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73.暗黒の地下
しおりを挟む100/11/1(火)10:00 王宮 地下牢
地下牢を抜け出した俺は、這いずりながらドアへとたどり着く。
地下牢を出たといっても、いまだ王宮の地下。
どこで衛兵と出くわすか分かったものではない。
まともに目が見えない状況。
這いずるしかない今の身体で、どこまで戦えるのか?
ブブ
頭上で羽を震わせるファンちゃん。
そうだな。
その時はファンちゃん。すまないが頼む。
「だが、逃げられるなら逃げるのを優先してくれ。そして、カモナーに警告してほしい」
タローシュは、国は全てのスマホを集めようとしている。
当然、カモナーのスマホも狙われるわけだ。
カモナーがスマホを所持していることは、クランメンバー以外には秘密にしている。
だが、スマホのランキングには、カモナーの名前がしっかり記載されている。
それも、真贋主。10Pスキルの鑑定持ちとしてだ。
鑑定。対象の能力を調べるスキル。
タローシュにとって、今、最も手にいれたいスキルだろう。
草の根をわけてでも探すにちがいない。
国が総力をあげたなら、見つかるのは時間の問題。
そして、国が相手では、カモナーに勝ち目はない。
これ以上、俺の知り合いが被害を受けるのは見たくない。
命あっての物種。
カモナーには、スマホを破棄するよう伝えてほしい。
うんこに塗れるのは、俺だけで十分だ。
ズルズルと地下牢のドアを抜けて廊下を這い進む。
いったいここはどこだろう?
必死で目を見開くが、闇に塗りつぶされたように、俺の目は何も映さない。
風の音もなければ空気の流れもない。
這いずる音以外は、物音1つしない暗黒の地下。
だが……なぜか懐かしい空気を感じる。
その空気に触れるるうち、俺の身体の筋肉が弛緩。
思うように動かなくなっていくと同時に、俺の身体中の穴から液体が溢れだしていた。
まだ、これだけうんこが出るんだな。
近寄る者の筋肉を弛緩。戦闘力を低下させるこの現象。
俺には心当たりがある。
これは暗黒オーラ。魔王の放つ闇気に触れた者が発する症状だ。
言っていたじゃないか。
親衛隊長は、俺たちの使い魔を地下に集めて、生き埋めにしたと。
それがここだ。
この地下に。この近くに魔王が。サマヨちゃんがいる!
「サマヨちゃーん! サマヨちゃーん!」
生き埋めにされた場所が近いのは間違いない。
地下にこれだけ暗黒オーラが漏れ出しているのだ。
地下牢から見張りがいなくなったのも、これが関係しているのだろう。
ここは闇気に満たされた魔窟。
元々見えない目が地下の闇黒オーラとあわさり、全く見通しが利かない。
この暗黒オーラの一番濃い場所に、サマヨちゃんがいるはずだ。
「ファンちゃん。サマヨちゃんを探すのを手伝ってくれ。サマヨちゃんと合流すれば脱出できる」
なんといってもサマヨちゃんは魔王。
その戦闘力は、勇者だった俺の上をいく。
しかし……現在もサマヨちゃんは魔王なのだろうか?
スマホから習得したスキルは全て失われる。
サマヨちゃんも、スマホからスキル魔王を習得したはずだ。
普通に考えれば失われるはずなんだが……
実際、この地下には魔王の闇気。暗黒オーラが充満している。
抜け道みたいなものか? 使い魔が習得したスキルは失われない。
なんにしろ俺にとってはラッキーなこと。
サマヨちゃんの戦闘力は、元のまま変わらない。
強かった当時のままということだ。
ただ1つ問題があるとすれば……俺の支配を離れ野生化しているという点だ。
スマホにより管理されている使い魔。課金モンスター。
スマホの所有権がなくなると同時に支配は終わり、野生のモンスターとなる。
知性も理性も持たない。
本能のままに暴れる野生モンスター。
だが、例外はある。
グリさんがそうだ。
高い知能を持つモンスターの場合、野生化したとしても、課金モンスターだった頃の記憶は残るのだ。
そのため、野生化した今も、グリさんはカモナーに付き従っている。
なら、サマヨちゃんはどうなる?
スケルトン。アンデッドに知能は、記憶はあるのか?
脳ミソが存在しない空洞の頭蓋骨。
アンデッドに知能を求めるのは酷というもの。
それでも。
それでもサマヨちゃんは、稀に知性があるのではないかと思わせる行動をとっていた。
なにより、記憶がなくとも、知性がなくとも、その身体が俺を覚えていてくれる。
初めて異世界に来たあの日。
あの小屋で出会って以来、俺とサマヨちゃんはずっと一緒だったんだ。
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝た。
お互い隠し事も何もない。
同じようなスケルトンがいくら並んでいようと、俺はその骨格だけで、サマヨちゃんを見つける自信がある。
サマヨちゃんもきっとそうだ。
辛い時も。楽しい時も。
俺の恥ずかしいところも、格好良いところも、全部知っている。
だから、野生に戻ろうとも俺を知っていてくれるはずだ。
だが、これも俺の一方的な思い込みなのだろうか?
これまで自分が勇者だと思い込んでいたように。
サマヨちゃんにとって、俺など自由を縛るだけの足枷でしかないのかもしれない。
やはりスケルトンはスケルトンでしかなく、俺はあっさり殺されるかもしれない。
思えば、俺の異世界はサマヨちゃんと共にあったのだ。
サマヨちゃんがいなければ、ここまで来ることも出来なかった。
それなら。
サマヨちゃんと出会って始まった旅なら、サマヨちゃんと出会って終わるのも悪くない結末。
ブーンブーン
俺の頭を離れて付近を飛び回るファンちゃんは、右手の方向で羽音を鳴らしていた。
そっちか? その方角にサマヨちゃんが埋まった部屋があるのか?
ズルズル這いずる俺は、暗黒オーラが渦巻く、そのただ中へと向かう。
ますます濃くなる闇気。これが暗黒オーラ。
勇者だった頃は暗黒オーラの影響を受けなかったため、よく分からなかったが、実際、その身に受けると影響の大きさがよく分かる。
筋力の低下により身体中の穴という穴は開き、汗が、涎が、排泄物が流れ出す。
手足は泥のように重く動かない。
地下通路の前方。
かつではドアだった物体。その先からどす黒い闇黒オーラが漂っていた。
ドアの残骸を潜り抜けた先。部屋の中は全て瓦礫で埋め尽くされている。
天井を崩落させて、全員を生き埋めにしたのだろう。
その瓦礫の隙間から漏れ出る暗黒オーラ。
この部屋。この瓦礫の下にサマヨちゃんがいる。
しかし、この部屋を埋め尽くす瓦礫を動かすのは難題だ。
こと瓦礫を動かすとなれば、ハチ獣のファンちゃんでは何の役にも立たない。
スマホがあれば、ダイナマイトを購入して爆破できるのだが……
いや。
ネコに小判。うんこにスマホ。
しょせん俺には使いこなすことのできない。すぎた代物。
そして、すぎた過去を振り返る暇があれば、手を動かすだけだ。
ガーン
骨をつるはし代わりに、瓦礫へ打ち付ける。
ガーン
暗黒オーラの漂う中。
ただでさえ動かない身体を動かして瓦礫を砕いていくが、この調子では俺の体力が尽きて死ぬのが先だ。
まあ。それも仕方のないことか。
汚臭を放つしか能がない。人々から忌み嫌われる邪魔もの。
うんこにしては、よくやったんじゃないか?
敵地に捕らわれた中で、ファンちゃんを生きて外に連れ出すなど、夢のまた夢。
うんこの意地といっても、しょせん、うんこにできるのはここまでだ。
だが……サマヨちゃんなら。
魔王の力を持つサマヨちゃんと合流したなら。
ファンちゃんは外へ脱出できるだろう。
そう。今、必要なのは、うんこではない。
圧倒的な力。魔王の力。
俺ではなく、サマヨちゃんが必要なのだ。
だから今、俺の残る魔力を、最後の力を全て使う。
うんこがいつまでも便器にこびりついていたのでは、臭くてたまらない。
今がトイレから、異世界から流れ消え去る、その時だ。
握る骨に残る魔力を込める。
闘技。魔力を武器に込めて放つ戦闘技能。
スマホではない。これもまた俺が独自に習得した技。
初めて闘技を放った相手は、大木だったか。
太い幹を持つ大木を粉々に打ち砕いたものだ。
レベル10の頃ですら大木を破壊したのだ。
レベル35になった今。
暗黒オーラの漂うこの地下でも。
一瞬でいい。
一撃でいい。
俺の全ての力を込めれば。
俺の全力なら、瓦礫を吹き飛ばすことが可能なはず!
「サマヨちゃんっ!!!」
ドカーン
骨と瓦礫が衝突。爆発的な衝撃が地下室に轟いた。
ガラガラ
舞い散る粉塵と吹き飛ぶ破片の先に見えたのは、漆黒のスケルトン。
サマヨちゃん。ひさしぶり。
それを最後に、俺は意識を失った。
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