cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第十六話 絆の街、レードニア

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「さ、寒いな・・・」
がちがちと歯を鳴らして、ユーガは呟いた。ミナも同様に、
「そ、そうですね・・・」
と呟く。しかし、とユーガは辺りを見渡した。どこを見ても、雪、雪。白銀の世界が、ユーガとミナの周りには広がっていた。
「ミナ、大丈夫か?」
「は、はい・・・」
ユーガが尋ねると、ミナは手をさすりながら頷いた。ユーガはそれを見て、首に巻いていた赤いマフラーをミナの首に巻いた。
「これ、巻いといた方が良いよ。ちょっとは暖かいと思う」
ミナはそれを見て、でも、と首を振った。
「そうしたらユーガさんが・・・」
「俺は大丈夫。それより、ミナが風邪で引いたら辛いだろ?」
普段開けている上着のボタンを閉めて、ユーガはミナを見た。
「大丈夫か?行こうぜ」
白い息を吐きながら、ユーガは真っ白な道を歩き始めた。ミナはそれを見ながら、マフラーに少し顔を埋めてユーガの後を追った。顔が赤いのは、霜焼けのせいだけではないだろう。当然、ユーガがそれに気付く事は無いのだったが。

「・・・くちゅん」
ミナの小さなくしゃみが、ユーガの耳に入った。
「大丈夫か?・・・やっぱ風邪引いちまったかな・・・」
ユーガはそう言いながら、暖炉の中に木を入れた。
「・・・だ、大丈夫です・・・。しかし、この街があって良かったです・・・」
そうだな、とユーガは頷いた。ここは『極寒の街、フェルトラ』と言うらしい。ユーガ達はその街の宿に転がり込んだのだった。街は日中であるにも関わらず灰色の雲に覆われ、街に置かれている銅像には雪が降り積もっている。ユーガが暖炉から離れ、窓の外を見た。相変わらず、雪が降りしきっている。その時、ユーガの部屋の扉が叩かれ、扉が開いた。
「・・・客人、この街はどうかな?」
そこには、赤い帽子に白い髭、青いローブを身に纏う老人が杖で体を支えて立っていた。
「白い雪が降り積もってて、ちょっと寒いけど綺麗だし・・・快適です」
ユーガはその老人ー名をポルトスというーに顔を向けてそう言った。そうか、とポルトスは微笑を浮かべた。
「そこの緋色の眼の少年」
ポルトスはユーガに視線を向けた。はい、とユーガは首を傾げる。
「ここ・・・フェルトラはクィーリアの隠された街なんじゃ」
ユーガはそれを聞いて、ここもクィーリアなのか、と理解した。ミナがユーガの服の袖を引っ張ってきて、ユーガはそちらに顔を向けるとミナがユーガを見上げていた。
「・・・隠された街、ってどういう事なんでしょうね・・・」
「さぁ・・・あの、どうして隠された街、なんですか?」
ユーガが尋ねると、ふっ、とポルトスは笑って白い髭を撫でた。
「この街はな・・・行き場を失った模造品(クローン)を保護しておるんじゃよ」
屈託もなく告げたポルトスの言葉に、ユーガは眼を見張った。
「模造品として生まれ、迫害された者たちがここには集まっておる」
ポルトスはゆっくりと呟いて息を吐いた。
「・・・じゃあ、もしかしてスウォーは・・・」
ユーガが呟くと、ポルトスはユーガに詰め寄った。
「・・・お主、スウォーを知っておるのか・・・?まさか、お主はスウォーのオリジナルなのか⁉︎」
目が悪いのか、ポルトスはユーガの顔の間近まで詰め寄った。
「・・・ええ。そうです・・・」
ユーガが応えると、ポルトスは杖を離してユーガの肩をがっしりと掴んだ。カタン、と杖が倒れた音がユーガとミナの耳に響いた。
「あの子を止めてくれ・・・!あの子はとんでもない事をしようとしている!」
「ええ。ですから私達は、スウォーさんを止めるために旅をしているんです」
ミナがユーガの隣に立ってポルトスの肩を掴んだ。ユーガも頷いてポルトスの手を握った。
「ポルトスさん、俺達が必ずスウォーを止めます」
ポルトスはそれを聞いて、ユーガの肩を離した。すかさず、ミナが床に落ちた杖を拾い上げてポルトスに渡す。
「ポルトスさん・・・スウォーは、ここで育ったんですか?」
ユーガが首を傾げると、ポルトスは窓の側まで歩いた。ああ、と頷いてポルトスは語り始めた。
「あの子は・・・拾われた時からこの世界に復讐を企てておった。何度説得しても無駄じゃった。・・・ある日、スウォーはどこかへ消えてしまったんじゃ」
聞けば、スウォーは置き手紙を残してどこかへ消えたと言う。そこには、ただ一言。

『全て、消えて無くなればいい』

パチ、と火が弾けた。ユーガはスウォーのあの血のような赤い瞳を思い出した。
「迫害され続けたあの子は、人を信じるのをやめた。信じるのは自分だけ。そして、模造品が苦しまない作る事が目的なんじゃ」
「・・・そのために、ミナを使って・・・」
「マキラを呼び出し、世界を作り変える・・・」
ユーガの言葉をミナが引き継いだ。うむ、とポルトスは頷く。
「・・・けど、兄貴はどうしてスウォーに加担するんだ・・・?今の話を聞く限り、スウォーは誰も信じてないんだろ?だったら、どうして兄貴を仲間として迎えてるんだろう・・・」
ユーガの疑問にミナが、そうですね、と顎に手を当てる。
「・・・フルーヴさんも世界を滅ぼしたい目的があるって日記にも書いてありましたし・・・その目的がわからない限りは・・・」
そうだよな、とユーガは腕を組んだ。ポルトスは窓から離れて、扉へと向かう。
「さて、わしはもう眠らせてもらうよ。老人は寝るのが早いものでな」
「ありがとうございました」
ミナが頭を下げると、いや、とポルトスは腕を振った。
「逸れた仲間がいるのなら、ケインシルヴァのレードニアの街に行くといい。数多くの者が住む街だ。何か情報はあるかもしれぬ」
そう言い残して、ポルトスは扉を開けてその向こうへ消えた。ユーガはそれを見送って、窓の外を見た。レードニアか、とユーガは心の中で呟いた。雪はさらに激しさを増し、次第に少し先すらも見えなくなるほどになっていったー。

「ちっ」
灼熱の砂の中を、蒼眼の少年と金髪の髪の少女が歩いていた。蒼眼の少年の舌打ちは暑さによって出たもの、というだけではないだろう。
「目ぇ覚めたと思ったらいきなりくそ暑い砂漠かよ・・・あーあ、つまんねぇ」
「・・・トビさん。喋っていると余計に体力を消耗する可能性、大です」
少年ー、トビはそれを聞いて、わーってるよ、とぶっきらぼうに応えた。
「・・・この砂漠・・・ケインシルヴァのレードニア砂漠だろ?シノ」
少女ー、シノはトビの言葉に頷いた。
「ユーガさん達がどこにいるのかわからないのに無闇に動くのも無謀だと提案します」
「・・・ま、動かねーとどうにもなんねーだろ。行くぞ」
トビは頭をがしがしと掻いて眼を細めた。シノは前を歩くトビの隣へ走り、けど、と呟いた。
「この服でよかったですね。いかなる環境にも耐える軍服。これが無ければ暑さでやられてました」
「・・・まぁ、な」
トビはどこか上の空で頷いた。シノは微笑を浮かべ、トビを見た。
「・・・ユーガさんがご心配ですか?」
「・・・は?」
トビは呆れたように眼を細め、シノを睨んだ。
「何言ってんだ。んな訳ねえだろ」
「・・・そうですか?心配で仕方ないように見えますが」
馬鹿言うな、とトビは首を振った。ーやはり、素直ではない、とシノは思う。このクールさが、トビのファンが多い訳の一つでもあるのだろう。その都度、トビは人を避けてきたのだが。利用され続けた彼の過去は壮絶な者だったのだろう。それは、とてもシノには理解できなかった。しかし、何度拒まれてもトビに絡む者が事実として現れた。それは今やトビの大切なートビ自身は否定するだろうがー仲間となっている。
「シノ」
ハッとしてシノは顔を上げた。ぼーっとしていたようだ、と首を振る。声の方を見ると、少し前に立つトビがシノを見ていた。
「何やってんだ。行くぞ」
「・・・はい」
砂漠に吹いた風が、シノのポニーテールを揺らす。その風は次第に砂を巻き込み、空へと吹いていったー。

「・・・風よ吹き荒れろ・・・ウィンドレッシュ!」
緑のあほ毛が魔法が発動するのと同時にぴょこん、と揺れた。彼の魔法は魔物を巻き込み、少し離れたところへ吹き飛ばした。
「・・・ネロ様っ!」
「ああ、任せろ!」
彼が叫んだその名を持つ青い髪の少年が剣を振りかぶり、真上から剣を振り下ろした。ざく、と肉が断つ感覚を手に感じながら、ネロはその手を振り切った。
「・・・ふぅ・・・ありがとうございます、ネロ様」
「お前の援護のおかげだよ、ルイン。さんきゅ」
あほ毛を再び揺らしてルインは、いえ、と首を振った。
「ネロ様のお役に立てたのなら本望です」
恭しく頭を下げたルインに、ネロはぽりぽりと頭を掻いた。
「ルイン、別に敬語じゃなくてもいいんだぜ?恭しいのは苦手なんだ」
「いえ、ですが・・・」
マハは頭を上げて困ったような顔を見せた。ネロは苦笑して、
「まぁ、敬語を無理に無くせとは言わないけど・・・様呼びはやめてくれると嬉しい。仲間だろ?」
と、それを聞いて、ルインは既視感を覚えた。そうだ、ユーガにもこのような事を言われたのだった、と思い出す。ネロと一緒に暮らしているのだから、性格が少し似ていても不思議ではない、と思う。
「・・・わかりました。それでは只今より、私はあなたに服従する者としてではなくあなたの友人として接しましょう。ネロ」
「・・・はは、まだちっと恭しいんだけどな。ま、いいや」
ネロは手に握ったままだった剣を腰の鞘に納め、辺りを見渡した。
「しっかし、中々な森だなぁ・・・見た感じ、ケインシルヴァのソルドの森のように見えるが・・・」
「ええ」ルインは頷いてネロをチラッと見る。「しかし、ここはかなり森の奥のようですね・・・。見覚えの無い景色が広がっていますし」
ネロやルインの言う通り、辺りには木々が生い茂っていた。
「・・・とにかく、ユーガ達と合流しよう」
「そうですね。・・・しかし、当てもないのに歩くのは危険です。ここは一度、レードニアに向かう事をおすすめします」
「ああ、あの大都市の・・・けど、なんでレードニアなんだよ?どうせなら情報の街って言われてるトルーメンの方が・・・」
「レードニアとは、別名『絆の街』と呼ばれています。ユーガがそれを知っているかは分かりませんが、もし向かうとするならそこかもしれませんからね」
ルインの言葉に、ネロは半分諦めた顔を浮かべた。ユーガは特別頭が悪いわけでは無いが、そのような知識は乏しかったはずだ。向かっていたとしても、特に深い意味はないだろう、と確信する。
「トビは・・・まぁ、なんとかなるでしょう」
可哀想な奴、とネロは内心トビに同情した。

ーそして、彼らは合流を目指しー

~ユーガサイド~

「よし」
ユーガ達は極寒のフェルトラからレードニアに向かうために準備を整え、街の出口にいた。見送りに来たポルトスが少し残念そうに顔を俯かせる。
「・・・もう行ってしまうのか」
「・・・俺達は仲間を探さないといけませんから。それに、スウォーも・・・」
ポルトスはゆっくりと頷き、ユーガをまっすぐ見た。
「・・・あの子の事、頼んだぞ」
ユーガ達はその言葉に同時に頷き、フェルトラの街を背にして歩き出した。しばらく歩いたところで、ミナが立ち止まってフェルトラの街を見る。
「・・・模造品の街・・・あの人のように、全ての人が模造品を受け入れられれば良いのに・・・」
「うん」ユーガは頷いて、続けた。「・・・模造品だって生きてる。誰もがその命をちゃんと見ないといけないのにな・・・」
ユーガはスウォーと、そして兄をーフルーヴを思った。模造品として、迫害され続けた事により人を信じるのをやめたスウォー。なぜかそれに加担する、世界に復讐しようとするフルーヴ。ユーガには到底、彼らの思いはわからなかった。
「・・・ユーガさん?」
ハッとして顔を上げると、ミナがユーガを覗き込んでいた。
「あ、ご、ごめん・・・どうした?」
「・・・いえ、少しぼーっとしていたようなので心配で・・・」
「・・・そっか。やっぱちょっと気になってる事があるからかな」
「気になってる事、ですか?」
ああ、とユーガは頷いて鼻の頭を掻いた。
「・・・スウォー達の事とか・・・それに、トビ達の事。早く会いたいなーって」
ミナはそう言うユーガの横顔を見て、ふふ、と微笑んだ。自分達の心配よりもまず先に仲間。どこまでもまっすぐでひたむきなユーガにファンが少なくないという話も頷ける、とミナは改めて実感する。
「そうですね・・・皆さん、どこにいるんでしょうか・・・」
「うん・・・早く会いたいよ、ホント」
ユーガは呟いて、仲間達の事を思った。彼らは今、どこで何をしているのか。改めて、早くレードニアに向かいたい、と思うユーガだった。

~トビサイド~
「・・・まじでだりぃ・・・」
そう言って、レードニアの街での家の日陰でトビは右眼を隠している前髪をかき上げた。少し苛立ったような眼は太陽の光を受けて少し輝いた。服のおかげで暑くないとはいえ、顔などの肌が露出されている部分は別だ。それに何より、砂漠を歩いたのだから疲労は溜まる。トビはそれに苛立ちを覚えながら舌打ちをした。先程まで隣にいたシノは、物珍しそうに骨董品を漁っている。彼女の悪い癖だ、とトビは溜め息を吐く。
(・・・にしても)トビは青く晴れ渡った空を見上げた。(『復活の神子』・・・ね・・・)
伝承で聞いた事のある、『それ』はまさかミナの事だったとは、とトビは小さく息を吐いた。『復活の神子』は遥か昔に存在そのものが消えたとされていた筈だ。
「・・・待てよ」
トビは、ん?と手を顎に当てた。そもそも、『復活の神子』はなぜ生まれたのだろうか。
「・・・マキラがそれを、予知していた・・・?それとも、マキラは復活を望んでいるという事なのか・・・」
トビは小声で呟いて、もう一度考える。
「・・・スウォーは世界を滅ぼそうとしてて・・・そう考えると、各地の地震、元素の不安定化も奴が・・・?」
ーが、すぐに、あーあ、と頭をがしがしと掻きむしる。
「・・・んな事一人で考えててもしゃーねぇや」
どうせ一人で考えたところでまともな答えも出ないし、出たとしても確証を持つ事は難しいだろう、とトビは日陰から出て、まだ骨董品を眺めているシノの横に立って骨董品を、がらくたばかりだな、と思いながら眺め始めた。

~ネロサイド~
「お、この船に乗ればレードニアに行けるのか」
ネロはソルディオス港に留まっている船を指差して言った。
「ええ。あそこに船の乗組員がいますね。乗せてもらえないか交渉してみましょうか」
「そうだな」
ルインの言葉にネロは頷き、人の良さそうな男性に声をかけた。
「あの・・・」
「・・・はい?・・・あ、あなた様は・・・⁉︎」
男性はネロの顔を見て、驚いたような声をあげた。
「る、ルーオス子爵・・・‼︎」
子爵、とネロは小さく呟いて、一つ咳払いをした。
「・・・頼みがあるんだが・・・俺とこの者をレードニアまで運んでくれないか?」
「・・・そ、それは・・・いくらルーオス子爵様のお言葉でもお断りさせていただきます・・・現在、レードニアへの航路には魔物が住み着いておりまして・・・」
魔物、とルインは呟いて腕を組んだ。
「・・・地震の原因で、生態系が変わり始めているのかもしれませんね」
「・・・かもな」
ネロが頷いて、腰に差した剣を男性に見せた。
「なら、俺達がその魔物を倒す。その代わり、俺達をレードニアに連れてってくれ」
「私達は仲間を探すためにレードニアへ行かなければならないのです。お願いできませんか」
ネロとルインに詰め寄られ、男性は渋々頷いた。
「では準備が出来次第、出発しましょう。ネロ」
「そうだな」
二人は頷き合って、準備を整えるべくソルディオス港の散策を始めた。回復のポーションや武器を買い換え、買った物を持ったネロは、拳を強く握りしめた。

~ユーガサイド~
「はぁぁっ!」
ガキン、と刃と刃がぶつかり合う音が青い空に響いた。
「ほう、中々ですね」
「ぐっ・・・」
ユーガが一度後ろへ飛び、荒くなった息を整えた。しかし、相手はー、全く息を切らしていない。ユーガの後ろからミナが無数のナイフを『彼』に向かって投げた。しかし、それらを手に持った短剣で『彼』は弾き飛ばした。
「・・・なぜ、あなたが・・・キアルさんがここに・・・」
ミナの質問に、『彼』はー、キアルはニヤッと笑って答えた。
「・・・もちろん、我らの長であるスウォー『様』のご命令です。『復活の神子』を捕えよ、と」
キアルの発言に、ユーガは眼を見張った。スウォーが長?って事は・・・。
「四大幻将・・・いや、ミヨジネアの王国兵団は・・・」
「・・・スウォーさんの配下、という事になりますね」
ユーガとミナの言葉に、キアルは悪魔のような笑みを浮かべた。
「・・・そういう事です」
キアルがそう言い終えると同時に、キアルは短剣をしまって銃を取り出し、ユーガに向けて発砲した。ユーガはそれを屈んでかわし、剣を逆手に持ち替えてキアルに向けて振った。しかしそれはキアルの超人的な跳躍力でかわされ、空中から放たれたキアルの魔法が小石ほどの氷となり、勢いよくユーガの腕に直撃した。
「がっ⁉︎」
ユーガは痛みに顔を顰め、地面に膝をついた。見ると、ユーガの白い服が血によって赤く変わり始めている。
「さて・・・『復活の神子』が必要となった今、ただの緋眼を持つあなたは邪魔なのですが、どう死にたいですか?」
キアルが膝をつくユーガに向けて尋ねる。くそっ、とユーガはキアルに向けて剣を振るったが、キアルはその剣を易々と踏み付け、笑みをユーガに向けた。
「・・・こんな安物の剣でよくもまぁ頑張りましたね。その努力もここまで、という事になりますがね」
ミナがキアルに向けてナイフを投げるが、キアルは氷の盾でそれを防ぎ、氷の魔法でミナを拘束した。
「・・・ミナ・・・‼︎」
「ユーガさん!」
ミナは氷の束縛から逃れるために必死で足掻いたが、それだけでは解く事はできずー。
「・・・さようなら、ユーガ・サンエット様」
キアルの抑揚のない声が、ユーガの頭に響いた。ここまでかー、そう諦めかけた、その時。パン、と音がしたかと思うとキアルの腕から拳銃が弾け飛び、乾いた音を立てて地面に転がった。
「・・・え・・・?」
「・・・何やってんだ、馬鹿が。情けねえ姿しやがって」
ユーガが顔を上げると、そこにはーよく見慣れた、蒼い眼をした少年がユーガを見下ろしていた。横には緑のあほ毛の少年に、赤い礼服を身に纏って金色の瞳で見下ろす少年が立っていた。ぱきん、と氷が割れる音が聞こえて、そちらを振り向くと金髪のポニーテールの少女が、ミナを拘束していた氷を割っているところだった。ユーガは眼の奥が熱くなっていくのを感じてー。
「・・・トビ・・・それに、皆・・・!」
「・・・騒ぎが起きてるから来てみりゃ、お前は情けねえツラでやられてやがるし」
トビが皮肉を含めて呟いて、ユーガに回復魔法をかけた。その前に、ネロとルインがそれぞれ武器をールインは手を前に突き出してーキアルに向けた。
「・・・おや、中々厄介な事になりましたねぇ・・・。なぜあなた方がここに?スウォー様が散り散りにした筈ですが?」
「そんなのー・・・」
キアルの質問にネロが呟き、その後をルインが引き継いでー。
「『たまたま』です♪」

~トビ&ネロサイド~
「・・・あれ?」
ルイン達が海上の魔物達を蹴散らした後、レードニアの港に到着して船を降りる際にネロがそう呟いた。
「どうされました?ネロ」
「・・・いや、今・・・トビがいたような気がして」
「トビが?本当ですか?」
ああ、とネロは頷いてもう一度眼を凝らす。が、それらしい人は見えない。
「ルイン、トビの元素を追う事はできないのか?」
「・・・こうまで人が多いと、少し難しいですね。ここまで多いと気が紛れてしまうんです」
「そうか・・・」
ネロは頭を掻き、船の階段を降りてレードニアへと降り立った。確かに、さっきいたように見えたんだがー。ネロは辺りを見渡すが、やはりいない。
(・・・気のせい・・・?いや、確かに・・・)
「ネロ、ともかく宿へ向かいませんか?今の私達は疲弊していますし、ここは一旦休憩を取りましょう」
ルインの提案にネロは頷き、宿に向かおうとして曲がり角を曲がろうとした、その時。
ドン。
「うわっ⁉︎」
「・・・っ!」
曲がり角を曲がったネロは、死角から現れた男性に気付かず、衝突した。
「・・・あ、す、すみません・・・少し考え事を・・・」
しまった、とネロは後悔した。また、考え込んでしまった。ネロは俯いたまま、相手の顔を見る事ができずに立ち上がった。今のこの状況、トビがいたら嫌味の一つや二つを言ってくるだろう、と自嘲した。
「・・・お前、何やってんだ」
そうそう、こんな風にー。
「・・・へ?」
こんな風に?いや、今聞き覚えのある声だった。そう、あのクールでちょっとムカつく、クィーリア一のイケメンとか言われてるあいつー。ネロはゆっくりと顔を上げ、男性の顔を見るとー。
「・・・トビ⁉︎」
「・・・お前ら、何でここに・・・?」
トビは驚きを隠せない表情で、ネロと隣に立つルインを交互に見た。
「それは」とルインが微かに笑みを浮かべながら言った。「こちらも同じです。あなたこそ、何故ここに?」
「・・・眼が覚めたら、砂漠のど真ん中だったんだよ。んで、近い街に行こうとしたらここだった。お前らは?何でここにいんだよ」
トビの問いかけに、ネロとルインが代わりがわりに答えていった。話を聞き終え、トビは小さく溜め息を吐いた。
「・・・俺達がここにいんのはたまたまだが、ユーガがここに意味を持ってくるとは考えにくいな」
っつーか、無理じゃね?とトビは諦めたような顔で首を振った。
「・・・まぁ、そうかもな・・・」
一般常識はあるが、基本的にはアホの子のユーガの事だ。ソルディオス港でルインが言っていた事とトビが同じ事を言って、ユーガが来るのは無理かもな、と改めて思ったネロであった。ところで、とルインが微かに首を傾げて尋ねる。
「・・・『俺達』という事は、あなた以外にも誰かがいるのですか?」
「・・・ああ、まぁな。あそこに」
トビが指を差した方向には、金髪のポニーテールを揺らして骨董品をーどう見てもがらくたの山だーを漁る少女、シノの姿があった。
「シノが一緒だったのか・・・。じゃあ、ユーガはミナと一緒にいんのかな?」
ネロの呟きにトビは、さぁな、と首を振った。
「そうかもしれねぇし、そうじゃねぇかもしれねぇ。一人だったら、合流すんのは絶望的だろうけどな」
トビの言葉に、全員が頷いた。じっとしている事が苦手なユーガは、行動あるのみ、と言ってどんどん進んでいくだろう。ーと、その時。ルインがいきなり険しい表情となり、街の一角の方角へ首を向けた。
「・・・どうした?ルイン」
「・・・この元素は・・・!」
ルインの言葉の直後、びりびりと空気が揺れたような感覚がトビ達を襲い、それに加えて地面が揺れ始めた。レードニアの人々が悲鳴をあげて家の中へ避難するのを横眼で確認しながら、トビは街の一角ーそれはどうやら街の外であり、街の門の前のようだーへと走った。この嫌な感覚。空気が張り詰めたような、まるで凍り付いたような感覚は覚えがある。ミヨジネアからケインシルヴァへ帰る船の中で感じたー。四大幻将の一人、『絶雹のキアル』ー。
「・・・行くぞ」
トビは努めて普段通りの声色で、仲間達を置いて街の入り口へと走った。トビが足を止め、眼の前に入った光景にトビは絶句した。そこには、膝をついて苦しそうな表情を浮かべるユーガとー。余裕の笑みを浮かべて銃をユーガに向けるキアルが、そこにはいた。トビは小さく舌打ちをして、気配を消しながら銃を構えた。魔法を詠唱しようかと思ったが、それでは詠唱している間に気付かれる可能性もある。
「・・・っ、おい、トビ・・・」
後ろから、追いかけてきたのであろうネロ達がトビに声をかけた。何かを言いかけていたがそれを眼で制してー。
「・・・突っ込むぞ」
トビはそう言い終わると、銃を放った。キアルの手からユーガに向けられていた銃が弾け飛び、ユーガとキアルの眼が驚きに見開かれる。
「・・・え・・・?」
相変わらず情けない声をあげる奴だ、とトビは半ば呆れ、まだ膝をついているユーガの前に立った。
「・・・何やってんだ、馬鹿が。情けねえ姿しやがって」
トビは冷たく言い放つと、ユーガがぽかん、とした表情でトビをートビ達を見つめた。
「・・・トビ・・・それに、皆・・・!」
あーあ、とトビは頭をがしがしと掻いた。照れ隠しなのか、とネロとルインは顔を見合わせて苦笑いをした。
「・・・騒ぎが起きてるから来てみりゃ、お前は情けねえツラでやられてやがるし」
トビのその言葉には反応せず、銃を弾き飛ばされたキアルが忌々しげにトビ達に尋ねた。
「・・・おや、少々厄介な事になりましたねぇ・・・。なぜあなた方がここに?スウォー様が散り散りにした筈ですが?」
その質問に、ネロとルインが後ろで微かに頷いたのを確認して、トビは溜め息をついた。そして、
「そんなのー・・・」
とネロが。
「『たまたま』です♪」
とルインが答えた。

ーかくして、ようやく一行は合流を果たしたー。
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