死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ

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183話 我慢比べ3

増幅した手足が雨のように降り注ぎ自分の身へと襲いかかって来る。思いのほか一発一発が先程よりもパワーアップしているように感じられ攻撃の嵐。魔法の継続どころか意識を保ち続ける事も困難になるくらい過剰なダメージで視界がぼやけ始めた時に大河はある光景が浮かんでいた。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 王都・ブライト庭にて

「ファイヤアー ‼」

「うむ。もう両手ででも放出できるようになったな」

「かろうじてですけどね。この状態だと維持するのが大変で手を振り回すのがやっとですし」

 できるよになった事を目の当たりにして満足そうに頷くブライト師匠。神経のほとんどをリーリースフロムに使用しているので残った僅かな力で火を途切れさせないように言葉を溢す。しかし俺の言葉は正確に伝わらなかったのかのような言葉が眼前の巨体から飛び出る。

「とりあえずそこまでできるようになったのならモーマンタイさ。それでは次のステップへ移ろうと思う」

「もうですか?まだ碌に地に足が着いてない、気がしますが。ふぅ、やっぱりまだ会話とか別の事をしながらの並列処理は無理だな。それで今度は何をするんですかね」

 できれば叫ばない系のやつがいいんだけど。魔力云々を感じ取る能力がまだ拙いせいで魔力関連の修行はイマイチ成長率が手応えを感じないのに対して散々発生練習させられたせいで声量アップの方が嫌でも底上げさた実感があるからな。喉が枯れるのを代償に

「ズバリ火力アップだ!現在放出中の火を倍以上に放火できるように特訓する」

「火力アップって単語には惹かれますけど具体的にどう特訓するんですか?」

 これまで只々がむしゃらになんとなくやってきてただけだったからな。流石に次の段階には技術的な何かを…

 漠然とこなし続けてきた非効率なやり方に思うところがあった俺は今度こそもっと合理的な練習方法を望んでいた。けれどそんな俺の期待は次の師匠の言葉でものの見事に砕け散った。

「うむっ!気合いだあああぁぁ!!」

「………はい?今なんて?」

「だから気合いだあああぁぁ!!火の出力を上げるの並行して気合いも同じく数倍以上に高めるのだあああぁぁ!!」

「………」

「おおっ!そうだったそうだった。一つ重要な事を忘れていたぞ」

 そうですよね!?きっと何か大事なコツ的なものが…

「気合いと同じように声量をレベルアップせねばならぬぞぉ!」

「………」

 俺はこの超難解な特訓の答えを自身で導き出せる可能性は無いと早々に悟り、目の前の脳筋と違うであろう人へとパスして回答を待つ。

「あのぉマルグレア先生?実際にはどうするのが正解なんでしょうか?」

「ん?聞こえなかったのかタイガ少年《ボーイ》。ならばもう一度説明しよう。火力アップに重要なのは気合いと…」

 違う!貴方には聞いていない!そう飛び出そうになる台詞をぐっと飲み込みながら黙って待った。しかし待ち人から出たのは意外な言葉だった。

「いいんじゃないか、ブライトの言う通りにすれば」

 そのセリフに俺は口を開けたままの間抜けな状態になった。だって流石にこの返しがくるとは思っていなかったからだ。そしてそれは周囲もどうようだったようで俺らのやり取りを見守っていた二人も怪しむような視線を送っていた。

「流石にアレはないわよね」

「ああ、俺でも同情するわ。丸投げというか思考放棄してなきゃならないだろあんな言…おごぉぉぉ!!」

 まるで「お前は?」とでも言いたげな目がこちらを捉えた。一瞬に地面に埋められた二人を目の当たりにした直後では嫌でも緊張が走りごくりと息を呑みながら震えそうになるのを抑えながら言葉を絞り出した。

「お二人のような言い方をするつもりはありませんが意味的には同意見です。内容が大雑把過ぎるというか、師匠の言われたままだと漠然とし過ぎてて。もう少し具体的な指示を…」

「そういうものはない。ブライトも言った通り気合い、ただそれだけだ」

 なんだろう。最初は流されていたし、あれこれ言っても理解できないものだろうから頭でっかちになるよりもとにかく経験積ませる為にあえて何も言わないのだろうと勝手に解釈してたんだけど…魔法使いというか魔法の訓練ってもっとこう魔法書読んだり、杖を振って呪文唱えたりとか。まあ後者はスキル的にできないから仕方ないとしても魔法って知恵の部分ていうかもっと理知的に育むものだと思ってたけど

 やってるいる事は戦士職系と遜色ないような中身の無い脳筋方法というか、もっと他に効率の良いやり方とか無いの?絶対あるよね、間違いなく!?少なくとも気合いやら根性論やら以外の方法が。

 これまでの訓練の疲労もあり態度から不満がアリアリと見えていた。そんな彼の心情を見抜いたマルグレアは語り掛けてきた。

「いいかタイガ、今のお前はあれこれ考えずとりあえず今だけ頑張れ。先とか効率とか考えずに今だけ、な。あれみたいに」

 マルグレアまともだと思われる先生が未だに何かを叫んでいる脳筋師匠を先導者として示すが正直その足跡を辿る気になれない。けれど先生の感じからしてきっと何かあるのだろうと心の中の葛藤を吐き捨ててとりあえずまねれる範囲で近づこうと誓った。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 師匠らと離れてリボーンこっちへと越してきて、初っ端から畳みかけるように面倒事が発生したせいでちゃんとした練習する時間など確保できなかったがそれでも僅かな時間ながらも細々と継続してきた。そしてその上で今まさに窮地の最中にいる状態で俺の胸に残るものが一つあった。

「わけわかんねぇええぇぇんんだよおおぉぉ!!」

 そう、純粋に怒りである。練習の継続による成長はきっとあると思うのだがそれが実感として感じ取れるレベルにまでは昇華されていない。取り組み始めた日数と練習量を考慮した場合むしろ彼の成長は早い部類ではあったし本来であればそれに焦りや憤りを感じる事はなかった。

 けれど投げやりとしか思えないような練習内容を言われた通り最中は何も考えることなく取り組み続けてきた。思うところは吐いて捨てるほどあったのだがそれでもきっと何か意味があるのだろうと葛藤を胸の内にしまいこんで歩き続けた。きっと今の自分は何らかの分岐点に立っており下手に指示をするよりも頭を空っぽにしたほうがきっと成功率が高くなるのだろうなどといった現実逃避にも似た考え方をしていたが、考案された練習の中身がスカスカであったことを考えれば仕方ないと言えるであろう。

 何はともあれ彼はとりあえず信じてやってきた。きっと何か気づくもの得るものがあると信じて。しかし残酷なことに何もなかったのだ。まるで悟りを開いたお坊さんのように何の写真も入れないようにしながらただひたすら練習に取り組んだのだがその結果自分にとって納得できるような成果が何一つ現れなかった事実が彼を蝕んだ。

 これだけであったのならまだ耐えられたのだが、冒険者となるためこの町に訪れて早々に出くわしてきた悲運の数々。イレギュラーに次ぐイレギュラー。彼にとっては思い出すだけで頭を抱えそうになるほどの過去ではあるのだが同時にそれは試練として成長できる機会が多かったとも言えるのである。

 つまり短いながらも実践と言う最高の修行場を多く経験した彼にとってそろそろ1つの正解にぐらいたどり着いてもいい頃だとヤキモキしながら過ごしていたのが彼の最近の内情だった。

 そんなところにまたしても望んでいない強敵に見舞われてしまう。そしてこの劣勢の最中でもん言われた通り気合を入れに入れ無駄に声を大きく張り上げて訪れるかもわからない進化に望みをかけていた。けれど残念なことに巧妙の光は差し込みそうにない。その現実によりある種の限界を迎えた。

「フアアァイイィッヤアアアァァァァ!!」

 彼は叫んだ、腹のそこから。それに乗じて幸か不幸か発せられる熱量も上昇し放出さる火も一回り大きくなった。けれど悲しいことにそれをもたらしたきっかけ、叫び声に込められていた魂は勝利への執念などと言うかっこいいものではなくん彼が家にため込むことができなくなった怒りを筆頭とした負の感情だった。

 な~にが気合いだ!気合いだけでパワーアップできたら世の中の冒険者全員苦労しないんたよぉ!!

 膨れ上がっていく怒りが熱量となりさらに威力を底上げしていく。奇しくも怒りを原動力としてしまっている今の方がこれまでのそれよりも集中と彼自身の能力を引き出す発奮材料として最適なものとなってしまっていた。

 雨あられのような攻撃の連弾によって一時は鎮火までしそうだったものが火力の上昇とともに一気に再び敵の全身へと燃え広がった。先ほど以上に身を焦がす熱量に苦しみながらも攻撃を再開する。

 確かに火は厄介だがそれも攻撃を当たれば途切れる。手数で勝るモンスター側にとっては攻撃を途切れさせるなければ勝てる相手である、筈だった。しかしここにきて状況が変わってしまった。攻撃が直撃しても力の放出が継続し続けるようになってしまったのだ。また一瞬途切れることがあったとしてもすぐにまた発火される。何故なら…

「ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!」

 大河がずっと発火と再点火を繰り返し続けていたからだった。しかも繰り返されることにさらに威力が上がっていくのだからたまったものではない。なんとか辞めさせようと必死に攻撃を続けるがとどまるところを知らないと言わんばかりにどんどん加速していった。

「ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!ファイヤァ!!」

 全身を燃焼させ続けられた事でとうとう攻撃の手が止まりそこからは一方的に燃え尽くされるまで悲鳴をあげることしかできなかった。けれど大河の方もまさに無我夢中だったため敵を倒すことができたと認識できたのは両手に抱えていた敵の触手が燃カスとなってその重みが消え去った時だった。

「か、勝った…のか?」

 もはや半分意識が飛んでいた中での事だったので実感のないままで少々不安が残ると中での勝利となった。そう、勝利にはなった。けれど畳み掛けるように災いは早くも再び彼の前に現れた。

 泥沼の中心部から先程倒したばかりのモンスターと全く同じ見た目の敵が泥水を周囲に撒き散らしながら出現してしまった。

「ここにきておかわりとか、冗談だろ?」

 大河にはもう何も残されていなかった。力も魔力も、先の戦いで活路を見出した怒りさえも枯渇した枯井戸のごとくすっからかんになってしまっていた。そう、もう彼には戦うべきが何一つ残されていなかった。立っていることさえ奇跡に近い状態であったのだ。

 そんな状態もあり抵抗運動といった思考すらも浮かぶ事はなくただただ諦めていた。迫り来る運命を受け入れていた大河。けれど彼に振り払われた触手は突如として現れた魔法障壁によって弾かれたのだった。
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