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第十章 Aランク昇格編
第208話 Aランク昇格への挑戦 其の二
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「コルネくんからの手紙、届きましたよ」
玄関の扉を閉め、ヘルガが大きな声でロンドに聞こえるようにそう言うと、ダダダと奥からロンドが駆けつける音がする。
ロンドが自室から持ってきたペーパーナイフで封を開け、立ったままその場で手紙を二人で覗き込む。
「よかった……! 討伐クエストは順調みたいだ。怪我もしていないらしいし、この調子でいけば案外すぐに終わってしまうかもね」
安堵の表情を浮かべるロンドに対して、ヘルガは眉根を寄せて何か考えている様子だ。
「少し気になるところがあります。前回──十日前に届いた手紙を見せていただけますか?」
分かった、と短く答え、二人で書斎のあるロンドの自室に向かう。
部屋に入るとロンドは大事にしまってあった一通目の手紙を机の上に広げ、今日届いた手紙と見比べる。
両方ともおおよその内容は似たようなもので、現時点で何体討伐したか、体調に問題はない、と簡潔な報告が書き綴られている。
「もしかすると──かもしれませんね……」
難しい顔をしたヘルガが顎に手をあてて呟く。
「ロンド様、この二通を見比べて何か気付いたことはありませんか?」
「見比べて──うーん、内容も似たり寄ったりで、気になるところは見つからないけど……」
「内容ではなくて字に注目してください」
しばらく目線を右に左に動かしてから、ハッと何かに気付いたようにロンドが答える。
「もしかしてコルネくんはあんまり字が上手じゃない……?」
「それはそうかもしれませんが……いえ、字が安定していないという意味でしたら正解です。ここを見てください」
そう言ってヘルガは手紙の中にある「元気」という字を指す。
「この二通目の『元気』という字、他に比べて少し傾いてると思いませんか? 一通目の『元気』と比べると分かると思います」
「言われてみれば……たしかに。一通目は真っ直ぐだけど、二通目はちょっと傾いてる。二通目全体を見ても傾いてるようには見えないのに。でもただの偶然じゃ──」
「──はい、もちろんただの偶然の可能性も十分あります。しかし、もしこれが偶然じゃないとしたら」
「したら?」
焦るロンドに問われて、少し言い出しにくそうなヘルガ。
「コルネくんはおそらく元気じゃないんだと思います」
「元気じゃない?」
「はい──諜報の任務には、忍び込んで機密の文書を盗み見るものも多くあります。そういったものはなくなったら大騒ぎになるので、私たちは内容だけを持ち出します。しかし、文書に記された情報は内容だけではありません」
真剣な顔で頷くロンドにヘルガは続きの言葉を紡ぐ。
「字画の長さ、傾き、大きさ──そこからも情報を得るために、私たち諜報は筆跡から心理を読み取る術を学びます。それを用いると、この『元気』の字は何らかの感情が出ていると言えます」
「本当に元気なら書いていて感情が出るはずはない、つまり実際は元気ではないと?」
「そういうことです」
その言葉を聞いた途端、ロンドからさっと血の気が引く。
玄関の扉を閉め、ヘルガが大きな声でロンドに聞こえるようにそう言うと、ダダダと奥からロンドが駆けつける音がする。
ロンドが自室から持ってきたペーパーナイフで封を開け、立ったままその場で手紙を二人で覗き込む。
「よかった……! 討伐クエストは順調みたいだ。怪我もしていないらしいし、この調子でいけば案外すぐに終わってしまうかもね」
安堵の表情を浮かべるロンドに対して、ヘルガは眉根を寄せて何か考えている様子だ。
「少し気になるところがあります。前回──十日前に届いた手紙を見せていただけますか?」
分かった、と短く答え、二人で書斎のあるロンドの自室に向かう。
部屋に入るとロンドは大事にしまってあった一通目の手紙を机の上に広げ、今日届いた手紙と見比べる。
両方ともおおよその内容は似たようなもので、現時点で何体討伐したか、体調に問題はない、と簡潔な報告が書き綴られている。
「もしかすると──かもしれませんね……」
難しい顔をしたヘルガが顎に手をあてて呟く。
「ロンド様、この二通を見比べて何か気付いたことはありませんか?」
「見比べて──うーん、内容も似たり寄ったりで、気になるところは見つからないけど……」
「内容ではなくて字に注目してください」
しばらく目線を右に左に動かしてから、ハッと何かに気付いたようにロンドが答える。
「もしかしてコルネくんはあんまり字が上手じゃない……?」
「それはそうかもしれませんが……いえ、字が安定していないという意味でしたら正解です。ここを見てください」
そう言ってヘルガは手紙の中にある「元気」という字を指す。
「この二通目の『元気』という字、他に比べて少し傾いてると思いませんか? 一通目の『元気』と比べると分かると思います」
「言われてみれば……たしかに。一通目は真っ直ぐだけど、二通目はちょっと傾いてる。二通目全体を見ても傾いてるようには見えないのに。でもただの偶然じゃ──」
「──はい、もちろんただの偶然の可能性も十分あります。しかし、もしこれが偶然じゃないとしたら」
「したら?」
焦るロンドに問われて、少し言い出しにくそうなヘルガ。
「コルネくんはおそらく元気じゃないんだと思います」
「元気じゃない?」
「はい──諜報の任務には、忍び込んで機密の文書を盗み見るものも多くあります。そういったものはなくなったら大騒ぎになるので、私たちは内容だけを持ち出します。しかし、文書に記された情報は内容だけではありません」
真剣な顔で頷くロンドにヘルガは続きの言葉を紡ぐ。
「字画の長さ、傾き、大きさ──そこからも情報を得るために、私たち諜報は筆跡から心理を読み取る術を学びます。それを用いると、この『元気』の字は何らかの感情が出ていると言えます」
「本当に元気なら書いていて感情が出るはずはない、つまり実際は元気ではないと?」
「そういうことです」
その言葉を聞いた途端、ロンドからさっと血の気が引く。
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