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第五章 親友と紅の一族
24.断罪
***
戦場の奥。
崩れた石壁の前で、紅の一族が一人の男を拘束していた。
血で編まれた拘束具が、腕と喉を押さえ込んでいる。
それでも男の背筋は、折れていない。
アルトリウス。
帝国第一皇子。
その前に、紅と蒼が並び立つ。
レオンは、一歩だけ退いた。
「……任せる」
短い言葉。
だがそこには、全面の信頼があった。
ノアは頷かない。
ただ、アルトリウスを見下ろす。
紅い髪が、風に揺れた。
「……ようやく来たね、我が弟」
穏やかな声だった。
「私の名は、ノア・ルベド・ルビナス」
即座に、訂正。
「貴様ら帝国が、前女王陛下と王配を屠り、女王となった幼い少女を拉致し、長きに渡り拘束した」
声に揺らぎはない。
「その罪は、王統への侵略を超える。血統の抹消未遂。王権への冒涜。統治の正統性を踏みにじる行為だ」
一歩、近づく。
「故に、私は。ルベド王統の名の下に、ヴァルガ帝国を断罪する」
冷酷で、慈悲のない声。
静寂。
アルトリウスは、ふ、と息を吐いた。
「その罪の中に、王兄であるお前を、帝国第二皇子として隷属させたこと、とは言わないんだね?」
その言葉に。
レオンの脳裏で、点と点が繋がる。
帝国第二皇子。紅の一族。王兄。
利用価値。政治的均衡。人質。抑止。
――なるほど、そういう構図か。
レオンは、何も言わない。
だが、その視線は鋭くなる。
ノアは淡々と答えた。
「ルベド王統が存続するために、私個人は関係ない」
揺るぎない。
「王兄の生死も、尊厳も、感情も。王統の維持に比べれば、優先度は低い」
それを聞いた瞬間、レオンの拳がわずかに握られた。
アルトリウスは、ノアを見上げる。
紅の髪、紅の瞳、先ほど放たれた王権級の魔法。
全能力解放、血を介した一族への命令。
そして――その顔色の、僅かな蒼白。
「そんなことをして、何の代償もないなど……あり得ない」
アルトリウスの、確信の滲む声。
ノアは何も言わない。
「どこまでも自己犠牲。自分が代償を払うことすら厭わない」
かすかに笑う。
「愚かで、そして……合理的。お前はやはり、私より帝国らしい」
視線が、真っ直ぐに交わる。
その言葉に、ノアの瞳がわずかに細まる。
「それが最期の言葉で良いか」
紅の魔力が、剣へと集まる。
「あと一つ」
アルトリウスは、真っ直ぐに言った。
「ノア・ルベド・ルビナス」
本当の名。
戦場の喧騒が、遠くなる。
「私は兄として、そして一人の男として」
ほんの僅か、柔らかい声音。
「お前に心から惹かれていたよ」
風が止まる。
レオンの目が、鋭く細められる。
ノアは、沈黙した。
否定もしない。 肯定もしない。
ただ、見下ろす。
アルトリウスは、わずかに肩を竦めた。
「さて、この言葉をどう捉えるのか。一族としてどう語るのか。……見届けられないのが残念だ」
その瞬間。
ノアの剣が、静かに振り上がる。
「……これで終わりだ、アルトリウス」
初めて、名を呼んだ。
アルトリウスの目が、わずかに見開かれる。そして。
満足したように、笑った。
次の瞬間。
紅の軌跡。
斬撃は、迷いなく。
首が、落ちる。
身体が崩れ、血が地に広がる。
紅の一族が、静かに拘束を解いた。
沈黙。
戦場の風が、再び流れ始める。
レオンは、横目でノアを見る。
その横顔は、冷静で、揺らぎは、ない。
だが。
ほんの僅か、呼吸が乱れている。
「……終わったな」
レオンが言う。
ノアは答えない。
ただ、空を見上げる。
赤い瞳に映るのは、焼け落ちた帝国の旗。
こうして。
帝国は最高指揮官を失い。
戦場は、幕を閉じた。
しかし、もう。
刻限は目の前に、迫っていた。
戦場の奥。
崩れた石壁の前で、紅の一族が一人の男を拘束していた。
血で編まれた拘束具が、腕と喉を押さえ込んでいる。
それでも男の背筋は、折れていない。
アルトリウス。
帝国第一皇子。
その前に、紅と蒼が並び立つ。
レオンは、一歩だけ退いた。
「……任せる」
短い言葉。
だがそこには、全面の信頼があった。
ノアは頷かない。
ただ、アルトリウスを見下ろす。
紅い髪が、風に揺れた。
「……ようやく来たね、我が弟」
穏やかな声だった。
「私の名は、ノア・ルベド・ルビナス」
即座に、訂正。
「貴様ら帝国が、前女王陛下と王配を屠り、女王となった幼い少女を拉致し、長きに渡り拘束した」
声に揺らぎはない。
「その罪は、王統への侵略を超える。血統の抹消未遂。王権への冒涜。統治の正統性を踏みにじる行為だ」
一歩、近づく。
「故に、私は。ルベド王統の名の下に、ヴァルガ帝国を断罪する」
冷酷で、慈悲のない声。
静寂。
アルトリウスは、ふ、と息を吐いた。
「その罪の中に、王兄であるお前を、帝国第二皇子として隷属させたこと、とは言わないんだね?」
その言葉に。
レオンの脳裏で、点と点が繋がる。
帝国第二皇子。紅の一族。王兄。
利用価値。政治的均衡。人質。抑止。
――なるほど、そういう構図か。
レオンは、何も言わない。
だが、その視線は鋭くなる。
ノアは淡々と答えた。
「ルベド王統が存続するために、私個人は関係ない」
揺るぎない。
「王兄の生死も、尊厳も、感情も。王統の維持に比べれば、優先度は低い」
それを聞いた瞬間、レオンの拳がわずかに握られた。
アルトリウスは、ノアを見上げる。
紅の髪、紅の瞳、先ほど放たれた王権級の魔法。
全能力解放、血を介した一族への命令。
そして――その顔色の、僅かな蒼白。
「そんなことをして、何の代償もないなど……あり得ない」
アルトリウスの、確信の滲む声。
ノアは何も言わない。
「どこまでも自己犠牲。自分が代償を払うことすら厭わない」
かすかに笑う。
「愚かで、そして……合理的。お前はやはり、私より帝国らしい」
視線が、真っ直ぐに交わる。
その言葉に、ノアの瞳がわずかに細まる。
「それが最期の言葉で良いか」
紅の魔力が、剣へと集まる。
「あと一つ」
アルトリウスは、真っ直ぐに言った。
「ノア・ルベド・ルビナス」
本当の名。
戦場の喧騒が、遠くなる。
「私は兄として、そして一人の男として」
ほんの僅か、柔らかい声音。
「お前に心から惹かれていたよ」
風が止まる。
レオンの目が、鋭く細められる。
ノアは、沈黙した。
否定もしない。 肯定もしない。
ただ、見下ろす。
アルトリウスは、わずかに肩を竦めた。
「さて、この言葉をどう捉えるのか。一族としてどう語るのか。……見届けられないのが残念だ」
その瞬間。
ノアの剣が、静かに振り上がる。
「……これで終わりだ、アルトリウス」
初めて、名を呼んだ。
アルトリウスの目が、わずかに見開かれる。そして。
満足したように、笑った。
次の瞬間。
紅の軌跡。
斬撃は、迷いなく。
首が、落ちる。
身体が崩れ、血が地に広がる。
紅の一族が、静かに拘束を解いた。
沈黙。
戦場の風が、再び流れ始める。
レオンは、横目でノアを見る。
その横顔は、冷静で、揺らぎは、ない。
だが。
ほんの僅か、呼吸が乱れている。
「……終わったな」
レオンが言う。
ノアは答えない。
ただ、空を見上げる。
赤い瞳に映るのは、焼け落ちた帝国の旗。
こうして。
帝国は最高指揮官を失い。
戦場は、幕を閉じた。
しかし、もう。
刻限は目の前に、迫っていた。
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