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最終章
第273話 止血
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「師匠!」
それを見た瞬間、時間の流れが遅くなり、急速に世界から色が退いていくような感覚に陥った。
灰色の世界の中でぐるぐると頭で鳴り響く俺の声。師匠が死ぬ、死んでしまう──これは爪の攻撃があることを伝えていなかった俺のせい? 俺が師匠を殺した? いや、あのとき無理にでも師匠に休んでから闘うように言っていれば──
思考の渦に囚われてしまいそうになるが、師匠にゆっくりと迫るオーガの拳を見てハッとする。まだオーガは倒せていない。次のことを考えないと。
ぐったりと倒れている師匠のもとへ飛びだし、師匠の体を素早く抱え、その間に土魔法で土壁をつくる。オーガの拳が到達する前に土壁を地面と水平に蹴って、後ろへ大きく跳ぶ。
そのままオーガから距離を取って、広場の端に師匠をゆっくりと下ろす。
「コ……ルネ…………くん、ご……めん…………」
「無理して喋らないでください」
まだ意識はあるが、胸の赤い染みはどんどん広がりつづけている。血を止めなければ──そう思い、大きな傷のある胸部を上から圧迫するが──
「止まらない……」
本当なら破いた服を背中へと回して縛りたいのだが、服を破いてから師匠の体を持ち上げて、結ぶのにはあまりにも時間がかかる。こうしている間にもオーガはこちらに向かってきている。
何か他に手はないかと考えたときに脳裏に一つの方法が浮かぶ。一発勝負なうえに初めてやるから効果があるという確証はないが、やる価値は十分にある。
血は時間が経てば固まる──ということは、血にはそれ自身を固める成分が入っているということになる。
使うのは毒魔法だ。俺の推測が正しければ毒魔法は体の記憶にある液体を生成する魔法。ならば、その固める成分を傷口に生成すれば速く血が固まるのではないか。
上手く生成できるかも本当に速く血が固まるのかも分からない。もしかしたら毒が混じってしまうかもしれない。
でも、今できるなかで師匠が生き残る可能性が一番高いのはこの方法だと判断した。
念のため、解毒薬を先に師匠に飲ませてからオーガの足音が近づいてくるのを聞きながら目を瞑り集中する。
イメージしろ──体中を巡っている血中の血を固める成分、そして血が固まる感覚に固まった血の感触、何をイメージすれば分からないから思い浮かべるピースはきっと多い方がいい。
魔法を発動させると、薄い色をした液体が出てくる。毒を出した感覚はないが、血の色からはかけ離れている。
おそらく毒ではないのだが、イメージした通りの血を固める成分が入っているかは分からない。失敗かもしれないが、毒ではないのならやらないよりはやる方がいい──そのまま俺はそれを傷口に延ばして、上から押さえる。
「師匠、死なないでくださいね」
聞こえているかも分からない一言を残し、俺はオーガの方へと駆けていく。
それを見た瞬間、時間の流れが遅くなり、急速に世界から色が退いていくような感覚に陥った。
灰色の世界の中でぐるぐると頭で鳴り響く俺の声。師匠が死ぬ、死んでしまう──これは爪の攻撃があることを伝えていなかった俺のせい? 俺が師匠を殺した? いや、あのとき無理にでも師匠に休んでから闘うように言っていれば──
思考の渦に囚われてしまいそうになるが、師匠にゆっくりと迫るオーガの拳を見てハッとする。まだオーガは倒せていない。次のことを考えないと。
ぐったりと倒れている師匠のもとへ飛びだし、師匠の体を素早く抱え、その間に土魔法で土壁をつくる。オーガの拳が到達する前に土壁を地面と水平に蹴って、後ろへ大きく跳ぶ。
そのままオーガから距離を取って、広場の端に師匠をゆっくりと下ろす。
「コ……ルネ…………くん、ご……めん…………」
「無理して喋らないでください」
まだ意識はあるが、胸の赤い染みはどんどん広がりつづけている。血を止めなければ──そう思い、大きな傷のある胸部を上から圧迫するが──
「止まらない……」
本当なら破いた服を背中へと回して縛りたいのだが、服を破いてから師匠の体を持ち上げて、結ぶのにはあまりにも時間がかかる。こうしている間にもオーガはこちらに向かってきている。
何か他に手はないかと考えたときに脳裏に一つの方法が浮かぶ。一発勝負なうえに初めてやるから効果があるという確証はないが、やる価値は十分にある。
血は時間が経てば固まる──ということは、血にはそれ自身を固める成分が入っているということになる。
使うのは毒魔法だ。俺の推測が正しければ毒魔法は体の記憶にある液体を生成する魔法。ならば、その固める成分を傷口に生成すれば速く血が固まるのではないか。
上手く生成できるかも本当に速く血が固まるのかも分からない。もしかしたら毒が混じってしまうかもしれない。
でも、今できるなかで師匠が生き残る可能性が一番高いのはこの方法だと判断した。
念のため、解毒薬を先に師匠に飲ませてからオーガの足音が近づいてくるのを聞きながら目を瞑り集中する。
イメージしろ──体中を巡っている血中の血を固める成分、そして血が固まる感覚に固まった血の感触、何をイメージすれば分からないから思い浮かべるピースはきっと多い方がいい。
魔法を発動させると、薄い色をした液体が出てくる。毒を出した感覚はないが、血の色からはかけ離れている。
おそらく毒ではないのだが、イメージした通りの血を固める成分が入っているかは分からない。失敗かもしれないが、毒ではないのならやらないよりはやる方がいい──そのまま俺はそれを傷口に延ばして、上から押さえる。
「師匠、死なないでくださいね」
聞こえているかも分からない一言を残し、俺はオーガの方へと駆けていく。
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