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第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる

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 ドアを開けて入ってきてすぐにコウスケは廃墟の壁にもたれかかり荒い息をあげる。
 
 
「ハハハ、てめえボロボロじゃねえか!」
「そんな状態でどうやって助けるんだ!」

 魔族たちは、コウスケ見て大笑いし始める。

「なんで来たの……私の事なんかほっときなさいよ……」

 スカーレットはコウスケを見て泣きながらつぶやいた。
 中に入る前に少し様子を伺ったが、そのときは抜け殻のようだった。
 泣く元気が出ていることを確認して安心する。

 先ほどスカーレットの殺気がこもった木剣を全身に浴びたせいで身体中が痛い。
 頭から結構な量が出血している。
 加えて結構な距離を疾走したので肺が苦しい。
 さらに加齢と不摂生で若い頃に比べて身体能力は格段に落ちている。
 相手は弱そうだが不安要素ばかりだった。

(はあ、若いころだったら、こんな奴ら死ぬ一歩手前でも瞬殺できたのに……)

 なので、いつものように過去の経験を活かしたゲスで卑怯なことをすることにした。

「はあ、はあ……」
「ギャハハハ」

(ッチ! 笑ってばかりいねえで仕掛けて来いよ素人が)

 イラついたので、スカーレットへ今日の不満を言うことにした。

「おい、クソガキ! こんな奴らじゃ大したカネになんねえだろ! もっと規模がデカくて考え方もヤバくて、強いのがいっぱいいる本格的な過激派のところ案内しろよ!」

 

「こいつら魔族の中でゴミ過ぎて相手にされなくて、人間のところに労働にきたは良いがそこでも使いもんにならなくて、仕方なくくだらねえことやって日銭稼いでるだけのただのクズの集まりじゃねえか」
「てめえ」

 コウスケの言葉に魔族たちは怒った。特に1人、今にも飛び掛かってきそうな奴がいる。

「で、ただのクズだとカッコ悪いから、優れている魔族を虐げる人間許せんとかもっともらしいこと言ってる自分に酔ってんだろ?」

 飛び掛かりそうな1人に小馬鹿にした笑みをなげた。


「なに言ってんの!? お願いだから逃げて!」

 スカーレットの悲痛な叫びが耳に入る。

「口だけのゲスが舐めんじゃねえ!」

 案の定、小馬鹿にされた魔族は剣を突き立てて突っ込んできた。

「死ね! ゲス勇者!」
 
 突き刺さる瞬間にコウスケは横によける。
 剣はそのまま壁に突き刺さった。

「は!?」

 ボロボロで壁に横たわってたコウスケが突然素早く動いたことに魔族は困惑する。
 コウスケは後ろにまわりこみ後頭部を手でつかみ壁に叩きつける。
 大きな音がして廃墟全体が揺れる。
 魔族は顔を壁にめり込ませて動かなくなった。

「へへへ」

 せせら笑いながらコウスケは軽快に体操を始めた。
 身体中が最近で一番痛い。
 久しぶりに運動したので息をするのも辛い。
 しかし、魔族との戦争中のことを思い出せば、それでもこんなものは屁でもない。

「てめえ、怪我人のフリしてやがったのか」

 相手の頭目らしき男はさらに怒っている。
 フリではない。怪我人である。
 だがお前らが弱すぎるからものともしないだけだ。
 その意味合いを込めてもっと挑発してやることにした。

「まあ、頭数は10人くらいだから、5000Gだとして5万G。小遣いにはなるか」

 頭目の唇はプルプルしている。効果がてき面でなによりだ。

「クソガキ! ジャンボパフェが食いてえつってたよな」

 挑発ついでに不安そうな顔をしているスカーレットも元気づけてやることにする。

「すっげえ少ねえが、お前のおかげで臨時収入が入りそうだから奢ってやる。だからちょっと待ってろ」

 コウスケは壁にめり込ませた魔族のポケットを漁り始めた。

「てめえなにやってんだ」

 背後にモーニングスターを持った大柄な魔族がやってきた。

「ジャンボカフェおごってやるカネを調達してんのよ」

 薄笑いを浮かべながらコウスケは返答する。

「なめんじゃねえぞ!」

 大柄な魔族が怒鳴り、モーニングスターを振り上げる。
 次の瞬間……。

「すいません、許してください!」

 コウスケは振り向きざまに深々と土下座をした。

「な、なんだあ……」

 コウスケの行動に大柄な魔族が戸惑いを覚えた瞬間、

「おらあ!」

 股間をめがけて勢いよく頭から飛び跳ねた。
 コウスケの頭が股間に直撃した。
 大柄な魔族は泡をふきながら意識を失い崩れ落ちた。
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