cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第三話 過去を超えて

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「トビよ」
よく通る声で言ったログシオンの言葉に、トビは形だけ背筋を伸ばした。
「ケインシルヴァからの使者はどうした?」
「・・・宿で寝ています」
そうか、とログシオンは目をトビに向けた。トビは鋭く、切れ長な瞳でログシオンを見る。その眼は、どこか苛立ちを覚えさせるような色をしていた。
「・・・あの緋色の瞳の少年がサンエット家の末裔、か。因縁だな、トビ」
「・・・・・・」

「ん・・・あれ、トビはどこに行ったんだ?」
眼を開けたユーガは、まだ起きて本を読んでいるネロに声をかけた。
「さぁな。俺もさっき目が覚めたんだが、その時にはいなかったよ」
ネロは本から顔を上げずに言った。すると、突然あ、とネロは本から顔を上げて言った。
「そういや、あのトビって奴の事調べてみたんだよ」
え、とユーガはベッドから降り、ネロの横に椅子を置いて座る。
「トビの事?何かあったのか?」
「ああ、あいつの名前はトビ・ナイラルツ。シレーフォに住む王国騎士の一人で・・・シレーフォの元貴族、ナイラルツ家の末裔だそうだ。まぁ、さ」
ユーガは驚きを隠せなかった。トビ元貴族ー?
「トビについての過去はわからないが・・・それでも、なんらかの要因でナイラルツ家は壊滅、その生き残りが奴らしいな」
ユーガはその言葉を聞きながら、自分の過去を思い出した。そう、あれは十二年前のある日ー。

眼が覚めた時、自分が先程までいた場所が燃えていた。あれは、俺が五歳の誕生日を迎えた日ー。
いきなり扉が激しい音を立てて開き、クィーリアの兵士が攻め込んできた。気を失った俺が目を覚ました時には、既にサンエット邸には炎が立っていた。身寄りがなく、ガイアの街を彷徨っていた所をルーオス公爵に拾ってもらったんだった。
そうして、サンエット家は滅んだ。ただ一人残った俺は、ルーオス邸の使用人として働かせてもらう事になったんだ。

「・・・因縁、という訳では・・・」
トビは蒼い眼を俯かせた。
「確かに、あのユーガという少年が因縁、という訳ではないかもしれん。だが、サンエット家の使用人とやらが貴公の家、ナイラルツ家を滅ぼしたのを忘れてはいないだろう?」
「・・・・・・」
ログシオンの言葉に、トビは黙った。貴公は、とログシオンがトビの眼を見る。
「復讐を考えているか?」
トビはその問いには答えず、謁見の間を後にした。
ー胸に抱く思いを、その心に隠して。

「・・・い」
「・・・・・・」 
「おい、ユーガ?どうした?」
ネロの言葉がユーガの意識を戻した。いつの間にか一人の世界に入ってしまっていたらしい。
「・・・あ、ああ。何でもないよ」
ユーガは笑みを浮かべてネロを見た。お前はさ、とネロがユーガを見る。
「クィーリアの奴らに復讐したい、とか考えなかったのか?」
「・・・最初は思ったよ。でも・・・復讐したって、母さんや父さん・・・それに亡くなった皆は帰ってくる訳じゃないし、復讐は憎しみしか生まないから」
ユーガは組んでいた脚をよ、と戻して、再びベッドに寝転んだ。さっきの言葉は嘘じゃない。復讐なんて、そんな事はしたくない。
「・・・ユーガ・・・」
ネロがそう呟いたのを聞いて、ユーガは眼を閉じた。意識が心地よい眠りへと落ちていく。
「・・・聞いてるだろ、トビさんよ」
寝息を立てたユーガを確認して、ネロは本から顔を上げて扉を見た。静かに扉が開き、トビが部屋に入ってくる。
「・・・・・・お前はどこまで知っている?」
「お前の家・・・ナイラルツ家を滅ぼしたのは、サンエット家で使用人として働き、なおかつ研究者でもあったレイト・フィム。そのレイトがたまたまこの街で実験に失敗し、大爆発を起こした。その爆発にナイラルツ家は巻き込まれた」
ネロは淡々と話す。トビの眼が少し細まる。
「・・・それで?」
「それをケインシルヴァの攻撃行動だと判断したクィーリアの前国王はガイアの貴族であるサンエット家に攻撃を仕掛ける事にした。そうして、サンエット家は滅んだ」
ネロがふぅ、と一息つく。
「・・・へぇ、結構調べたんだな」
トビはネロから眼を逸らせた。先ほどの話を聞く限り、ユーガはこの話を知らないのだろう。
「・・・ま、その様子だと合ってるって事か」
ネロが椅子から立ち上がり、トビの真正面に立った。
「・・・お前、ユーガに復讐しようとかそんな事考えてないよな」
ネロが眉を顰め、トビを睨む。トビはその眼をじっと見返し、
「・・・残念ながら、俺はそこまで単純じゃねぇ。復讐なんて考えるかよ」
そう言いながら、ベッドに向かった。復讐だと?馬鹿馬鹿しい・・・切れ長の眼を自分の二丁の銃に落とし、近くの棚に置く。ネロは呆れたように肩をすくめ、もう一つのベッドに向かって、
「・・・トビ」
と言った。トビが顔を向けずになんだ、と聞く。
「・・・ユーガはお前の事を信じてる。・・・俺も」
ネロはそう言うと、剣を床に置いて布団を被った。

(・・・信じてる、ねぇ・・・)
トビは小さく寝息を立てるユーガを見る。しかし、すぐに眼を天井へと向けた。
「・・・ちっ」
小さく舌打ちをし、トビは蒼い眼を閉じた。

「うーん・・・結局、今日は収穫なしか・・・」
調査二日目。ユーガ達は昨日とは違い、シレーフォの近くの調査を行った。しかし、大した情報を得る事はできなかった。すると、シレーフォに向かう途中なのか、ケインシルヴァの紋章が入った馬車が通りかかった。
「・・・馬車?なんでここにケインシルヴァの馬車が・・・」
ユーガが呟くと、その馬車はユーガ達の前で止まった。そこから出てきたのはー。
「ネロ様!」
そう言って、白い髭を生やした老人が降りた。ユーガも見覚えのある顔だ。
「ロフトさん⁉︎」
ロフトと呼ばれた老人は、トビを一瞬見たがすぐに顔を逸らし、大変です、と前置きした後、耳を疑う発言をした。
「・・・ルーオス夫人がお倒れになられました」
「なんだって⁉︎」
ネロがロフトの肩を掴んだ。
「母さんは無事なのか⁉︎」
ロフトは顔を俯かせたまま、何も言わなかった。ユーガはあの優しい笑顔で、サンエット家から転がり込んだ時から本当の母のように接してくれたルーオス夫人の顔を思い出した。そんな馬鹿な、とネロが何度もロフトの肩を揺さぶる。
「・・・今はまだ意識はありますが、じきに・・・」
ネロの顔からさぁっと血が引く。ユーガはネロの肩を掴み、
「ネロ、一度家に戻った方がいい。調査の中断は俺がログシオン陛下に言っとくから」
と言った。ネロはああ、と青ざめた顔で言った。ロフトにさぁ、と言われて、ネロは馬車へ乗り込んだ。そしてそのまま、ネロを乗せた馬車はケインシルヴァへと向かって行った。
「・・・ネロ・・・」
ユーガはもう見えない馬車が進んだ方向を見つめながら呟いた。そこへ、トビの声がかかる。
「陛下の所に行くなら早く行くぞ。調査の中断をするなら早く言った方が良いんじゃないか」
ユーガはそうだな、と答え、ルーオス夫人の無事を祈る事しかできなかった。

「・・・調査の中断?」
「はい。ネロ様の母君が倒れ、クィーリアの調査をやむなく・・・中断させていただきたいのです」
ユーガはログシオンにそう言った。この地震の問題は、ネロが達成するからこそ意味がある。使が達成したところで、意味はない。
「では、貴殿もガイアの方へ戻るのか?」
ログシオンがユーガの顔を見た。ユーガはその目を受け止め、はい、と答えた。
「そうか・・・ならちょうど良い」
ログシオンはそう言うと、手を二回叩いた。すると、近くの近衛兵が紙ー手紙だろうかーを差し出した。
「トビよ。この手紙をガイアのカヴィス王に渡してほしい」
ログシオンの差し出した手紙を受け取り、トビはその手紙を見つめた。
「・・・なぜです?俺じゃなくてこいつに渡せば・・・」
トビがユーガを指差して言ったが、ログシオンはいいや、と首を振った。
「貴公が渡せば、信憑性は増すであろう?」
トビは小さく舌打ちをし、呆れたように肩をすくめた。
「・・・わかりました」
その言葉に心がこもってないのは、誰が聞いても明らかだった。
「じゃあ、行こうー、ガイアへ」
ユーガがそう言うと、トビはめんどくせ、と呟いた。

「なぁ、トビ」
船でガイアへ向かう途中、ユーガは船の手すりに腕を置いて風を浴びるトビに声をかけた。その眼がユーガに向けられ、まるでその眼がなんだ、と言っているように感じた。
「あの・・・ありがとう。お前、クィーリア人なのに俺達に協力してくれて・・・」
「勘違いするな。俺はケインシルヴァとの和平関係とかどうでもいい。ただ陛下からの依頼だったから同行してるだけだ」
トビはユーガの言葉を遮って言った。ユーガはふっ、と笑みを浮かべた。
「それでも嬉しかったんだ。だから・・・ありがとう」
ユーガはそれだけ言うと、踵を返して船室へと戻った。
「・・・何なんだ、あいつ・・・ユーガ・サンエット、か・・・」
トビは踵を返したユーガの背中を見ながら呟いた。そういえば礼を言われたのはいつぶりだったか、と思い返し、すぐに顔を海へ向けた。
「・・・面白え」
そう言ったトビの口元に僅かに笑みが浮かんだのを見た者は、誰もいなかった。

ーその頃。ミヨジネアでは四大幻将の会議が行われていた。
「レイ。クィーリアの襲撃で何かわかった事は?」
少し落ち着いた声でそう言ったのは『絶雹のキアル』だ。彼は椅子に座って人形ーそれは熊の形をしているーで遊ぶ、まさしく『無垢』のレイに話しかけた。
「うーん、特にこれといった収穫は・・・あ」
何かを思い出したように、レイが人形から顔を上げる。どうした、とキアルが聞く。
「・・・緋色の眼の人と蒼色の眼の人を見つけた」
なに、と言って立ち上がったのは『鬼将のローム』だった。
「まさか・・・『緋眼』と『蒼眼』か?」
うん、と言ってレイは再び人形に顔を戻す。
「・・・クク、それは本当か・・・」
怪しい笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、レイに顔を向けたその男は、『煉獄のフィム』。
「・・・ククク、また会う事になりそうですねぇ・・・ユーガ様・・・」
フィムはやがて大きな声で笑い出した。その声は、部屋全体をーいや、ミヨジネア全域を包むかのように大きく響いた。

ざぁ、と雨が強まる。ケインシルヴァへ帰ったユーガ達を迎えたのは、ネロの青くなった顔だった。
「・・・母さんが・・・」
ネロはそこで泣き崩れた。ユーガはその意味を理解し、呆然と立ち尽くした。あんなに元気だったルーオス夫人は、帰らぬ人となった。ほんの約一ヶ月前にユーガ達を見送ってくれた彼女は、もうこの世界にはいない。ユーガは自分が涙を流している事に気づいた。ルーオス夫人は今、棺桶の中で花に囲まれて横たわっている。その顔は穏やかで、とても綺麗だった。次々と、ルーオス夫人に向けて花や線香があげられる。ユーガも線香を立て、いよいよ棺桶を土に埋める時間になった。中庭に出ると、そこには墓石がある。墓石には、
「アナ・ルーオス、ここに眠る」
と書いてあった。棺桶を穴の中に置き、遂に棺桶の蓋が閉じられた。ネロとルーオス公爵は、だんだんと土が被さる棺桶をじっと黙って見届けた。ネロは何度も嗚咽を漏らしているが、ルーオス公爵はただ黙っていた。顔に付いている水滴は雨なのか、それとも涙なのか。その二人から少し離れた所で見ていたユーガは、雨に濡れた自分の手を強く、強く握った。雨はさらに激しさを増し、それはまるでルーオス夫人の死を天が嘆いているようにユーガは思えたー。

ーその頃、ケインシルヴァのレイフォルスでは、一人の少年が小屋に引きこもり、研究に明け暮れていた。背中辺りまで伸びた髪と頭の頭頂部にあほ毛がぴょこっと動く。髪と眼は深緑を思わせる色。着ている服は白衣のローブを身に纏っている。
「・・・・・・」
どうすれば、大事な物を守れるのか。どうすれば、何も失わずに済むのか。私は決して諦めない。諦めたら、努力が水の泡だ。幼き日、「彼」は誓った。もう二度と、失わないように。その為に、自分の出来ることをしよう。ーと、「彼」の研究をする手が止まる。
「・・・元素の流れが・・・『また』変わった・・・」
「彼」は古屋から出て、緑の眼を閉じる。「彼」を撫でるように、星空の中を「風」が優しく流れたー。

「・・・ルーオス夫人が亡くなってしまっても、やるべき事が沢山あるな・・・」
ユーガはルーオス邸の外にいたトビと合流し、独り言のように呟いた。トビは雨に濡れた髪を少しかきあげ、
「俺達の今やるべき事は地震の調査だ。・・・別に、お前がここに残っても俺は構わないぜ?そうすれば俺はもうお前の監視をする必要もないから、ケインシルヴァの王様に手紙を渡して帰るだけだ」
と鋭い眼でユーガを見て言った。ユーガは首を振ってトビを見た。
「残らない。もし残っちまったら、ルーオス夫人が俺達を送り出してくれた行為が無駄になる」
「・・・そうか。あのネロって奴はどうした?」
トビがユーガから顔を背けつつ聞いた。多分、と前置きをする。
「公爵と今後の事を相談するだろうから・・・ここに残ると思う。公爵一人でルーオス家としての公務をこなすのは大変だろうし」
ふーん、と言ってトビが城へ向かう。そういえば、カヴィス王に手紙を渡すんだった、とユーガは思い出し、トビを追いかけた。城に入るや否や、ユーガとトビはケインシルヴァ兵に取り囲まれた。それはそうか、とユーガは思う。トビは、クィーリアの軍服そのままなのだから。しかし、ユーガの説明とトビの持っていたログシオンからの手紙であっさり解放された。こんなに早く解放してくれるなら、取り囲む必要はないだろ・・・とユーガは少し苦笑いをしたが、すぐに顔を引き締めた。謁見の間の扉が開く。
「・・・どういうつもりだ、ユーガよ」
謁見の間に入った瞬間、低い声がユーガに降りかかった。
「カヴィス王。彼は、トビ・ナイラルツです。私とネロ様がクィーリアへ訪問した際に私達を助けてくれた、私の仲間です」
トビが小さく、は?と言ったのが聞こえたが、トビの名を聞いたカヴィスは、眉を顰めた。
「・・・貴公が・・・あのナイラルツ家の末裔か・・・」
「・・・ええ、いかにも。我が君主、ログシオンより手紙を預かりました。どうぞ」
トビは鋭い眼を細めて手紙を差し出した。それを大臣ー名をセルというーに渡した。
「・・・良かろう。これを読んだ上で、明日ここで話をしよう。ユーガよ。その者を城の客室へ案内しろ」
ユーガははい、と答えて、謁見の間から出て、ふぅ、と深いため息をつく。
「・・・なんだ?随分デカいため息だな」
「・・・あの人、怒らせると怖いからさ・・・焦るよ」
ユーガはそう言うと、トビを客室へ案内しようとした。・・・しかし、あれ、と呟く。
「・・・・・・客室って・・・どこだっけ?」
あはは、と困ったように笑うユーガを見て、トビはため息をつく。ーこいつ、ただの馬鹿なんだな・・・

「・・・おい」
なんとか部屋にトビを案内し、ネロの家に帰ろうとしていたユーガをトビは引き止めた。ん?とユーガは眼を向ける。トビの蒼い眼がユーガをまっすぐ見た。
「・・・俺はいつからお前の仲間になったんだ」
トビは声を少し低くして言った。ユーガはきょとんと首を傾げた。
「・・・え?そんなの、調査を始めた時からだよ」
何言ってるんだ?とユーガはトビを見た。トビは呆れたように眼を細めた。
「俺達は敵国同士だぞ?忘れたのか?」
「忘れてないよ。俺はケインシルヴァ人、トビはシレーフォ人・・・でも、それって何かいけない事なのか?」
ユーガはそこで一息つき、再び口を開いた。
「確かに敵国同士かもしれないけど・・・でも、俺はトビが良い奴だって思ってるから。だったら、敵国とか、そんなのどうだって良いと思うんだ。仲間だろ?」
ユーガはどやっと胸を張った。トビは頭を押さえ、
「・・・ほとほとよくわかんねぇ奴だよ、ほんと・・・いいか、俺達は仲間じゃない。俺は目的の為に行動してるだけだ」
勝手な事を言うな、と言って、トビは頭を掻いた。じゃあ、とユーガは前置きする。
「トビに、俺が・・・俺達が仲間だって認めてもらうようにするよ」
「はぁ・・・?お前は何言ってんだ・・・?」
ユーガはそう言うと、トビに拳を突き出した。
「もっと成長して、トビに認めてもらえるよう、頑張る」
頑張るって、何をどう頑張るんだよ・・・トビは心底呆れ、ユーガから顔を逸らせた。
「・・・ちっ、わかったわかった。精々頑張るんだな」
おう、とユーガは突き出した拳を戻す。
「よし、じゃあまずは明日、カヴィス王に手紙の事を理解してもらってからだよな。じゃ、俺はネロの家に戻るよ」
「・・・そうだな、ま、頑張って和平とやらを結んでくれ、『ユーガ』」
「ー!おう!」
ユーガはそう言って、トビを部屋に残して扉を閉めた。名前を呼ばれたー、その事がこんなにも嬉しいとは。ルーオス夫人に報告したら、きっと母親のように包んでくれるだろう。とユーガは思い、トビに名前を呼ばれた事の喜びと、ルーオス夫人がもうこの世界にはいないという悲しみを、同時に味わう事になったユーガだった。

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