パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第七章 里帰りと収穫祭編

第134話 収穫祭当日 其の二

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「だいぶ人が増えてきたね」

 行き交う人を眺めながら師匠が言う。太陽が完全に顔を出した頃、師匠と俺は一通り買い物を終えて、広場の片隅で串焼きを頬張っていた。

 まだステージが始まっていないというのに、もうすでに普段は街で見ることのない数の人が集まってきている。

「そうですね……朝っぱらからこんなに人が来るとは思いませんでした。さっき串焼きを買ったお店も、もうごった返してますね」

 そう言いながら、二本目の串焼きに手を伸ばす。食べ終わったら、ヘルガさんの分を持って帰るのだ。

 誰かが留守番をしなければならない都合上、俺たちが出ている間はヘルガさんは出られない。だから俺たちは一度帰って、入れ替わりでヘルガさんが出るのだ。

 しかし、その頃には人が多すぎて買い物が難しくなるため、頼まれていたものと朝食を俺たちが買って帰るのだ。

 串焼きは少し冷めてしまうかもしれないが、食べる前に魔法でさっと炙れば問題ないだろう。もともと俺たちの食べている串焼きも作り置きで、アツアツだったわけでもないしな。

 さっき師匠が慣れた様子で小さい炎を出して串焼きを炙っていたのだが、それを見て俺も真似してみたら、少し焦がしてしまった。

 二本目こそは、と手に取った串焼きの下に小さな炎を出す。さっきより炎を小さくして……このくらいかな。

「もう少し、小さくてもいいかな」

 二本目を美味しそうに食べている師匠がアドバイスをくれる。もう少し、と──小さくした炎に串焼きをゆっくりと近づけ、万遍なく温まるように串を回す。

 維持していた炎を消し、串焼きを口に運ぶ。噛んだ途端、アツアツのお肉から脂がじゅわっと飛び出す。

 美味しい──次に串焼きを買ったときも絶対炙ろう。外で火を使って加熱するときは、焚き火を使うと思っていたが、軽くなら魔法で炎を加減して薪なしでも出来るというのは盲点だった。

 どのくらいの炎にすればいいかの感覚が掴め、残りの串焼きは難なく炙ることが出来た。ハフハフしながら自分の串焼きを全て平らげ、腰を上げる。



 道場に帰って、ヘルガさんに串焼きと頼まれていたものを渡す。受け取ったヘルガさんは買ったものの確認は後回しにして、串焼きを手に取り厨房へと消える。

 もういつもなら朝食を終えている時間だから、かなりお腹が空いていたのだろう。

 厨房を覗くと、くるくると串を回して炙り、次々と串焼きを平らげていくヘルガさんが見えた。よほどお腹が空いていたとみえる。

 師匠や俺と違い、食べている間も炎を維持したまんまだ。一本を食べ終えるまでのスピードが早く、その度に炎を出すのが面倒なのかもしれないが、炎を小さいまま維持するのはかなり集中力を使うはずだ。

 それを食べながらやってのけるなんて──もしかするとヘルガさんは普段から料理をしているから、火加減を調節するのは得意なのかもしれない。

 こういう難しいことを何でもないようにやってのけるのは、やはり憧れる。今度俺もやってみよう。
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