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幼少期編
アルファの発現
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幼年学校での日々は、全寮制であること以外は前世の小学校とあまり変わらない。
授業内容は簡単で、コマ数も多くないし、授業時間も長くない。
このあたりは、我儘が多い貴族子女のために調整されているらしかった。
俺たちが入学して一年経つと、一つ下の王子殿下が入学してきた。入学してすぐに挨拶に伺って以降交流はないが、彼の学友に選ばれたヴァレスタイン伯爵子息とアシュフォード子爵子息はあちらの方からわざわざ挨拶にきてくれた。
どうやら、二人は王子殿下とうまくやっているようだ。
「ディラン先輩、セルジュ先輩。レオンを見かけませんでした?」
そんな俺たちももう三年目だ。来年には俺とレオンのペアだったディラン先輩もセルジュ先輩も卒業してしまう。
そして、新四年生になった俺たちは今度は先輩としてペアの一年生を世話する番だ。
……子供の世話か。いい子だといいんだけどなぁ。
「いや、見ていない!どうかしたのか?」
「最近、レオンが体調崩しがちなんで気にして見るようにしてるんです」
「そうなんだ。私もディランも今日はまだ見ていないな。クラスには?」
「朝は見かけたんですけど、気づいたらいなくなっていて。……また俺の部屋かな」
最近、レオンは気づいたら俺の寮部屋で休んでいることが多い。
どうにも背中がぞわぞわして落ち着かないらしい。
レオンは早熟だから、もしかしたら少し早いがバース性が発現しそうなのかもしれない。
ディラン先輩とセルジュ先輩に礼を述べてから、寮の部屋へと踵を返した。
できるだけ静かにすることを心掛けて寮の自室に入る。
奥の寝室に向かうと、やはりベッドがこんもりと膨らんでいる。
ベッドの縁に腰掛けると、ギシリとスプリングが鳴いた。
「レオン?体調どう?」
「ん……、ぞわぞわする。なんか、全部の気配が気持ち悪い……」
「ンー、やっぱアルファバースの発現かな?縄張り意識が強くなるんだっけ?」
「たぶんね……」
バース発現に伴う発熱のせいで体温が上がっているのだろう。
シーツから顔だけを出したレオンの前髪は汗でペトリと張り付いている。
指で髪を払ってから後ろへとなでつけると、俺の手が冷たくて気持ちよかったのかすり寄ってきた。
うーん、耽美。レオンが早々に俺の部屋に引っ込んだのは正解だったかもしれないな。
こんなん見たら性癖歪むやつが出てくるぞ。
それにしても、バース性が発現する時、ベータは問題ないがオメガとアルファはやっぱり大変そうだな。
オメガは発現イコール初のヒートだ。
幸い、数時間から長くとも一日程度で収まる軽いものだが、発現一週間から二週間前から体温の上昇やフェロモンの分泌が始まる。
そして、オメガ以外の気配を恐ろしく感じるのだ。本能的に、オメガとして未熟な自分を組み敷ける相手を避けるらしい。
ただ、二度目のヒートからは、だいたいひと月からひと月半ほどの周期で、三日から七日のヒートがくるようになる。
一方アルファは発現数週間前から自分以外の気配にいら立ちや警戒心を覚える様だ。
これは、アルファとしては未熟な状態、つまり不完全な状態を隠そうとする本能と、縄張り意識の芽生えらしい。
この状態は、性機能の成熟。つまり、精通と共に落ち着くらしい。
レオンはまさにその状態だ。
「俺の気配はいいの?」
「なんで僕がお前の気配を警戒すると思ってるんだ。カイルは僕に何かあったら守ってくれるだろ。むしろいてもらわなきゃ困る」
「ああ、そう。俺ってば用心棒扱いなのね」
寮での三年間の共同生活を経て、遠慮がなくなったレオン。
今までもそうだったけど、かなり俺に甘えてない?いや、いいんだけどね。
「……完全に覚醒するまでもう少しかかりそう?」
「ん……、ぞわぞわ感が強くなってきたからそろそろだと思うけど……。やっぱり、帰った方がいい?」
「なんで?レオンがここのほうが安心するならいればいいよ」
周囲を警戒するのはアルファ発現の性だ。ずっと警戒してばかりだと疲れる。
俺の部屋にいるだけでそれがマシになるんなら、いくらでも部屋くらい提供する。
それなのに、レオンはじとりとした目で俺のことを睨んできた。
「ハァ……。わかってる?発現するって、つまり、精通するんだぞ。友達のそういうの、気にしないのか?」
あぁ、なるほど。確かに。
普通はそういうのって気にするもんか。
でもなぁ、レオン相手だしなぁ。
じっくり考えてから、やはり首を横に振った。
「いや、まったく。他の奴ならともかく、レオンなら別に気にならないかな」
「ハ…………、はぁ……。カイルって、そういうところあるよね」
呆れたように、しょうがないなぁとでも言わんばかりの表情でそう言うが、その顔には喜びの色も滲んでいる。
「言っておくけど、お前も大概だからな?」
昔から人の体がぶがぶ噛みやがって。噛み癖のひどいワンちゃんか。
コラ。首をかしげるんじゃない。
そんな会話をした数日後、レオンは正真正銘アルファとなった。
授業内容は簡単で、コマ数も多くないし、授業時間も長くない。
このあたりは、我儘が多い貴族子女のために調整されているらしかった。
俺たちが入学して一年経つと、一つ下の王子殿下が入学してきた。入学してすぐに挨拶に伺って以降交流はないが、彼の学友に選ばれたヴァレスタイン伯爵子息とアシュフォード子爵子息はあちらの方からわざわざ挨拶にきてくれた。
どうやら、二人は王子殿下とうまくやっているようだ。
「ディラン先輩、セルジュ先輩。レオンを見かけませんでした?」
そんな俺たちももう三年目だ。来年には俺とレオンのペアだったディラン先輩もセルジュ先輩も卒業してしまう。
そして、新四年生になった俺たちは今度は先輩としてペアの一年生を世話する番だ。
……子供の世話か。いい子だといいんだけどなぁ。
「いや、見ていない!どうかしたのか?」
「最近、レオンが体調崩しがちなんで気にして見るようにしてるんです」
「そうなんだ。私もディランも今日はまだ見ていないな。クラスには?」
「朝は見かけたんですけど、気づいたらいなくなっていて。……また俺の部屋かな」
最近、レオンは気づいたら俺の寮部屋で休んでいることが多い。
どうにも背中がぞわぞわして落ち着かないらしい。
レオンは早熟だから、もしかしたら少し早いがバース性が発現しそうなのかもしれない。
ディラン先輩とセルジュ先輩に礼を述べてから、寮の部屋へと踵を返した。
できるだけ静かにすることを心掛けて寮の自室に入る。
奥の寝室に向かうと、やはりベッドがこんもりと膨らんでいる。
ベッドの縁に腰掛けると、ギシリとスプリングが鳴いた。
「レオン?体調どう?」
「ん……、ぞわぞわする。なんか、全部の気配が気持ち悪い……」
「ンー、やっぱアルファバースの発現かな?縄張り意識が強くなるんだっけ?」
「たぶんね……」
バース発現に伴う発熱のせいで体温が上がっているのだろう。
シーツから顔だけを出したレオンの前髪は汗でペトリと張り付いている。
指で髪を払ってから後ろへとなでつけると、俺の手が冷たくて気持ちよかったのかすり寄ってきた。
うーん、耽美。レオンが早々に俺の部屋に引っ込んだのは正解だったかもしれないな。
こんなん見たら性癖歪むやつが出てくるぞ。
それにしても、バース性が発現する時、ベータは問題ないがオメガとアルファはやっぱり大変そうだな。
オメガは発現イコール初のヒートだ。
幸い、数時間から長くとも一日程度で収まる軽いものだが、発現一週間から二週間前から体温の上昇やフェロモンの分泌が始まる。
そして、オメガ以外の気配を恐ろしく感じるのだ。本能的に、オメガとして未熟な自分を組み敷ける相手を避けるらしい。
ただ、二度目のヒートからは、だいたいひと月からひと月半ほどの周期で、三日から七日のヒートがくるようになる。
一方アルファは発現数週間前から自分以外の気配にいら立ちや警戒心を覚える様だ。
これは、アルファとしては未熟な状態、つまり不完全な状態を隠そうとする本能と、縄張り意識の芽生えらしい。
この状態は、性機能の成熟。つまり、精通と共に落ち着くらしい。
レオンはまさにその状態だ。
「俺の気配はいいの?」
「なんで僕がお前の気配を警戒すると思ってるんだ。カイルは僕に何かあったら守ってくれるだろ。むしろいてもらわなきゃ困る」
「ああ、そう。俺ってば用心棒扱いなのね」
寮での三年間の共同生活を経て、遠慮がなくなったレオン。
今までもそうだったけど、かなり俺に甘えてない?いや、いいんだけどね。
「……完全に覚醒するまでもう少しかかりそう?」
「ん……、ぞわぞわ感が強くなってきたからそろそろだと思うけど……。やっぱり、帰った方がいい?」
「なんで?レオンがここのほうが安心するならいればいいよ」
周囲を警戒するのはアルファ発現の性だ。ずっと警戒してばかりだと疲れる。
俺の部屋にいるだけでそれがマシになるんなら、いくらでも部屋くらい提供する。
それなのに、レオンはじとりとした目で俺のことを睨んできた。
「ハァ……。わかってる?発現するって、つまり、精通するんだぞ。友達のそういうの、気にしないのか?」
あぁ、なるほど。確かに。
普通はそういうのって気にするもんか。
でもなぁ、レオン相手だしなぁ。
じっくり考えてから、やはり首を横に振った。
「いや、まったく。他の奴ならともかく、レオンなら別に気にならないかな」
「ハ…………、はぁ……。カイルって、そういうところあるよね」
呆れたように、しょうがないなぁとでも言わんばかりの表情でそう言うが、その顔には喜びの色も滲んでいる。
「言っておくけど、お前も大概だからな?」
昔から人の体がぶがぶ噛みやがって。噛み癖のひどいワンちゃんか。
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