cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第二十四話 目覚めし『蒼』

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「ユーガ」
ユーガ達が『エアボード』に乗ってゼロニウスへ向かう最中、ネロの声がスピーカーから聞こえてきた。
「ん?」
『お前、どうしてトビを救おうとしてるんだ?』
そんな突拍子もない質問に、ユーガは眼を瞬いた。
「そんなの・・・仲間だからだよ?」
『けど、お前は否定されたじゃねえか。それでもお前があいつを助けようとする理由を知りたいんだ』
「・・・否定されたけど・・・それでも、トビが処刑されそうなのに助けないのは・・・なんて言うか、違う気がするんだ」
『違う?』
ネロの怪訝そうな声がスピーカーから聞こえる。ユーガは、うん、と頷いた。
『・・・怖くないのか?』
ネロはその言葉に様々な思いを込めた。これから、敵陣の中に突っ込む事になってしまう。それ故に、下手をすれば死ぬかもしれない。もう一度フルーヴに会い、襲われるかもしれない。そして、何よりもー、トビと会うという事、それすなわち再びトビに、否定される事になるかもしれないのだ。
「・・・怖くないわけじゃないよ」
ユーガは少し俯いて、そう言った。だけど、と顔を上げて前方に広がる蒼海の海を見ながら言葉を継いだ。
「俺はトビを助けたい。トビはこれまで、不本意かもしれないけどたくさん俺を助けてくれた・・・。だから、今度は俺がトビを助ける番なんだ」
『おー』とリフィアの茶化すような声が聞こえてきた。『流石ユーガ君。それでこそだね』
『そうですね』
と、ルインの声も響き、ネロが嘆息する音が聞こえた。
『悪い、ユーガ。野暮なこと聞いたな。・・・さぁ、さっさとゼロニウスに行くか!』
「ああ!」
ユーガは『エアボード』の速度を上げて、なぁ、と誰にとは言わず尋ねた。
「ゼロニウスまで、あとどれくらいで到着するんだ?」
『そうですね・・・この速度で飛んだとしても、あと一日半・・・または二日はかかると思います。船でも最低五日はかかりますから、速いと言えば速いですが・・・』
ルインの言葉に、ユーガは危機感を覚えた。確かに船よりは速いかもしれないが、制下の門を出て今に至る時点で既に半日は経っている。もう余裕が無い事は明らかになっていた。
「そう、か・・・」
『急いでゼロニウスに向かう事を推奨します』
シノのその言葉に、ユーガは頷いた。ーそうだ。トビを死なせてたまるものかー!ユーガは静かに決意を固め、持ち手を握る手に強く力を込めた。

~トビサイド~
「・・・この作戦ならいけるか」
トビは後ろ手に拘束された手で『何か』を数え、よし、と呟いた。あまりいい作戦ではないが、仕方ない。こんなところで死ぬわけにはいかないのだから。しかし、と今はもう痛みも引いた頭を振って辺りを見渡す。
「・・・ろくな飯も食わしてもらえねぇのかよ」
「当たり前だ」
「!」
足音と共に聞こえてきたのは、今まで何度も聞いてきた低い声。スウォーではない。やがて、暗闇の中から大きな槍を背中に装備した男が姿を見せた。
「・・・フルーヴ・・・!」
「お前はこれから処刑されるんだ。最後の晩餐とかはよく言ったもんだが、残念ながらお前にはそんな物は無いんだ」
「・・・処刑されるんだったらせめて最後の飯くらい美味いもの食わせろよ」
ーとは言ったものの、死ぬつもりなど毛頭無いのだが。トビの言葉に、ふん、とフルーヴは鼻を鳴らした。
「・・・逃げようとか考えるなよ。ここからは出られないんだからな」
「へいへい、わかってるっつの」
フルーヴはトビを一瞥し、もう一度鼻を鳴らして牢屋に背を向けた。フルーヴはしばらく歩き、近くにいたミヨジネア兵士二人に、おい、と声をかけた。
「は、はい!何でございましょうか!」
「お前ら・・・」
フルーヴは二人の兵士の耳元に口を近づけ、何事かを囁いた。フルーヴが言い終わると、兵士達は眼を見張ってフルーヴを見た。
「し、しかしフルーヴ様・・・」
「そんな事をしては、スウォー様が・・・」
「黙れ」
フルーヴはその言葉で兵士達を威圧して睨んだ。それを受けて兵士達は肩をびくっと震わせて萎縮する。
「これは僕の命令だ。・・・聞けないのか」
「は・・・はっ!直ちに!」
「早くしろ」
慌てて走り去った兵士達に嘆息してフルーヴは、ちっ、と舌を打った。
「・・・困るんだよ。今死なれてもな」
フルーヴはそう呟いて嘆息し、今はもう暗闇に紛れて見えないトビのいる牢屋を見つめた。
「・・・今回だけだ」

~ユーガサイド~
ユーガ達の目前にゼロニウスの街が見え始め、ユーガ達は『エアボード』の高度を次第に下げ始めた。
『何とか・・・ギリギリ間に合いましたね!』
ミナの言葉に、ああ、とユーガは頷いた。
「本当、危なかったな・・・!」
そう。道中で突如巨大な竜巻が発生し、流石の元素障壁(フィアガドス)といえども吹き飛ばされてしまい、大幅なタイムロスを食らってしまったのだった。事実、トビの処刑まではあと半日しかないのだ。『エアボード』からユーガ達は降りると、リフィアが口を開いた。
「ど、どうなるかと思ったけど・・・」
リフィアはそう言いながらも、足元がおぼつかない。きゃ、と小さな悲鳴をあげて倒れそうになったリフィアを、ネロが咄嗟に腕を掴んで支えた。
「お、おいおい・・・大丈夫かよ」
危ないな、とネロが呆れたように言い、その状況から微動だにしないリフィアを見て首を傾げた。
「どうした?」
「あ、ああ・・・何でもないよ。ありがとう、ネロ君・・・」
「リフィアってドジなとこあるよな・・・村長も言ってたけどお前、もう二百年は生きてるんだろ?」
「ど、ドジは余計じゃないかい・・・?」
リフィアはそう言いつつもネロの方を見ようとはしなかった。
「・・・まぁ良いけどさ。あ、ユーガ。アルノウズで聞いたガイアの事はトビを助けたらちゃんと話すよ」
「わかった」
ユーガが頷くと、シノがユーガに向かって口を開いた。
「先にトビさんの事を優先したのは、ガイアの方々には緊急性が無いと判断したからです」
「じゃあ、ガイアの人達は・・・」
「ああ、無事だ。危険にも晒されてない。・・・ただ、ちょっと面倒になるかもだけどな」
ネロはそう言って頭を掻いた。ユーガはその事を聞こうとしたが、いや、と思いとどまった。ガイアの人達に緊急性がない、とシノ達は判断したのだ。それに、ユーガ自身もトビに会いたかったのだ。
「おそらく、そろそろトビが処刑台に上げられる頃でしょう。急いで向かいますよ」
「わかった。教会の前の広場に行けば良いのか?」
ユーガの問いにルインは、ええ、と頷いた。その顔は決意に満ちている顔で、ユーガも気を引き締めた。
「・・・よし、皆!行こう!必ずトビを助けるんだ!」
ユーガは握った手を空に突き上げた。仲間達も頷き、それぞれが拳を突き上げた。ーシノは抑揚のない感じでやっていたけど。ユーガは手を下ろして街の広場に向かって走った。その後ろを、皆が着いてきてくれる。トビを助けたい。そして今度こそー!
(トビと・・・ちゃんと『絆』を作るんだ!)
ユーガは走りながら強く手を握った。あの、と両手を振りながらミナが尋ねた。
「どうして『エアボード』から降りてしまったんですか?そのままトビさんを空から救えば・・・」
「あ、それは無理だよ」
ミナの言葉を遮って、リフィアは言った。何で?とネロが聞く。
「アレに使われてる元素障壁はキミ達が普段使ってる物とは違くて、出入りは起動するとできなくなってるんだよ」
「なるほど、納得した。・・・なら、リフィアのその翼で飛ぶのは?」
「残念ながら、アタシは飛ぶのは苦手なんだよねぇ・・・」
飛ぶの苦手なのかよ、とネロは呆れて眼を細めた。
「自分達の力でトビを助けなさい、という事ですかね」
ああ、とネロは頷いた。正面突破しか道は無いなら、正面突破してみせるー。やがて、建物の隙間からざわつきと共に光が見えた。その事に、ルインは違和感を覚えた。ゼロニウスの人々は以前訪れた際、マキラに信仰する事しか考えず、他の事には見向きもしない彼らが、なぜこんなにもざわざわしているのか。それが不思議だった。ーが、やがてそれを理解する事になった。ユーガ達が広場に出ると、そこには多くのゼロニウスの住人が集まっていた。その中心に処刑台はあった。それは鉄製でできていて、その上に彼はートビは、いた。
「いた!」
ユーガは日が暮れつつある夕暮れの空を背にするトビを見て、叫んだ。そして、街の人々のざわめきを凌駕するような声が街中に響き渡った。その声はー。
「マキラを信じるゼロニウスの者ども、よく集まったな!これよりこの者、トビ・ナイラルツをマキラに逆らった罪で処刑を行う!」
「スウォー‼︎」
スウォーはユーガ達の姿を確認すると、忌々しげにユーガ達を見た。
「・・・来るとは思ったが、こんなに早く来るとはな・・・」
「ユーガ・・・⁉︎なぜここに来たっ‼︎」
トビがこれまでにないほどの大声で叫んだ。ゼロニウスの人々が、ユーガ達の前の道を開けてくれた。ユーガは前に進み出ながら叫び返す。
「・・・だって、仲間だろっ‼︎」
仲間。トビはその言葉に口を閉じた。まだ、自分を仲間と呼ぶのかー?くっ、とトビは口を噛んだ。
「仲間じゃねぇって・・・言っただろうが!」
「仲間じゃなかったとしても、俺はトビに助けられてきたんだ‼︎眼の前でトビが殺されそうになってるのに、見捨てる事なんて俺はしないっ!今度は・・・俺が助けるんだ!」
トビはそのユーガの叫びに、不思議と苛立ちは覚えなかった。それより、なぜ、という思いの方が強かったのだ。
「うるせぇオリジナルだぜ・・・!おい、やれ!」
スウォーの声と同時に、四大幻将ーレイを除いたーがユーガ達の前に立って、彼らはユーガ達を一瞥してー。
「お久しぶりです、ユーガ様方」
「再び会えて光栄ですよ、皆様」
「ふっ、今度は容赦はせんぞ」
「キアル・・・!フィム・・・!ロームまで・・・!」
ユーガは剣を引き抜き、仲間達もそれぞれ武器を構えた。
「キミ達、アタシ達の仲間がピンチなの。通してくれるかな」
リフィアはそう言って、咄嗟に後ろに飛んだ。そこへ、ロームの巨大な鎌が突き刺さっている。
「そうはさせまいと我らが来たのだ。ーぬけぬけと通すわけがあるまい」
ルインがそれを横目に見ながら、魔法の詠唱をできるように体制を整えながら口を開く。
「キアル。レードニアの街の事についてもあなたにはお伺いしたい事があるんですよ」
「・・・おや、あらかたの事は理解しているのにですか?」
キアルが眼を細めてルインをじっと見る。ええ、とルインは頷き、魔法の詠唱を始めた。さらに次いで、ミナがフィムの前に立った。
「あなたも・・・私達の邪魔をするんですか」
「当たり前でしょう。ナイラルツ家の末裔が死んでもらえれば、私の計画には好都合ですからね」
「・・・ふざけないでください」
ミナは怒りを露わにし、フィムを睨んだ。それとは反対にフィムは、ふっ、と笑みを浮かべた。
「ふざけてなどいません・・・よ!」
フィムは素早くミナに掌底を打ち込もうとした。ーが、ミナはナイフでそれを受け止め、戦闘体制に入る。ーと、キアルと見合っているルインが叫んだ。
「ユーガ!トビの所へ行きなさい‼︎ネロ、シノ!ユーガを援護して、トビの所へ!」
「わかった!」
「承知しました」
ネロとシノはそれに同意し、ユーガに顔を向けた。ーが、ユーガはルインの方を見ながら動こうとしなかった。
「け、けど・・・!」
それは、仲間を置いて行く、という事だ。そんな事ー!
「ユーガッ‼︎トビを救うのでしょう‼︎私達なら大丈夫です!あなたの・・・仲間なのですから‼︎」
そう、ルインは叫んだ。ハッとして、ユーガは俯いて手を強く握った。
「・・・わかった!」
ユーガは呟き、皆、と顔を上げた。
「必ずトビを助けて、・・・戻ってくるから!」
ユーガの言葉に、ルイン、リフィア、ミナはそれぞれ頷いたー。

ユーガはネロとシノに、行こうと頷いてトビの所へ向かうための階段を登り始めた。
「行かせるか!」
ロームが気付き、ユーガ達を追いかけようと足を踏み出しかけて、その足を止めた。リフィアがその前に立ち塞がり、ロームを睨んだ。その顔は、いつものような表情ではなく鋭い瞳で、その顔はまさにー。
「ほう・・・貴様が『魔神』のサキュバスとはな」
「知っててくれてどーもありがと・・・ねっ!」
リフィアはそう言って高く跳躍し、体内に込めた元素を拳に集中させた。
「『魔神』の力、受けてみる?これでどーだ!魔神業波掌っ‼︎」
リフィアは思い切り跳躍し、ロームに向けてその拳を振り下ろした。ロームは後ろへ飛び、リフィアの拳が地面に着くと同時にその地面に轟音と共に巨大なひびが生じ、ロームは瓦礫に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「リフィア、張り切ってんな」
ネロが階段を登りながらそう言って、本当ですね、とシノも頷く。ーが、ユーガの耳にはそれは届いていない。トビを助ける。その思いで、ユーガはいっぱいだったのだ。
「あなた方は」とキアルがルインに向けて口を開いた。「トビ様を助けようと必死ですが・・・もし、彼が生きたくなかったらどうします?彼がここで、死ぬ事を望んでいたら」
「関係ありませんよ。私達は仲間として、友人として彼に生きていてほしいのですから。あなたにそれをどうこう言われる権利など、ありはしないんですよ」
ルインは言い終わると、体内に高めていた元素(フィーア)を解き放った。
「源の元素よ・・・万物の力を持ち収縮し・・・咎を受けし魂に七光の業を与えよ・・・!」
その詠唱は、これまでに無いほど強い元素の力をキアルは感じた。足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり、まずいか、と思い咄嗟に後ろに跳躍したが、魔法陣の外に逃げ切る事は、不可能ー!
「これで終わりです!フィーアメロディッ!」
ルインは腕を交差させその技が発動すると同時に、七光を放つ柱が魔法陣全てを包み込むように立ち、キアルの体を包んだ。その柱が収縮すると共に聴く者の心を穏やかにするような優しい音色が響いた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
キアルの絶叫が響き、ルインは交差していた腕を一気に解き放った。その瞬間、柱は大爆発を起こす。魔法陣の中全体が爆発に呑まれ、その強風にユーガ達も吹き飛ばされそうになったが何とか耐え、再び階段を登る。
「・・・これが・・・『天才魔導士』の力です」
そう言って背を向け、ルインはキアルに向けて呟いた。その背後に、傷だらけになって動かないキアルの体が、どさ、と落ちる。キアルの体はそのまま動く事もなく、ただその場に仰向けに倒れているだけだった。ユーガが横眼でそれを見て、すげぇ、と呟いた。ミナは、とユーガはミナのいる方を見ると戦いながら何かを話し込んでいるようだったが、ユーガ達の耳には聞こえなかった。
「・・・私は私の研究を全世界に認めてもらうんです。そのためには、ユーガ様の力が必要なんです。なのに、なぜ私の邪魔をするのですか」
「ユーガさんはトビさんと・・・相棒さんと面会をするんです。・・・その邪魔はさせません!」
「またしても『絆』ですか・・・?相変わらず馬鹿馬鹿しいですね」
フィムは、にやり、と笑みを浮かべて怒涛の拳の連撃をミナに叩き込んだ。ミナは受け止めようと試みたが、小さいナイフでは全てを受け止め切る事はできず、ドゴッ、という鈍い音と共に床に転がった。
「く・・・」
ミナは痛みに顔を顰めながら顔を上げた。フィムは立ち上がるミナを見下し、さらに拳を叩き込んでいく。
「ミナ!」
ユーガは階段を登りながら叫び、引き返そうとした。しかしー。
「ユーガさん、いけません」
「シノ⁉︎けど、ミナが!」
「今あなたがするべき事はトビさんを助ける事。私がミナさんを助けに行きます。あなたはトビさんの所へ。ネロさん、ユーガさんをお願いします」
「・・・わかった」
ネロは頷き、ユーガの肩を掴んだ。
「行くぞ、ユーガ!」
「・・・!くっ、シノ、ごめんっ!」
シノはユーガとネロが二人で階段を登っていくのを確認して頷き、柱にナイフを突き立てながら摩擦で降りていき、ミナとフィムの所へ走った。
「・・・固有能力(スキル)、『氷掌脚』・・・解放。掌底烈破」
シノは突進しつつフィムに掌を突き出した。その掌とキアルの間に元素が収縮し、シノはそれを一気に炸裂させた。完全に不意を食らったフィムは吹き飛び、さらにシノは自身の拳と脚に氷の元素を纏わせて顔を上げたフィムに連撃を繰り出していく。
「・・・氷を纏ったこの連撃で・・・逝きなさい。・・・昇竜閃空撃」
膝蹴りをフィムの腹に食らわせてフィムの体が宙に舞った。それでもシノは攻撃の手を緩める事はなく、跳躍してフィムの体の上からかかと落としを決めて地面へと叩き落とした。フィムが口から血を吐き、降り立ったシノを睨んだ。ーが、シノはフィムになぜか背中を向けた。
「・・・もう私がするべき事は終了しました」
「・・・何・・・⁉︎」
フィムは立ち上がりながらそう言ったが、すぐにハッとして振り返った。背後に、ミナがー。先程とは雰囲気が違うミナが、立っていたのだ。眼は前髪に隠れて見えないが、小さなナイフを顔の前に構えて持ち、そのナイフを逆手に持ち替えた。
「やはり、あなたの固有能力は・・・『絶対神』ですか」
「な、何だと・・・⁉︎『絶対神』だと⁉︎そうか、だからスウォーはこの女を・・・!」
フィムは拳を叩き込もうとミナに手を伸ばして向かっていったが、一瞬後にはその伸ばした手が血で溢れた。
「な・・・!」
「・・・覚悟!」
さらにミナはフィムの全身をナイフで切り裂いていき、フィムはその全身の痛みに叫び、何かを言おうとしたがそれは叶うこと無く地面に伏した。
「シノが助けに行って良かったな。シノとミナの固有能力、初めて見たけど・・・」
ネロはミナ達がいる下を見ながら走り続け、先程から無言で走るユーガに眼を向けた。ユーガは黙り込み、ただネロの後ろを着いてきている。
「・・・ユーガ、どうした?」
「・・・皆、何で俺を行かせてくれたんだろう・・・」
「そりゃ、お前のトビを助けたいという思いが強かったからさ。だから、ルインもシノもミナもリフィアも・・・お前をここまで連れて来てくれたんだろ?」
「・・・俺の・・・?」
ああ、とネロは前を見ながら頷いた。
「・・・お前の信じる『絆』をトビに見せつけてやるんだろ?だったら、さっさとトビを助けてやれば良いんじゃねぇか?」
「・・・うん、そうだな」
ユーガは、ちらり、と皆がいる下を見つめ、
(皆・・・ありがとう・・・)
と心の中で礼を言った。皆が、自分とネロをここまで連れてきてくれた。必ず、それに応えてみせるー!
「ユーガ、上に出るぞ!」
「わかった!」
ネロの言葉にユーガは頷いて、彼らはそれぞれ剣を抜いた。この先には、スウォーとトビがいるはずだ。ユーガ達は階段を登り切り、目の前の出来事に驚愕した。そこには、四大幻将の残された一人がー。『無垢のレイ』が、スウォーに向けて右手を伸ばしていた。スウォーは息を荒くして、レイを睨んでいる。
「レイ⁉︎」
「・・・ユーガ。トビを解放して」
「あ、ああ・・・」
何が起きているのかわからなかったが、ユーガとネロは頷いて座り込んでいるトビの元へ走った。
「・・・お前・・・」
「大丈夫か、トビ!今鍵を外す・・・!」
その言葉を言い終わる前に、ユーガは気配を感じて咄嗟に握っていた剣の腹を右腕に当てて防御の構えを取った。その直後、ユーガの右方向から巨大な槍が鋭くユーガの剣と衝突し、火花を散らした。
「・・・お前は・・・!」
ユーガの横でネロが剣を構え、『彼』に斬りかかった。『彼』は後ろへ飛び退き、その槍をユーガ達に向ける。
「兄貴・・・!」
『彼』ーフルーヴは、ふん、と鼻を鳴らして眼を細めた。その横眼でスウォーを見て、もう一度ユーガ達を見る。
「・・・スウォーの気は完全にレイに向いている。だからお前達・・・演技をしろ」
「・・・え・・・?」
「今からお前達を攻撃する。それを受け止め続けろ。その時『たまたま』蒼眼野郎のその錠の鍵部分を壊す」
「待てよ」とネロが警戒しながら剣に手をかけたまま言う。「何でトビを助ける事に協力してんだよ?俺達は敵同士なんだろ?」
フルーヴはもう一度鼻を鳴らして、そうだな、と前置きして言葉を継いだ。
「僕には目的がある。今そいつに死なれても面倒なんだよ・・・。お前達が死ぬ分には構わないが、まぁ気まぐれってやつだ。・・・いくぞ」
否応無しにフルーヴは巨大な槍をユーガとネロに向かって振るっていった。ユーガ達は慌ててそれを防いでいき、フルーヴは言葉通りトビの錠の鍵の部分のみを破壊した。
「フルーヴ・・・⁉︎貴様、何をやっている!」
スウォーが気付き、フルーヴに向けて叫んだ。だが、フルーヴは全く気に介さずに答えた。
「手元が狂ったんだよ。『たまたま』な」
スウォーは舌を打ってレイを掌で弾き飛ばして、錠が外れたにも関わらず動こうとしないトビに向かって走り出した。ーが。
「・・・水流よ弾けよ・・・」
その詠唱はーその魔法は、何度も今まで聞いた詠唱ー!
「ウォーターショック」
スウォーの顔に水が張り付き、それは突如として爆発する。
「ぐ・・・!」
スウォーは顔を歪めながらその魔法が放たれた方向を睨んだ。
「・・・相変わらず余計な事しかしねぇ奴らだぜ。仲間じゃねぇっつってんのによ」
そこには、トビが立っていた。ーしかし、どこか普段とは違う。彼の蒼空を思わせる瞳が、輝いているのだ。
「・・・トビ・・・⁉︎その眼・・・!」
その時、階段からルイン達がー、仲間達が現れた。そして、ルインがトビを見ながら叫ぶ。
「トビ、あなた・・・目覚めたのですか、『蒼眼』が・・・!」
「何で目覚めたのかはわからねぇが・・・とにかくそうらしいな」
トビはそう頷いて、ルインに答えた。その後ろで、スウォーが左手で剣を抜いてトビに斬りかかった。ーが。
「・・・おせぇ」
直後、トビの姿が消えた。ーいや、消えたのではない。スウォーの後ろに、いつの間にか回り込んでいたのだ。
「・・・水流よ、我が弾丸に力を与えよ」
トビが太もものホルダーから銃を引き抜き、水を纏った弾丸をスウォーに向けて放つ。
「スプラッシュバレット!」
それはスウォーの体に着弾すると共に、水の爆弾が炸裂した。
「がぁ・・・!」
スウォーは口から血を流しながら、トビを睨んだ。
「・・・すげぇ・・・あれが、『蒼眼』の力・・・?」
ユーガは呟いて、自身の『緋眼』を思い出した。『緋眼』を解放した時、なんとなくだが体の中から力が湧き上がるような感覚があった。ー恐らく、トビにも同じような現象が起きているのだろう、と理解する。
「くそっ・・・引くぞ、フルーヴ!」
スウォーがそう言うと、フルーヴは頷いて魔法陣を展開した。
「転送魔法陣だ!」
ネロは叫び、スウォー達に向かって走り出した。ーが、それをトビが腕で制した。
「・・・俺も万全じゃねぇんだ。無闇に突っ込むな」
トビは鼻を鳴らして消えゆくスウォー達を見た。彼らの姿が完全に消え、トビの輝いていた『蒼眼』の光が収まり、トビは膝から崩れ落ちた。
「トビ!」
ユーガは咄嗟に走り、トビを抱えようと腕を伸ばしてー。間に合った。ユーガの支えでトビは地面に伏す事はなく、ちっ、とユーガの腕の中で舌を打った。
「・・・お前に助けられるとはな。情けねぇぜ・・・」
この憎まれ口も、変わっていない。ユーガは涙が込み上げてくるのを必死に抑え、笑みを浮かべながら口を開いた。
「・・・へへ・・・お帰り、トビ」
トビはその言葉に眼を見開いたが、やがて嘆息して、あーあ、と諦めたように言った。
「・・・はぁ・・・へいへい、ただいま戻りましたよ」

ユーガとトビ、彼らのやり取りを少し離れた所から見ていたルイン達は、ほっとして息を吐いた。
「・・・やれやれ、一安心、ですかね」
「ホントだねぇ・・・いやー、良かった良かった!」
「ったく、心配かけさせやがって」
「・・・事態の終止符が打たれたと判断します」
ルイン、リフィア、ネロ、シノはそう言ったが、ただ一人。ミナだけは、どこか浮かばれない表情を浮かべていた。
「・・・ミナ、どうしたんだ?」
「・・・あ、いえ・・・ただ、これから先ユーガさん達の関係は大丈夫なのかと心配で・・・」
大丈夫でしょう、とルインが、ふふ、と微笑みながら言った。
「・・・彼らは少なからず成長している。それが通じ合えばきっと、ね」
「あのなぁ」
ルインの言葉を遮るように、トビの声が聞こえた。何だ?と思い、その方向に首を向ける。
「余計な事しなくても、俺一人で何とかなったんだよ」
「けど、トビが動かなかったから心配でさ・・・」
「馬鹿、作戦があったんだよ。首斬られる直前に魔法を発動させて逃げるっつー、ちゃんとした作戦がな」
「それ、失敗したら危ないじゃんか・・・!」
「失敗?俺が失敗するとでも思ってんのかよ」
「そうじゃないけどさ・・・」
ユーガの腕の中で皮肉をユーガにとことんぶつけるトビを見て、ミナは顔を引き攣らせた。
「・・・本当に大丈夫、なんですか・・・?」
「大丈夫です」
今度はルインではなく、シノが答えた。なぜですか?とミナが尋ねる。
「気付きませんか?トビさん、どこか楽しそうでしょう?」
楽しそうー?自分の眼にはあまり見えないがー、とミナは首を傾げた。確かに、と仲間達も頷く。
「やれやれ、一発殴っとこうかと思ってたけど・・・今回は無しにしてやるか」
ネロは手を振って言い、そうだね、とリフィアも頷く。
「・・・皆さん、ちょっと良いですか?」
ルインがユーガ達にも聞こえるように言い、ユーガはトビの腕を自分の首の後ろに回してトビを立たせて、ルインの方を向いた。
「どうしたんだ?」
ユーガの問いに、ルインは階段の下ールイン、ミナ、リフィア、シノが四大幻将の内の三人と戦った広場を指差した。
「見てください。キアルとロームとフィムの姿がありません。恐らく、転送魔法陣で彼らも転送されたのでしょう。・・・やられましたね」
「ホントだ・・・!え、けど・・・」
ユーガは言いながら首をとある方向へ向けた。そこには、倒れている白い髪の四大幻将ーレイがいた。
「何で・・・?レイはいるのに・・・」
「・・・当たり前だ。レイは・・・スウォーを裏切った。裏切り者をぬけぬけと自分の下に置いておくわけねぇだろ」
「・・・レイ・・・」
ユーガの呟きと同時に、リフィアがレイの横に座り込んだ。
「レイは・・・この子はアタシが連れてくよ。とにかく、皆。この街じゃゆっくり休めないと思うし、ここから一番近い所に行こうよ」
「ここからだと、メレドルが近いですね。『エアボード』なら、半日もかからずに着くでしょう」
ミナの提案に、ルインが頷いた。メレドルに向かう、という事で良いらしい。わかった、とユーガは頷いて、ゆっくりと処刑台の階段を降りた。その途中、トビが口を開いた。
「・・・仲間じゃないっつったのに・・・お前、なぜここに来たんだ」
「言っただろ?今度は俺が、トビを助ける番だってさ。今までトビに助けられてきたんだ。その恩返し、ってのもあるし、やっぱ・・・放ってなんておけないよ」
「・・・相変わらずの馬鹿だな。ちっとは反省したかと思ったんだが」
はは、とユーガはトビのその言葉に笑った。何がおかしい、とトビは怪訝そうに尋ねる。
「・・・色々悩んだよ。俺はどうすれば良かったのか、ってさ。俺は・・・トビに自分の気持ちを押し付けてたんだ。トビは仲間で、『相棒』だって。けど・・・そんなの、俺の勝手な自己満足でしかなかった。だから俺・・・『一方通行の絆』なんかじゃなくて、ちゃんと心を通わせて・・・今度こそ、『本当の絆』を信じるって・・・決めたんだ」
トビはその言葉を聞いて、ユーガの横顔を凝視した。自分が今までしてきた事、それが間違っていたことに気付いたユーガは、それを変えようと言うのかー?
「・・・それに、トビにも・・・『俺の信じてる絆を見せる』って・・・約束しただろ?」
ユーガは眼を見開くトビを見て、笑った。それは、フォルトでの夜交わしたあの言葉の事か、とトビは思う。
「だからさ、今度こそちゃんと・・・『絆』を信じて前を向くんだ」
「・・・はっ、本当に・・・よくわかんねぇ奴だぜ」
「・・・その『絆』・・・今度こそ、ちゃんと見ててくれないかな、トビ?」
「・・・まだ、フォルトでの約束とやらを守れってのか?」
自分からしたら、約束、というわけではないのだが、とトビは嘆息する。ーだが。
「・・・ちっ。・・・ラストチャンスだ」
「・・・ホントか⁉︎」
「・・・見ててやるよ。その『本当の絆』。ただし・・・前と同じように俺に何度もお前の意見を押し付けてくるような事になったら・・・わかるな?」
「・・・ああ!」
ユーガの笑顔を見ながら、トビはもう一度嘆息した。ーが、ふと頬の違和感に気付いた。もしや、今の自分はー。
「・・・トビ?何で笑ってるんだ?」
「・・・は?」
ユーガの言葉に、トビは聞き返した。ー無意識だ。完全に無意識のうちに、トビは頬を上げて、笑みを浮かべていたのだ。なぜだー?
「・・・なんか良い事でもあったのか?」
「なんでもねぇ。さっさと降りるぞ。集中しろよ」
トビはぶっきらぼうに言って、ユーガから顔を背けた。なぜ、今自分は笑っていた?しかも、完全に無意識で。今起きた不思議な現象にトビは考えを寄せながら、階段をゆっくりと降りていく。そんなユーガとトビを見ながら、ルインはぽつりと呟いた。
「・・・『翼の片割れ』が『翼』に真に完成する、ですか・・・よく言ったものですね」
ルインは笑みを浮かべながら、前を歩くユーガ達を追いかけて階段を降りていったー。

『まさか、空を飛ぶとはな』
『エアボード』に乗ったユーガ達は、メレドルに向けて発進していた。その途中、トビのそんな声がスピーカーから聞こえてきたのだ。
『にしてもさ、本当にトビ君が無事で良かったよ・・・』
『怪しいサキュバス様に心配されても嬉しくねぇな』
変わらずの毒舌に、ネロは嘆息した。
『お前さ、せっかく助けてやったのになんかお礼とかねーの?』
『何だ?礼欲しさで俺を助けたのか?』
『そういうわけじゃねーけどよ・・・』
『・・・ちっ、ありがとよ。助かりましたよ』
『絶対思ってないだろ・・・』
ネロは呆れてそれ以上の言及を避けた。ーと、黙って聞いていたルインが口を開いた。
『そういえば、今日ミナとリフィアとシノの固有能力の力を見ましたけど・・・まさか、ミナの固有能力が『絶対神』で、リフィアが『魔神』で、シノが『氷掌脚』とは・・・驚きました』
「って事は、なんか特殊なのか?」
ユーガの質問にルインの、ええ、という声が聞こえる。
『『氷掌脚』はその名の通り、手脚に氷を纏わせて敵を攻撃する固有能力。『魔神』は圧倒的な力と破壊力を持つ脅威の固有能力で、『絶対神』は・・・『覚醒』すると何か起こるようですが・・・』
「『覚醒』?」
『ええ・・・どうやらそのようですが、細かい事は何も・・・。トビ、何か知りませんか?』
「知らん」
ルインがトビに対して尋ねるが、トビは即答した。恐らく、あまり興味を持っていないのだろう、とわかる。
『メレドルまであとどれくらいだ?』
そんな中で、ネロが誰にとは言わず尋ねた。そうですね、とミナが答える。
「・・・三時間くらいですかね」
「じゃ、あともう一踏ん張りだね!頑張ろ!」
「・・・がんばろ」
リフィアの言葉にシノが抑揚なく繰り返した。そうだな、とユーガは頷き、ポケットの中にあった『重み』は無くなり空になっていた事を確認して、何となく鼻の頭を掻いて、へへ、と笑みを浮かべたー。
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