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78.ファーの街への帰還
しおりを挟む100/11/3(木)05:00 ファーの街 郊外
夜を徹して飛び続けるグリさん。
伝説にうたわれるモンスターだけあって、俺が目を覚ます頃には、早くもファーの街が視える距離にまで達していた。
「あれは?」
俺が目指すべきは、街郊外のクランハウス。
だが、遠目に見えるファーの街。
まだ早朝だというのに街を囲む城壁にはかがり火が灯され、周囲を無数の黒い人影が取り囲んでいた。
「……分からない。私が出発する時は、無かった光景」
遠目にも黒い人影がはっきりと見える。
この距離でも見えるということは……すなわちデカイ。
明らかに人ではない巨大な生物。
「あれは……モンスターか?」
「オーガ獣。鬼どもの群れ。醜い、でも手強い連中」
近づくにつれはっきりと見える姿形。
人の4倍はあろうかという巨大な体躯。
オーガ獣の大軍が、ファーの街を取り囲んでいた。
「モンスターの襲撃か? ゴブリン軍団は俺が撃退した。なぜまたオーガ獣の軍団が街に?」
「ゴブリン獣とオーガ獣は仲良し。きっと敵討ちのつもり」
ゴブリン軍団と戦った時、オーガ獣が混じっていたのは、そういう訳か。
仲良しとはいうが、実際の戦闘力はオーガ獣の方がはるかに格上。
ゴブリン軍団は、オーガ軍団のつかい走りのような実態なのだろう。
下働きであるゴブリン軍団が倒されたため、本隊であるオーガ軍団が出張って来た。そんなところか。
それじゃ、クランハウスは?
街の郊外に立つクランハウス。
その役割は、街を襲うモンスターの早期発見。
そして、モンスターを前線で食い止める防波堤。
街にモンスターが押し寄せるということは……まさかすでに?
「大丈夫。オーガ軍団を見て」
街の南北に走る大きな街道。
その南の街道を、大量のオーガ獣が埋め尽くしていた。
「彼らの進撃ルートは南。クランハウスは無事」
クランハウスは街の東に位置している。
東に広がる森から現れるモンスターを防ぐのが俺たちの役割で、南の街道は守備範囲外というわけだ。
なら南北の守りはどうなっているかといえば、商業の要となる重要な街道のため、領主肝いりの精鋭が駐留する詰所が各処に建設。警戒に当たっている。
夜襲にも関わらず迎撃態勢が出来ているのは、その警戒網のおかげだろう。
だが、迎撃するとはいっても平原に位置するファーの街。
交通の便が良いことから商業都市として栄える反面、守るには不向きな立地といえる。
しかも、相手は大柄なオーガ獣。
その膂力を防ぎきれるほど城壁は高いわけでも固いわけでもない。
現に四方八方から押し寄せるオーガ軍団に対して、西門は今にも陥落寸前のように見える。
「衛兵の動きが悪い。混乱」
周囲を取り囲むオーガ軍団だが、戦力の濃いところと薄いところがある。
今、押し寄せるオーガ軍団の最も濃い場所が、街の西門。
ドガーン
豚のように肥え太った体型から、すさまじい膂力で振るわれる棍棒が、街を守る城門を叩き壊していた。
それに対して街の衛兵は、街の南門に集中している。
戦力の配分がマズイ。
確かにオーガ軍団の本陣は南にある。
だが、今、猛攻撃を受けているのは街の西門。
臨機応変。敵の動きにあわせて守備を変更しなければ、突破されるだけだ。
街の防衛を指揮するのは誰だ?
ここで街が落とされたのでは、俺がゴブリン軍団を撃退した意味がなくなるというのに。
ドガガーン!
耐えきれず破壊された西門からオーガ獣が街中へと侵入する。
破壊された門扉から、必死の防戦を続ける衛兵。そして冒険者だが、その数の差は明らかだ。
街中にある領主の館の庭先で、周囲の親衛隊に指示を飛ばす一際豪華な鎧の男が見える。
いた。あの男だ。
今、街で一番力を持つのは、神の御使いとして派遣されている親衛隊長。
俺のスマホを持つ男。
奴が街の守備を指揮しているのか?
今さら敵の狙いが西門にあることに気づいたのか、慌てたように指示を飛ばしていた。
指示に従い、周囲の親衛隊。衛兵が一斉に街の西門へと駆けていく。
更には奴のスマホが光を放ち、地面の魔法陣から巨大なモンスターが姿を見せた。
全身が銀色に輝く巨人。
これが奴の課金モンスター。シルバーゴーレムといったところか?
5メートルはある体躯をドスドス揺らして、シルバーゴーレムもまた西門へと移動していった。
都合、今、館の庭に見えるのは、親衛隊長とわずかな兵のみ。
これは……奪われたスマホを取り返す、またとないチャンスだ。
俺のスマホを持つ親衛隊長。
そのスキルもまた俺が以前に所持していたスキルで構成されている。
つまり、正面から戦うには手強い相手。
だが、今なら。
取り巻きの親衛隊は極わずか。
おまけに課金モンスターは遠く西門へと向かっている。
空からグリさんに乗って急襲すれば、あっさり親衛隊長を討てるだろう。
そう考えれば、オーク軍団の襲撃は千載一遇の好機。
運命がもたらした機会。
だが……
「ぐわー」
「ぎゃー」
「ひいー」
侵入したオーク獣に打ち倒される人々。
親衛隊。そしてシルバーゴーレムが侵入したオーガ獣を食い止めるが、一度決壊した流れを食い止めることはできない。
混乱する街中。
衛兵も、冒険者も、そして街の住民もが武器を取って戦う乱戦である。
今ここでスマホを取り返して、親衛隊長を倒して良いのか?
仮にも防衛の指揮を執る親衛隊長。
指揮系統を失った街は、成すすべなく落ちるだろう。
どうする?
俺は牢を脱した時、誓ったはずだ。
ヒカリちゃんにも、言ったはずだ。
タローシュを倒すと。
何を悩む?
チートに対抗するには、チート。
スマホに対抗するには、スマホを奪還しなければならない。
大事の前の小事。
大事を成すには、些細な犠牲に目をつぶらねばならない。
今の機会を逃せば二度とチャンスは訪れないかもしれないのなら、街が滅んだとしても仕方のないことだ。
「ぎゃー。み、御使い……さま」
門を突破。街中に入り込んだオーガ獣が家屋に突入。
閉じこもる人々を打ち倒していく。
御使い様か。
そもそも俺は勇者でもなければ、御使いでもない。
俺は街の住民でもなければ、この世界の人間でもない。
異世界の人間を守る義務も義理もない。
俺が最も優先するべきは俺自身の事情。それだけだ。
「ひいー。た、たすけて!」
眼下で繰り広げられる虐殺。
目を背けたくなるような光景だが、これは現実ではない。
俺たちプレイヤーは、死ねば地球に戻るという。
それなら異世界での出来事は、全て夢のようなもの。
目が覚めれば夢を忘れるように、地球に戻れば異世界での出来事も忘れている。
夢の中の出来事を、俺が気にする必要は何もない。
「うわーん。お、おかあさん」
例え目の前で逃げ遅れた幼女が襲われそうであっても見捨てる。
……そのはずなんだがな。
俺は背後に座るサマヨちゃんを抱き上げると
「サマヨ・スロー!」
幼女に棍棒を振り上げるオーガ獣目がけて、全力で投げつけた。
ズガーン
オーガの胸に風穴を開け、サマヨちゃんが地上に降り立つ。
大事を成すには、小事を犠牲にするのもやむを得ないという。
だが、それは凡人のやることであって、勇者のやることではない。
「グリさん!」
俺の合図に合わせて急降下するグリさん。
グシャッ
地上で暴れるオーガ獣。
その脳天へグリフォンクローが食い込んだ。
確かに俺は勇者ではない。
だが、俺が失ったのは勇者スキルであって、俺の心は以前と変わらず勇者のまま。
ここで幼女を見捨てるようでは、俺の心まで勇者でなくなってしまう。
「幼女ちゃん。領主の館の方は安全だから早く逃げるんだ」
そして、この異世界が夢の中だというなら。
夢の中くらいは、心だけでも勇者であり続けてみせる。
例え死んだとしても、勇者として死んでみせる。
それが俺のプレイスタイル。
「うおお! ソードスラッシュ!」
解き放つ剣技は、異世界で雑魚モンスターを切り続けて会得したレベル1の技でしかない。
これが俺の限界だというなら、ギリギリまで絞り出して戦うだけだ。
「サマヨちゃんとチェーンさんは、街に入り込んだオーガ獣の相手を頼む」
「了解」
グリさんの背中から降りたチェーンさんは、早くも腰の剣を抜き放っていた。
ザシュザシュ
「オガー!」
瞬く間に迫るオーガ獣の四肢が切断されていた。
「あ、あれは閃光のチェーンじゃねえか!」
「引退したって聞いていたけど、助けに来てくれたのか?」
いつの間にか剣を鞘に納めたチェーンさんが胸を張る。
「ブレイブ・ハーツのチェーン。間違えないで」
「ブレイブ・ハーツだって? 確かリーダーのユウシャは御使いの名を騙る偽物だという話だが……」
そう言って、俺の姿をひそひそ見つめる住人たち。
やはり俺は偽物の御使いとして喧伝されているようだ。
「黙って。今、貴方たちを助けたのが勇者様の意志。分かったら早く逃げて。邪魔」
「あ、ああ。ありがとよ」
周辺のオーガ獣を全てなぎ倒したサマヨちゃん。
更なる悲鳴の上がる場所へと、サマヨちゃんとチェーンさんは駆けだしていた。
住人たちのことは2人に任せて、俺は俺のやるべきことを。
「いくぞ。グリさん。俺たちはオーガ獣の本隊を狙う」
「グルル!」
すでに乱戦と化した街中で、住民を守り切るのは無理である。
街中で出来るのは、少しでも住民の被害を防ぐことだけ。
なら俺は一人でも多くの住民を救うため、この襲撃そのものを終わらせる。
街から離れた南の街道に陣取るオーガ獣の本隊。
そこに居るであろう敵の頭を潰すことが、今俺のやるべき最善だ。
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