α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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青年期編

執愛

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「父上!俺を勘当してくれ!」



 貴族子息とは思えないほど雨に打たれ、濡れ鼠のようになった俺とレオンがラジェルド侯爵邸についてすぐ。
 俺は慌てて玄関ホールに出てきた父に向って満面の笑みでそう言った。


 驚きに目を見開いたレオンの手をぎゅっと強く握り、再び口を開く

「公爵閣下がお怒りのようなので!手っ取り早く、俺を一度勘当していただきたい!」
「な、にを、言ってるんだ!もとはと言えば僕がカイルに迫ったせいなのに!」
「それを拒否しなかった時点で俺も同罪だよ」

 濡れた髪が張り付いたレオンのおでこに自分のでこをくっつける。
 お互い冷え切っており、体温はほとんどわからない。
 宥めるように鼻先をすり合わせると、ほんの少しレオンの顔に朱が差した。



「待て待て待て、何が何だかさっぱりわからん」
「はぁ、もう歳ですか?」
「阿呆か。一から十までちゃんと話しなさい」

 渋い顔の父に促され、やれやれとわざとらしく肩をすくめて首を振れば、父上が物言いたげにきゅっと顔の中心に力を込めた。
 なので、俺も簡潔に状況説明をする。

「レオンと逢引きしていたのが公爵閣下にばれてお冠です」
「……カイル、私は一から話せと言わなかったか?一体全体何がどうしてそうなった」
「はぁ、これ以上ない説明ですけど」

 俺の説明はものすごく的を得ていると思うのだけれど。
 しかし、父上はこめかみを押さえ、頭が痛いと言わんばかりに首を振ってから使用人へ指示を出す。
 まぁ、だいぶ背景を省略したけど。

 父の指示を受け、すぐさま使用人が近づいてきたので俺は雨で冷え切ったレオンの背中を押した。

「お風呂にでも入って、温まっておいで」
「だが……」
「大丈夫。俺は父上と話をするだけだから」

 不安に揺れるレオンに笑みを見せると、少し迷いながらもレオンは俺の手を離す。
 俺たちのことを気にしつつ、使用人に連れられてしぶしぶこの場を離れた。
 なんどか後ろを振り向いていたけれど、それに手を振り送り出した。
 訓練騎士団に来た時から雨でぬれていたのだ。それに、俺のように体を鍛えているわけでもない。風邪でも引いたら大変だ。





「お前はいいのか?」
 レオンの背中を見送ってからもじっと彼の消えた扉の方を見ていると、父上がそう言って俺の側に近づいてきた。
「まぁ。公爵閣下がいらしたときにみすぼらしい方がいくらか溜飲も下がるでしょうし」
 ちらりと横目で父の顔を見てからそう言って、俺は濡れた体のまま玄関ホールに腰を下ろす。
 べしゃりと水分を多分に含んだ見習い騎士服が音を立てる。
 ふと床を見ると、自分の周りに滴り落ちた雨によって水たまりができていた。
 レオンの歩いた跡にも、点々と小さな水たまりが続いている。



「それで?何がどうしてエルヴェール公爵子息と恋仲になったんだ」
「恋仲じゃないですよ。レオンからの求愛を拒否しなかっただけで、恋仲じゃないです」
 父の言葉をすぐさま否定し、雨を吸って重いだけの上着を脱いでその辺に放り投げた。

「男同士でアルファ同士ですよ?付き合ったところで、いつかは別れの時が来る。レオンは公爵家を継ぐんですから、それは避けられない。なのに、ずっと恋仲でいるためにはお互い全部捨てなきゃならない。俺なんかのために、捨てさせられないでしょう」
 俺から触れてはならない。レオンの想いに応えてはならない。
 さもなければ、二度と一緒にいることすらできなくなる。
 そう思って何度も手が伸びそうになるのを耐えていたと言うのに、その結末がこれかと自嘲的な笑いがこぼれる。

「今後も、俺の心の中にはレオンがいて、レオンの心にも俺が居座り続ける。それだけは変わらないんで、これでいいんだと思います」

 こんなことになるのなら、いっそ応えておけばよかったと思う一方で、そのおかげで一生レオンの心に居座ることができるのならば、やはりこれでよかったのだろうとも思う。

 レオンのサラサラとした髪が肌に触れる感触。肌にたてられた歯とわずかに掠る唇の温もり。俺のからだをまさぐる、少し乾燥した指先。

「だから、恋人じゃないです」

 一生俺だけが知っていればいいのにと、叶うはずもない馬鹿気たことすら願わずにはいられなかった。


 父上は、そんな俺の顔を少し驚いた顔で見つめ、それから呆れたような顔をした。

「はぁ……。昔っから子供らしくないお前がようやく子供らしいことをしたと思えば、なんでそういう茨の道を……ッ」
「はぁ、申し訳ないです」
「思ってもないだろう」
「バレました?」

 コラっと頭を軽く小突かれた。
「お前は恋仲じゃないと言うがな。もう、お前のそれは立派な愛だろう。お互い愛し合っているのであれば、恋仲と言ってもいいんじゃないのか」

 父の言葉に俺は首を傾げる。これは愛なのだろうか。
 そんな綺麗な感情ではない気がするけど。
 あるのは、どちらかと言うとヘドロのような執着だ。
 
「俺が、本当にレオンを愛しているのであれば、きっと突き放してますよ。先の見えない袋小路に迷い込む前に。お互い引き返せるときに」



 体に貼りついたままのシャツが鬱陶しくて、ボタンを外して寛げる。
 俺の言を黙って聞いていた父上が深いため息をついた。
「……綺麗な愛ばかり世間ではもてはやされるが、お前のそれもまた愛だ」
「はぁ……。そういうもんですか」

 仕方がないと言わんばかりに俺の濡れた頭を雑に父がかき撫でた。
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