武器』を使って。

「今週末の日曜日にようかなと思ってるんだ。彼は日曜日はアルバイトが休みだからね」
「……よく知ってますね?」
「あはは。そのくらいは普通だろう?出なければ黒瀬さんと日曜日に出掛けたり出来ないし」

 少しだけ眉をしかめた藤崎さんに、僕は笑いながら返事を返した。

 そして、僕は空になった食器を持って立ち上がる。

「さて、僕はそろそろお暇(いとま)するよ。相談に乗ってくれてありがとう。助かったよ」
「いえ……」
「まぁ、これも生徒会の為ですから」

 微妙な表情をしている二人を残して、僕はその場を立ち去った。





 ふふふ……よし、上手くいった。

 あとは、今日の生徒会の時間を使って、桐崎くんを週末のデートに誘うことにしよう。

 今日の琴音は怜音と用事があるそうで、生徒会は休みだ。
 そして、黒瀬さんに言えば桐崎くんと二人きりの時間を作ることは容易いし。

 あの二人が許可を出している。と言う話をすれば彼は首を縦に振るだろう。

 聡い桐崎くんのことだ。何故僕がこうした誘いをしたのか、『表向きの意味』は察してくれるはず。
『裏の意味』を察せられては困るから、そこは気を付けよう。



 僕はそんなことを考えながら、放課後の時間までを過した。
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