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第三章 親友との企てられた再会
14.支配欲
***
レオンを帝国に送り返したその後。
ノアはいつも通りアルトリウスの元へと向かっていた。
「只今戻りました、兄上」
静かな声。
感情を削ぎ落した、第二皇子としての声音。
「あぁ、お帰り、ノア」
「無事に王国第一王子を帰国させました」
「それは良かった。お前も乗って、共に行くかと思っていたけれど」
その言葉に、ノアは一瞬言葉を詰まらせる。
「……ご冗談を。そんなこと、出来るわけがない」
「そうだね、知っているよ」
アルトリウスは立ち上がり、何気ない仕草でノアに近付く。
その指が、襟元に触れた。
くい、と布をずらし、首元を晒す。
「……へぇ」
そこには、紫が残る鬱血痕。
自分が付けたものではない、真新しいもの。
「短い時間だったけど、一度くらいは寝たのかな?」
「……私と彼は、そのような関係ではありません。ただの――」
言いかけた言葉が、喉で止まる。
ただの親友です。
そう言いかけた自分に、ノアは内心で愕然とした。
その言葉は、決して。
決して、兄の前で言わないようにしていた言葉だったはずなのに。
「ただの、敵国の王族、だよね?」
アルトリウスは穏やかな声で遮る。
まるで、ノアの思考の先を読んでいたかのように。
そのまま、顎を掬い上げられる。
逃げることも、拒むことも許されない距離。
「口、開けて」
短い言葉。
疑いようのない、命令。
ノアは一瞬だけ目を伏せて、それからゆっくりと口を開いた。
その瞬間、生温かいものが口内へと入り込む。
アルトリウスの舌が、遠慮も確認もなく侵入し、歯列をなぞり、舌を絡めとる。
「……は、っ」
濡れた息が、どちらのものか分からない。
水音だけが、やけに鮮明に耳に残る。
唇が離れた瞬間、つ、と銀糸が伸びて、切れた。
アルトリウスは無感情のまま、ノアを見下ろす。
「お前は帝国の――私の、ものだ」
アルトリウスは返事を聞かぬまま、踵を返す。
その背中を見送りながら、ノアは唇を噛み締めた。
「……分かって、います、兄上」
それが事実でああり、逃げようのない現実だ。
「……レオン」
先ほど別れた親友の名を、呟く。
レオンは、触れなかった。
欲を見せながらも、越えなかった。
けれど、彼は違う。
簡単に触れ、簡単に奪い、簡単に刻み付ける。
それが帝国で生きるということ。
それが、自分の立場なのだと……理解している、はずなのに。
「……ぐッ」
ふと、身体中の血が、沸騰するような感覚を覚える。
血が、限界だと叫んでいる。
もう、留められないと、軋んでいる。
魔力の波長が、乱れる。
「……アリシア、もう少し、もう少しだから……」
早く、早くと焦る気持ちを抑えつける。
どうか、俺が親友を――殺してしまう前に。
どうか。
俺はどうなっても、構わないから。
どうか。
ノアの願いは、誰に聞き届けられることはなかった。
今は、まだ。
レオンを帝国に送り返したその後。
ノアはいつも通りアルトリウスの元へと向かっていた。
「只今戻りました、兄上」
静かな声。
感情を削ぎ落した、第二皇子としての声音。
「あぁ、お帰り、ノア」
「無事に王国第一王子を帰国させました」
「それは良かった。お前も乗って、共に行くかと思っていたけれど」
その言葉に、ノアは一瞬言葉を詰まらせる。
「……ご冗談を。そんなこと、出来るわけがない」
「そうだね、知っているよ」
アルトリウスは立ち上がり、何気ない仕草でノアに近付く。
その指が、襟元に触れた。
くい、と布をずらし、首元を晒す。
「……へぇ」
そこには、紫が残る鬱血痕。
自分が付けたものではない、真新しいもの。
「短い時間だったけど、一度くらいは寝たのかな?」
「……私と彼は、そのような関係ではありません。ただの――」
言いかけた言葉が、喉で止まる。
ただの親友です。
そう言いかけた自分に、ノアは内心で愕然とした。
その言葉は、決して。
決して、兄の前で言わないようにしていた言葉だったはずなのに。
「ただの、敵国の王族、だよね?」
アルトリウスは穏やかな声で遮る。
まるで、ノアの思考の先を読んでいたかのように。
そのまま、顎を掬い上げられる。
逃げることも、拒むことも許されない距離。
「口、開けて」
短い言葉。
疑いようのない、命令。
ノアは一瞬だけ目を伏せて、それからゆっくりと口を開いた。
その瞬間、生温かいものが口内へと入り込む。
アルトリウスの舌が、遠慮も確認もなく侵入し、歯列をなぞり、舌を絡めとる。
「……は、っ」
濡れた息が、どちらのものか分からない。
水音だけが、やけに鮮明に耳に残る。
唇が離れた瞬間、つ、と銀糸が伸びて、切れた。
アルトリウスは無感情のまま、ノアを見下ろす。
「お前は帝国の――私の、ものだ」
アルトリウスは返事を聞かぬまま、踵を返す。
その背中を見送りながら、ノアは唇を噛み締めた。
「……分かって、います、兄上」
それが事実でああり、逃げようのない現実だ。
「……レオン」
先ほど別れた親友の名を、呟く。
レオンは、触れなかった。
欲を見せながらも、越えなかった。
けれど、彼は違う。
簡単に触れ、簡単に奪い、簡単に刻み付ける。
それが帝国で生きるということ。
それが、自分の立場なのだと……理解している、はずなのに。
「……ぐッ」
ふと、身体中の血が、沸騰するような感覚を覚える。
血が、限界だと叫んでいる。
もう、留められないと、軋んでいる。
魔力の波長が、乱れる。
「……アリシア、もう少し、もう少しだから……」
早く、早くと焦る気持ちを抑えつける。
どうか、俺が親友を――殺してしまう前に。
どうか。
俺はどうなっても、構わないから。
どうか。
ノアの願いは、誰に聞き届けられることはなかった。
今は、まだ。
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