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第5話 凄い?コントロール(後編) 

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「さあ、次行きましょう!」

「はあぁ~、じゃあノーアウト一・二塁から、プレイ!」

 ”ガシャーン!” ”パァーン!”

 一球目がまたしても大きく外れた直後、二球目で待ちに待った快音と言っていい捕球音がミットから響いた。

「ほぉーら!ストライク入ったじゃないですか」

「…ああ、そうだな。

「初球であれだけ自然に大暴投してるのに何でその次にボールがストライクゾーンを捉えるのかがわからない」

「それにまだ10球中1球しかストライク入ってないのに全く崩れる気配を見せない明るさ&ふてぶてしさもな」

「何処から湧いてくるのかね?あの根拠のない自信は」

「そらっ!」

 ”ドォォーーン!!”

「イギャアァーー!!」

「あっ」

「デットボール」

「す、すまん」

「お前後で覚えてろよ!!」

「調子に乗るとすぐこれだな、あいつ」

「次のバッター」

「お前だろう?早くイケよ」

「………」

 次打者の先輩は呼ばれてしまったという感じでトボトボとバッターボックスへ向かう足取りは重そうに見えた。

「ふう、ノーアウト満塁か。なんだか逆に燃えますね」

「やる気出すのはいいけどもっと力抜け」

「いいえ、今は大量失点のピンチの場面。寧ろ渾身ボールで討ち取ってみせますよ」

(このピンチを三人で凌いで挽回してみせる!)

(((このままだと果てしなくまずい気がする)))

「………バックには俺らがいるからもっと楽に投げろ」

「そうだぞ~、棒球でもいいから入れてけ入れてけ」

「ちゃんと止めてやるから力抜け」

「いっそのことスローボールでもいいぞ」

 今までチームはちゃんと見てなかったけどここまで覇気のない声掛けするチーム初めてだと思う。こっちだとこれが普通…なのかな?

「皆…おお!俄然やる気でてきたぁー!」

(((やべ、失敗だったか!?)))

「いきますよ、覚悟してください先輩!」

(この打席、バッティング技術や気合とは別の類のモノが求められてる気がするのは気のせいか!?)

「あ~、ノーアウト満塁からプレイ!」

「はぁっ!」

 ”キーン”

「えっと…ファール?」

「ど、どこ投げてんだアホー!どういう投げ方したらバッターの構えてるバットにボールを当てられるんだよ!?しかも今当たったのグリップ部分とかじゃなく真芯だぞ!ま・し・ん!コントロール乱れたって普通当たる箇所じゃねーよ!」

「す、すいません!くっ、やはりまだ気合が足りないというのか」

「足りてないのは脱力とか落ち着きと基本的なコントロール投球技術だアホ!」

(ヤバイ!このままだと俺もぶつけられる予感しかしない。どうすれば?どうすれば?どうすれば?)

 頭の中で何度もぐるぐる悩み続けるものの答えは出ず、バッターは恐怖心から反射的に構えた状態から横っ飛びする形で後ろに引いた。その直後、由自から放たれたボールはバッターボックスをを通過しようとしてバットにボールが当たり、その衝撃で打者は尻もちををついた。

(あ、危ねぇー!咄嗟に打席から退いてなかったら間違いなくぶつけられてた!ただの練習の筈なのに何でこんな思いしなきゃいけねーんだよ!?怖ーよ!もう打席立ちたくな…)

「よっしゃぁー!打ち取った!」

「「「はぁ?」」」

「今ボールが当たる前何故か先輩がバッターから完全に足をはみ出してたでしょう?その場合だとアウトになっちゃうんですよ」

「そうなのか?…ああ、そうだな!そうだな!いや~足元狂っちまってな。悪い悪い、今度から気を付けるわ」

「あいつ、もうこれ以上バッターボックス立ってんのが嫌で逃げやがったな」

「恐怖心が働かなかったらボールの軌道的にぶつけられてただろうからな。逃げ出したくなるわそりゃ」

「というかあれ本当にアウトなのか?」

「まあ、打者の足がバッターボックス線すら踏んでおらず完全にボックス外に足を置いていてボールをバットに当ててるからルール的にアウトと言えばアウト、なんだろうけど…」

「今のは稀にすら無いような超特殊ケースだろうからな。バッターが完全な死球を避けようとしたらバットが当たってしまい、前沢の言ってるケースに当てはまってしまって主審がアウトを宣告とかいう状況になったら…」

「荒れるだろうな、相手チームが間違いなく。相手が危険球投げたくせにルールなのでアウトですとか納得しないだろうし抗議モノだろうな」

「というかまさかこんな投球が続くわけじゃないよね?」

「予にも恐ろしいこと言うの止めろ。考えないようにしてんだからよ」

「よかったな、その答えはすぐに解るみたいだぞ」

「えっ、わかんの!?どっち?どっち!?」

「バッターボックスですぐに回答が飛んで来るぞ。次のバッターはお前だから捕手《森村》がさっきから呼んでるぞ?」

「えっ?………嫌だぁーー!!」

「駄々こねてないで答え合わせしてもらってこい。早ければさっきみたいなので一球で済むんだから」

「一球で済まなかったらどうすんだよ!?」

「それは…なあ?」

「次の犠牲者はお前というだけだ。波阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、波阿弥陀仏《なむあみだぶつ》」

「まだ生きてんのに勝手にお経唱えないでよ!」

 懸命に抵抗するも虚しく、小里は文句を言いながら両部員に打席へと引きずられて行った。
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