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第6章 正義? 復讐? そんなもん面倒くせえだけじゃねえか

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(あー……気分が悪りい……)

 またあの時の夢を見た。
 この夢を見た後はいつも寝覚めが悪い。
 もう数年は見ていなかったのに、スカーレットとヴィオレを引きとってからは毎日のようにみている。

(結構長く寝ちまったなあ)

 早朝から証拠探しをして仮眠をとらずに夜勤。その後は日が昇るまで衛兵隊から逃げ続けた。
 流石に身体がしんどくなり、地下水路で振り切った後、そのまま寝てしまった。
 少しだけ仮眠をとるだけのつもりだったが、思った以上に長く寝てしまったようだ。
 頭をスッキリさせるために魔法加熱パイプを吸いながら、追放された時に嫌がらせでパクってきた事件の捜査資料をカバンから取り出し改めて目を通す。

(義務教育学校設立記念式爆破テロ事件……)

 式典当日、多数の領民が学校の完成を祝い、敷地でお祭りのような催しものがとり行われる中、魔法による爆破テロが発生。234名が死亡、100名以上が重軽傷を追う凄惨な結果となった。

 (さて事件の実行犯は……)

 魔力を送りこむことにより爆発するタリスマンの破片が領主の妻の遺体の手の平より発見される。これにより本事件は同人よる自爆テロと断定。
 同人は悪魔族の魔族でありながら、同地方で人間に擬態して長年生活していた。
 また、領主である勇者ヒセキ・コウスケに近づいたのは、この事件を実行するためだったことが判明している。

 いつ読んでも酷い内容の報告書である。コウスケは勿論、周辺の関係者にすら事情聴取が行われない中で、なにをもって憲兵は、ナランハが事件のためにコウスケに近づいたとしているのだろうか?

(まあ、俺を失墜させることが出来れば理由なんぞ何でも良かったってのは分かる。あの領の貴族階級が事件に大喜びしたのは間違いねえ。どんなに言ってもろくな捜査をしなかったしな)

 更にあの頃は事件捜査の知識がなく、自分で調べようにもなにをどうすれば良いか分からなかった。
 だが、今は下っ端とはいえ事件の捜査と容疑者の確保を行う仕事につき、知識と経験が多少ある。それを基におかしな所を頭の中で整理する。
 動機や経緯などを除けば、犯行に使われたという凶器が最もおかしい。

 まずは爆破の規模だ。使うものが自身の魔力をどれだけ送り込むかによってタリスマンの効果は変動する。
 あの規模の爆発を起こすには、魔族の親衛隊レベルの魔力を持っていなければいけない。
 魔力を大量に消費する治癒魔法が使えるとはいえ、ナランハは、そんなに高い魔力をもっていたのだろうか?
 次に爆破のタリスマンを使ったなら、その破片は広い範囲に細かく飛び散るはずだ。
 だが、実際タスマリンは大きく割れただけで、全てがナランハの手の平に収まっていた。
 それにタリスマンを持って自爆したならば、爆破の規模を考えるに遺体は判別できないほど破壊されるはずだ。しかし、損傷があるものの容易に特定できるほど、ナランハの遺体の損傷は軽微だった。しかも本来なら一番損傷があるであろうタリスマンを握っていた手は、全く損傷していなかったのだ。

(なので凶器は別にある。っていうかこれだ)

 商人の倉庫から奪った、羽の生えた不細工なくるみ割り人形が入った箱に目をやった。
 この人形型の魔道具の名称は遠爆人形。少量の魔力で遠隔から自由に動かせ好きな場所で大きな爆発を起こすことができる。
 ただし、爆発をおこしてから、使用者は強烈な苦悶の中30分以内に死亡する呪いがかかる。
 この呪いは、市販の呪い封じの札を貼れば封じることができるが、20年間は呪いの効果が続くため、その間ずっと札を貼り続けて封印しなければならない。

(20年経過する前に、この魔道具を破棄したら呪いを止める術がなくなる。そして……)


 呪いが消えるまでの20年間は、魔道具の呪いをおびた魔力が使用現場に漂い、使用したものの魔力が人形の中に沈澱する。

(つまりアイツを捕らえて、これを然るべきところで魔力鑑定すれば、犯行を立証できるって訳だ)

 これ以外にも余罪がいっぱいありそうなので、報奨金は膨大なものになるだろう。

「ヒャーッハハハハ!」

 まだ捕まえていないにも関わらず、カネの事を考えて有頂天になったコウスケは大笑いをあげた。

「おい、ゲス勇者がいたぞ!」
「討ち取れ!」

 すっかり振り切ったとばかり思っていたのに、馬鹿笑いに気づいた衛兵隊の大軍が、コチラに向かってきた。

(ふざけんなよ! 俺はてめえらの治療費や備品の弁償代を払いたくねえって、何度言ったら分かるんだ!)

「へへへ。これはな禁断の破壊魔法の結晶っていう魔道具だ。これに当たったら周囲を巻き込んで空間ごと次元のかなたに消滅するって代物よ」

「な、なんだと」
「怖気づくな。ハッタリだ!」

「おいおい、昔、魔王城の宝物庫から盗んだ本物だぜ。これのおかげで俺たちは邪神を倒すことができたんだ」

「み、耳を貸すな……」

 衛兵隊員たちはなおもコチラに向かって来るが、コウスケの話に露骨に怯えている。

「邪神を倒したこの威力、身をもって味わいやがれ! おらあ!」
 投げた瞬間、衛兵たちは絶叫しながら散り散りに逃げ始めた。
 この隙にコウスケも逃げる。
 そして商人の倉庫から焦って奪った、ただのビー玉がこんな形で役立ったことに走りながら一人ほくそ笑んだのだった。
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