【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 斎

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第四章 親友と剣を交わす日

18. 静かなる制圧

***

帝国艦は、戦場の上空に静止していた。
攻撃態勢ではない。
砲門も閉じられ、魔導機関の出力も最低限に抑えられている。

――観測艦。

それが、この艦に与えられた役割だった。

艦内は異様なほど静かだった。
兵士の足音も、指示の声もない。
あるのは、低く脈打つような魔導機関の鼓動と、計測装置が刻む微かな音だけ。

中央区画。
大きな魔導陣と、複数の水晶盤に囲まれた円形の床。
その中央に、少女が立っていた。


「……」


アリシアは、じっと前方を見つめている。
厚い強化ガラスの向こう、遥か下方に広がる戦場を。
小さな手は、無意識に胸元を押さえていた。

理由は分からない。
ただ、胸の奥がざわついている。

隣に立つ男が、その様子を見下ろす。
帝国官吏。
長年にわたり、アリシアの管理と保護を任されてきた人物だった。


「……反応が出ていますね」


淡々とした声で、官吏は言った。
魔導盤の数値が、わずかに揺れている。
規則正しかった波形が、乱れ始めていた。


「視認させます。ほんの一瞬だけです」


官吏が合図を出すと、前方の水晶盤に映像が浮かび上がる。
拡大された戦場。
剣を交える二人の男。
そのうちの一人を見た瞬間、アリシアの瞳が揺れた。


「……っ」


息を呑む音。

赤褐色の瞳。
剣を握る手。
その存在を、理屈ではなく“波長”で理解する。


「……ノア……?」


名を呼んだ瞬間、魔導盤の数値が跳ね上がった。
警告音が、短く鳴る。
官吏は目を細める。


「やはり……皇子殿下への感応は、明確ですね」


記録用の水晶に視線を落とし、冷静に数値を確認する。


「これで十分です。戻りましょう、アリシア様。これ以上の観測は、陛下もお望みではありません」
「……はい」


アリシアは小さく頷いた。
だが視線は、まだ戦場に縫い留められている。
官吏が踵を返し、出口へ向かおうとした、その瞬間だった。


「……?」


足が、止まる。
次の瞬間。

鈍い音を立てて、官吏の身体が床に崩れ落ちた。


「――っ?!」


誰かが叫ぶ前に、事態は起きていた。

背後。
いつの間にか、そこに一人の男が立っている。

暗灰色の短髪。
感情の読めない、淡い金色の瞳。

血の気配は、ほとんどない。
剣も、まだ抜かれていない。
だが――”終わった”ことだけは、誰の目にも明らかだった。

艦内が、一瞬で騒然とする。


「敵襲――!?」 
「いつ侵入を――!」


男は、静かに一歩前に出た。


「これから船を制圧します」


穏やかな、淡々とした声だった。
命令でも、宣言でもない。
ただの事実を述べるような声音。
その視線が、アリシアに向けられる。


「宜しいですね――女王陛下」


一拍の沈黙。
周囲の兵士たちが、凍りついたように動きを止める。
アリシアは、男を見つめ返した。
その瞳に、恐怖はない。
小さく、けれどはっきりと頷く。


「……はい。お願いします」


その返答を聞いた男は、ただ一つ頷いた。
次の瞬間。
艦内の照明が、一斉に落ちる。
悲鳴が上がるより早く、空気が切り裂かれた。


「血と誇りと――秩序の名の下に」


制圧は、始まった。
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