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レトナーク編
プロローグ
しおりを挟むそこはレトナーク領。荷馬車が行きかう街道から外れた小川で、猫の耳をヒクヒクさせながら女の子が川底を覗いている。
良く晴れた新緑の季節、陽射しの乱反射する川面に影を落とし、ミアは水中の石を丹念に選んでいる。
あたりを付けた石を一つ岩の上に置き、砕石用のハンマーで叩き割る。その内側に秘められた水晶が陽の下にさらけ出された。
「あった……」
川で取れる鉱石は、宝石にならない質のものばかり。それでも、原石の美しさと個性的な瞬きに惹かれ、ついつい蒐集してしまう。こんな趣味で盛り上がれる人は限られる。
早朝からの薬草採取は既に終わっている。今日の蒐集には、成果があった。
この水晶には黒い針状の不純物が含まれ、ミアにとって初めて見る物だ。
ミアはご機嫌に立ち上がって空を見上げると日が高い。興奮に膨れたふわふわのしっぽが川の水で濡れて、気がつく。
「あっ! 約束、遅れちゃう」
ミアは慌て、荷物を背負う。薬草に石が追加され、小柄なミアには重すぎるが、よくある事だ。
向かう街は、レトナーク。古くは、ミスリル鉱石の産出で栄えた都市だ。それに向かう街道は、リンド王国に繋がっている。
猫族のミアは、冒険者だ。
たった1人の家族だった父親を7歳で亡くして、12歳から始めた冒険者という生業。地味に続けて5年が経った。
「家に戻って着替える時間がなくなっちゃった。……いくらなんでもこの格好じゃ、ロゼに悪いかな」
使い古した装具、毛羽立った上着を被って、申し訳ない気持ちになる。薬草のシミのついたボロいリュックは何度も繕っている。
約束の相手は、幼馴染のロゼ。彼女が王都から戻ってくれば、ミアに土産話をするのが恒例だ。
同じく冒険者のロゼは長身の美人で、広大なレトナーク領主大貴族ハワゼット家の娘でもあり、庶民のミアとは身分の違いがある。
不釣り合いな友情だが、ロゼはミアをいつも気にかけてくれている。
ミアは日除けにフードを被り、小走りで街道を進み、賑やかな繁華街を抜け、ようやく冒険者ギルドについた。ロゼとはここで待ち合わせをしている。
「や、やっと着いた」
川で冷えた身体も、すっかり熱くなってしまった。
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