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第九章 ルミーヴィアへの旅編
第169話 来客(マリー視点)
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コルネのもとへ最後の望みをかけた手紙を送ってから二日後、私がため息をつきながら店番をしていると、がちゃりと扉が開く。
昼過ぎでほとんど人が来ない時間帯に珍しい、と思いながら俯いていた顔を上げると、入ってきたのはコルネだった。
「マリー! よかった……まだ出てなくて」
「コルネ!? なんでここに?」
「手紙の返事を書いて送るより、直接伝える方が速いから」
そう答えるコルネは走ってきたのだろう、息が少し弾んでいる。確かにコルネの言う通りだが、だからといって、歩いて半日かかる距離を走るのは普通しないと思う。
「そ、そう。それで、手紙の返事は──」
「ああ、師匠と三人で行くことになったけど、大丈夫? 」
「え!? ロンド様もついてくるの!? いや、むしろとてもありがたいというか安心というか──」
想像もしていなかった答えに困惑する。「幼馴染で元パーティメンバーのよしみでタダ働きをしてほしい」なんて都合のよすぎる頼みを受けてくれるとは思っていなかった。
しかもあのロンド様まで一緒になんて……! ロンド様が一緒ならもう盗賊なんて全然怖くないし、Sランク冒険者と一緒に旅をするなんてこんな経験はおそらくもう一生できないだろう。
それにしてもロンド様は毎日お忙しいはずなのに……わざわざ私一人のためにスケジュールを空けてくださったんだ。きっとコルネが多忙なロンド様に頼み込んでくれたんだろう。
私に手を差し伸べてくれる二人の温かさに目頭が熱くなる。コルネの性格ならもしかしたら受けてくれるかも、なんて少し思っていたのが申し訳ない。
「ありがとう! 本当にありがとう、コルネ」
涙を浮かべながら、感謝の印としてコルネの手を両手で握り、ブンブン振るとコルネが照れる。
「……ッ! ──いや、その……マリーの力になれて何よりだよ。師匠の申請が通るまで時間かかるから、出発日はだいぶ後なんだけど、それでいい?」
「もちろん!」
ちょっとかわいい──コルネのこんな顔、初めて見たかも。照れるとこんな表情するんだ……知らなかった。
そこで店の扉がいきなり開く。二人でくるりと首を回して振り向くと、アルノさんが顔を出していた。
「え……と、お邪魔しました?」
「いや、別にそんなことないですよ」
私は目に浮かぶ涙を拭いながら答える。
「兄さん、久しぶり」
「久しぶりだね、コルネ。コルネがすごい勢いで村を駆け抜けていくのが見えてさ。方向からしてたぶんここだと思ったんだ」
うんうん、と頷くアルノさん。たしかに村の中を猛スピードで走る人なんていないから目立つことこの上ない。
「それで、何話してたの?」
「私がレネさんのところに行くのに、コルネとロンド様についてきてもらうって話をですね──」
そこまで話したところで、アルノさんが異様なまでの勢いで食いついてくる。
「ロンド様!? えっロンド様も行くの? 俺も行きたい……」
「……冒険者はやめたんじゃなかったですっけ? だから私アルノさんには頼めないと思ってたんですが」
「コルネ、駄目かな? 兄さんのお・ね・が・い!」
私の言葉を無視してコルネに向かって手を合わせるアルノさん。三人だと気まずいところあるから、私としてはありがたいけどさ。
「私、ロンド様とは面識ないから少しでも知ってる人がいた方が安心かな……なんて」
「えっ──これ本当に行く流れ? 半分冗談で半分本気だったけどさ」
「えっ?」
「えっ?」
てっきり私は本気だと思っていた──だってロンド様と一緒に旅をできる権利なんて金貨をいくら積んでも買えるものじゃない。図々しいと思われてもなりふり構っている場合じゃないのかとばかり……
「帰って師匠に訊いてみる。また明日来るから返事はそのときに」
結局、アルノさんが一緒に行くかは保留のまま、私たちに日時や集合場所を伝えてコルネは帰っていった。
昼過ぎでほとんど人が来ない時間帯に珍しい、と思いながら俯いていた顔を上げると、入ってきたのはコルネだった。
「マリー! よかった……まだ出てなくて」
「コルネ!? なんでここに?」
「手紙の返事を書いて送るより、直接伝える方が速いから」
そう答えるコルネは走ってきたのだろう、息が少し弾んでいる。確かにコルネの言う通りだが、だからといって、歩いて半日かかる距離を走るのは普通しないと思う。
「そ、そう。それで、手紙の返事は──」
「ああ、師匠と三人で行くことになったけど、大丈夫? 」
「え!? ロンド様もついてくるの!? いや、むしろとてもありがたいというか安心というか──」
想像もしていなかった答えに困惑する。「幼馴染で元パーティメンバーのよしみでタダ働きをしてほしい」なんて都合のよすぎる頼みを受けてくれるとは思っていなかった。
しかもあのロンド様まで一緒になんて……! ロンド様が一緒ならもう盗賊なんて全然怖くないし、Sランク冒険者と一緒に旅をするなんてこんな経験はおそらくもう一生できないだろう。
それにしてもロンド様は毎日お忙しいはずなのに……わざわざ私一人のためにスケジュールを空けてくださったんだ。きっとコルネが多忙なロンド様に頼み込んでくれたんだろう。
私に手を差し伸べてくれる二人の温かさに目頭が熱くなる。コルネの性格ならもしかしたら受けてくれるかも、なんて少し思っていたのが申し訳ない。
「ありがとう! 本当にありがとう、コルネ」
涙を浮かべながら、感謝の印としてコルネの手を両手で握り、ブンブン振るとコルネが照れる。
「……ッ! ──いや、その……マリーの力になれて何よりだよ。師匠の申請が通るまで時間かかるから、出発日はだいぶ後なんだけど、それでいい?」
「もちろん!」
ちょっとかわいい──コルネのこんな顔、初めて見たかも。照れるとこんな表情するんだ……知らなかった。
そこで店の扉がいきなり開く。二人でくるりと首を回して振り向くと、アルノさんが顔を出していた。
「え……と、お邪魔しました?」
「いや、別にそんなことないですよ」
私は目に浮かぶ涙を拭いながら答える。
「兄さん、久しぶり」
「久しぶりだね、コルネ。コルネがすごい勢いで村を駆け抜けていくのが見えてさ。方向からしてたぶんここだと思ったんだ」
うんうん、と頷くアルノさん。たしかに村の中を猛スピードで走る人なんていないから目立つことこの上ない。
「それで、何話してたの?」
「私がレネさんのところに行くのに、コルネとロンド様についてきてもらうって話をですね──」
そこまで話したところで、アルノさんが異様なまでの勢いで食いついてくる。
「ロンド様!? えっロンド様も行くの? 俺も行きたい……」
「……冒険者はやめたんじゃなかったですっけ? だから私アルノさんには頼めないと思ってたんですが」
「コルネ、駄目かな? 兄さんのお・ね・が・い!」
私の言葉を無視してコルネに向かって手を合わせるアルノさん。三人だと気まずいところあるから、私としてはありがたいけどさ。
「私、ロンド様とは面識ないから少しでも知ってる人がいた方が安心かな……なんて」
「えっ──これ本当に行く流れ? 半分冗談で半分本気だったけどさ」
「えっ?」
「えっ?」
てっきり私は本気だと思っていた──だってロンド様と一緒に旅をできる権利なんて金貨をいくら積んでも買えるものじゃない。図々しいと思われてもなりふり構っている場合じゃないのかとばかり……
「帰って師匠に訊いてみる。また明日来るから返事はそのときに」
結局、アルノさんが一緒に行くかは保留のまま、私たちに日時や集合場所を伝えてコルネは帰っていった。
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