海の藻屑となり君と

風早 雪

文字の大きさ
5 / 9

第5話 疑い

しおりを挟む
 それから海は産婦人科へと移された。核を入れられた覚えはないということ、同意はしていないということ。徐々に夫二人を疑う方向へと話は進んでいった。

「実はね、二人ともこの病院に来てるんですって。もし海さんがよかったら、話してみない?」
 産婦人科の女医は優しく問いかけた。
「勿論私も居るし、もし何かあったら隣の部屋にいるマッチョな看護師さんが食い止めてくれるわよ。」
そう言って笑いかけ、海は二人がこの診察室に入ることを認めた。

 それから海は酷く感情的になった。泣き喚いて、海を抱きしめる二人の胸を叩いたりもした。二人は海の頭を撫でて、肯定も否定もしなかった。

 それから海は一人カウンセラーの方へ移され、二人は産婦人科医の診察室へと残された。

 海は過呼吸気味になっていた。カウンセラーは海の手を握ってとんとんと優しく叩き、海のまとまらない話を「そうなのね、そういうことがあったのね、あなたはダメなんかじゃないのよ」と優しく聞いてくれた。

 一方診察室では、産婦人科医、隣の部屋から呼んだ筋肉質な看護師、そして海の夫二人での小規模で慎重な話し合いが行われていた。まず論点となったのは、なぜこのようなことをしようと考えたのかである。

 朔、修斗の二人は、決して海を苦しめようとしていたわけではなかった。ただ単に、赤ん坊が海の体に再度宿って、その子がもう一度産まれて、育てられたらそれで幸せだと思ったのである。そして海もきっとその子を第一子と同じ魂だと認識し、三人で幸せな家庭を築きなおせたら良いなと、そう思ったのである。

 二人の見解は同じで、そういった犯行に及ばなければならないほど傷ついた心を見抜けなかった責任を、医師と第一子出産に立ち会っていた看護師は感じていた。

 この世界では、核を同意なく入れることは犯罪ではない。マナー違反というだけで、犯罪ではないのだ。少子高齢化政策の、言わば汚点であり、現在もしばしば国会で論争が巻き起こっているが、とにかく子どもの数を増やさなければいけない、そこまで政府は追い込まれていると言って良いだろう。第二子以降であれば簡単に核を受け取れたのも、少子化対策の良くない甘さであり、それによって多くの望まれない命が誕生しているが、皮肉にも少子化は改善されつつある。

 その後も話し合いは進んだが、二人は一向に、新しい命は第一子と同じ魂ではないと認めなかった。つまり、二人とも何を言われようと、死んだ第一子と同じ子が新しく産まれ直すのだと信じて疑わなかったのである。


 時刻は十九時、病院の受診終了時間である。
 カウンセリング時間も十九時までであり、海は再び入院するか迷ったが、結局帰ることにした。話を聞いてもらい少し気持ちが落ち着き、夫と冷静に話し合いたいと思ったのである。

 二人の元に帰りたくない、そういった気持ちと裏腹に、海の一番信頼していて、側にいて安心する相手はやはり彼らであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

可哀想は可愛い

綿毛ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

処理中です...