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第三章 ティオール森林編
第57話 ケルベロス討伐を終えて 其の二
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森の外まで飛ばしましょうか、と突然現れたドライアドから信じられないような提案をされた。
たしかにあんなデカブツの死骸が森にあったら他のモンスターになかなか食われないだろうし、邪魔ではあるだろうけど、そんなことが出来るものなのか。精霊は人間の及ばない魔法を使うと聞いたことがあるが、俺の身長の何倍もあるケルベロスを持ち上げ、ましてや飛ばすなどさすがに出来っこないと思ってしまう。
師匠はダンジョンで大きな魔力結晶を魔力操作で浮かせていたが、それは師匠だから出来るわけであって、俺は他の小さな魔力結晶をやっと持ち上げられる程度だ。
あのケルベロスは魔力結晶を何十万も合わせた重さより重いだろう。それに師匠が魔力結晶を持ち上げられたのは魔力で出来ていたからでもある。
魔力が特別多く含まれているわけではない巨体を移動させる。そんなことは常識的に考えれば、他の魔法を併用したとしても不可能だろう。
師匠も難しい顔をして考え込んでいる。おそらく俺と似たようなことを考えているのだろう。
「出来るかどうかの心配はしなくていいですよ、ちゃんと出来ますから。私は森を護るドライアドなので、侵入者を排除出来るんですよ」
ふふん、と得意げに胸を張ってドライアドが言う。それならばケルベロスだって排除すればいいのではないか。
「最初はあれを排除しようとしたのですが、抵抗されてしまって出来ませんでした」
まるで思考を読むかのようにドライアドが答える。頭の中に声を届けているのだから、頭の中くらい読めるのかもしれない。
「ですので、あなた方には感謝しています。私はあれを厄介払いしたい、あなた方は持ち帰りたい。利害が一致しているではありませんか。私は先に森の外まであれを届けるので、手ぶらでのんびりと帰っていただければいいのです」
本当に出来るのなら渡りに船のような話だが……師匠の方を一瞥する。悩んでいる様子だが、決まったようだ。
「分かりました。ただ、その前にケルベロスの体に名前を刻ませてください」
こちらを振り向き、コルネくんもそれでいいかい、と小声で訊いてくるので首肯する。そのまま飛ばしてしまうと討伐した証明が出来ないからな。第一発見者の手柄にされてしまう可能性が高い。
師匠が頭部と腹部に大きく「ロンド」と皮を剥ぎ取り、文字を刻む。その部分の毛皮は使えなくなるかもしれないが、それでも十分な面積がある。
「準備は出来ましたか? 飛ばす場所はどうしますか?」
飛ばす場所……か。森の近くに家はあまりないはずだが、畑が広がっているためそこに人はいるかもしれないし、そこに落とせばきっと作物は駄目になってしまうだろう。
確実に人がいなくて、被害も出ない場所……そんなところがあるはずが──いや、ある。
「師匠、トレトのダンジョンは──」
「そこだ!」
師匠が突然大きな声を出したせいで、ドライアドがびくっとする。師匠がドライアドに謝ってから告げる。
「トレトのダンジョンの上でお願いします」
ダンジョンは基本的に最奥部の魔力結晶を取ってしまうとダンジョンの維持ができなくなり、崩壊してしまう。そのため、トレトのダンジョンの地上部分には何もないし、おそらく人も住んでいないだろう──たくさんの死体が埋まっている場所で生活したくないという事情もあるだろうが。
「分かりました。では飛ばしますね」
事もなげにドライアドが軽く手を動かすと、ケルベロスの巨体がふわりと持ち上がる。本当に出来ることにも驚いたが、そんなに軽々と行えることは衝撃だった。
ふんっ、と可愛らしい声で小さく言いながら腕で何かを投げるような動きをするとケルベロスの死骸が消え、遥か向こうで微かにどしゃあ、という音が聞こえた気がした。
ふぅ、と汗を拭うような仕草をドライアドがしているあたり、本当にケルベロスが飛ばされた音だったのだろう。
「それでは、また」
そう言ってドライアドは森の奥に消えていった。師匠と俺はしばらく何が起こったのかよく分からずに立ち尽くしていた。
たしかにあんなデカブツの死骸が森にあったら他のモンスターになかなか食われないだろうし、邪魔ではあるだろうけど、そんなことが出来るものなのか。精霊は人間の及ばない魔法を使うと聞いたことがあるが、俺の身長の何倍もあるケルベロスを持ち上げ、ましてや飛ばすなどさすがに出来っこないと思ってしまう。
師匠はダンジョンで大きな魔力結晶を魔力操作で浮かせていたが、それは師匠だから出来るわけであって、俺は他の小さな魔力結晶をやっと持ち上げられる程度だ。
あのケルベロスは魔力結晶を何十万も合わせた重さより重いだろう。それに師匠が魔力結晶を持ち上げられたのは魔力で出来ていたからでもある。
魔力が特別多く含まれているわけではない巨体を移動させる。そんなことは常識的に考えれば、他の魔法を併用したとしても不可能だろう。
師匠も難しい顔をして考え込んでいる。おそらく俺と似たようなことを考えているのだろう。
「出来るかどうかの心配はしなくていいですよ、ちゃんと出来ますから。私は森を護るドライアドなので、侵入者を排除出来るんですよ」
ふふん、と得意げに胸を張ってドライアドが言う。それならばケルベロスだって排除すればいいのではないか。
「最初はあれを排除しようとしたのですが、抵抗されてしまって出来ませんでした」
まるで思考を読むかのようにドライアドが答える。頭の中に声を届けているのだから、頭の中くらい読めるのかもしれない。
「ですので、あなた方には感謝しています。私はあれを厄介払いしたい、あなた方は持ち帰りたい。利害が一致しているではありませんか。私は先に森の外まであれを届けるので、手ぶらでのんびりと帰っていただければいいのです」
本当に出来るのなら渡りに船のような話だが……師匠の方を一瞥する。悩んでいる様子だが、決まったようだ。
「分かりました。ただ、その前にケルベロスの体に名前を刻ませてください」
こちらを振り向き、コルネくんもそれでいいかい、と小声で訊いてくるので首肯する。そのまま飛ばしてしまうと討伐した証明が出来ないからな。第一発見者の手柄にされてしまう可能性が高い。
師匠が頭部と腹部に大きく「ロンド」と皮を剥ぎ取り、文字を刻む。その部分の毛皮は使えなくなるかもしれないが、それでも十分な面積がある。
「準備は出来ましたか? 飛ばす場所はどうしますか?」
飛ばす場所……か。森の近くに家はあまりないはずだが、畑が広がっているためそこに人はいるかもしれないし、そこに落とせばきっと作物は駄目になってしまうだろう。
確実に人がいなくて、被害も出ない場所……そんなところがあるはずが──いや、ある。
「師匠、トレトのダンジョンは──」
「そこだ!」
師匠が突然大きな声を出したせいで、ドライアドがびくっとする。師匠がドライアドに謝ってから告げる。
「トレトのダンジョンの上でお願いします」
ダンジョンは基本的に最奥部の魔力結晶を取ってしまうとダンジョンの維持ができなくなり、崩壊してしまう。そのため、トレトのダンジョンの地上部分には何もないし、おそらく人も住んでいないだろう──たくさんの死体が埋まっている場所で生活したくないという事情もあるだろうが。
「分かりました。では飛ばしますね」
事もなげにドライアドが軽く手を動かすと、ケルベロスの巨体がふわりと持ち上がる。本当に出来ることにも驚いたが、そんなに軽々と行えることは衝撃だった。
ふんっ、と可愛らしい声で小さく言いながら腕で何かを投げるような動きをするとケルベロスの死骸が消え、遥か向こうで微かにどしゃあ、という音が聞こえた気がした。
ふぅ、と汗を拭うような仕草をドライアドがしているあたり、本当にケルベロスが飛ばされた音だったのだろう。
「それでは、また」
そう言ってドライアドは森の奥に消えていった。師匠と俺はしばらく何が起こったのかよく分からずに立ち尽くしていた。
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