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第四章 親友と剣を交わす日
17.レオンVSノア
土煙の中で、ノアは剣を抜いた。
ただそれだけの動作だった。
だがその瞬間、空気が変わる。
帝国兵でも、王国兵でもない。
誰もが本能で理解した。
――この男は、次元が違う。
ノアは一歩、踏み出す。
次の瞬間には、すでに別の場所にいた。
前線に展開していた王国騎士の一人が、吹き飛ばされる。
鎧ごと、地面を抉りながら転がった。
王国兵の悲鳴が、音になる前に途切れる。
ノアは、止まらない。
剣を返し、踏み込み、魔力を纏わせた蹴りで盾ごと兵を吹き飛ばす。
着地と同時に、背後から迫った兵を薙ぎ倒す。
ただ空気が裂け、赤い軌跡が走る。
結界が、一太刀で断ち割られた。
「な、なんだ、あれは……っ!」
恐怖が連鎖する。
ノアは戦場を歩く。
剣を振るうと言うより、通過しているかのように見える。
通った跡に、王国兵が倒れていく。
「ノア……ッ」
呼び掛けは喉で消える。
このままでは、王国軍がもたない。
「前線指揮! 俺が出る!」
剣を抜く。
王子としてではなく、一人の剣士として。
地を蹴った。
ノアの剣が、別の兵を斬り伏せた瞬間、俺は間合いに踏み込む。
「――ノアッッ!!」
刃と刃が、激突した。
火花が散る。
衝撃が、腕を震わせる。
ノアの動きが止まった。
赤褐色の瞳が、俺を捉える。
「……来たか、レオン」
声は、驚くほど静かだった。
恨んでくれ、そうすることでしか、もう繋がれない。
そう懇願したノアの姿は、ない。
帝国第二皇子の、ノア。
「止める」
「出来るのなら」
次の瞬間、ノアが動く。
直線的で、殺意に満ちた一撃。
俺は衝撃を殺し、斜めに流す。
続く連撃、一切の無駄がない。
重い。
剣越しに伝わる圧が、段違いだ。
力だけじゃない、魔力の質が根本から違う。
「――っ!」
俺は、一歩も退かない。
受け、流し、間合いを調整する。
ノアの攻撃は苛烈だが、読める。
かつて、何度も相手をした剣だ。
「……よく帝国剣術へ適応出来るものだな」
「剣術式が変わろうが、お前の癖は忘れねぇんだよッ!」
踏み込み、ノアの脇腹を狙う。
ノアは僅かに身を捻り、刃を逸らす。
同時に、肘が飛んできた。
「ぐ……!」
腹に鈍い衝撃、息が詰まる。
俺は後退し、態勢を立て直す。
「躊躇するな、レオン」
「うるせぇ……」
「負けるぞ」
「うるせぇ」
「死ぬぞ」
「うるせぇな、今どうやったらお前を取り戻せるか考えてんだよ」
「……馬鹿なことを」
再び、剣が交わる。
速度は互角、技量も互角。
だが。
ノアの剣には、迷いがない。
俺の剣には、どうしても躊躇が混じる。
本当に、もう道はないのか?
俺は俺が思う王に、なれないのか?
親友すら取り戻せないで、なにが王だ。
ノアの斬撃が、俺の肩を掠めた。
血が、滲む。
「言ったはずだ。……俺を許すな、恨めと」
「言ったはずだ、それ言ったら口塞ぐって」
「……はっ、今のお前からは血の味がしそうだ」
ノアは笑う。諦めたように。
分かっている、分かっているけど。
踏み切れない、切り捨てられない。
殺す覚悟、親友を、斬る覚悟。
剣が噛み合う。
連続する衝突音が、戦場の喧騒を押し退ける。
ただ、最短で相手を斬るためだけに振るわれる刃。
次の瞬間、ノアの踏み込みが変わった。
速度がもう一段階上がる。
視界が、揺れた。
――斬られる。
そう直感が襲った瞬間。
「……っ」
ノアが、呻いた。
胸を押さえて、一歩退く。
「……ノア?」
殺そうとしてきた相手を心配している場合ではない。
分かっているが。
呼び掛けに答えは、ない。
額に、汗、呼吸が、乱れている。
「ノア、お前、もしかしてどこか……」
悪いのか、と言い掛けて口を閉ざす。
ノアが突然、上空に視線を移した。
その先、遥か上空に、帝国の艦隊。
しかしどうやらあの艦隊は、戦争に参加していないようで。
「……は、ぁっ」
ノアの口から、息が漏れる。
胸を、押さえる。
「アリシア……?!」
赤褐色の瞳の奥が、紅く揺らめく。
その姿を見るだけで、肌が粟立つ。
底知れない気配が、見え隠れしている。
……アリシア?
知らない名前。
聞いたこともない声色。
次の瞬間、ノアは剣の柄を握り直した。
まるで、何かの覚悟を決めたように。
ただそれだけの動作だった。
だがその瞬間、空気が変わる。
帝国兵でも、王国兵でもない。
誰もが本能で理解した。
――この男は、次元が違う。
ノアは一歩、踏み出す。
次の瞬間には、すでに別の場所にいた。
前線に展開していた王国騎士の一人が、吹き飛ばされる。
鎧ごと、地面を抉りながら転がった。
王国兵の悲鳴が、音になる前に途切れる。
ノアは、止まらない。
剣を返し、踏み込み、魔力を纏わせた蹴りで盾ごと兵を吹き飛ばす。
着地と同時に、背後から迫った兵を薙ぎ倒す。
ただ空気が裂け、赤い軌跡が走る。
結界が、一太刀で断ち割られた。
「な、なんだ、あれは……っ!」
恐怖が連鎖する。
ノアは戦場を歩く。
剣を振るうと言うより、通過しているかのように見える。
通った跡に、王国兵が倒れていく。
「ノア……ッ」
呼び掛けは喉で消える。
このままでは、王国軍がもたない。
「前線指揮! 俺が出る!」
剣を抜く。
王子としてではなく、一人の剣士として。
地を蹴った。
ノアの剣が、別の兵を斬り伏せた瞬間、俺は間合いに踏み込む。
「――ノアッッ!!」
刃と刃が、激突した。
火花が散る。
衝撃が、腕を震わせる。
ノアの動きが止まった。
赤褐色の瞳が、俺を捉える。
「……来たか、レオン」
声は、驚くほど静かだった。
恨んでくれ、そうすることでしか、もう繋がれない。
そう懇願したノアの姿は、ない。
帝国第二皇子の、ノア。
「止める」
「出来るのなら」
次の瞬間、ノアが動く。
直線的で、殺意に満ちた一撃。
俺は衝撃を殺し、斜めに流す。
続く連撃、一切の無駄がない。
重い。
剣越しに伝わる圧が、段違いだ。
力だけじゃない、魔力の質が根本から違う。
「――っ!」
俺は、一歩も退かない。
受け、流し、間合いを調整する。
ノアの攻撃は苛烈だが、読める。
かつて、何度も相手をした剣だ。
「……よく帝国剣術へ適応出来るものだな」
「剣術式が変わろうが、お前の癖は忘れねぇんだよッ!」
踏み込み、ノアの脇腹を狙う。
ノアは僅かに身を捻り、刃を逸らす。
同時に、肘が飛んできた。
「ぐ……!」
腹に鈍い衝撃、息が詰まる。
俺は後退し、態勢を立て直す。
「躊躇するな、レオン」
「うるせぇ……」
「負けるぞ」
「うるせぇ」
「死ぬぞ」
「うるせぇな、今どうやったらお前を取り戻せるか考えてんだよ」
「……馬鹿なことを」
再び、剣が交わる。
速度は互角、技量も互角。
だが。
ノアの剣には、迷いがない。
俺の剣には、どうしても躊躇が混じる。
本当に、もう道はないのか?
俺は俺が思う王に、なれないのか?
親友すら取り戻せないで、なにが王だ。
ノアの斬撃が、俺の肩を掠めた。
血が、滲む。
「言ったはずだ。……俺を許すな、恨めと」
「言ったはずだ、それ言ったら口塞ぐって」
「……はっ、今のお前からは血の味がしそうだ」
ノアは笑う。諦めたように。
分かっている、分かっているけど。
踏み切れない、切り捨てられない。
殺す覚悟、親友を、斬る覚悟。
剣が噛み合う。
連続する衝突音が、戦場の喧騒を押し退ける。
ただ、最短で相手を斬るためだけに振るわれる刃。
次の瞬間、ノアの踏み込みが変わった。
速度がもう一段階上がる。
視界が、揺れた。
――斬られる。
そう直感が襲った瞬間。
「……っ」
ノアが、呻いた。
胸を押さえて、一歩退く。
「……ノア?」
殺そうとしてきた相手を心配している場合ではない。
分かっているが。
呼び掛けに答えは、ない。
額に、汗、呼吸が、乱れている。
「ノア、お前、もしかしてどこか……」
悪いのか、と言い掛けて口を閉ざす。
ノアが突然、上空に視線を移した。
その先、遥か上空に、帝国の艦隊。
しかしどうやらあの艦隊は、戦争に参加していないようで。
「……は、ぁっ」
ノアの口から、息が漏れる。
胸を、押さえる。
「アリシア……?!」
赤褐色の瞳の奥が、紅く揺らめく。
その姿を見るだけで、肌が粟立つ。
底知れない気配が、見え隠れしている。
……アリシア?
知らない名前。
聞いたこともない声色。
次の瞬間、ノアは剣の柄を握り直した。
まるで、何かの覚悟を決めたように。
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