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幼少期編
幼年学校最終学年
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レオンを狙ったオメガによってひき起こされたヒートアタックテロから三年。
あの日、急性ラット発作に陥っている間のことはあまりよく覚えていない。
丸一日、萎えることなく沸き上がる肉欲。
全身の神経がむき出しになったように、シーツに擦れるだけで息を詰まらせたくなるような過敏さが走った。いつまでも熱がくすぶり続けて収まらない。
頭も、まるで熱した棒で中をぐちゃぐちゃにかき回されたように、思考が融けていた気がする。
そこに理性の色はなく、ただただ本能だけが荒々しく吹き荒れていた。
オーバーヒートした脳が作り出した幻影に縋りつき、体力が果てるまでその欲望に突き動かされていた。
それらすべての衝動が過ぎ去った後、あまりの疲労からもう一日寝込んでしまった。
そして、次に目を覚ました時には、一人では耐え難い責め苦のようなその感覚だけしか覚えていなかった。
幼年学校もついに最終学年になり、十二歳にもなるとほとんどの学生がバース性を発現し終えていた。
まだの子も多少はいるが、その人たちも遅くとも、原作BL漫画の舞台となる聖ミレニア学園入学までに設けられる二年の訓練期の間にみな覚醒を済ませることになるだろう。
卒業を一年後に控えたこの時期。今までは寮はもちろん授業でさえ男女で明確に分けられていたものが緩和される。
アルファとオメガの発現により、その区分が意味をなさなくなるからだ。
男女共通の授業が増え、幼年学校卒業後に自分がお世話になる見習い先との面談が行われる。
その過程で、男女問わず同じ進路の同級生と顔を合わせる機会が増えるのだ。
「お、あの子可愛い」
真っ黒のふわふわの髪の毛を上手に結い上げている女生徒。おっとりとしていそうなたれ目が印象的だ。
卒業後に女官職を目指すのか、王宮女官の制服を着た大人の女性と歩いていた。
俺のそんなつぶやきを拾い、今日も今日とて隣にいたレオンが彼女を見て、それからむっと顔をしかめた。
「僕の方が可愛いだろ」
「それはそう」
そんな頓珍漢な言葉に頷く俺も俺だけど。自己肯定感すごいな。
「でも、レオンはどっちかって言うと綺麗系だろ?で、あの子は可愛い系。いいよなぁ。ほら、俺の場合騎士志望だから周りに男多いじゃん?ふわふわの女の子に癒されたい……」
「……そんなにいいものか?」
「抱きしめるなら柔らかい方がいい。胸も尻もでかいほうがいい」
「…………僕には理解できないけど」
どこかうんざりした様子でそう言うと、レオンはそれきり顔をしかめて黙ってしまった。
白銀の髪を無造作にかき上げる仕草には、苛立ちが滲んでいる。
ま、考えればそうか。あの日、レオンにヒートアタックを行った生徒は女生徒だったのだ。
エルヴェール公爵は、あの後すぐにレオンにオメガのつがい候補を見つけようとしたらしいが、レオンがそれに強い嫌悪感を示したためにうまくいっていないらしい。
女も同じ理由で嫌っているのかもしれない。もう少し、こういう話題は抑えたほうがいいのだろうか。
しかし、俺も男でアルファだからな。もちろんそういう欲は溜まる。
可愛い女の子に惹かれるのは男の性だよなぁ。
とはいえ、レオンに嫌な気持ちを抱かせてまでする話でもないか。
黒い髪をふわふわとなびかせている女生徒から視線をそらせた。
「……カイルは、婚約者の話は出ていないのか?」
何か言いたげな表情でそう聞いてくるレオン。多分本題はそこじゃないんだろうけど、さすがに何を考えているのかすべて察することはできないしなぁ。
ヒートアタックの件以降、こうやって何かを隠す様子が増えてきた。
一言も相談がないことは寂しいけれど。まぁ、年頃だしな。
ひとまず、レオンの質問に答えよう、と少し言葉を探してから口を開く。
「まぁ、オメガとのお見合いはやるけど。どうにもしっくりこないんだよなぁ」
俺の場合は、レオンのようなヒートアタックの標的になったわけではなかったが、同じ早期発現者。同様のことが起こらない保証もなかった。
だから、父と母に好みを聞かれて何度かお見合いしたんだけ、ど。
暗めの色で、綿毛みたいにふわふわした髪。一緒にいて落ち着けるようなおっとりとした子。声が小鳥のようにかわゆいとなお良しって感じだな。
両親が条件にぴったりくる貴族令嬢を探してきてはお見合いをするのだが、今のところ本婚約には進んでいない。
体に振りかけた香水交じりのフェロモンの匂い。俺の会話を詰まらないと感じつつもそれを隠して貼りつけた笑み。急に距離をつめてきてしなだれかかるような行動。
まぁ、とにかくいろいろあるけど、誰も彼も婚約するには許容できないところが目立つのだ。
正直、最近はお見合い自体が億劫だ。
「はぁ……。どっかに俺好みの可愛い女の子いないかなぁ。別に高望みしてるわけじゃないんだけど……。俺と楽しく会話ができて、距離感はかるのがうまい子ってこんなにいないもん?」
「お、とこは……、考えていないのか」
自分の手元に視線を落としてそう聞いてきたレオン。珍しい質問内容に、彼の顔を窺うが、重力で垂れた髪に隠されてよく見えない。
男……。男ねぇ。
「んー、別に悪いわけじゃないけど、女と男なら女の子の方が好きかなぁ」
「…………そう、か」
いったいなんのための質問だったのだろう。
レオンはそれきり黙り込んでしまった。
あの日、急性ラット発作に陥っている間のことはあまりよく覚えていない。
丸一日、萎えることなく沸き上がる肉欲。
全身の神経がむき出しになったように、シーツに擦れるだけで息を詰まらせたくなるような過敏さが走った。いつまでも熱がくすぶり続けて収まらない。
頭も、まるで熱した棒で中をぐちゃぐちゃにかき回されたように、思考が融けていた気がする。
そこに理性の色はなく、ただただ本能だけが荒々しく吹き荒れていた。
オーバーヒートした脳が作り出した幻影に縋りつき、体力が果てるまでその欲望に突き動かされていた。
それらすべての衝動が過ぎ去った後、あまりの疲労からもう一日寝込んでしまった。
そして、次に目を覚ました時には、一人では耐え難い責め苦のようなその感覚だけしか覚えていなかった。
幼年学校もついに最終学年になり、十二歳にもなるとほとんどの学生がバース性を発現し終えていた。
まだの子も多少はいるが、その人たちも遅くとも、原作BL漫画の舞台となる聖ミレニア学園入学までに設けられる二年の訓練期の間にみな覚醒を済ませることになるだろう。
卒業を一年後に控えたこの時期。今までは寮はもちろん授業でさえ男女で明確に分けられていたものが緩和される。
アルファとオメガの発現により、その区分が意味をなさなくなるからだ。
男女共通の授業が増え、幼年学校卒業後に自分がお世話になる見習い先との面談が行われる。
その過程で、男女問わず同じ進路の同級生と顔を合わせる機会が増えるのだ。
「お、あの子可愛い」
真っ黒のふわふわの髪の毛を上手に結い上げている女生徒。おっとりとしていそうなたれ目が印象的だ。
卒業後に女官職を目指すのか、王宮女官の制服を着た大人の女性と歩いていた。
俺のそんなつぶやきを拾い、今日も今日とて隣にいたレオンが彼女を見て、それからむっと顔をしかめた。
「僕の方が可愛いだろ」
「それはそう」
そんな頓珍漢な言葉に頷く俺も俺だけど。自己肯定感すごいな。
「でも、レオンはどっちかって言うと綺麗系だろ?で、あの子は可愛い系。いいよなぁ。ほら、俺の場合騎士志望だから周りに男多いじゃん?ふわふわの女の子に癒されたい……」
「……そんなにいいものか?」
「抱きしめるなら柔らかい方がいい。胸も尻もでかいほうがいい」
「…………僕には理解できないけど」
どこかうんざりした様子でそう言うと、レオンはそれきり顔をしかめて黙ってしまった。
白銀の髪を無造作にかき上げる仕草には、苛立ちが滲んでいる。
ま、考えればそうか。あの日、レオンにヒートアタックを行った生徒は女生徒だったのだ。
エルヴェール公爵は、あの後すぐにレオンにオメガのつがい候補を見つけようとしたらしいが、レオンがそれに強い嫌悪感を示したためにうまくいっていないらしい。
女も同じ理由で嫌っているのかもしれない。もう少し、こういう話題は抑えたほうがいいのだろうか。
しかし、俺も男でアルファだからな。もちろんそういう欲は溜まる。
可愛い女の子に惹かれるのは男の性だよなぁ。
とはいえ、レオンに嫌な気持ちを抱かせてまでする話でもないか。
黒い髪をふわふわとなびかせている女生徒から視線をそらせた。
「……カイルは、婚約者の話は出ていないのか?」
何か言いたげな表情でそう聞いてくるレオン。多分本題はそこじゃないんだろうけど、さすがに何を考えているのかすべて察することはできないしなぁ。
ヒートアタックの件以降、こうやって何かを隠す様子が増えてきた。
一言も相談がないことは寂しいけれど。まぁ、年頃だしな。
ひとまず、レオンの質問に答えよう、と少し言葉を探してから口を開く。
「まぁ、オメガとのお見合いはやるけど。どうにもしっくりこないんだよなぁ」
俺の場合は、レオンのようなヒートアタックの標的になったわけではなかったが、同じ早期発現者。同様のことが起こらない保証もなかった。
だから、父と母に好みを聞かれて何度かお見合いしたんだけ、ど。
暗めの色で、綿毛みたいにふわふわした髪。一緒にいて落ち着けるようなおっとりとした子。声が小鳥のようにかわゆいとなお良しって感じだな。
両親が条件にぴったりくる貴族令嬢を探してきてはお見合いをするのだが、今のところ本婚約には進んでいない。
体に振りかけた香水交じりのフェロモンの匂い。俺の会話を詰まらないと感じつつもそれを隠して貼りつけた笑み。急に距離をつめてきてしなだれかかるような行動。
まぁ、とにかくいろいろあるけど、誰も彼も婚約するには許容できないところが目立つのだ。
正直、最近はお見合い自体が億劫だ。
「はぁ……。どっかに俺好みの可愛い女の子いないかなぁ。別に高望みしてるわけじゃないんだけど……。俺と楽しく会話ができて、距離感はかるのがうまい子ってこんなにいないもん?」
「お、とこは……、考えていないのか」
自分の手元に視線を落としてそう聞いてきたレオン。珍しい質問内容に、彼の顔を窺うが、重力で垂れた髪に隠されてよく見えない。
男……。男ねぇ。
「んー、別に悪いわけじゃないけど、女と男なら女の子の方が好きかなぁ」
「…………そう、か」
いったいなんのための質問だったのだろう。
レオンはそれきり黙り込んでしまった。
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