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第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる

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 コウスケが呼んだ自警団の応援隊はスカーレットの母やその一味を手際よく連行していった。
 応援を呼んだことで今回もらえる俸給は少し減ったが10人近くも運ぶのは手間なのでそれは仕方ない。
 後はこの1件の調書を書けば今日の仕事は終わる。
 それにはスカーレットの証言が必要である。
 夕日が空に広がる中、自警団の詰所を目指す2人の間にはなんとも言えない空気が漂っていた。

「おい!」
「なに?」
「ジャンボパフェ明日でいいか?」
「あんな中で言ったこと覚えてるんだ。意外と律儀なんだね。でもどうして?」

 いつもと違いしおらしいスカーレットにコウスケは調子を狂わせる。

「これからお前から色々聞いて調書書かなきゃいけねんだ。全部終わるころには夜になっちまう」
「そっか、それじゃカフェ終わってるから仕方ないね」

 頭をかきながらコウスケはあることを聞いてみることした。
 気まずくて聞きにくいことだがどうしても気になるので仕方ない。

「クソガキ……お前これからどうすんだ?」

 少し迷いながらも、スカーレットは答えた。

「……いい教会紹介してくれるんだよね」

 スカーレットは微笑みを浮かべた。
 だがその瞳からは寂しさと悲しさが伝わってきた。

「剣術をちゃんと勉強したいから聖堂騎士団とかあるようなところが良いんだけど知ってたりする?」

 無理をして明るく元気に振る舞おうとしていることは明らかだった。

「ああ、でもご飯が美味しい教会も捨てがたいなあ。うーんどっちにしよ」
「そのことなんだがな……」
「もしかしてその話なしになっちゃった? でも木剣の事とかは私が悪いからしょうがないか」

 コウスケは勿論、自分自身も誤魔化そうとするかのようにスカーレットは明るい口調で話し続ける。

「じゃあ、冒険者になってぶっつけ本番で覚えようかな。あ、でも私の歳じゃまだ登録無理だから何か適当な仕事でも……」
「いやあよ。教会は紹介できるんだがな……おめえみたいに木剣で無差別に人をすぐ殴る礼儀知らずの狂暴なクソガキなんて入所させちまったら教会に迷惑がかかっちまう。そしたら俺の信用がなくなっちまう」

 コウスケは顔を伏せる。

「でもほっといたら凶暴さをいかして、とんでもねえ罪を犯しそうだからな」

 その顔は赤くなっていた。

「仕方ねえから俺が世のため人のために犠牲になってお前を引き取ろうって思ってんだ」

 そして困った表情で頭をかいた。

「まあ、お前さえ良ければだが」



 今回の件と先々の不安で塞ぎ込む中、コウスケの予想外の言葉にスカーレットの心は安心と喜びで満たされた。
 しかし、強い安心と喜びを感じると同時に同じくらいの恥ずかしさもこみあげてきた。

「なによ! ゲス……パパの信用なんてそんなの元々ないじゃない!」

 ゲス勇者と言いかけて、パパに修正する。
 コウスケのことをパパと言ったのは出会ってから初めてだ。
 父親だしこれから世話になるので社交辞令のために修正したのだが、
 その言葉を発した瞬間、言い表せないほどの心地よい気持ちが広がった。
 それがさらに恥ずかしさを増大させた。


「それに木剣で無差別に人を攻撃してるとか完全に妄想じゃない! パパみたいな悪い奴しか叩いたことないわよ!」

 赤面しながらスカーレットは大きな声を出し続ける。

「私と住みたいなら素直にそう言いなさいよ! 本当はパパと一緒に住むのなんかすっごく嫌だけど、そこまで言うなら我慢して一緒に住んであげるわよ!」
「…ッケ。口の減らねえクソガキだ」

 コウスケはスカーレットから顔をそらす。


「そうだ、スカーレット、お前を育ててはやるが俺はお前の親父と決まった訳じゃねえ。だからパパって言うのはやめろ」
「なに言ってのよ! パパが私のパパに決まってるでしょ!」

 コウスケは初めてスカーレットのことを名前で呼んだ。
 しかし2人ともそのことには気づかなかった。
 夕日に照らされて言い争い続けながら父と娘は自警団の詰所を目指した。

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