33 / 96
33.就職
しおりを挟む100/7/13(水)8:30 ファーの街 冒険者ギルド
「さっそくだが冒険者ギルドに来たぞ」
「来たよぉ」
ギルドは朝から賑わいを見せていた。
依頼を確かめる者。売店でアイテムを購入する者。
勤労意欲に溢れる良い雰囲気だ。
俺たちを待っていたのだろう、奥から出て来たお姉さんに挨拶する。
「おはようございます。それでは……っと、そちらの女性は?」
挨拶を返すお姉さんの目は、俺たちの後ろへ注がれていた。
「おはようございます。昨日、野盗から助けていただいたリオンと申しますわ」
宿屋でお金を渡した後も、リオンさんは俺たちの後を着いて来ていた。
ギルドに用件でもあるのか?
「それは災難でしたね。身体はもう大丈夫ですか?」
「はい。ユウシャさんによくしていただきましたので……」
しおらしい態度をとるリオンさん。
外見も服装も良いだけに、その姿には庇護欲をそそられるものがある。
「本当に? 変なことされていませんか? 本人を前に言いづらいかもしれませんけど、正直に答えて大丈夫ですよ」
にっこり微笑むお姉さん。
本気で俺がそんなことをすると思うなら、助けた女性を任せるはずがない。
場を和ませようという冗談だろう。
「その……実は嫌だという私を……やっぱり恥ずかしくて言えませんわっ」
だからといってリオンさん、悪ノリするんじゃない。
そして、お前はそんな恥ずかしがるキャラじゃない。
「ユウシャさん……失望しました。貴方、野盗にさらわれ怯える女性に手を出すなんて」
お姉さんは本気で怒っていた。
お互い冗談で言っているのだろうが、初対面同士で通じるはずもない。
しかも、はかなげな美人が言うなら問答無用で信じるのも当然だ。
怒るお姉さんはちょっと……いや、かなり怖い。
冷や汗が止まらない。何故だ?
ある程度は事実だが、さすがにこれは冗談にならない。
「このビッチめ! ユウシャさんはそんな卑怯なことしないんだよぉ。異世界に舞い降りた正義の化身。それがユウシャさんなんだよぉ!」
なんとか言い訳を考える俺より先に、凄い剣幕でカモナーが抗議していた。
「カモナーちゃん……どうしたの?」
普段ぼんやりしたカモナーの抗議。
しかも、ビッチなどと口ぎたない言葉が飛び出すことにお姉さんは驚いていた。
「どうもしないよぉ。僕はユウシャさんの凄さを言っただけだよぉ!」
カモナーがお姉さんの相手をする間に、リオンさんの背後へと回る。
注意の意味を込めてお尻を思い切り揉み込んだ。
「ひぇあっ」
(さすがに冗談にならないぞ。お姉さんの顔を見てみろ)
(あ、貴方のセクハラも冗談になりませんわよ。ですが、そうですわね。マスターを怒らせるのはよろしくありませんわね)
(マスター?)
(あら? 貴方、知っていて媚を売っているのだと思っていましたけど?)
(媚を売る? お姉さんにか? 美人だから仲良くなろうとしているだけだが)
(はあ……そうですわよね。ですが彼女、ギルドマスターですわよ?)
(……だが受付をやっていたぞ? 冒険者登録もしてもらった)
(知りませんわ。おおかた役職を伏せて紛れ込むことで、現場の生の声を聴きたい。そんなところじゃありません?)
普通の受付とは違うと思っていたが、まさかギルドマスターとは。
鑑定を習得していたリオンさんが言うからには、本当なのだろう。
(もしかして、お姉さんは強いのか?)
(ギルドマスターですのよ? 当たり前ですわ)
どうりで睨まれて冷や汗が出るわけだ。
過去に少しセクハラ気味なことをした記憶もあるが、大丈夫だろうか?
とにかく、一刻も早く誤解を解かねばならない。
「お姉さん。誤解です。ただのアメリカンジョークです。俺とリオンさん。それだけ仲良くなったというだけですから」
俺は権威をかさに着るのは好きだが、権威には弱い。
リオンさんも一緒に誤解を解くよう、その脇腹をなでるように促した。
「ひあっ。あ、あの、すみません。本当に大丈夫ですから。それより、家族も仲間も失って行き先がありませんの。ギルドで何か仕事を紹介していただけないかしら?」
「本当ですか? それなら良いのですが……」
疑わしそうに俺たちの顔を見つめるお姉さんだったが、納得したのかリオンさんへと向き直っていた。
「リオンさんは冒険者ですよね? 見覚えがあります。そのまま冒険者を続けるわけにはいかないでしょうか?」
リオンさんも冒険者に登録していたのか。
その時にお姉さんを鑑定したのだろう。
「今回の件もありますし……元々戦闘は不得手でして。血を見るとか荒事は駄目なんですの」
嘘をつけ。嬉々として俺をいたぶっていた癖に。
「ひぁっ」
(ちょっと。いちいち私のお尻をさわるのやめてくれません?)
(嘘をついた罰だ。それに、しおらしくするなら、少しもじもじする位がちょうど良いだろう?)
「リオンさん? 読み書きや計算などはできますか?」
「はい。こう言ってはなんですが、頭は回るほうだと思いますわ」
「それなら、リオンさんにはギルドの職員見習いとして働いてもらいましょうか。もっとも働きぶりが駄目ならそれまでですよ?」
野盗にさらわれたという哀れな立場を利用して、直接ギルドマスターに売り込みする。
ギルドに来たのはこれが目的だったのか。
道中の俺とカモナーの会話から、お姉さんに会うことを聞いていたのだろう。
(ギルド職員になってどうするんだ?)
(もともと私はデスクワークが本職ですわ。冒険者、日雇いの肉体労働なんて私の性に合いませんもの)
まったく一言多い奴だ。
「ひぇあっ。だ、だから貴方やめなさいっての」
もっとも美人が受付をやってくれる方が俺としても好ましい。
「頑張ってくれ。応援している」
俺は心からリオンさんを応援する。
知り合いがギルドにいれば、何かと融通を聞かせてくれそうだしな。
「ふん。私が出世したら覚えておきなさいな。ゲイムさんには難易度の高い依頼だけを指名してあげますから。せいぜい死なないようにすることですわ」
つまり、高難易度、高報酬で割の良い仕事をまわしてくれると。
そういうことだ。
指導役だろうギルドの人と一緒に受付に入るリオンさん。
「あんな美人がギルド職員になるだって?」
「マジかよ。受付してもらおうぜ」
「俺が先だ、俺が!」
その前には、早くも下心満載の男たちが並んでいた。
「それじゃ、カモナーちゃん。ユウシャさん。クランハウスに案内します。着いてきてください」
お姉さんが、ギルドマスターが直接案内してくれるのか。
俺への期待を感じるとともに、プレッシャーを感じる。
粗相があってはならない。
親しみを感じていたお姉さんだが、いざ偉い人だと聞くと少々気を使うな。
「はいっ。よろしくお願いします」
「あいおー」
だというのに、あいおーってお前……
まあ、カモナーには甘いみたいだから良いか。
その後、お姉さんに連れられて郊外のクランハウスまで移動する。
「ここがクランハウスです。街から歩いて1時間。右手には平原が広がり、左手には自然豊かな森が広がる、素晴らしい立地ですよ」
ガイドさんのように案内してくれるのは良いが、すぐ近くに森が広がるのはマズイだろう。
魔物の接近に気づきづらい上に、森から襲われては対応するのが難しい。
街道からも外れているので付近を人が通りかかることもない。
誰だよ。こんな場所にクランハウスを建てた奴は。
「その……風光明美で良い場所ですね」
「そうでしょう? 私が選定しましたからね。のんびり余生を過ごすにはピッタリの場所ですよ」
お姉さんかよ。そして余生って。
こんな人気のない、モンスターの溢れる場所に老人が住もうものなら、翌日には余生が終了している。
「周囲の柵が壊れているよぉ。ボロイよぉー」
だからカモナー。失礼な物言いをするんじゃない。
もう少しオブラートに包みなさい。
「それはもちろんです。モンスターに襲撃されて以降、そのままですから」
そしてお姉さん、それは胸を張って答えることじゃない。
しかし、クランハウスの案内をギルドマスター自身が行う。
あまつさえ自慢げに紹介までするとは。
もしかして──
「郊外のクランハウス。街に対する防波堤として建設されたと聞きましたが、これって誰の発案なのでしょうか?」
「え? えーと、その、偉い人の発案ですよ」
「……ギルドマスターとかですかね?」
「っ!? ど、どうなのでしょう? そうかもしれませんね」
つまり、郊外のクランハウス。
この成否によっては、お姉さんの立場は危うくもなり、盤石にもなる。
すでに一度失敗している。
次に失敗すれば、ギルドマスターの立場はないだろう。
逆に成功すれば、ゴブリンを撃退して長期間クランハウスを維持すれば、ギルドマスターの立場は安泰となり、俺への信頼もうなぎ登りとなる。
ギルドマスターから直接の褒美も期待できるわけだ。
なら、やるしかない。
「まず周囲の柵の修理。それとグリさんの小屋を建ててもらえないでしょうか」
「柵ですか? どうせ修理しても壊されますよ? あまり無駄な出費は……」
そうは言っても柵の有る無しはやはり違う。
野生の魔獣は近寄らなくなるだろうし、侵入するにも柵を乗り越える、壊すのに手間取る間に何匹かは倒せるのだ。
クランハウスの建物は木造2階建て。
こちらも荒らされてボロボロだが、雨露は凌げそうなので後で良い。
「次からは自費で修理します。初回だけでも修理をお願いできませんか?」
「仕方ありませんね。グリフォンの小屋はどの辺りに建てますか?」
「自宅のすぐ隣で。大きさやデザインなどは職人の方にお任せします。グリフォンが快適に過ごせるよう少し大きめでお願いします」
俺に建物の知識は無い。
専門家に任せるのが一番だ。
加えて──
「カモナー!」
「ふわあーグリちゃんグリちゃんグリちゃん……ん? ユウシャさん呼んだぁ?」
街から出てすぐにグリさんと合流したカモナー。
それ以降、グリさんの背中にしがみついたまま離れようとしない。
「カモナー。グリさんの小屋を職人たちが建ててくれる。グリさんと一緒に残って何か意見があれば伝えてやってくれ」
後の意見は使う本人。グリさんとカモナーに任せる。
「ふわーい……あれ? ユウシャさんはどこか行くの?」
ギルドマスターと一緒というのは気を使うものだ。
就活の真っ最中なのもあって、俺は礼儀にうるさい。
俺の方が偉くなるまで、クランハウス防衛でお姉さんに借りを作るまでは、あまり接触しない方が気楽で良い。
お姉さんの相手は、そういう権威を気にせず意見を述べるのは、カモナーの方が適任だろう。
「俺は周辺を調べてくる」
「あいおーユウシャさんがんばれー」
「ああ。それでカモナー。新しく召喚したアルちゃんだが、少し貸してくれないか? レベル1のままではマズイだろう。少しレベルを上げてやる」
アルちゃんはというと、カモナーと一緒にグリさんの背中の羽毛に埋まっていた。
「あーい。それじゃアルちゃん。僕の代わりにユウシャさんの役に立つんだよぉー」
「アウッ」
グリさんの背中をトコトコ降りたアルちゃんを連れて、当然俺と一緒のサマヨちゃんの3人でクランハウス近くの森へと探索に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる