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第65話 頭は物理的に冷やしましょう
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(くそっ、完全に裏をかかれた)
「俺との実力が…なんだったっけ?」
三振して悔しさを浮かばせる龍介に打席に向かう涼夏が挑発交じりに話しかける。
「うるせぇ!そういう台詞はてめえが打った後で言いやがれ。ヒット止まりが」
こ、こいつ三振した直後のくせに…!
「そうね。けど、返ってきた時には台詞と一緒にハンカチも貸してあげる」
「ハンカチ?んなもんいらねーよ。試合中になんか使わねえーだろうが」
「必要だと思うわよ。私に負けてしまって悔し涙を流すあんたの涙を拭き取るために」
「それじゃあ二枚は必要なんじゃねーか?試合が終わった時に負けるのがお前だと悔し涙を拭うのに一枚じゃ足りないだろうからな」
「はいはい、言い争いしてないで龍介はさっさとベンチ戻ってこい。そして涼夏はすぐに打席に行け」
「は~い」
さて、あいつの打席でのあの驚きよう。きっとストレートがこないと確信してたってとこよね。アウトコースばっか振ってたこと考えても外にスライダー投げてくるとか読んでたんでしょうね。そこに連続のストレート。けど読みを外されたとはいえスライダー待ちの基準でストレートを二球連続かすることができなかった。てことは多分…
涼夏に放たれた第一球。涼夏も振りに行ったが空振りとなった。
「ストライーク!」
やっぱり、前半よりもボールが手元で伸びてきてる。しかもインコース…そうこないと面白くない!今度は少し振り始めを早めて…
涼夏は振り遅れているストレートに合わせに行こうとした。二球目も同じくストレート。今度はバットに当ててファールとなった。
またインコース。それもさっきより内よりのインハンイ。ふふふ、燃えて来た!今度は必ずライト方向にきっちりはじき返す!
最初の打席のような女子だからといった遠慮が感じ取られるようなボールとは真逆の配球に涼夏はテンションが上がっていた。しかも前半よりノビてくる球である事がボールの球筋以上にバットに伝わる衝撃が雄弁に語りかけており、嬉しさから自然と頬が緩んだ。自分の懐にグイグイ投げ込んで来るストレートを次こそ打ち返さんとバットを握る手にさらに熱がこもる。
さっきよりも少しステップを速めに…
しかし真っ向からストレート勝負を望んでいた彼女の期待を裏切るボールが第三球目に投じられた。
なっ!チェンジ…
速球《ストレート》しか頭になかった涼夏に投じられた緩い変化球。完全にタイミングを外されて空振りになりそうなところを踏ん張ってなんとかバットには当てるも当てただけのボテボテゴロ。しかし打球が勢いがしんでいたのと一塁側へと打球が飛んだことで三塁ランナーはホームを踏み、バッターの涼夏はアウトとなった。
「おいおい、どうしたよ涼夏さんよ?」
「…うるさい」
「あれあれ、もしかして落ちてらっしゃる?そりゃそうですよね。俺に偉そうに言っといて俺の打席にの後だったのに俺と同じ形でやられてんだからだっせ~よな~」
「うっさい!!」
「!」
「ああー!もう!何であそこでタイミング外してくんのよ!あそこはストレート真っ向勝負でしょう!?それを…痛っ!」
顔を上げると後ろのベンチに座っていた由自が若干呆れ気味に見つめていた。
「何すんのよ兄貴!」
「頭冷やせ涼夏」
「何でよ!私裏切られたのよ!?」
「裏切られたって…」
「卑怯でしょうあそこで逃げを選択するとか。男ならあそこはストレート選択すべきでしょう!?」
「無茶苦茶言ってる」
「まるで昔の熱血野球漫画の台詞みたいな事いいだしたなこの愚妹」
「ストレート2つで誘っておいて変化球でかわそうとするなんて最て…ひぃ!冷たっ!冷たいってば!」
クーラーボックスの飲み物でなく保冷剤を直に頭に押し付けていた。
「どんだけ頭に血が上ってんの?今日は熱くなり過ぎでしょう?ほらほらリラックス、リラックス」
「これリラックスとは違っ…分かった!分かったから!物理的に頭冷やしてこうようとするのやめて!」
ようやく頭から保冷剤を離し、直後の涼夏は夏にかき氷を食べ過ぎてしまって頭がやられた小学生の様に冷やされまくった頭部を抱えてうずくまっていた。
「落ち着いた?」
「…ええ、お陰様でね!」
「にしても酷い言いようだったなお前。『変化球でかわすなんて最低』だとかストレートじゃないのが卑怯だとか。頭に血が上っていたとはいえよくそんなセリフ吐けたよな?そもそも自分だって普通に変化球投げて癖に」
「現代野球の根幹を否定するような発言だからねぇ。初めて発見された変化球《カーブ》以前の時代の野球しろよって言ってるも同然だからね。流石に今の時代にそれは厳しいだろう」
「けど、女子相手に真っ向丈夫から逃げるなんてやっぱり卑怯じゃ…ホワッァアアー!!な、何すんの!?」
「涼夏、自分から女扱いするなとか言っときながらその発言はどうなんだ?それにあいつが最後に変化球を選択したのもお前が『全力で勝負して』と言っていたのを伝えた結果だろう?それともお前は手抜きの投球の方が良かったのか?」
「ああ、はいはい分かった。分かりました!私が熱くなりすぎて自分を見失ってました。ごめんなさい!…これでいいでしょう」
頭では理解したけど納得しきれていないといった感じで不満を隠しきれていない様子だったがとりあえず先程よりは冷静さを取り戻したようでチームメイトは安堵した。しかしそんな中でけたたましい一つの悲鳴のようなものがグラウンドに響いた。
「俺との実力が…なんだったっけ?」
三振して悔しさを浮かばせる龍介に打席に向かう涼夏が挑発交じりに話しかける。
「うるせぇ!そういう台詞はてめえが打った後で言いやがれ。ヒット止まりが」
こ、こいつ三振した直後のくせに…!
「そうね。けど、返ってきた時には台詞と一緒にハンカチも貸してあげる」
「ハンカチ?んなもんいらねーよ。試合中になんか使わねえーだろうが」
「必要だと思うわよ。私に負けてしまって悔し涙を流すあんたの涙を拭き取るために」
「それじゃあ二枚は必要なんじゃねーか?試合が終わった時に負けるのがお前だと悔し涙を拭うのに一枚じゃ足りないだろうからな」
「はいはい、言い争いしてないで龍介はさっさとベンチ戻ってこい。そして涼夏はすぐに打席に行け」
「は~い」
さて、あいつの打席でのあの驚きよう。きっとストレートがこないと確信してたってとこよね。アウトコースばっか振ってたこと考えても外にスライダー投げてくるとか読んでたんでしょうね。そこに連続のストレート。けど読みを外されたとはいえスライダー待ちの基準でストレートを二球連続かすることができなかった。てことは多分…
涼夏に放たれた第一球。涼夏も振りに行ったが空振りとなった。
「ストライーク!」
やっぱり、前半よりもボールが手元で伸びてきてる。しかもインコース…そうこないと面白くない!今度は少し振り始めを早めて…
涼夏は振り遅れているストレートに合わせに行こうとした。二球目も同じくストレート。今度はバットに当ててファールとなった。
またインコース。それもさっきより内よりのインハンイ。ふふふ、燃えて来た!今度は必ずライト方向にきっちりはじき返す!
最初の打席のような女子だからといった遠慮が感じ取られるようなボールとは真逆の配球に涼夏はテンションが上がっていた。しかも前半よりノビてくる球である事がボールの球筋以上にバットに伝わる衝撃が雄弁に語りかけており、嬉しさから自然と頬が緩んだ。自分の懐にグイグイ投げ込んで来るストレートを次こそ打ち返さんとバットを握る手にさらに熱がこもる。
さっきよりも少しステップを速めに…
しかし真っ向からストレート勝負を望んでいた彼女の期待を裏切るボールが第三球目に投じられた。
なっ!チェンジ…
速球《ストレート》しか頭になかった涼夏に投じられた緩い変化球。完全にタイミングを外されて空振りになりそうなところを踏ん張ってなんとかバットには当てるも当てただけのボテボテゴロ。しかし打球が勢いがしんでいたのと一塁側へと打球が飛んだことで三塁ランナーはホームを踏み、バッターの涼夏はアウトとなった。
「おいおい、どうしたよ涼夏さんよ?」
「…うるさい」
「あれあれ、もしかして落ちてらっしゃる?そりゃそうですよね。俺に偉そうに言っといて俺の打席にの後だったのに俺と同じ形でやられてんだからだっせ~よな~」
「うっさい!!」
「!」
「ああー!もう!何であそこでタイミング外してくんのよ!あそこはストレート真っ向勝負でしょう!?それを…痛っ!」
顔を上げると後ろのベンチに座っていた由自が若干呆れ気味に見つめていた。
「何すんのよ兄貴!」
「頭冷やせ涼夏」
「何でよ!私裏切られたのよ!?」
「裏切られたって…」
「卑怯でしょうあそこで逃げを選択するとか。男ならあそこはストレート選択すべきでしょう!?」
「無茶苦茶言ってる」
「まるで昔の熱血野球漫画の台詞みたいな事いいだしたなこの愚妹」
「ストレート2つで誘っておいて変化球でかわそうとするなんて最て…ひぃ!冷たっ!冷たいってば!」
クーラーボックスの飲み物でなく保冷剤を直に頭に押し付けていた。
「どんだけ頭に血が上ってんの?今日は熱くなり過ぎでしょう?ほらほらリラックス、リラックス」
「これリラックスとは違っ…分かった!分かったから!物理的に頭冷やしてこうようとするのやめて!」
ようやく頭から保冷剤を離し、直後の涼夏は夏にかき氷を食べ過ぎてしまって頭がやられた小学生の様に冷やされまくった頭部を抱えてうずくまっていた。
「落ち着いた?」
「…ええ、お陰様でね!」
「にしても酷い言いようだったなお前。『変化球でかわすなんて最低』だとかストレートじゃないのが卑怯だとか。頭に血が上っていたとはいえよくそんなセリフ吐けたよな?そもそも自分だって普通に変化球投げて癖に」
「現代野球の根幹を否定するような発言だからねぇ。初めて発見された変化球《カーブ》以前の時代の野球しろよって言ってるも同然だからね。流石に今の時代にそれは厳しいだろう」
「けど、女子相手に真っ向丈夫から逃げるなんてやっぱり卑怯じゃ…ホワッァアアー!!な、何すんの!?」
「涼夏、自分から女扱いするなとか言っときながらその発言はどうなんだ?それにあいつが最後に変化球を選択したのもお前が『全力で勝負して』と言っていたのを伝えた結果だろう?それともお前は手抜きの投球の方が良かったのか?」
「ああ、はいはい分かった。分かりました!私が熱くなりすぎて自分を見失ってました。ごめんなさい!…これでいいでしょう」
頭では理解したけど納得しきれていないといった感じで不満を隠しきれていない様子だったがとりあえず先程よりは冷静さを取り戻したようでチームメイトは安堵した。しかしそんな中でけたたましい一つの悲鳴のようなものがグラウンドに響いた。
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