最強勇者無双 ~異世界召喚された俺が勇者だ~

くろげブタ

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30.取引

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100/7/12(火)18:20 ファーの街 野盗アジト地下室


 魔王と化したサマヨちゃん。

 これまではリオンさんが手にする神聖宝珠。
 その聖なる光によって行動を制限されていたサマヨちゃん。
 魔王となり神聖耐性が大幅に上昇した今は、聖なる光の中にあっても普段と同じく行動することができる。

 それどころか、魔王の発する闇気あんきによって今や地下室は暗黒の密室と化していた。
 勇者である俺に影響はないが、それ以外の者は魔王への畏怖からまともに動くことも困難だろう。

 俺とリオンさん。2人の立場は完全に逆転した。

「これが魔王の闇気ですのね。デーモンメイジが畏怖で動けなくなるなんて、思っていた以上ですわ……」

 絶体絶命のピンチだというのに、思ったより冷静に見える。
 まだ何か策があるのか?

「そのわりにリオンさんは平気そうだな」

「それは私の装備ですわ。レア装備で身を固めていると言ったでしょう? この服は全属性への抵抗がありますもの。それでも辛いのですけどね」

 サマヨちゃんを従えてリオンさんの元まで。
 手に持つ剣をリオンさんへと突きつける。

「とにかく形勢逆転というわけだ。まだ戦うか?」

「いえ。降参しますわ。聖なる光も効かない。野盗もいない。おまけに私の手駒で最も強いデーモンメイジが倒されたのでは、勝ち目ありませんもの」

 と思ったが、あっさり降参するようだ。
 両手を上げるリオンさんへの警戒をサマヨちゃんに任せて、俺は倒れるカモナーへと膝をついた。

「そうか。なんなら命乞いしても良いぞ? 俺も敗者の命乞いを聞くのは好きだからな」

 頭から血を流すカモナー。
 だが、息はあるし脈もある。
 頭を殴られ気絶しているだけのようだ。

「まさかですわ。死ぬときは優雅に華麗に。ですもの。あ、ですがゲイムさん。一つ忠告があります」

「なんだ? 裸になって土下座でもしてくれるのか?」

 勇者は屈辱を忘れない。俺は根に持つタイプだったりする。

「私の鑑定。貴方の本名はもちろん生年月日も知っていますわ。貴方の外見と名前から私と同じ日本人であることも」

「なんだ。リオンさん、外国人じゃなかったのか」

 カモナーの頭に薬草を張り付ける。
 これで大丈夫。血は止まっている。

「失礼ですわね。私の黒髪と顔立ちを見て、どうしてそう判断したのかしら。私の名前は、織部おりべ 凛音りおん。れっきとした日本人で、超一流企業の偉い人ですわ」

「ほう。それは羨ましい」

 膝をついた体勢から、見上げるようにリオンさんの姿を確かめる。
 黒でまとめたシックな服装は、確かに日本で良く見るOLのようにも見える。
 そして、下から眺めることで思ったより胸にボリュームがあることも。

「ゲイムさんが私を殺すとします。私は貴方より先に地球に戻るわけですの。貴方の名前と年齢から、日本での貴方を特定するのは容易いですのよ」

「ほう。本名バレって奴か」

 地球に戻った際に、異世界での記憶は残るのだろうか?
 もしも残るのなら可能である。
 興信所にでも頼めばすぐに分かるだろう。

「ええ。ここで私を殺してごらんなさい? 日本での貴方は、貴方の家族はどうなるかしら? 不幸でも起こらなければ良いのですけどお?」

「ほう……俺を脅迫するのか?」

 まだ勝負を諦めていなかったわけだ。
 往生際が悪いというか最後まで粘り強いというべきか。
 とにかくこれは少々厄介なことになった。

 死んでも地球に戻るだけだったカモナーの時とはわけが違う。
 地球に住む家族に手を出されては、異世界の俺には防ぎようがない。
 俺を脅迫する材料としては十分だ。

「これは取引ですわ。私を見逃すなら今後、貴方たちには手を出さないわ。ゴールドも差し上げます。そして貴方。おそらく学生ですわよね? 就職先は決まったかしら? 私が地球に戻ったら私の会社へ、超一流企業へ口を聞いて差し上げますわよ」

「ほう。そんなことが可能なのか?」

 超一流企業への口利き。コネを使っての就職。
 学生にとっては、喉から手が出るほどの報酬といえる。

「もちろんですわ。私なしでは成り立たない企業ですもの。で、どうしますの?」

「うむ。こういった場合、勇者の返答は決まっているものだ。分かるか?」

 これほどの好条件を提示されたのでは仕方がない。

「まあ。なんとなくですけど」

「では答えよう……だが断る!」

 定番の台詞を言うしか仕方がない。

「はあ。やはり三流大学の貧乏学生ですわね。馬鹿な学生ほど漫画で覚えた言葉を使いたがるもの。貴方、そんな知能では地球に戻っても、まともに就職できず野垂れ死にですわよ?」

「最強勇者の俺が死ぬはずはない。よって、地球に戻った後のことなど考える必要もない」

 事実であっても、三流大学は余計だ。

「貴方、先ほど死にかけていたじゃないの」

「だが死んでいない。そして、地球ではリオンさんの方が俺よりよほど上なのだろうが、この異世界で主導権を握るのは俺だ。一流企業の偉いさんといえど、三流大学の貧乏学生の言いなりになるしかない」

 起ち上がる俺は、リオンさんを間近に見つめていた。
 異世界にも関わらず、しっかり手入れされた黒髪からは花のような香りが漂っている。

「なによ。言いなりって?」

 その黒髪を手で梳いてみる。
 リオンさんの目は抗議のつもりか俺を見返していた。

「敵は徹底的に殺すのが常識。君はそう言ったな? つまり、常識的に考えれば俺は君を殺すしかない。だが、幸いにも勇者に常識は当てはまらない。君に生きる選択肢を与えたいと思う」

 正直リオンさんに恨みはある。
 俺は死を覚悟するまで追い詰められたのだから。

 だが、復讐は何も生みださない。
 殺戮から生まれるものも何もない。

 繰り返される悲しみ。復讐の連鎖。
 誰かが止めねばならないというのなら──勇者が止めるしかない。

「まず、君のスマホは取り上げる。当たり前だ。ゴールドも取り上げる。これも当たり前だ。そしてもう1つ。ここから先は取引だ」

 異世界の季節は夏。
 リオンさんの髪から肩へ。
 俺は薄手のシャツに包まれた肩をなでるように手を動かした。

「助かりたいなら今晩俺の言うことを聞いてもらおう。勇者は寛大だ。一晩罰を加えるだけで君を解放してやる」

 俺はリオンさんへの恨みを封印する。
 悪人を殺すのではない。
 お仕置きによって反省を、更生を促すことこそが、勇者の責務である。

「最低ですわ……どうせエロイ事でもしようと思っているのでしょう? お生憎様。貴方のようなクズにそんなことをされるくらいなら自決しますもの。先に地球に戻って地球での貴方の生活を、家族を無茶苦茶にして差し上げますわ」

 触れる俺の手を、挑むような目で払いのけるリオンさん。

「すでに俺の家族はいない。親戚ならいるが、俺とは縁のない者だ。好きにすれば良い。そしてリオンさんが自決してくれるなら、俺自身の手を汚さなくてすむというもの。君の死体は俺が有効に活用してやろう」

「……何をするつもりですの?」

 逆にその目を睨み返して、払おうとする腕をつかむ。

「決まっている。死姦だ。その後はゾンビにして俺の使い魔にする。死ぬまで、いやゾンビだから死なないか? ま、俺の肉人形として使いつぶしてやろう」

 死後硬直が始まるまで2、3時間という。
 それだけ時間があれば、綺麗な状態でかなり楽しめるだろう。

「……最低ですわ」

「確かに最低だ。死体にそのような行為、俺としても行いたくはない。だが、君は俺の家族に手を出すと言った。最低の行為に対抗するには、俺も最低の行為をするしかない」

 つかんだ腕を引き寄せる。
 一回り小柄な身体が、正面から抱きすくめられるように俺の腕へとおさまった。

「もともと貴方、スケルトンにまで手を出す最低の男じゃない」

 握った拳を俺の胸に叩きつけ、押し返そうとするリオンさん。

「だが君も自分の成功のために野盗を使うような最低の女だ。お似合いだろう」

「……私は貴方のように戦う力はないもの。私にある力。鑑定を生かすには他人を使うしかありませんわ」

 間近から、鼻と鼻が接するほどの近さで、リオンさんの瞳に言葉を叩きつける。

「だからといって罪のない他人を犠牲にしてよいわけではない」

 目をそらすように身をすくめるリオンさん。

「そもそも君の脅迫は記憶を持って地球に戻ることが前提だ。死んだ場合は地球に戻るというが、本当に戻れるのか?」

「知りませんわ。ですが、スマホのメッセージがそう言っているんですもの。信じるしかありませんわ」

 俺たちを異世界に連れ込んだ存在。超常的な力を持つ存在。
 わざわざ嘘をつく必要もない。死ねば地球に戻れるのは本当だろうと思う。

「だが、生きるチャンスがあるなら俺は試そうと思わない。もっともリオンさんが試す分には止めるつもりもないが」

「そんなの……私も試したくありませんわ」

 死んだ後のことなど誰にも分からない。
 絶望的な状況でもなければ、わざわざ試そうとは思わないだろう。

 つまり、リオンさんに絶望的な状況を与えてはいけない。
 我慢できるギリギリのラインを攻める必要がある。
 お仕置きするにも、お尻に差し込むのは大丈夫なのだろうか?
 ひじょうに微妙なラインといえよう。

「それで本当に私を解放しますの? 貴方に復讐するかもしれませんわよ?」

「それが無理なのは君自身が一番よく分かっているはずだ。スマホというチートなしで、チートを持つ俺に勝てると思うならやってみると良い。だが、勇者の慈悲に2度目はない」

 そむける顔を、顎を持ち上げ俺の目へと向けさせる。

 次に試せば死ぬ。だが今なら見逃す。
 答えを決めるのはリオンさん、君だ。

「で、どうする? この場で死ぬか? それとも、俺との取引に応じるか?」

 顎を離れた手が、さらにその下へと。

「このような場合、私のような気高い女性が言うべき台詞がありましてよ。分かるかしら?」

 首をなでるように下へと移動する手の平は、リオンさんの胸へと差し掛かる。

「では、言いますわ……くっ。殺せ……貴方のような下衆になぶられる位なら死を選びますわ」

 くっ殺せ。だと?
 漫画で覚えた言葉を使うのはリオンさんも同じではないか。
 要は、取引に応じると。そういうことだろう。

 鑑定といっても、地球の家族の状況まで知ることはできない。
 俺の両親は、今も地球でピンピン暮らしているはずだ。
 もはや2度と会うことはないかもしれない。だからこそ守らねばならない。

 俺を恨んだまま地球に戻られる、家族に害を及ぼされるという最悪の状況を回避する。
 それに比べれば、リオンさんが再び俺を狙うなど、ささいな問題でしかない。
 
 それにしても柔らかいな。ぐへへっ。
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