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第五章 親友と紅の一族
20.紅の一族
***
一隻、二隻、だけではない。
国をも亡ぼすほどの魔力。
その直撃を受けた帝国艦隊が、次々と、轟音を響かせながら墜ちていく。
その魔法を放った男は。
ノアは、空を見上げて、息を吸う。
「――血よ、応えろ。我が名は、ノア・ルベド・ルビナス!」
その名が、戦場へと響き渡る。
「紅の一族、その起源に誓う。王統の枷を、今ここに解き放つ!」
紅の、一族。
「我らが女王は奪還された。故に、もはや忍ぶ理由はない!」
赤褐色の瞳が爛々と、紅が輝き始める。
赤みがかった黒髪が、鮮烈な紅へと、染まっていく。
「全能力解放。血と誇りを蹂躙した者どもに、紅の裁きを」
そして静かに、口にした。
それが、絶対の命令であるかのように。
「――ヴァルガ帝国を、殲滅せよ」
その言葉が放たれた瞬間。
ノアの足元から溢れた紅の魔力は、戦場だけに留まらなかった。
それは音でも、光でもない。
血を媒介とした、命令だった。
空を越え、国境を越え。
大地に染み込み、海を渡り。
紅の一族の血が流れる場所すべてへと、等しく届く。
王都の片隅。
鍛冶場で槌を振るっていた男の手が、ぴたりと止まる。
胸の奥が、灼けるように熱い。
「……来た、か」
何十年も抑え込んできた魔力が、堰を切ったように溢れ出す。
彼の背後で、壁に掛けられていた剣が微かに鳴った。
「女王陛下は……ご無事、なのですね」
膝をつき、男は静かに頭を垂れる。
その背から、赤いオーラが立ち昇った。
帝国貴族の館。
侍女として仕えていた若い女が、突然顔を歪める。
心臓が、強く脈打つ。
「あぁ――殿下……ノア・ルベド・ルビナス様……」
帝国第二皇子ではない名を、誰に聞かせるまでもなく呟いた瞬間。
彼女の瞳が、紅く染まった。
抑制用の魔道具が、音を立てて砕け散る。
「……ようやく、なのですね」
微笑みと共に、長く閉じていた力が目を覚ます。
山小屋で薬草を煎じていた老人は、不意に炎を落とした。
胸に手を当て、ゆっくりと息を吐く。
「……ルベドの血が、呼んでおる」
それは懐かしさと、恐怖と、安堵の混じった感情。
「この歳になって、再び戦場に立つとはな」
だが立ち上がるその背は。
老いを忘れたかのように、真っ直ぐだった。
誰もが、同じことを理解していた。
逃げ場はない。
拒否権もない。
だが同時に、誰一人としてそれを拒もうとはしなかった。
血が、応えた。
それだけで、十分だった。
王国兵の誰かが、呆然と呟く。
「……赤い、光が……」
帝国側の魔導通信が、次々と沈黙していく。
各地の前線から、悲鳴にも似た報告が雪崩れ込む。
「伏兵です!」
「いえ、違う、突然……突然、現れた……!」
「紅い、魔力の……人間、いや――」
その全てを、ノアは聞かない。
ただ一度、深く息を吐き、紅く揺らめく瞳を静かに閉じた。
これでもう、引き返せない。
血が沸騰する。
臓腑から燃え上がるような、感覚。
記憶が、焼き切れていくような、喪失感。
でも、まだ。
それでもまだ、立っていなくてはならない。
俺はどうなってもいいから。
もう少しだけ。
「あと少し、お待ちください――我らが、女王陛下」
ノアは、視線を移す。
金色に輝く髪を靡かせる、蒼い瞳と、目が合った。
一隻、二隻、だけではない。
国をも亡ぼすほどの魔力。
その直撃を受けた帝国艦隊が、次々と、轟音を響かせながら墜ちていく。
その魔法を放った男は。
ノアは、空を見上げて、息を吸う。
「――血よ、応えろ。我が名は、ノア・ルベド・ルビナス!」
その名が、戦場へと響き渡る。
「紅の一族、その起源に誓う。王統の枷を、今ここに解き放つ!」
紅の、一族。
「我らが女王は奪還された。故に、もはや忍ぶ理由はない!」
赤褐色の瞳が爛々と、紅が輝き始める。
赤みがかった黒髪が、鮮烈な紅へと、染まっていく。
「全能力解放。血と誇りを蹂躙した者どもに、紅の裁きを」
そして静かに、口にした。
それが、絶対の命令であるかのように。
「――ヴァルガ帝国を、殲滅せよ」
その言葉が放たれた瞬間。
ノアの足元から溢れた紅の魔力は、戦場だけに留まらなかった。
それは音でも、光でもない。
血を媒介とした、命令だった。
空を越え、国境を越え。
大地に染み込み、海を渡り。
紅の一族の血が流れる場所すべてへと、等しく届く。
王都の片隅。
鍛冶場で槌を振るっていた男の手が、ぴたりと止まる。
胸の奥が、灼けるように熱い。
「……来た、か」
何十年も抑え込んできた魔力が、堰を切ったように溢れ出す。
彼の背後で、壁に掛けられていた剣が微かに鳴った。
「女王陛下は……ご無事、なのですね」
膝をつき、男は静かに頭を垂れる。
その背から、赤いオーラが立ち昇った。
帝国貴族の館。
侍女として仕えていた若い女が、突然顔を歪める。
心臓が、強く脈打つ。
「あぁ――殿下……ノア・ルベド・ルビナス様……」
帝国第二皇子ではない名を、誰に聞かせるまでもなく呟いた瞬間。
彼女の瞳が、紅く染まった。
抑制用の魔道具が、音を立てて砕け散る。
「……ようやく、なのですね」
微笑みと共に、長く閉じていた力が目を覚ます。
山小屋で薬草を煎じていた老人は、不意に炎を落とした。
胸に手を当て、ゆっくりと息を吐く。
「……ルベドの血が、呼んでおる」
それは懐かしさと、恐怖と、安堵の混じった感情。
「この歳になって、再び戦場に立つとはな」
だが立ち上がるその背は。
老いを忘れたかのように、真っ直ぐだった。
誰もが、同じことを理解していた。
逃げ場はない。
拒否権もない。
だが同時に、誰一人としてそれを拒もうとはしなかった。
血が、応えた。
それだけで、十分だった。
王国兵の誰かが、呆然と呟く。
「……赤い、光が……」
帝国側の魔導通信が、次々と沈黙していく。
各地の前線から、悲鳴にも似た報告が雪崩れ込む。
「伏兵です!」
「いえ、違う、突然……突然、現れた……!」
「紅い、魔力の……人間、いや――」
その全てを、ノアは聞かない。
ただ一度、深く息を吐き、紅く揺らめく瞳を静かに閉じた。
これでもう、引き返せない。
血が沸騰する。
臓腑から燃え上がるような、感覚。
記憶が、焼き切れていくような、喪失感。
でも、まだ。
それでもまだ、立っていなくてはならない。
俺はどうなってもいいから。
もう少しだけ。
「あと少し、お待ちください――我らが、女王陛下」
ノアは、視線を移す。
金色に輝く髪を靡かせる、蒼い瞳と、目が合った。
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