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正門の待ち伏せ

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 火曜日の朝、学校の創設者の胸像の前で俺はエマを待っていた。予鈴の時間が近くなってきた。晴れて陽当たりが良い場所に立っていたが、地面と空気の寒さに身体が冷える。

 もしかしたら、既にすれ違っているのかも知れない。そんな気がして次の人波で諦めようかと思っていた頃、エマが現れた。

 正門を越えて俺の姿に気がつくと気まずそうに静々と向かってくる。

「おはようございます」

「おはよ。お前、昨日休んだ? 」

「風邪ひいてました……」

 気まずさを絵に描いたように、エマが答えた。

 風邪か……予備校に待ち伏せてひいたのか。人に風邪引くなと注意しといて。土曜日に部活を休んだとしたら、初めてか。

 エマの首には、俺と同じマフラーが巻かれている。姿を見つけた時にはすぐ気がついた。色が明るい。

 お揃いのつもりなのか。彼ピごっこはクリスマス過ぎるまでは続くのか……エマのテンションが低い。

 俺は自分とエマのマフラーを外す。こんなヤラセな事も最後かも知れない。そう思うと、自分の顔が曇っていくのを自覚する。

「風邪に気をつけるのはお前だろ? 」

「すみません」

 強張っているエマに俺が付けていたマフラーをかけると、エマは俺の手に残っているマフラーを受け取ろうと両手を出してくる。

「もう……今日から迷惑やめますから」

 なんで泣きそうな顔になる?

「迷惑じゃなかったとは言えないけど、こっちをお守りにするよ」

 俺はエマの付けていたマフラーを首に巻くと、エマが瞬きをして間の抜けた顔をする。初めて見る表情かおだ。

 いつの間に覚えた匂いのするマフラーを深く巻いて整える。エマのマフラーから香る匂いを確かめる。

「ん? 」

「やっ! タイチセンパイ、やめてください! 」

 凍えそうだったエマの顔がピンク色をさして恥ずかしがる。周りをキョロキョロ見て焦っている。なんだ、からかわれるのは苦手なのか。

「うん……シャンプーかな」

「そんな、やめて! 嗅がないでください! 捨てていいですから! 」

 エマが俺の袖口を掴んでマフラーを外そうとしてきたが、その手を捕まえる。

「なんだ、こんな事で恥ずかしいのか? 散々恥ずかしいを強いられてきた俺、なんなの? 」

 エマをジッと見つめて問いただすと、たじろいだエマから答えが返ってきた。

「……彼ピです」

 そういう意味の質問になってたか……意図してなかった。自分で投げといてエマの返事にクラっとする。

「今は? 」

「……」

 畳み掛けるような質問をエマに被せると、予鈴が鳴り響く。横を向いて話を打ち切ろうとするエマの手を掴み直して、昇降口に向かう。

「冬休み入るからLINEつなぐよ。迷惑なら速攻ブロックしていいけど、それとももう……やめとくか……? 」

 生徒がわずかになって空いた昇降口で、エマの手を解いて顔を覗き込む。

「……やめないです」

 上目遣いに眉がハの字になって、マフラーで顔の半分を隠してエマは返事をした。



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