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絆の邂逅編
第六話 仲間という存在
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仲間、友人。そんな言葉を聞く度、苛立ちを覚えた。自分にはそんな存在はいなかった。世にも珍しい蒼眼を持ち、それに伴って生まれつき持った冷静さ、思考力。そんな存在に近づこうとする人間は、蒼眼の力を利用するための汚い大人や、珍しい物で遊ぼうとする奴ら。そんな奴らしかいないなら、信頼できる人間なんていらない。近づこうものなら、こっちが逆に利用してやる。そう思っていた。冷たくあしらっているのに、なぜこいつはー、この馬鹿は俺に付きまとうんだ。どうせお前も俺を利用するために近づいているんだろう?魂胆は丸見えだ。わざとらしく演技しやがって・・・。
「・・・おい、トビ?どうしたんだ?」
ユーガの声が、トビを現実へと引き戻す。昼、『鬼将のローム』に襲われた後、夜も近づいてきていたのでユーガ達は宿で一晩休むことにしていた。トビは本を読んでいたのだが、いつの間にかぼーっとしてしまっていたようだ。
「・・・なんでもない」
「そうか?ならいいけど」
そういえばさ、とユーガは本を閉じたトビに声をかけた。
「ミヨジネア・・・いや、四大幻将の目的って何なんだろうな?」
何で俺に聞くんだよ、とトビは微かに苛立つ。さぁな、と小さく舌打ちをして答える。
「・・・ミヨジネアの奴らの目的とかどーでもいいだろ。俺達は俺達のやるべき事をやるだけだ」
トビはその切れ長な眼でユーガを見る。ふっ、とユーガは微笑んでそうだな、と答える。そのにこやかなユーガの顔に、トビは微かな苛立ちを覚えた。
「・・・ユーガ」
「ん?」
緋色の眼が、トビに向けられる。
「・・・お前、俺に対して何を思ってる?」
ユーガの首がきょとん、と曲がる。何言ってんだ、とユーガは微笑む。
「仲間、だろ?」
「だから、俺達は・・・」
「仲間じゃないんだろ?トビはそうかもしれないけど、俺は仲間だって信じてるから」
ユーガは腕を組んで笑顔を浮かべる。トビは呆れて眼を細める。
「じゃあ、もし俺がお前を裏切ったらどうすんだよ」
「トビはそんな事しねえって信じてる。何度も俺の事を助けてくれたトビが、そんな事するわけない」
「!」トビの眼が見開かれる。「お前・・・やっぱ馬鹿だろ」
トビは腕を組んで横目でユーガを見るように顔を逸らす。はは、とユーガはさらに笑う。
「かもな。俺はトビとかルインみてぇに魔法とか使えねえし、勉強ができるわけでもねぇから!」
「自信満々に言う事でもねぇだろ・・・」
トビはつくづく呆れ、ベッドに寝転がった。
(・・・・・・仲間、か・・・・・・)
ん~、と伸びをしてユーガはベッドから体を起こす。横を見ると、トビがユーガをちらりと見てため息をつく。
「・・・ようやくお目覚めかよ、ユーガさんよ」
「え、もうそんな時間か?」
ユーガは壁にかかっている時計を見る。六時。いつもと起きる時間は同じ筈だがー?
「・・・まだ六時だぜ?」
「『もう』六時だ。早く支度しろ」
トビはユーガにそう言って部屋を出る。ユーガはぱちくりと眼を瞬かせる。
「・・・トビって早起きなんだな・・・」
そう呟いて、ベッドから立ち上がる。寝巻きから着替え、剣を腰に横に挿す。赤いマフラーを首に巻き、右前に髪を下ろす。よし、と呟いて扉を開けると、朝食の用意がされた机に案内された。そこには既にトビとルインが座っている。
「おはようございます、ユーガ」
「うん、おはよう」
ユーガがそう返すと、ルインが、ふっ、と笑って頷く。ユーガは椅子に座っていただきます、と言って目の前にある白米に手を伸ばす。口に運ぶと、ほかほかの白米の味がふわっと口に広がった。
「今日はソルディオスに向かうんだっけ?」
ユーガが白米を飲み込んで聞く。トビはパンを齧りながら、ああ、と答える。
「その前に主席官房長のとこに行って船に乗る許可を取るけどな」
「そうですね・・・ひとまず主席官房長のところに行くのが先決ですね」
わかった、と呟いてユーガは目の前にレモンティーを持ってきて飲み始める。ー微糖である。トビは無糖のハーブティー、ルインはアップルティーを飲んだ。それぞれが飲み干し、ふぅ、と息を吐く。
「・・・よし、じゃあ主席官房長のところに行ってみようぜ」
ユーガは椅子から立ち上がり、二人に声をかけた。
「これはこれは・・・ユーガ様にルイン様ではございませんか」
大きな門をくぐり、主席官房長に謁見しに来たユーガ達は楽に通る事ができた。しかし、トビはクィーリア人なので中に入る事はできず、外で待ちぼうけであるが。
「は、初めまして。主席官房長殿・・・」
「そこまで畏まらなくても大丈夫です。身分としては、ユーガ様の方が上なのですから」
主席官房長ー名をフリックというーはユーガに笑顔を見せてそう言った。
「フリック様。私達はソルディオスに向かいたいのですが、船を出して頂くことはできませんか?」
ルインが切り出すと、フリックは笑顔を顔から消し、真剣な顔でユーガとルインを見た。
「それは・・・できません。実は、トルーメン港の近くの海に魔物の大群が発生していまして・・・」
「なんだって⁉︎」
「しかも、その魔物が中々特殊な魔物でしてね・・・」
特殊?とユーガは首を傾げるが、ルインは、もしや、とフリックに尋ねる。
「その魔物・・・体、いえ、胸辺りから赤黒い瘴気のような物が出ていませんか?」
「!」フリックは眼を見開く。「ええ・・・まさにその通りですが・・・」
「ルイン、何でわかったんだ?」
ルインはユーガが小屋で倒れた時にその魔物に襲われた事を話す。
「・・・という事で、あの魔物は危険なんです。その黒いマントの方がいなければ私達は危なかったんです」
へぇ、とユーガは呟く。
「・・・でも、その魔物を倒す方法は今のところその人を探さないといけないって事か・・・」
「そうですね・・・しかし、その人は今どこにいるのか、名前すらも分かりませんし・・・」
だな、とユーガが答えたところで、扉が荒々しく開いて、一人の男が息を切らせて入ってきた。
「フ、フリック様!大変です!」
「どうした?何があった?」
「街の中に、瘴気を纏った魔物が大量に・・・!」
「なんだって⁉︎」
ユーガとルインは顔を見合わせて驚いた。
「今、そちらの方々のお仲間だというクィーリア人の方が応戦してくれていますが・・・全く攻撃が届いていないようで・・・」
「トビが⁉︎」
「まずいですね・・・いくらなんでも、トビ一人であの魔物を相手にできるとは思えません」
ルインが顎に手を当てて呟く。ユーガは背中に冷たい汗がどっと吹き出すのを感じて、男を押し退けて部屋を飛び出した。トビが危ない。その言葉だけで、助ける方法を思いついていない事を忘れてユーガは走った。胸の中に、何か渦巻くような気がしたが、気のせいだ、と自分に言い聞かせて。
(・・・いた!トビ!)
ユーガの視線の先には、何体もの魔物に囲まれて膝をつくトビだった。
「・・・つっ・・・!」
どうやら、怪我をしているらしい。ユーガは無我夢中で剣を引き抜き、魔物に向かって走る。
「やめろぉっ‼︎」
叫び、ユーガは眼からー、緋色の瞳から力が溢れ出る感覚を覚えた。そして、ユーガは剣を一閃したー。
「魔物だ!逃げろぉ!」
主席官房長の家の前で待っていたトビは、街人のその声を聞いて眼を走らせた。魔物ー?こんな所に?と思い、銃を手に走った。すると、そこには確かに魔物がー、あの体から赤黒い瘴気を纏っている魔物が街人を襲っているところを発見した。小さく舌打ちをし、
「闇よ、邪しきを飲み込め・・・!ブラッドホール!」
効かない事は、前に小屋で襲われた時に理解している。とにかく街人から遠ざける事が目的だ。確かに、トビに気付いて上手く誘導できたがー、逃げられない、とわかった。いつの間にかトビは囲まれ、既に腕と脚を何箇所も噛まれた。血が溢れ、その部分が熱を持つ。
(ここまで、か・・・)
そう思い目を瞑った、その瞬間。
「やめろぉっ‼︎」
聞き覚えのある声が聞こえ、トビはハッとして顔を上げた。そこに剣を一閃して立っていたのはー。
「ユーガ・・・!お前、その眼・・・!」
トビはユーガの眼を見る。色は元々の緋色のままなのだが、それは明らかに光を放って輝いている。そして、ユーガの剣によって一閃された魔物は元素へと返る。
「トビ、無事か⁉︎」
ユーガは輝く眼をトビに向ける。ああ、と呟いてトビは自分に回復魔法をかける。
「お前・・・何でここに・・・」
トビはまだひかない痛みに顔を顰めてユーガを見る。ユーガはトビに肩を貸し、トビが一人で立つ事を確認して剣をもう一度構えた。
「話は後にしよう!まずは俺がこいつらを蹴散らす!トビは街の人達を頼む!」
「・・・わかった」
トビは小さく舌打ちをし、街人達のところを向かう。そこを塞ぐように、ユーガが立った。
「ここから先は、一歩も通さない!」
「いてててて・・・」
その夜、ユーガ達はトルーメンの宿屋でもう一泊していた。あの後、ユーガは魔物を蹴散らす事はできたが、全くの無傷、とはいかなかった。至る所に噛み傷があったり、体を打った部分が青くなったりしていた。
「・・・おら、動くんじゃねえよ」
それをトビが消毒し、回復をしてくれている。
「あ、ああ・・・」
しかし、とルインが呟く。
「さっきのユーガの眼・・・あれは一体何なんです?ただの固有能力ではないように思えましたが・・・」
「『緋眼』だ」
トビが即座にそう答える。ユーガは首を傾げてトビを見た。
「『緋眼』って・・・確かあの四大幻将のロームって奴も言ってたよな?何なんだ、『緋眼』って」
「『緋眼』は特殊な固有能力の一つだ。その名の通り、緋色の眼・・・つまりお前だ、ユーガ。その眼は世界を滅ぼす程の力があると言われているんだよ」
トビは淡々と語り、ユーガは息を呑んだ。
「世界を滅ぼす程の力・・・それが、俺の固有能力・・・?」
ユーガは自分の手を緋色の眼に当てた。先程のあの力。魔物を一掃する事はできたが、世界を滅ぼす程の力を持っている、そう思うとユーガはぶるっと体が震えた。
「そうか・・・じゃあ四大幻将の目的はユーガの緋眼、という事ですか・・・」
「ああ、おそらくな。その力を持つユーガが魅力的なんだと思う。と、考えると・・・四大幻将の目的は世界を滅ぼす事、って事になるのか」
トビとルインはそう言って、ユーガを見る。だが、とトビは続ける。
「四大幻将は、世界を滅ぼすために緋眼を・・・ユーガの力を使う、と考えると・・・その目的がわからねぇな」
沈黙が流れる。ユーガは眼に手を当てたまま呟く。
「・・・今は細かい事を考えてても仕方ないよ。とにかく、元素がホントに不安定なのかどうか、明日ソルディオスに行って調べてもらおう」
そう、自分に言い聞かせるように言った。
「ユーガ様!お身体の方は・・・」
翌日、フリックの元へ再び訪れたユーガとルインは、扉を開けた瞬間フリックのそんな言葉に出迎えられた。
「もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
ユーガは微笑みながらフリックに言った。そうですか、とフリックは微笑を浮かべて、
「ユーガ様方はソルディオスまで渡られる、とお伺いしましたが・・・実は、昨夜遅くまでこの街の整備士が船を改造致しまして・・・あの瘴気を纏う魔物に有効だと思われる元素障壁を搭載致しました」
「元素障壁を⁉︎わざわざありがとうございます、フリックさん!」
ユーガは深く頭を下げる。フリックは困ったように慌てて、
「おやめ下さい、私に頭を下げるなど・・・仮にもユーガ様はサンエット家の末裔。そんな方が頭を下げないでください・・・」
と言った。ユーガは頭を上げて、ゆっくりと首を振る。
「いえ、これはサンエット家の末裔として、ではなく・・・一人の人間、ユーガ・サンエットとしての個人的な礼ですから。サンエット家の末裔、などは関係ありません」
「そうですか・・・それでしたら、ありがたくその気持ちを頂きます」
ユーガはええ、と頷く。そこで、あ、とフリックは何かを思い出したように言った。
「注意点として元素障壁は五時間程しか保ちません。ですから、その魔物がいる区域をその時間内に超えなければいけません」
「五時間・・・わかりました。何から何まですみません」
ルインも頭を下げて礼をする。いえ、と手を振ってフリックは笑みを浮かべる。
「・・・あなた方の旅のご無事をお祈りしております」
ユーガとルインは同時に頷き、主席官房長邸から出る。外で待っていたトビと合流し、港へ歩く最中、トビが口を開いた。
「・・・ユーガ、一応言っておくが俺はお前に助けを求めた訳じゃないからな。余計な事しやがって・・・あれくらい、俺一人でも何とかなったんだよ」
「・・・そう、だったのか?トビが魔物に襲われそうで、危なかったから突っ込んじまったけど・・・」
ユーガが首を傾げると、トビは蒼い眼をユーガに向けた。
「そうだ。いいか、余計な事をするな。俺はお前に助けられる程弱くないからな」
そう言うと、トビは踵を返して一人早足でと歩いて行った。
「余計な事、か・・・」
ユーガはトビの言葉を繰り返す。
(俺・・・余計な事をしたんだろうか・・・)
何が正解だったのか。わからないまま、ユーガはトビの後を追いかけて港へ歩いた。
「・・・ここが、ソルディオス港か・・・」
ユーガはソルディオス港ーそこまで大きい物ではないーを見渡して呟いた。辺りは木々に包まれ、花が沢山咲いている。
「ソルディオスはここから東です。さぁ、行きましょうか」
ルインはそう言って、ユーガ達を見る。わかった、とユーガは応えて、港の出口から出ようとしたその時。上空から一瞬羽音が聞こえ、ユーガ達は空を見上げる。
「何だ?鳥か・・・?」
「・・・いや、違うな。魔物、という訳でもなさそうだったが・・・」
トビが空を見上げて先程の羽音の正体を探すが、それらしい物は見つからずに、お手上げ、と言うように手を上げた。
「・・・ま、ただの鳥かもな」
かもな、とユーガは頷いて、港の出口門をくぐった。ーと、ルインが、
「言い忘れてましたが、ソルディオスへ向かう為にはソルドの森を抜ける必要があります。あそこは道に迷いやすいので気をつけて行きましょう」
と言った。うん、とユーガはルインに頷いて東へ歩いた。
「・・・やっと着いたか・・・」
トビが髪をかき上げて呟く。ソルドの森はルインの言っていた通り複雑な地形、道をしていたため、ユーガ達は翻弄され、ソルディオス港から何日経ったのか分からなくなっていた。しかも、森の中にはベアという熊のような魔物がおり、ユーガ達は慣れない地形で苦戦を強いられる羽目となった。体は汗と垢で気持ち悪く、早く宿を探しましょう、というルインの提案に、ユーガとトビは反対などしなかった。
「待ちなされ、旅のお方」
ユーガ達の背後から声が聞こえ、ユーガ達は振り返る。そこには老人が立っていた。
「あんた方、宿へ行かれるのか?だったらそれより先に村長に会って行くと良いぞ」
「村長、ですか・・・」
ユーガはトビとルインを振り返る。ちっ、とトビが舌打ちをしてユーガから眼を逸らす。
「・・・このじじ・・・じいさんの言いなりになるのは癪だが・・・ユーガ、どうせお前は行くつもりだろ」
「正直面倒だけどな・・・挨拶くらいはしていった方が良いと思うし」
トビはやれやれ、と言うように首を振った。少しだけだぞ、と言って腕を組む。ユーガは頷いて、老人に礼を言って村長の家だと言う家へ向かった。しかし、呼びかけてみるが返事がない。
「・・・留守かな?」
「・・・いえ、中に元素を感じます・・・誰かいる」
ルインがそう呟くと、中からガタン、と物音がして、ドタバタと続けて音が聞こえた。トビは臆する事なく扉を勝手に開けてずんずんと中に入って行く。
「と、トビ⁉︎」
ユーガはトビを追いかけて中に入る。ーと、ユーガは頭に強い衝撃を受けた。殴られた、とわかったがもう遅く、薄れゆく意識で最後に、トビとルインも同じように殴られるのを見た。
『・・・めよ・・・が・・・に・・・』
(・・・う・・・)
眩しい光が眼を刺し、ユーガは呻いて眼を開ける。ゆっくりと体を上げ、痛む頭を押さえて見覚えのない部屋にユーガはいた。目の前には鉄格子があり、殺風景な部屋だ。どうやら、牢屋らしい、とユーガは理解する。
「・・・そうだ、トビ!ルイン!」
仲間の名を呼ぶが、返事はなく、部屋の中にも彼等の姿は無かった。それに加え、普段腰に横に付けている剣もない。
「・・・くそ、引き離されちまったのか・・・トビとルイン、無事だといいけど・・・つっ・・・」
よほど強く殴られたのか、まだ頭痛がして立ちくらみがする。しかし、そんな事を言っている場合ではない、とユーガは首を振って脳を覚醒させる。
「なんとかここから出ないと・・・地震の調査も残ってるってのに・・・」
ソルディオスに来た時から何日経ったのかわからなかったが、時間は無駄にはできない。ユーガは辺りを見渡すと、小さいが窓の近くに木の枝が落ちているのを発見した。これなら、とユーガはそれを手に取り、鍵穴に挿し込む。しばらくいじっていると、ガチャン、という音と共に扉が開く。
「よし!開いた!早くトビ達を探さないと・・・!」
ユーガは目の前にあった箱を見つけ、中を見ると自分やトビ達の武器が入っていた。ラッキー、と呟いて剣を腰に横に取り付け、仲間の武器をしっかりと抱えてユーガは仲間を探して走り出した。そして、どれほど探し回ったか、ユーガは一つの牢屋の前で立ち止まった。奥をまじまじと見ると、そこにいたのは、
「トビ⁉︎」
であった。
「良かった、無事だったんだな!」
「・・・お前、どうしてここに・・・」
説明は後、と言ってユーガはトビの牢屋を開ける。中からトビが出てきて、ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・その・・・なんつーか・・・」
「?」
「・・・あ、ありがと、な・・・」
その声はとても小さかったが、ユーガの耳には十分すぎるほどに届いた。
「・・・おう!」
ユーガは顔を背けているトビに笑顔を向け、抱えていた銃をトビに渡した。トビは頷いてそれを受け取り、なら、とユーガを見た。
「ユーガ、ルインを探すぞ。ルインはこの先にいるはずだ。急ぐぞ」
「ああ!」
ユーガはしっかりと頷いて答えて走り出す。その後ろをトビが付いてー軽々と走っているように見えるがー来ている。そして、トビがここだ、と指を指した牢の中には、確かにルインがいた。彼はユーガとトビを見ると驚いたように眼を見張った。
「ユーガ!トビ!無事でしたか!」
「ああ、ルインも無事みたいだな・・・今扉を開けるから待っててくれ」
ユーガはトビの時と同じように扉を開け、ルインがそこから出ると、不意に背後から足音が響いた。
「待て!脱獄者どもが・・・!逃がすと思うなよ!」
それはケインシルヴァ兵でも、クィーリア兵でもなくー。
「ミヨジネア兵⁉︎なんでこんなところに⁉︎」
ユーガは剣を引き抜いて叫ぶ。トビはちっ、と舌打ちをして銃を構える。
「・・・ケインシルヴァのソルディオスからミヨジネアまで運ばれたってか・・・何か臭うな?」
「ユーガ、トビ!来ますよ!」
ルインのその声を合図のように、ミヨジネア兵が一斉に襲いかかった。
「・・・くそ、迷ってる場合じゃないっ!」
ユーガは剣を掬い上げるように振るう。肉を、骨を斬る感触が手に伝わる。人の命を奪う事は、ユーガにとって恐怖でしかない。初めて、という訳ではないが、だからと言って慣れるものでもない。兵は声すら上げず、床に倒れる。残る兵を、トビの弾が、ルインの炎のレーザーが貫く。
「・・・すみません・・・どうか、安らかに眠ってください」
ユーガは倒れている兵に祈りを捧げ、剣を振って血を払った。くっ、と歯を噛み締め、重くなったような気がする剣を鞘に収めた。人を刺す、命を奪う事は普通なら罪だが、道を阻むなら仕方ない、と言えばそれまでだ。だが、避けられるなら避けたい、と思う。ユーガはゆっくりと眼を開けて、少し青くなった顔でトビ達を見た。
「・・・急ごう。ここから出て、ソルディオスまで戻って元素が本当に不安定なのか確かめないと」
ああ、と頷いてトビとルインが先導して走り出す。ユーガはしばらく倒れている兵を見つめ、手を強く握りしめてトビ達を追いかけた。
ー命を奪った、その恐怖に身を震わせながらー。
「・・・おい、トビ?どうしたんだ?」
ユーガの声が、トビを現実へと引き戻す。昼、『鬼将のローム』に襲われた後、夜も近づいてきていたのでユーガ達は宿で一晩休むことにしていた。トビは本を読んでいたのだが、いつの間にかぼーっとしてしまっていたようだ。
「・・・なんでもない」
「そうか?ならいいけど」
そういえばさ、とユーガは本を閉じたトビに声をかけた。
「ミヨジネア・・・いや、四大幻将の目的って何なんだろうな?」
何で俺に聞くんだよ、とトビは微かに苛立つ。さぁな、と小さく舌打ちをして答える。
「・・・ミヨジネアの奴らの目的とかどーでもいいだろ。俺達は俺達のやるべき事をやるだけだ」
トビはその切れ長な眼でユーガを見る。ふっ、とユーガは微笑んでそうだな、と答える。そのにこやかなユーガの顔に、トビは微かな苛立ちを覚えた。
「・・・ユーガ」
「ん?」
緋色の眼が、トビに向けられる。
「・・・お前、俺に対して何を思ってる?」
ユーガの首がきょとん、と曲がる。何言ってんだ、とユーガは微笑む。
「仲間、だろ?」
「だから、俺達は・・・」
「仲間じゃないんだろ?トビはそうかもしれないけど、俺は仲間だって信じてるから」
ユーガは腕を組んで笑顔を浮かべる。トビは呆れて眼を細める。
「じゃあ、もし俺がお前を裏切ったらどうすんだよ」
「トビはそんな事しねえって信じてる。何度も俺の事を助けてくれたトビが、そんな事するわけない」
「!」トビの眼が見開かれる。「お前・・・やっぱ馬鹿だろ」
トビは腕を組んで横目でユーガを見るように顔を逸らす。はは、とユーガはさらに笑う。
「かもな。俺はトビとかルインみてぇに魔法とか使えねえし、勉強ができるわけでもねぇから!」
「自信満々に言う事でもねぇだろ・・・」
トビはつくづく呆れ、ベッドに寝転がった。
(・・・・・・仲間、か・・・・・・)
ん~、と伸びをしてユーガはベッドから体を起こす。横を見ると、トビがユーガをちらりと見てため息をつく。
「・・・ようやくお目覚めかよ、ユーガさんよ」
「え、もうそんな時間か?」
ユーガは壁にかかっている時計を見る。六時。いつもと起きる時間は同じ筈だがー?
「・・・まだ六時だぜ?」
「『もう』六時だ。早く支度しろ」
トビはユーガにそう言って部屋を出る。ユーガはぱちくりと眼を瞬かせる。
「・・・トビって早起きなんだな・・・」
そう呟いて、ベッドから立ち上がる。寝巻きから着替え、剣を腰に横に挿す。赤いマフラーを首に巻き、右前に髪を下ろす。よし、と呟いて扉を開けると、朝食の用意がされた机に案内された。そこには既にトビとルインが座っている。
「おはようございます、ユーガ」
「うん、おはよう」
ユーガがそう返すと、ルインが、ふっ、と笑って頷く。ユーガは椅子に座っていただきます、と言って目の前にある白米に手を伸ばす。口に運ぶと、ほかほかの白米の味がふわっと口に広がった。
「今日はソルディオスに向かうんだっけ?」
ユーガが白米を飲み込んで聞く。トビはパンを齧りながら、ああ、と答える。
「その前に主席官房長のとこに行って船に乗る許可を取るけどな」
「そうですね・・・ひとまず主席官房長のところに行くのが先決ですね」
わかった、と呟いてユーガは目の前にレモンティーを持ってきて飲み始める。ー微糖である。トビは無糖のハーブティー、ルインはアップルティーを飲んだ。それぞれが飲み干し、ふぅ、と息を吐く。
「・・・よし、じゃあ主席官房長のところに行ってみようぜ」
ユーガは椅子から立ち上がり、二人に声をかけた。
「これはこれは・・・ユーガ様にルイン様ではございませんか」
大きな門をくぐり、主席官房長に謁見しに来たユーガ達は楽に通る事ができた。しかし、トビはクィーリア人なので中に入る事はできず、外で待ちぼうけであるが。
「は、初めまして。主席官房長殿・・・」
「そこまで畏まらなくても大丈夫です。身分としては、ユーガ様の方が上なのですから」
主席官房長ー名をフリックというーはユーガに笑顔を見せてそう言った。
「フリック様。私達はソルディオスに向かいたいのですが、船を出して頂くことはできませんか?」
ルインが切り出すと、フリックは笑顔を顔から消し、真剣な顔でユーガとルインを見た。
「それは・・・できません。実は、トルーメン港の近くの海に魔物の大群が発生していまして・・・」
「なんだって⁉︎」
「しかも、その魔物が中々特殊な魔物でしてね・・・」
特殊?とユーガは首を傾げるが、ルインは、もしや、とフリックに尋ねる。
「その魔物・・・体、いえ、胸辺りから赤黒い瘴気のような物が出ていませんか?」
「!」フリックは眼を見開く。「ええ・・・まさにその通りですが・・・」
「ルイン、何でわかったんだ?」
ルインはユーガが小屋で倒れた時にその魔物に襲われた事を話す。
「・・・という事で、あの魔物は危険なんです。その黒いマントの方がいなければ私達は危なかったんです」
へぇ、とユーガは呟く。
「・・・でも、その魔物を倒す方法は今のところその人を探さないといけないって事か・・・」
「そうですね・・・しかし、その人は今どこにいるのか、名前すらも分かりませんし・・・」
だな、とユーガが答えたところで、扉が荒々しく開いて、一人の男が息を切らせて入ってきた。
「フ、フリック様!大変です!」
「どうした?何があった?」
「街の中に、瘴気を纏った魔物が大量に・・・!」
「なんだって⁉︎」
ユーガとルインは顔を見合わせて驚いた。
「今、そちらの方々のお仲間だというクィーリア人の方が応戦してくれていますが・・・全く攻撃が届いていないようで・・・」
「トビが⁉︎」
「まずいですね・・・いくらなんでも、トビ一人であの魔物を相手にできるとは思えません」
ルインが顎に手を当てて呟く。ユーガは背中に冷たい汗がどっと吹き出すのを感じて、男を押し退けて部屋を飛び出した。トビが危ない。その言葉だけで、助ける方法を思いついていない事を忘れてユーガは走った。胸の中に、何か渦巻くような気がしたが、気のせいだ、と自分に言い聞かせて。
(・・・いた!トビ!)
ユーガの視線の先には、何体もの魔物に囲まれて膝をつくトビだった。
「・・・つっ・・・!」
どうやら、怪我をしているらしい。ユーガは無我夢中で剣を引き抜き、魔物に向かって走る。
「やめろぉっ‼︎」
叫び、ユーガは眼からー、緋色の瞳から力が溢れ出る感覚を覚えた。そして、ユーガは剣を一閃したー。
「魔物だ!逃げろぉ!」
主席官房長の家の前で待っていたトビは、街人のその声を聞いて眼を走らせた。魔物ー?こんな所に?と思い、銃を手に走った。すると、そこには確かに魔物がー、あの体から赤黒い瘴気を纏っている魔物が街人を襲っているところを発見した。小さく舌打ちをし、
「闇よ、邪しきを飲み込め・・・!ブラッドホール!」
効かない事は、前に小屋で襲われた時に理解している。とにかく街人から遠ざける事が目的だ。確かに、トビに気付いて上手く誘導できたがー、逃げられない、とわかった。いつの間にかトビは囲まれ、既に腕と脚を何箇所も噛まれた。血が溢れ、その部分が熱を持つ。
(ここまで、か・・・)
そう思い目を瞑った、その瞬間。
「やめろぉっ‼︎」
聞き覚えのある声が聞こえ、トビはハッとして顔を上げた。そこに剣を一閃して立っていたのはー。
「ユーガ・・・!お前、その眼・・・!」
トビはユーガの眼を見る。色は元々の緋色のままなのだが、それは明らかに光を放って輝いている。そして、ユーガの剣によって一閃された魔物は元素へと返る。
「トビ、無事か⁉︎」
ユーガは輝く眼をトビに向ける。ああ、と呟いてトビは自分に回復魔法をかける。
「お前・・・何でここに・・・」
トビはまだひかない痛みに顔を顰めてユーガを見る。ユーガはトビに肩を貸し、トビが一人で立つ事を確認して剣をもう一度構えた。
「話は後にしよう!まずは俺がこいつらを蹴散らす!トビは街の人達を頼む!」
「・・・わかった」
トビは小さく舌打ちをし、街人達のところを向かう。そこを塞ぐように、ユーガが立った。
「ここから先は、一歩も通さない!」
「いてててて・・・」
その夜、ユーガ達はトルーメンの宿屋でもう一泊していた。あの後、ユーガは魔物を蹴散らす事はできたが、全くの無傷、とはいかなかった。至る所に噛み傷があったり、体を打った部分が青くなったりしていた。
「・・・おら、動くんじゃねえよ」
それをトビが消毒し、回復をしてくれている。
「あ、ああ・・・」
しかし、とルインが呟く。
「さっきのユーガの眼・・・あれは一体何なんです?ただの固有能力ではないように思えましたが・・・」
「『緋眼』だ」
トビが即座にそう答える。ユーガは首を傾げてトビを見た。
「『緋眼』って・・・確かあの四大幻将のロームって奴も言ってたよな?何なんだ、『緋眼』って」
「『緋眼』は特殊な固有能力の一つだ。その名の通り、緋色の眼・・・つまりお前だ、ユーガ。その眼は世界を滅ぼす程の力があると言われているんだよ」
トビは淡々と語り、ユーガは息を呑んだ。
「世界を滅ぼす程の力・・・それが、俺の固有能力・・・?」
ユーガは自分の手を緋色の眼に当てた。先程のあの力。魔物を一掃する事はできたが、世界を滅ぼす程の力を持っている、そう思うとユーガはぶるっと体が震えた。
「そうか・・・じゃあ四大幻将の目的はユーガの緋眼、という事ですか・・・」
「ああ、おそらくな。その力を持つユーガが魅力的なんだと思う。と、考えると・・・四大幻将の目的は世界を滅ぼす事、って事になるのか」
トビとルインはそう言って、ユーガを見る。だが、とトビは続ける。
「四大幻将は、世界を滅ぼすために緋眼を・・・ユーガの力を使う、と考えると・・・その目的がわからねぇな」
沈黙が流れる。ユーガは眼に手を当てたまま呟く。
「・・・今は細かい事を考えてても仕方ないよ。とにかく、元素がホントに不安定なのかどうか、明日ソルディオスに行って調べてもらおう」
そう、自分に言い聞かせるように言った。
「ユーガ様!お身体の方は・・・」
翌日、フリックの元へ再び訪れたユーガとルインは、扉を開けた瞬間フリックのそんな言葉に出迎えられた。
「もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
ユーガは微笑みながらフリックに言った。そうですか、とフリックは微笑を浮かべて、
「ユーガ様方はソルディオスまで渡られる、とお伺いしましたが・・・実は、昨夜遅くまでこの街の整備士が船を改造致しまして・・・あの瘴気を纏う魔物に有効だと思われる元素障壁を搭載致しました」
「元素障壁を⁉︎わざわざありがとうございます、フリックさん!」
ユーガは深く頭を下げる。フリックは困ったように慌てて、
「おやめ下さい、私に頭を下げるなど・・・仮にもユーガ様はサンエット家の末裔。そんな方が頭を下げないでください・・・」
と言った。ユーガは頭を上げて、ゆっくりと首を振る。
「いえ、これはサンエット家の末裔として、ではなく・・・一人の人間、ユーガ・サンエットとしての個人的な礼ですから。サンエット家の末裔、などは関係ありません」
「そうですか・・・それでしたら、ありがたくその気持ちを頂きます」
ユーガはええ、と頷く。そこで、あ、とフリックは何かを思い出したように言った。
「注意点として元素障壁は五時間程しか保ちません。ですから、その魔物がいる区域をその時間内に超えなければいけません」
「五時間・・・わかりました。何から何まですみません」
ルインも頭を下げて礼をする。いえ、と手を振ってフリックは笑みを浮かべる。
「・・・あなた方の旅のご無事をお祈りしております」
ユーガとルインは同時に頷き、主席官房長邸から出る。外で待っていたトビと合流し、港へ歩く最中、トビが口を開いた。
「・・・ユーガ、一応言っておくが俺はお前に助けを求めた訳じゃないからな。余計な事しやがって・・・あれくらい、俺一人でも何とかなったんだよ」
「・・・そう、だったのか?トビが魔物に襲われそうで、危なかったから突っ込んじまったけど・・・」
ユーガが首を傾げると、トビは蒼い眼をユーガに向けた。
「そうだ。いいか、余計な事をするな。俺はお前に助けられる程弱くないからな」
そう言うと、トビは踵を返して一人早足でと歩いて行った。
「余計な事、か・・・」
ユーガはトビの言葉を繰り返す。
(俺・・・余計な事をしたんだろうか・・・)
何が正解だったのか。わからないまま、ユーガはトビの後を追いかけて港へ歩いた。
「・・・ここが、ソルディオス港か・・・」
ユーガはソルディオス港ーそこまで大きい物ではないーを見渡して呟いた。辺りは木々に包まれ、花が沢山咲いている。
「ソルディオスはここから東です。さぁ、行きましょうか」
ルインはそう言って、ユーガ達を見る。わかった、とユーガは応えて、港の出口から出ようとしたその時。上空から一瞬羽音が聞こえ、ユーガ達は空を見上げる。
「何だ?鳥か・・・?」
「・・・いや、違うな。魔物、という訳でもなさそうだったが・・・」
トビが空を見上げて先程の羽音の正体を探すが、それらしい物は見つからずに、お手上げ、と言うように手を上げた。
「・・・ま、ただの鳥かもな」
かもな、とユーガは頷いて、港の出口門をくぐった。ーと、ルインが、
「言い忘れてましたが、ソルディオスへ向かう為にはソルドの森を抜ける必要があります。あそこは道に迷いやすいので気をつけて行きましょう」
と言った。うん、とユーガはルインに頷いて東へ歩いた。
「・・・やっと着いたか・・・」
トビが髪をかき上げて呟く。ソルドの森はルインの言っていた通り複雑な地形、道をしていたため、ユーガ達は翻弄され、ソルディオス港から何日経ったのか分からなくなっていた。しかも、森の中にはベアという熊のような魔物がおり、ユーガ達は慣れない地形で苦戦を強いられる羽目となった。体は汗と垢で気持ち悪く、早く宿を探しましょう、というルインの提案に、ユーガとトビは反対などしなかった。
「待ちなされ、旅のお方」
ユーガ達の背後から声が聞こえ、ユーガ達は振り返る。そこには老人が立っていた。
「あんた方、宿へ行かれるのか?だったらそれより先に村長に会って行くと良いぞ」
「村長、ですか・・・」
ユーガはトビとルインを振り返る。ちっ、とトビが舌打ちをしてユーガから眼を逸らす。
「・・・このじじ・・・じいさんの言いなりになるのは癪だが・・・ユーガ、どうせお前は行くつもりだろ」
「正直面倒だけどな・・・挨拶くらいはしていった方が良いと思うし」
トビはやれやれ、と言うように首を振った。少しだけだぞ、と言って腕を組む。ユーガは頷いて、老人に礼を言って村長の家だと言う家へ向かった。しかし、呼びかけてみるが返事がない。
「・・・留守かな?」
「・・・いえ、中に元素を感じます・・・誰かいる」
ルインがそう呟くと、中からガタン、と物音がして、ドタバタと続けて音が聞こえた。トビは臆する事なく扉を勝手に開けてずんずんと中に入って行く。
「と、トビ⁉︎」
ユーガはトビを追いかけて中に入る。ーと、ユーガは頭に強い衝撃を受けた。殴られた、とわかったがもう遅く、薄れゆく意識で最後に、トビとルインも同じように殴られるのを見た。
『・・・めよ・・・が・・・に・・・』
(・・・う・・・)
眩しい光が眼を刺し、ユーガは呻いて眼を開ける。ゆっくりと体を上げ、痛む頭を押さえて見覚えのない部屋にユーガはいた。目の前には鉄格子があり、殺風景な部屋だ。どうやら、牢屋らしい、とユーガは理解する。
「・・・そうだ、トビ!ルイン!」
仲間の名を呼ぶが、返事はなく、部屋の中にも彼等の姿は無かった。それに加え、普段腰に横に付けている剣もない。
「・・・くそ、引き離されちまったのか・・・トビとルイン、無事だといいけど・・・つっ・・・」
よほど強く殴られたのか、まだ頭痛がして立ちくらみがする。しかし、そんな事を言っている場合ではない、とユーガは首を振って脳を覚醒させる。
「なんとかここから出ないと・・・地震の調査も残ってるってのに・・・」
ソルディオスに来た時から何日経ったのかわからなかったが、時間は無駄にはできない。ユーガは辺りを見渡すと、小さいが窓の近くに木の枝が落ちているのを発見した。これなら、とユーガはそれを手に取り、鍵穴に挿し込む。しばらくいじっていると、ガチャン、という音と共に扉が開く。
「よし!開いた!早くトビ達を探さないと・・・!」
ユーガは目の前にあった箱を見つけ、中を見ると自分やトビ達の武器が入っていた。ラッキー、と呟いて剣を腰に横に取り付け、仲間の武器をしっかりと抱えてユーガは仲間を探して走り出した。そして、どれほど探し回ったか、ユーガは一つの牢屋の前で立ち止まった。奥をまじまじと見ると、そこにいたのは、
「トビ⁉︎」
であった。
「良かった、無事だったんだな!」
「・・・お前、どうしてここに・・・」
説明は後、と言ってユーガはトビの牢屋を開ける。中からトビが出てきて、ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・その・・・なんつーか・・・」
「?」
「・・・あ、ありがと、な・・・」
その声はとても小さかったが、ユーガの耳には十分すぎるほどに届いた。
「・・・おう!」
ユーガは顔を背けているトビに笑顔を向け、抱えていた銃をトビに渡した。トビは頷いてそれを受け取り、なら、とユーガを見た。
「ユーガ、ルインを探すぞ。ルインはこの先にいるはずだ。急ぐぞ」
「ああ!」
ユーガはしっかりと頷いて答えて走り出す。その後ろをトビが付いてー軽々と走っているように見えるがー来ている。そして、トビがここだ、と指を指した牢の中には、確かにルインがいた。彼はユーガとトビを見ると驚いたように眼を見張った。
「ユーガ!トビ!無事でしたか!」
「ああ、ルインも無事みたいだな・・・今扉を開けるから待っててくれ」
ユーガはトビの時と同じように扉を開け、ルインがそこから出ると、不意に背後から足音が響いた。
「待て!脱獄者どもが・・・!逃がすと思うなよ!」
それはケインシルヴァ兵でも、クィーリア兵でもなくー。
「ミヨジネア兵⁉︎なんでこんなところに⁉︎」
ユーガは剣を引き抜いて叫ぶ。トビはちっ、と舌打ちをして銃を構える。
「・・・ケインシルヴァのソルディオスからミヨジネアまで運ばれたってか・・・何か臭うな?」
「ユーガ、トビ!来ますよ!」
ルインのその声を合図のように、ミヨジネア兵が一斉に襲いかかった。
「・・・くそ、迷ってる場合じゃないっ!」
ユーガは剣を掬い上げるように振るう。肉を、骨を斬る感触が手に伝わる。人の命を奪う事は、ユーガにとって恐怖でしかない。初めて、という訳ではないが、だからと言って慣れるものでもない。兵は声すら上げず、床に倒れる。残る兵を、トビの弾が、ルインの炎のレーザーが貫く。
「・・・すみません・・・どうか、安らかに眠ってください」
ユーガは倒れている兵に祈りを捧げ、剣を振って血を払った。くっ、と歯を噛み締め、重くなったような気がする剣を鞘に収めた。人を刺す、命を奪う事は普通なら罪だが、道を阻むなら仕方ない、と言えばそれまでだ。だが、避けられるなら避けたい、と思う。ユーガはゆっくりと眼を開けて、少し青くなった顔でトビ達を見た。
「・・・急ごう。ここから出て、ソルディオスまで戻って元素が本当に不安定なのか確かめないと」
ああ、と頷いてトビとルインが先導して走り出す。ユーガはしばらく倒れている兵を見つめ、手を強く握りしめてトビ達を追いかけた。
ー命を奪った、その恐怖に身を震わせながらー。
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