127 / 328
第七章 里帰りと収穫祭編
第123話 お土産
しおりを挟む
朝にミャクー村を出て、ラムハに着くころには、日が暮れ始めていた。長いこと歩いていたが、持っているパンは氷の魔法で冷やしていたので、問題ない。
最初にラムハまで来たときに比べると、魔力操作を使っている分早くなっているのが分かる。あのときは朝早くに出て、着くころにはもう夜だったから半日だ。
道場に着くと、今日は師匠が飛び出してきた。
「コルネくん、おっかえりー!」
俺の顔を見るなり、そう告げる師匠は異常にテンションが高かった。今までも妙にテンションが高いことはあったが、今回はその比ではない。「妙に」ではなく、「異常に」だ。
「里帰りはどうだった? 楽しかったかい?」
「は……はい。あ、そうだ。これお土産です」
師匠の勢いに戸惑いながら、袋に入れていたパンを袋ごと差し出す。
「お、おみ……おみやげ!?」
袋を持った師匠がわなわなと震えだす。師匠と出かけたときは必ずヘルガさんにお土産を買っていたから、何か買って帰った方がいいと思ったのだが……もしかして里帰りにお土産はいらなかったのだろうか。
袋の中身を見て、まるで財宝を見つけたかのような顔をする師匠。
「ありがとう、コルネくん。大事に食べるね」
目を細めた笑顔でそう告げる師匠の頬にはツー、と涙がつたっている。師匠が袋を抱えたまま奥へと引っ込んでから、俺も道場に上がろうとすると、食堂の方から声が聞こえてくる。
「ヘルガ! お茶淹れて! コルネくんのお土産!」
「全て聞いておりました。今、準備しているところです。もちろんとっておきの、ですよね?」
「もちろん!」
どうやら今からおやつに持って帰ったパンを食べる気らしい。
ずっと冷やしていたとはいえ、外で持ち歩いていたパンだ──なるべく早く食べた方がいいのは分かる。分かるのだが……聞こえてくる声が、異様にテンションが高い。
普段静かな口調で喋るヘルガさんの声まで嘘みたいに高い。別人が喋っているのかと思うほどだが、声はヘルガさんのものなのだ。
俺は一旦、荷物を置いてから食堂に向かう。食堂の扉は開けっ放しで、ちょうど師匠とヘルガさんがパンを食べ始めるところだった。
入りづらい雰囲気だったので、扉の陰から様子を窺う。
「んっ……素朴な味……! これは何の変哲もないありふれたパン! でもコルネくんが僕たちのために買ってきてくれたというだけで──それだけで価値がある! この美味しさ……プライスレス……」
パンを一口齧っただけとは思えない量の食レポをする師匠。そんなにお土産が嬉しかったのだろうか。
もう、大袈裟だなぁ……ヘルガさんはきっとそんなことはないだろう。そう思ったのだが……
「たしかに素朴な味ですが、これもまたいいものです。それよりもコルネくんが私たちのためにこのパンを買ってきてくれたという事実だけで私は嬉しいです。私の中ではパンがこの世界の全てであり、パンは私に幸福を与えてくれます」
ヘルガさんも似たようなことを言っている上に、最後の方はもうおかしくなってしまっている。
二人がそんなに喜んでくれるなら、どこかに行ったときは絶対にお土産を買わないとな。
最初にラムハまで来たときに比べると、魔力操作を使っている分早くなっているのが分かる。あのときは朝早くに出て、着くころにはもう夜だったから半日だ。
道場に着くと、今日は師匠が飛び出してきた。
「コルネくん、おっかえりー!」
俺の顔を見るなり、そう告げる師匠は異常にテンションが高かった。今までも妙にテンションが高いことはあったが、今回はその比ではない。「妙に」ではなく、「異常に」だ。
「里帰りはどうだった? 楽しかったかい?」
「は……はい。あ、そうだ。これお土産です」
師匠の勢いに戸惑いながら、袋に入れていたパンを袋ごと差し出す。
「お、おみ……おみやげ!?」
袋を持った師匠がわなわなと震えだす。師匠と出かけたときは必ずヘルガさんにお土産を買っていたから、何か買って帰った方がいいと思ったのだが……もしかして里帰りにお土産はいらなかったのだろうか。
袋の中身を見て、まるで財宝を見つけたかのような顔をする師匠。
「ありがとう、コルネくん。大事に食べるね」
目を細めた笑顔でそう告げる師匠の頬にはツー、と涙がつたっている。師匠が袋を抱えたまま奥へと引っ込んでから、俺も道場に上がろうとすると、食堂の方から声が聞こえてくる。
「ヘルガ! お茶淹れて! コルネくんのお土産!」
「全て聞いておりました。今、準備しているところです。もちろんとっておきの、ですよね?」
「もちろん!」
どうやら今からおやつに持って帰ったパンを食べる気らしい。
ずっと冷やしていたとはいえ、外で持ち歩いていたパンだ──なるべく早く食べた方がいいのは分かる。分かるのだが……聞こえてくる声が、異様にテンションが高い。
普段静かな口調で喋るヘルガさんの声まで嘘みたいに高い。別人が喋っているのかと思うほどだが、声はヘルガさんのものなのだ。
俺は一旦、荷物を置いてから食堂に向かう。食堂の扉は開けっ放しで、ちょうど師匠とヘルガさんがパンを食べ始めるところだった。
入りづらい雰囲気だったので、扉の陰から様子を窺う。
「んっ……素朴な味……! これは何の変哲もないありふれたパン! でもコルネくんが僕たちのために買ってきてくれたというだけで──それだけで価値がある! この美味しさ……プライスレス……」
パンを一口齧っただけとは思えない量の食レポをする師匠。そんなにお土産が嬉しかったのだろうか。
もう、大袈裟だなぁ……ヘルガさんはきっとそんなことはないだろう。そう思ったのだが……
「たしかに素朴な味ですが、これもまたいいものです。それよりもコルネくんが私たちのためにこのパンを買ってきてくれたという事実だけで私は嬉しいです。私の中ではパンがこの世界の全てであり、パンは私に幸福を与えてくれます」
ヘルガさんも似たようなことを言っている上に、最後の方はもうおかしくなってしまっている。
二人がそんなに喜んでくれるなら、どこかに行ったときは絶対にお土産を買わないとな。
1
あなたにおすすめの小説
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
パーティーから追放され、ギルドから追放され、国からも追放された俺は、追放者ギルドをつくってスローライフを送ることにしました。
さら
ファンタジー
勇者パーティーから「お前は役立たずだ」と追放され、冒険者ギルドからも追い出され、最後には国からすら追放されてしまった俺――カイル。
居場所を失った俺が選んだのは、「追放された者だけのギルド」を作ることだった。
仲間に加わったのは、料理しか取り柄のない少女、炎魔法が暴発する魔導士、臆病な戦士、そして落ちこぼれの薬師たち。
周囲から「無駄者」と呼ばれてきた者ばかり。だが、一人一人に光る才能があった。
追放者だけの寄せ集めが、いつの間にか巨大な力を生み出し――勇者や王国をも超える存在となっていく。
自由な農作業、にぎやかな炊き出し、仲間との笑い合い。
“無駄”と呼ばれた俺たちが築くのは、誰も追放されない新しい国と、本物のスローライフだった。
追放者たちが送る、逆転スローライフファンタジー、ここに開幕!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる