【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 斎

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第三章 親友との企てられた再会

12.公式交渉(2)

アルトリウスは指を組み、椅子の背にゆったりと身を預けた。
その姿は、余裕そのもの。

……嫌でも分かる、俺とコイツの、王族としての格の違い。
コイツは、皇帝になるべくして生きてきた男だ。

現実的に、合理的に、効率的に、最適で最短を。
俺みたいに、周囲から畏敬憧憬の感情を向けられても辟易なんてしなかったんだろう。
でも、だからと言ってそれが優劣をつけるわけじゃない。
俺は、俺として、コイツに相対する。


「では、条件を提示しよう」


アルトリウスは淡々と、逃げ場を塞ぐように告げる。


「帝国は即時侵攻を見送ろう、その代わり」


一拍。


「――エルド王国は、ルベド王統に対する管理権を、帝国と共有する」


管理権の、共有。
それはすなわち。


「エルド王国は疑われないために、帝国の監査を受け入れてほしい」
「それは……」
「ルベド王統に関する情報、継承、居住、接触、その全ての共有」


どうかな? とアルトリウスは微笑む。
コイツはこんな顔して、何ということを言うんだ。
それは、共有とか、中立とか、そんな甘いものではなくて。
ただの緩やかな隷属だ。


「拒否、すれば?」
「その時点で、帝国はエルド王国がルベド王統を兵器として秘匿している、と判断する」


つまり、とアルトリウスは首を傾け口の端を上げる。
長い白銀の髪が、肩から流れ落ちた。


「戦争だ」


しん、と痛いほどの沈黙が、この場を支配する。
戦争、という言葉が、冷たさを持って波紋を広げる。


「……兄上」


その沈黙を破ったのは、今迄黙って聞いていたノアだった。
アルトリウスの視線が、ノアへと移る。


「それは事実上、ルベド王統を帝国の管理下に置く、ということですか」
「その通り。でも安心してほしい。排除はしない、利用もしない」


少なくとも、今はね、と付け加えられた言葉に。
ノアは小さく、唇を噛み締める。

……何故ノアは、こうもルベド王統に対して帝国と意見が反する?
ルベド王統を利用しない王国を、良い国だと言ったノア。
王国の学生として、そう言った可能性もあったが……。
今迄の様子を見ると、あの言葉は、ノアの本心なのか?


「ノア」


アルトリウスは弟を見る。


「君は、帝国第二皇子だ。帝国の安全を最優先に考える義務がある。――分かるね?」
「……は、い。分かっています。余計な口を、挟みました」


反射のような答え。
帝国の意見を疑うという選択肢を消した、返答。


「ノア」


俺は思わず、その名を呼んだ。
何を言うかも考えないままに呼んだ俺を、ノアは見る。


「ノア、これは……」


言葉を選ぶ、しかし選び過ぎれば間に合わない。
そんな焦燥が、胸の内に湧き上がる。


「これは、帝国の安全保障とか、そういう話じゃない。――人を、人として扱うかどうかの話だ」
「感情論だな、第一王子」


ノアへの言葉に、アルトリウスの視線が鋭くなる。
しかし俺は、いいえ、とアルトリウスへ真正面から視線を返した。


「合理性の話です。帝国がルベド王統を完全に管理下に置いた、と周辺諸国が判断した場合、どうなるか」


ぐっと、拳を握る。


「彼らは、帝国を次の脅威とみなす」


そもそも、と俺は畳みかける。


「中立共同体は、そういった疑念を分散させるための構造でもある。それを壊せば、矛先は帝国に集中するでしょう」
「……」
「帝国は、戦争を一つ減らす代わりに、複数の潜在敵国を生む」


それは、と俺は静かに続けた。


「それは本当に、合理的ですか?」


完全なる、沈黙。
長い、本当に長い、沈黙。
しかしその間、俺はアルトリウスから視線を逸らさなかった。
やがて、アルトリウスが笑った。


「なるほど、素晴らしい。君は実に優秀だ。ノアから報告されていたよりも、ずっと」


ちらりとアルトリウスはノアに視線を向ける。
それはどういう意図の、視線なのか。


「第一王子殿。君の言葉は正しい。しかし、帝国は正しさではなく、最悪を防ぐために動く」
「帝国にとっての、最悪、とは?」
「疑念が帝国に向く未来より、制御不能な力が野放しになる未来。そちらの方が、帝国にとっては破滅的だ」


アルトリウスは、席を立つ。


「それに、帝国に矛先が向いたからと言って、それがなんだ?」
「なんだ、って……いくら帝国でも、周辺諸国から敵対されれば」
「そんなもの、ルベドがいれば何とでもなる。――君も同意するだろう? 帝国の第二皇子、ノア」


ぽん、と。
アルトリウスは、ノアの肩に手を置いた。
それはもう、隠しもしない、ルベド王統の兵器化の宣言。
ノアは、下を向いて、何も言わない。
しかしその拳は握られ、瞳は紅く、染まっている。

アルトリウスは、その様子を口の端を上げて見て、俺へと静かに、宣告した。


「だからこそ。我々は君たちを、敵に回そう」
「……っ!」
「交渉決裂だ。近いうちに、王国へ再侵攻する。それまでに準備をしておくと良い」


ぱん、とアルトリウスは手を叩く。
その瞬間、魔力の揺らぎを感じ、それが霧散する。
結界が解かれた時の、独特の空気。

アルトリウスが部屋を出ようとする前に、あぁ、と一言告げる。


「ノア、第一王子と別れを済ませておくと良い。親友だったのだろう?」
「……兄上」
「何なら私の寝台を使っても良いし。何をしても、レオン第一王子は無事に王国へ返すよう、皆に伝えておくから」


ではまた、とアルトリウスは私室から出て行った。
変な所で変な気遣い、しかしこれは、余裕の表れなのだろう。
ここで俺を殺そうが生かそうが、王国の未来は変わらない、という余裕。
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