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絆の未来編
第四話 隠されし力
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翌日。ユーガ達は宿の外に集まり、今後の行動についての作戦を練っていた。ちなみに、トビの姿はない。疑問に感じたネロがトビの行方をユーガに尋ねると、ユーガは少し困ったように頬を掻いて口を開く。
「いや、なんかトビめんどくさいから後で話聞かせろーって言っててさ・・・」
「こき使われてるな・・・お前・・・」
なんとなくユーガがいいように扱われているような気もするが、おそらく気のせいではないだろう。相変わらずですね、とミナは微笑んで、一瞬だけ宿へ視線を向け、ユーガ達に視線を戻す。
「それで、この後どうするの~?」
リフィアの言葉にルインは唸って腕を組み、仲間達を一瞥する。
「そうですね・・・昨日の時点でローム・・・おそらく幻だとは思いますが、とにかく彼を発見した。それは事実ですね、ユーガ」
「うん」
「とすると、昨日の時点ではロームはこの近辺にいた・・・ただ、あの後の調査でもロームの姿は見かけませんでした」
「冷静に考えれば、もう逃げられたと考えるのが妥当ですよね」
メルの言葉に仲間達は頷いて、シノもメルに同意するように口を開く。
「そう考えるのが一般的かと」
「・・・トビが聞いたらキレそうだけど、上手い事ユーガとトビは罠に嵌められたんだな」
ネロの言葉にユーガは何となく申し訳ない気持ちになったがそれを表面には出さずに堪え、でも、と腕を組んだ。
「なんでそんな回りくどい事してきたんだろ・・・?」
「ん?どういう事ですか?」
メルが首を傾げてユーガにそう尋ねてきて、ユーガは組んでいた腕を解いて腰に手を当てて口を開いた。
「いや・・・これまで結構直接的な攻撃が多かったのに、そんな罠を張るみたいな手法に急に変えてくるのかな・・・って」
「・・・なるほど、確かに違和感はありますね」
「だろ?なんか変な感じがするんだよな・・・」
うーん、とリフィアも腕を組んで考え込み、あ、と何かを閃いたように指を立ててユーガに視線を向けた。
「わかった‼︎二つあるんだけどいい?」
「お、うん」
「一つ目なんだけど、これまで直接的に責めてきてアタシ達はずっと勝ってきてるわけじゃん?だから、違う攻め方で意表をつく作戦とか‼︎」
まぁ、とルインは苦笑を浮かべてリフィアに視線を向ける。
「でしたら二ヶ月前のスウォーとの直前の方がその作戦は私達に効きそうですけどね・・・」
確かに。リフィアは言葉に詰まってしまい、何も言えなくなってしまう。それを見かねたネロが、まぁまぁ、と笑みを浮かべながら口を開く。
「もう一つの案があるし、そっちかもしれねーぞ?」
「そ、そうだな‼︎リフィア、二つ目の案って?」
ユーガもそれに便乗して尋ねると、リフィアはピースをした手を右目に当て、人差し指と中指の間から右目が見えるようなポーズを取った。
「作者がテキトーだから‼︎」
「よーし調査再開すっぞ~」
「ちょっとぉ⁉︎」
言葉を遮って調査再開のために歩き出したネロと仲間達をリフィアは追いかけて叫んだ。ー何となくそんな事だろうな、と感じていたのは自分だけではないだろう、とルインは笑みを浮かべながら嘆息し、仲間達に手分けして調査を行うように指示を出した。
~トビサイド~
同刻。トビはベッドに寝転んだまま天井を眺め、中々寝付けずにいた。今朝はユーガに調査の同行を頼まれたが、今はなんとなく気分が乗らなかった。昨日の自分自身との戦いで疲労も溜まっていたし、今はただ休みたかった。まぁユーガは何事もなかったように調査行ったけど。トビは体を起こして嘆息し、昨日手入れを怠っていた、机の上に置きっぱなしの双銃を手に取ったーその時。
「・・・!」
トビの固有能力ー『蒼眼』で得た、彼の超人的な聴力によって、何者かがこちらに近付いてきているのに気付いた。ユーガ達か?いや、あいつらはつい先ほど出て行ったばかりだ。戻ってくるには早すぎる。しかも、靴音の大きさでいえばーかなりの巨漢、といったところか。思考を巡らせたトビの思考を遮るように、トビのいる部屋がノックされる。トビはそれには応じず、銃を両手に持って扉と壁の隙間に体を付ける。ーと。
『トビ・ナイラルツ。いるのであろう』
「・・・!」
この野太く、以前の旅で幾度となく聴いたこの声はー。
「・・・ローム・・・何しにきやがった」
扉越しにトビが『彼』ーミヨジネア四大幻将の一人、『鬼将のローム』に尋ねると、ロームは嘲笑うように、ふっ、と笑ったような声が聞こえ、トビは僅かに銃を握る手に力を込めた。
「そう警戒するな。少し話そうではないか」
「断る。・・・てめぇ、どういうつもりだ」
「なに・・・貴様らに話したい事があるのだ」
トビは疑いを持ちながら、ロームの言葉を待つ。念の為、魔法も使用できるように体内の元素も高めておく。これで、仮に奇襲されても戦えはする。
「・・・『藍紫眼』の少女について」
「・・・メル、のことか」
「そうだ。・・・貴様は『藍紫眼』のことを知っているか?」
「・・・体外、体内の元素を混ぜて一つの塊となるように構成し、結晶を作り出す固有能力・・・さらに、味覚が俺の聴力やユーガの視力同様に超人的な能力を持つ固有能力、か」
これまで聞いた情報、調べた情報を元にトビは『藍紫眼』についてまとめて話すと、扉越しにロームは、そうだ、と同意する。
「『覚醒』前の固有能力ならば、その情報のみで十分だ」
だが、と言葉を継ぎ、ロームはさらに話を続ける。
「『覚醒』・・・しかも『暴走』をしたというのならば、話は別となる」
「・・・なんだと?」
「ならば、教えてやろう。・・・『藍紫眼』の隠された能力を・・・。その、能力は・・・」
「・・・マジなのかよ、それ」
「・・・そうだ」
トビはロームの言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべながら眼を見張る。ーなるほど、確かにそう考えれば辻褄は合うがー。
「・・・おい、なら『暴走』はその現象の表れ・・・という事か・・・?」
「・・・そう言われている。『藍紫眼』の主には気を配るがいい。・・・下手をすれば・・・」
「・・・世界の終わり・・・か。なるほど、つまりてめぇらは「怖いから目を離さないでくれ」とでも懇願しに来たのか?そりゃ随分と滑稽だな、ローム」
「・・・なんだと?」
「・・・起こさせねぇよ、そんな事・・・起こさせたとしても、ユーガが止める」
「ほう、随分と『緋眼』の主を信用しているようだな」
ロームが嫌味を含めながら言うと、トビは口の端に僅かに笑みを浮かべて、嘲笑うように眼を細めて口を開いた。
「・・・はっ、そんなんじゃねぇよ。・・・だが・・・」
「・・・なんだ」
「・・・あの馬鹿のお人よしが移っただけだ」
トビは壁から体を離して、扉へーその先にいるロームに視線を向けた。
「今のうちなら見逃してやらないこともないが?ローム」
「・・・・・・」
トビの言葉に、ロームの靴の音が遠ざかるのが聞こえる。完全に足音が聞こえなくなり、トビは鼻を鳴らして嘆息し、持っていた銃をベッドの上へ置き、顎に手を当てて考えをまとめ始めた。
ー夜。
「ろ、ロームがここに・・・⁉︎」
ユーガとトビの部屋に集合した一同は、トビの話を聞いて驚愕した。トビは椅子に腰掛けながら頷き、メルに視線を向けながら口を開く。
「メル。てめぇについてな」
「私・・・ですか・・・?」
「もしかして」とリフィアがいつもより真面目な声音で口を開く。「メルちゃんの隠された能力、とか?」
「・・・てめぇ、知ってたのか」
「確証はなかったけどね~」
「・・・隠された能力・・・?」
ユーガが首を傾げて尋ねると、トビは頷いてユーガに視線を向ける。
「あぁ。なんなら、メル自身も知らない能力だ」
メルが息を呑んだのを見て、やはりこいつは知らないな、とトビは確信した。トビさん、とミナがトビに声をかけ、トビは今度はミナに視線を向ける。
「・・・その隠された力、とは・・・?」
「・・・『藍紫眼』に隠された能力、それは・・・『もう一人の自分を作り出す能力』だ」
「・・・もう一人の・・・」
「自分を・・・?」
ネロとルインがそれぞれそう口にすると、トビは椅子から立ち上がってメルに再度視線を向ける。
「・・・メル。お前、住んでる街が結晶で覆われた時の記憶、ほとんどねぇんじゃねえか?」
「・・・は、はい」
「しかし、それは『暴走』の影響ではないのですか?強すぎる力を使用した故に、記憶が飛んでしまった、というような・・・」
「メルの瞳自体にその人格が宿っているとしたら?」
ルインの問いにトビはさらにルインに質問を返す。そうか、とネロは拳を手のひらに打ち付けて、トビの問いに対して答える。
「『暴走』したなら、自分の固有能力の力によるものだからある程度の感覚は体に残る・・・でも、それが別人格が操っていたものだとするなら、メルの体にその情報が刻み込まれてなくてもおかしくない、ってことか」
「あくまで推測の理由だがな。ただ、もう一人の人格ってのはマジだと思うぜ・・・なぁ、リフィア」
話題を振られたリフィアはユーガ達に向かって頷いて、メルの頬にそっと手を添えると同時にその眼を閉じた。しばらくそうしていると、リフィアは瞳を開いてメルを真正面から見つめる。
「・・・うん、やっぱりそう。メルちゃんの体の中から、二つの異なるそれぞれの元素を感じる・・・」
「メルはその能力のこと、知らなかったんだよな?」
ユーガが尋ねると、メルは困惑しつつも頷いた。それを確認して、ユーガはトビに視線を向ける。
「つまり、メルの固有能力が覚醒するのと同時に、メルの中のもう一人の人格が目覚めた・・・ってことか?」
「そうだ。しかも自覚はないときた」
「その対処もしようがない、って事だもんな」
ユーガの言葉にトビは頷いて、視線をユーガからルインへと移すと、ルインは怪訝そうに視線を向けてくる。
「ルイン、何か対策はないのか」
「そうは言いましても・・・発動条件がわからないことには、なんとも言えませんね・・・」
「シノちゃんは何かいい案とかないかな?」
リフィアがそう言い、ユーガ達もシノに視線を向ける。シノはいつもと変わらぬ様子で、ただ淡々と言葉を口にする。
「二ヶ月前までは、可能でした」
意味深な言葉を口にすると、ユーガ達は首を傾げーその中で、ルインとトビのみがハッとしたように顔を上げた。まさか、とルインが驚愕の声を上げ、トビがその言葉を継ぐ。
「・・・ソニア・・・か」
「はい」
ソニア、とは二ヶ月前の旅の中でユーガ達が出会った人物の一人で、その素性はーシノの母親、だ。ソニアは、現在のシノの肩書きとして存在している『天才魔導士』になることが夢であったが、シノにその地位を奪われ、シノを捨てた。その後は『天才魔導士』の地位を奪い取るために、ユーガ達の前に立ちはだかった人物で、ユーガ達はソニア達の戦いに勝利し、ソニアがシノを認めようとした瞬間ー。ソニアは、魔法によって体を貫かれた。その攻撃は、ユーガ達の敵でありスウォーの仲間であるー四大幻将、『煉獄のフィム』によるものであった。その攻撃により、ソニアは最後にシノを認めて、亡くなったのだ。だが、なぜ今ソニアの話がー?
「ソニアの固有能力は『安眠』・・・そのソニアの攻撃の中に、シノを拘束した技があったのを覚えてますか?」
ルインの問いかけに、ユーガは頷いた。その後ろで、なるほどね、とリフィアも理解したように手を叩いてまっすぐルインを見つめた。
「ソニアさんの『安眠』はアタシ達の意識を起こしたまま体を『封印』して、体の自由を奪う固有能力・・・つまり、応用すれば固有能力だけを封じ込めて、体に特に異常なく動けるようにする、ってことね」
「なるほど・・・」
ユーガもようやく理解し、その他の仲間達も全員が理解したように頷いた。だが、死者は決して二度と蘇ることはない。できれば早急に対処したい問題だが、かといって四大幻将に関する情報や、メルの住む街で結晶に覆われてしまった人々のことも考えると、何から手を付けていいのかわからなくなる。
「う~ん、まず何からするべきなんだ・・・?」
「確かになぁ・・・やるべき事が多すぎるし、優先度も全部同じようなレベルだしな・・・」
ユーガの言葉にネロは同意したように腕を組んで考え込んで二人で、う~ん、と唸る。すると、メルが何かを思い出したように声を上げた。
「私の住む街に、封印を会得している方がいらっしゃったような・・・すみません、曖昧にはなってしまいますが・・・」
「・・・では、メルの固有能力の封印方法はそちらにしましょう」
シノがそう言うと、でも、とネロが声を上げて首を傾げた。
「先にそっち行くのか?四大幻将のこととか、後回しになっちまうぜ?」
「二手に分かれるのが賢明な判断でしょうか・・・?」
ミナがそう尋ねると、トビはそれを首を振って否定した。
「いや、四大幻将が本格的に行動を開始するかもしれねぇ。どちらか片方に一気に攻め込まれると最悪だからな」
「・・・あ、そ~だ‼︎」
リフィアは人差し指を立てて、ポケットの中を漁り出した。あったあった、と言ってリフィアが取り出したものはー。
「じゃじゃ~ん‼︎通信機‼︎」
「通信機・・・?それ、レイと連絡を取る用のやつだろ?」
「そうそう~‼︎」
「まさか」と、ルインはリフィアに驚いたような視線を向ける。「レイに四大幻将の調査を頼むつもりですか・・・?」
そのまさかだよ、とリフィアは頷いた。確かに、元四大幻将のレイならば、ユーガ達よりは四大幻将の手がかりや行動を掴んでくれるかもしれないがー。
「危険ではありませんか・・・?レイさん、四大幻将を裏切った身の方ですよ・・・?」
「だが、他に何か手がないのも事実だ」
ミナの言葉に即座にトビがそう告げる。本当は、わかっているのだ。レイに頼むことの危険性も、全てトビは理解している。ユーガは小さく頷いて、仲間達を一瞥した。
「とにかく、一旦レイに聞いてみないか?それを決めるのは俺達じゃなくて、レイだからさ」
「うん、ちょっと聞いてくるね」
リフィアはそう言って通信機を片手に、扉の外へと出た。確かに、この話はリフィアがした方が良いだろうな、とユーガは息を吐き、椅子に腰をかけた。
「今回はレイのおかげで助かったな・・・」
翌日。出発の準備を整えていたユーガは、準備を終えて椅子に腰をかけるトビに声をかけた。ま、とトビは眼を細めてユーガに視線を向ける。
「アイツが裏切らなきゃな」
ユーガはその言葉に苦笑して、荷物の準備を進めた。昨日、レイは四大幻将の調査を快く了承してくれた、とリフィアから聞き、ユーガ達は安堵した。ただ、直接関わることはせず、あくまで軽い調査、という形で調査を進めてくれるそうだ。ただ、それだけでもありがたかった。現在の戦力で言えば、一人でも欠けてしまうと厳しい環境であるため、今回レイに協力を要請できたことは、かなり助かった。
「けど、珍しいよな・・・トビが敵のロームを見逃すなんてさ」
「・・・かもな」
「でも、なんで見逃したんだ?実際、ロームを捕まえたりしといたほうが良かったんじゃないか?」
ユーガがそう尋ねると、トビはユーガから視線を逸らして窓の外へと視線を向けた。
「・・・むしろ逃がした方が好都合だからな。どうせこの後、四大幻将の調査はするつもりだったし」
「??」
「馬鹿か・・・いや元からか。あのな、ここで俺達がロームを捕らえたとして、あいつが簡単に情報を吐くと思うか?」
「あ、なるほど・・・泳がせるってことか」
「・・・の、方が確実性は高いだろ」
なるほどな、とユーガは納得して、まとめた荷物を抱えて、よし、と呟いた。トビもそれを確認して荷物を手に取り、てか、とどこか呆れたように口を開いた。
「メルが暴走しなけりゃ事は簡単だったんだがな」
「まぁまぁ、暴走条件は俺達でもわからないんだし仕方ないだろ?暴走しちゃった事は変えられないんだし、俺達の事を頼ってくれたんだから、助けてあげようぜ」
ユーガの言葉にトビは再度呆れたように首を振って嘆息し、ユーガに視線を向けた。
「・・・楽観的すぎて話にならねぇ」
トビの言葉を聞いてユーガは苦笑し、部屋の扉を開ける。仲間達は既に荷物をまとめて宿の入り口に立っており、ユーガ達も合流する。
「準備は大丈夫ですか?」
ルインにそう尋ねられ、ユーガとトビは頷いて応える。では、とメルが口を開いて、仲間達の視線がメルに向く。
「私の故郷ー『ノルディン』へと向かいましょう」
「『ノルディン』⁉︎」
驚愕の声を上げたのは、リフィア。ユーガ達は視線をリフィアに向けて、知ってるのか?と尋ねると、リフィアは目を見張りながら小さく頷いた。
「『魔族』の町の一つだよ・・・‼︎アタシの故郷の『アルノウズ』のすぐ近くの町・・・‼︎」
「な、なんだって⁉︎」
ネロが驚いたような声を上げ、トビも珍しく動揺したようにメルへと視線を向ける。
「・・・つまり、お前は・・・」
「魔族の一人・・・って事か・・・⁉︎」
ユーガの問いにメルは頷き、リフィアへ視線を向けて口を開く。
「リフィアさんは『人間』になるのが目的・・・なんですよね?私はこの眼のおかげで、産まれてすぐに『人間』へと変化したんです」
まさか、メルが魔族だったとは。しかも、リフィアの目的である『人間になる事』を成し遂げた魔族だったとはー。ユーガは言葉を失い、ただ眼を見張る事しかできなかった。
「・・・その眼のおかげ、というのは?」
シノがそう尋ねると、メルは小さく頷いて答える。
「・・・よくわかってないんだけど・・・特殊な瞳を持ってる魔族は、成長が早いんだって」
「ちょ、ちょっと待って」
リフィアが驚いたように考え込み始め、その姿勢のままメルに問いかける。
「キミが魔族だって事はわかったし、ノルディンから来たって事も理解できた・・・。で、でもなんでそれを言ってくれなかったの?」
「私があなた達に魔族である事を話してしまうと、どこかからその話が漏れたら魔族全体が混乱に陥ってしまいますから。今このタイミングでお話したのも、ノルディンに向かう直前で見たところ近くに魔族もいませんでしたし」
「メル」
口を閉じたメルに、トビは目を細めて銃を突きつけた。仲間達が驚愕の声を上げるが、トビは銃を下ろそうとはしない。
「・・・だとしたら、なぜ最初にユーガにそう言わなかった?ユーガに対する説明だけなら、初対面で話ができたはずだ」
「・・・すみません、あなた方がまとまっている時にお話するべきかと判断しました」
「・・・それを信じて、てめぇを助けろってのか?」
トビが銃を握る力を強めると、銃の上部分に手が置かれて、トビはメルから視線を背けて、手を置いた人物ーユーガを見た。彼は、頬をかきながらそっとトビに銃を下ろすように眼で伝える。
「・・・信じられるのかよ、こいつを」
「・・・うん」
「魔族の町・・・噂程度でしか聞いたことはないが、お前らは行ったことがあるんだろ?なら魔族の町に行く危険性もわかってるはずだ」
前回、リフィアの故郷ーアルノウズへ行った時、トビはユーガ達と別行動を取っていたので魔族の町、というのは話でしか聞いていないので、魔族の町に対する警戒も、メルに対しての疑惑も理解できる。ユーガはトビをまっすぐ見つめて、口を開く。
「・・・でも、メルは俺を・・・俺達を頼ってくれた。そんなメルを信じてみたいんだ」
ーまぁ、そう言うとは思っていた。長い期間一緒にいれば、ある程度こいつの考え方も読めるようにはなってきた。
「・・・それに、どっちを取っても危険なのは変わりがありませんし」
ユーガとトビの会話を聞いていたルインが、ユーガ達には視線を向けずに口を開いた。そうだな、とネロも同意したように頷き、ユーガとトビに向かってまっすぐな視線を向けた。
「どうするかはお前らに任せる。俺達はそれを最大限助けてやるさ」
「そうですね・・・メルさんの故郷を助けるか、このまま四大幻将の調査を進めるか、ですね」
ミナがそう呟いて、リフィアとシノもまた、頷いた。トビは一度銃を下ろして、ユーガに視線を向けた。
「・・・ユーガ、ちょっと来い」
「うん、わかった」
「メル、てめぇもだ」
「・・・はい」
正直、ユーガと自分に選択権を設けてくれたのはかなり助かる。どうするのか、どちらを取るのが最善なのか、まだ決められていないのだ。トビは仲間達から離れたところにユーガとメルを呼び、思考を巡らせた。
~ネロサイド~
「どっちが折れるかなぁ」
少し離れたところで話し合っているユーガとトビを見つめながら、リフィアは嘆息しながら呟いた。まぁ、とネロがそれに応えるように、リフィアに視線を向ける。
「お互いの意見もわからなくはないんだがな」
「ですね」とルイン。「頼ってくれたから助けたい・・・という気持ちと、重大な話を事前にしていいメルを信じられない、という気持ち・・・」
「リフィアさんはどちらがよいのですか」
シノがリフィアに視線を向けて尋ねると、そりゃ、と腰に手を当てて答える。
「アタシはメルちゃんを救いたい気持ちが強いな、って」
「・・・そうだな」
ネロも同意したように頷いて、再度ユーガ達に視線を向ける。魔族の住んでいる世界には、特別な魔物もいる。『災魔族』という位置付けがされている魔物で、固有能力を使用した状態での攻撃しか通らない、というものだ。正直、危険極まりない相手ではある。その危険性を理解しながらも、ユーガはメルを救おうとしている。仲間のために、命を賭けようとしている。だが、四大幻将の危険性も捨てきれないのも事実ー。
「・・・頼むぜ、ユーガ、トビ」
ネロはユーガ達に向けて呟き小さく息を吐いた。
~ユーガサイド~
「状況整理だ」
トビがユーガとメルに向けてそう言い、ユーガ達は口を挟まずにトビの話を聞いた。
「今俺達がやろうとしている事は大きく分けて三つ。まず一つは俺とユーガがやっていた、二ヶ月前にスウォーが引き起こした元素の不安定化で凶暴化した魔物を倒す事・・・これは優先度がそんなに高くはない事だ」
ユーガはトビを見つめながら頷きメルも、なるほど、と考え込むように顎に手を当てる。
「二つ目。復活の可能性がある・・・というよりはほぼ確実に復活している四大幻将の調査。これはまぁ優先度が高い事もあり、レイに軽く調査を頼んでいる。そして三つ目はメルの町を救う事」
トビはそこで一度息を吐き、ユーガに切れ長な瞳を向ける。ユーガはそれをまっすぐ受け止めて、緋色の瞳を返した。
「前にも言ったが、メルの町を救うのは四大幻将の調査が終わったあと・・・と言ったよな」
「・・・でも、メルの固有能力でメルのもう一つの人格が『暴走』を引き起こした可能性が高いから、そのもう一つの人格を封じるためにもノルディンに・・・だよな」
「そうだ。だが、四大幻将の目的がいまだにわからない以上、レイ一人に任せておくのも限界がある」
「・・・ルインさんも仰っていたように、ノルディンに行く事も、四大幻将の調査を行う事も、どちらも危険な事には変わりがない、ですもんね・・・」
トビの言葉とメルの言葉、両方の意見を聞いて、どちらを取るのが最善かーユーガは考え込み、トビもまた腕を組んで考え込む。
「・・・メルはどうだ?どうしたいとかあるか?」
ユーガが尋ねると、メルは慌てたように首を振ってユーガとトビを交互に見た。
「私の事はいいので、四大幻将の事を先に追っても構いませんよ・・・?」
「・・・なぁ、トビ」
「なんだ」
「俺達の言う四大幻将の調査、ってどこがゴールなんだろ?」
ユーガの問いかけに、トビは言葉を詰まらせた。なるほど、確かにそうだ。自分の言う『四大幻将の調査』、はゴールが不明瞭すぎる。それに対して、ノルディンに行って町を救い、メルの固有能力を封じる、というのは明確なゴールがわかっている。
「・・・明確な方を潰しておいた方がいい、って事か」
「まぁ、四大幻将を調査しようとするとまた目撃情報から色々探し出さないといけないし・・・そっちはレイに任せて、俺達はメルを助ける、でもいいんじゃないか?」
「・・・なるほど」
「それに、もしメルが俺達の事を騙しそうとしてたら、回りくどすぎない?」
その言葉に関しては、賛同もできないし否定もできない。メルはユーガの固有能力が必要と言っていた。つまり、ユーガでしか扱えない力を求めているのだ。ただ、回りくどすぎる、というユーガの意見も捨てきれないのも事実だ。
「・・・おい、ユーガ」
「ん?」
「・・・今回はてめぇの意見に乗せられてやる。ただし何かあったら、てめぇがなんとかしろ。いいな?」
ユーガはトビの言葉に頷いてーメルがトビを見ながら微笑んでいるのを見て、どした?と声をかけた。
「いえ、なんだかんだ言いつつも、トビさんはユーガ君のことを助けそうだなぁ、と」
「あ?」
「はは、確かにそうかもな」
「・・・おい、町を救うの手伝ってやらねえぞ」
トビが冷静に目を細めてそう呟き、ユーガは慌てて謝った。その光景を見て、再度メルは口に微笑みを浮かべた。
「・・・では、ノルディンに行く、という事ですね」
仲間達の元へ戻ったユーガ達三人は、話し合いで決定した内容を仲間達に伝えていた。ルインが呟くと、ユーガは頷いて口を開く。
「これからまた四大幻将の事を調べようとしても、かなり時間かかっちゃうだろうからさ」
「確かに、そりゃそうか」
ネロもユーガの意見に賛同したようにそう言うと、唐突にトビの肩に腕を回してトビの体に体重をかける。
「・・・おい、何してやがる」
「いや別に?ただ、お前がユーガの意見を通すなんてなぁと」
「・・・その方が合理的な判断だったからだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
「ふ~ん・・・そういう辺り、なんだかんだお前ユーガの事信用してるよな」
「黙れ、死にてぇのか」
トビが棘のある口調でそう言うと、ネロはふざけたように驚いて、トビから離れた。
「でも、否定しないって事はそういう事?」
リフィアがトビにそう尋ねると、トビは嘆息してユーガに視線を向けながらその問いかけに答えた。
「・・・別に信用してるわけじゃねぇ。この馬鹿の意見を通した方が楽に物事が運ぶ場合もあんだろ」
「俺は」とユーガがトビに笑顔を向けながら、腰に手を当てて誇らしげに口を開く。「トビの事めちゃくちゃ信じてるぜ?」
「ユーガさんはそういう性格ですからね・・・」
ミナがそう呟き、シノもそれに続いて同意するようにユーガに向けて言葉を継いだ。
「この旅の中で、最もトビさんと長くいる時間が多いのはユーガさんですし」
シノが口を閉じると、トビは誤魔化すように顔を背けて、仲間たち全員に声が届くように声を上げた。
「・・・どうでもいいからさっさとノルディンとやらに行くぞ。時間がねぇんだろうが」
そうですね、とルインが頷いて応え、トビは背けた顔を仲間達の方へと戻した。本当は、自分が仲間達のことを信用している事を自覚しているし、ユーガ達と一緒にいる時間が楽な事も認めている。ただ、まだそれを公に認めるのはーどこか気が引ける。これから一人で旅をする、というのは、正直無理だろう。魔物の凶暴化も含め、仲間達の存在が当たり前になってしまった。
「リフィアさん」
トビが思考を巡らせていると、メルがリフィアに向けて尋ねる声が聞こえてきて、トビは意識を仲間達の方へと戻した。
「魔族の負の感情に飲まれない結界は、彼等に刻んでありますか?」
「ううん、まだトビ君には刻んでないよ」
「わかりました。では、トビさんに結界を刻むのはお任せします。私は『道』を開きますね」
メルはそう言うと、宿と仲間達に背を向けて両手を前に出し、透き通るような声で以前リフィアが唱えていた転送魔法陣の詠唱を始める。
「安息に眠りし『魔族』の息吹よ、今ここに道を示さん・・・」
メルの言葉が終わると同時に、彼女の足元に魔法陣が展開されていく。恐らく、あの魔法陣の中が『魔族』の住む村に繋がっているのだろう、とリフィアに首元に噛みつかれて結界を刻まれながら、トビはそう理解した。
「魔族の町・・・か」
トビが自分に言い聞かせるように呟くと、ミナがトビに視線を向けてどこか忠告するように人差し指を立てた。
「『災魔族』もいますから、十分注意してくださいね」
「・・・確か、固有能力を使用してないと倒せない魔物だったか」
「はい、それに攻撃力もかなり高いですから」
トビはミナの言葉に鼻を鳴らし、ミナに向けていた視線をまっすぐ元に戻した。
「殺せばいいだけだろ、簡単な話だ」
軽く言うトビに、リフィアもまたトビに向けて口を尖らせた。どこかお小言を言われそうなので、話半分で聞いておこう。
「そんな簡単な話じゃないんだよ~?何より耐久力も上がってるしさぁ・・・」
「だとしても、だ」
「まぁ」とルインがトビをサポートするかのように間に入って口を開いた。「事実、『災魔族』からは逃げられないでしょうし、倒さなければならないのは間違いありませんね」
そういう事だ、とトビは頷いて、視線をメルに戻す。メルの足元にはどんどん魔法陣が展開されていき、綺麗な紋章を伴いながらメルを包んでいく。その形が次第に完全な円となり、メルは乱れた呼吸を整えるように息を小さく吐いた。
「『道』ができました」
「ありがとな、メル」
ユーガがメルに声をかけると、メルはユーガに疲れた顔で微笑んだ。無理をさせてしまったな、とユーガは頬を掻いてメルにポーションを差し出すと、メルはそれを受け取ってユーガに礼を告げた。
「お疲れ様です、メル。疲弊しているところ申し訳ありませんが、すぐにノルディンへ向かえますか?」
「はい、大丈夫です」
メルの言葉にルインは、よろしい、と頷き、仲間達に魔法陣に入るように促した。ルインも先に魔法陣は入り、ユーガとメルもまた、ゆっくり魔法陣の中へと入る。どこか懐かしい魔法陣の輝きが次第に強くなるのを感じながら、ユーガはゆっくり眼を閉じた。
ふ、とユーガが目を開くと、懐かしいひんやりとした空気に包まれ、日光がない洞窟の世界へと足を踏み出した。やはり、ここが別世界だとは信じられないがーグリアリーフにはもはや少ない鉱石などがあるという情報から、それは真実なのだろう。ユーガはトビに視線を向けると、トビは興味深そうに辺りを見渡していて、今回はトビがいるという事にユーガは少し安心感を覚えた。
「そういえば」とミナが思い出したように口を開き、リフィアに尋ねた。「以前の場所は『アルノウズロード』でしたけど、ここも『アルノウズロード』なんですか?」
「ううん、ここは『ノルディンロード』。『魔族』が作る転送魔法陣でこっちの世界に来る場合は、作った魔族に縁のある場所に転送されるんだよ」
なるほど、とミナは呟いて、辺りを見渡し始める。トビもそれに続いて、リフィアに問いかけた。
「この世界・・・グリアリーフの裏世界、といった所にあるように感じるんだが」
「お、察しがいいね・・・その通りだよ」
裏世界か、とユーガは呟き、メルの方へ視線を向けると、彼女は続いている道の先へと視線を向けていた。ユーガはメルの隣に立って、この先か?と声をかけると、メルは小さく頷いた。さらにユーガの隣にルインが立ち、暗闇の先の元素を探るように目を閉じた。彼は目を閉じながら、小さく口を開く。
「・・・確かにこの先に、かなり強いメルの元素を感じますね」
「メルの結晶のせいか?」
ユーガがルインに向けて尋ねると、恐らく、と口元に手を当てて考え込むような姿勢で視線を落とした。
「『覚醒』をし、『暴走』した力が強すぎるが故に、でしょうね」
「それほど、『暴走』した力ってのは凄まじいんだな・・・」
ユーガは鳥肌が立つ肌を抑え込みながら、自身の右眼に手を重ねた。『破壊の力』を兼ね備えている自身の『緋眼』の力が暴走したら、凄まじい被害が出るだろう。メルの結晶を作成する固有能力、『藍紫眼』でも町一つを覆うほどの結晶を生み出してしまうのであれば、同じく強大な力を持つ自分やトビ、仲間達も暴走したらーそう思うと、ぞっとする。
「・・・ノルディンに行きましょう」
メルは仲間達の先頭に立って暗闇の先へと歩き出し、ユーガ達はメルの後に伴って、それぞれの武器に手をかけた状態のまま、足を踏み出した。
「瞬焔烈火‼︎」
「瞬雷烈招‼︎」
ユーガの固有能力の『緋眼』とネロの固有能力の『神速』を解放させた状態でそれぞれの技を交差させ、まともに受けた『災魔族』は断末魔を上げながら横倒しに倒れる。仲間達もそれぞれ固有能力を解放して、『災魔族』を倒していく。ーと、一人で『災魔族』を倒していたトビが『災魔族』に背を向けたその時ー倒れていた『災魔族』が起き上がり、雄叫びを上げながら体内の元素を高めていく。ユーガ達はトビの横に並んで立ち、姿が変形していく『災魔族』に向かって走り出そうとしー。
『グァァァァゥ‼︎』
もとより狼のような姿だった姿から変形し、後ろ足のみで直立し、恐ろしく肥大化した爪を持つーその姿はどこか、悪魔を彷彿とさせるような見た目だ。
「・・・これって、魔物の凶暴化・・・⁉︎」
ユーガがルインに向けて尋ねると、ルインは平静を保ちながらも目の前の存在に畏怖しているのか、頬に汗を流しながらも答えた。
「恐らく、そうでしょう・・・こんなところにまで影響があったのですね・・・」
「・・・来るぞ、構えろ」
トビのその声を合図にしたように、魔物はユーガ達に向けて走り出した。よく見ると、腕や足にとてつもなく肥大化した筋肉が付いている。一発でも攻撃を貰えば、かなり痛いダメージとなってしまうだろう。ユーガは走りながら思考を巡らせ、仲間達から見て左側に回り込んでいく。ーが、凶暴化した『災魔族』は腕を勢いよく振り回すとー。
「うわぁぁ⁉︎」
暴風のような風が吹き荒れてユーガ達は吹き飛ばされる。風の精霊、『シルフ』の恩恵を受けているルインは吹き飛ばされる事はなかったがこれはーかなりまずい。くそ、とユーガは呟いて起き上がり、起きあがろうとしている仲間達の元へと走った。
「皆、大丈夫か・・・?」
「な、なんとか・・・」
リフィアがそう答え、ユーガは小さく安堵しー再度雄叫びを上げた『災魔族』へと視線を向ける。トビとシノが仲間達に回復魔法をかけてくれ、完全に痛みは引かないが少しはマシになった体を確認して、ユーガは小さく息を吐いた。どうする?普通に近付こうにも近寄れない、距離を取ってもーすぐに距離を詰められてしまうだろう。現に、『災魔族』は一定の距離を保っている。つまり、こちらを警戒しつつもいつでも攻撃できる立ち位置にいる、という事だ。
「・・・なるほど」
小さくトビが何かを閃いたように呟き、ユーガ達はトビに視線を向けた。トビは口角をわずかに上げ、わからないのか、と皮肉を込めた声音で仲間達に問いかける。
「・・・俺達との距離を一定に保つ相手・・・つまり、俺達が近付いたら吹き飛ばされるが、俺達が離れたら・・・あいつは恐らく追ってくるな」
「・・・なるほど、そういう事ですか」
「理解しました」
ルインとシノは理解できたようで、ユーガ達は何が何だかわからずに首を傾げるとーその会話を遮るかのように、『災魔族』は雄叫びを上げて再度腕を振るう体制となった。
「まずい、伏せなさい‼︎」
ルインの声に咄嗟にユーガ達は身を低くして地面に張り付くとーその瞬間、ユーガ達の少し上を暴風が吹き荒れた。ユーガはその風に耐えながら、先ほどの作戦の意味を考えーきゃ、と小さく悲鳴が聞こえ、意識を仲間の方へと戻すとー。
「め、メル‼︎くそっ・・・‼︎」
吹き荒れる暴風に耐えきれず、メルが吹き飛ばされそうになっていてーユーガは慌てて地面に張り付いていた体を起こし、その風を利用してメルの手を掴みに行く。
「ユーガ‼︎・・・に・・・‼︎」
トビの声が聞こえた気がしたが、暴風の吹き荒れる音のせいでユーガの脳内では意味を成さない。吹き飛ばされるメルの手を、ユーガは吹き荒れる風を促進力にしてー掴んだ。よし、と小さく呟いて、近くの岩をメルを掴んでいない方の手でしっかりと掴み、空を舞いそうになっているメルを引き寄せた。メルの体が地面に着地し、彼女はそのまま暴風で乱れた服装を直し、ユーガに視線を向ける。
「あ、ありがとうございます・・・ユーガ君」
「大丈夫か、怪我とかないか⁉︎」
「だ、大丈夫です」
良かった、とユーガは安堵し、メルから視線を『災魔族』の方へ戻すと、吹き荒れていた風は収まっていて、仲間達が戦闘を開始しているのを確認して、メルに視線を戻して口を開いた。
「皆のところに戻ろう。歩けるか?」
「はい」メルは服に付いた汚れを払いながら立ち上がり、ユーガにシアン色の瞳を向けた。「急いで向こうに戻りましょう」
「ああ‼︎」
ユーガは仲間達の方へと走り出し、後ろにメルが付いてきている事を確認してから、先程のトビの作戦について思考を巡らせたがー答えは出なかった。
ユーガがメルを連れて戻ってきたのを確認して、トビは高めていた体内の元素を静かに収めて、戦闘を行う仲間達に声をかけた。
「少し相手は任せるぞ」
「トビ、大丈夫か⁉︎」
駆け寄ってきたユーガの第一声で自身の心配をされ、トビは呆れたように眼を細めながら、小さく息を吐いた。
「・・・てめぇらが吹き飛ばされるから、あいつらにした作戦説明をもう一回しなきゃならねぇんだけど」
「す、すみません」
メルが慌てて謝罪すると、ネロが『災魔族』に剣を振るいながら、焦ったような声音でユーガ達に向けて言い放つ。
「おぉーい、早くしてくれ‼︎時間稼ぎにも限界があるぞこれ‼︎」
ネロの声を聞いて、ユーガはトビに再度視線を戻し、トビの瞳をまっすぐ見つめるとートビもそれに応えるように、蒼色の瞳をユーガに向けた。
「・・・いいか、作戦を言うぞ」
ユーガとメルはトビの作戦を聞きながら、思考を巡らせる。ーかなり危険な作戦であることに変わりはないが、ユーガ達は数々の困難を乗り越えてきた。恐らく、ここで失敗するような奴等ではないだろう、とトビはユーガに視線を向けて考える。
「・・・という事だ」
「・・・かなり危険ですね」
メルがそう言うと、ユーガは拳を胸の前まで持っていき、強く握りしめた。それはまるで、彼の決意を示しているようでー。
「それでも、やろう。今までだって、そういう困難も俺達は乗り越えてきたんだ。それに、それ以外にいい作戦はないんだろ、トビ」
「あぁ。今はこれしか思いつかねぇ」
わかった、とユーガは頷き、剣を鞘から引き抜いてしっかりと握りしめる。仲間達が足止めをしてくれてはいるが、あの『災魔族』の攻撃力はとてつもなく高い。きっと、まともに喰らったらかなりまずいだろう。
「行くぞ」
トビが前に立って駆け出し、ユーガとメルもそれに伴って足を踏み出す。全速力で駆け抜ける中、ちら、とトビはメルに視線を向け、心の中で小さく鼻を鳴らした。
(この作戦の要はてめぇだ、メル・・・しくじるなよ)
全ての鍵を握るのは、今回はメルになるだろう。メルがしくじれば、最悪全員が死ぬ。メルの町を救う事も、四大幻将の調査も全てが水の泡となる。しかも今回の相手は、ただの凶暴化した魔物ではなくー『災魔族』なのだ。一筋縄ではいかない事など、一目瞭然すぎる。トビは先程ユーガ達に伝えた作戦を反芻し、双銃を握る手にさらに力を込めた。
「いや、なんかトビめんどくさいから後で話聞かせろーって言っててさ・・・」
「こき使われてるな・・・お前・・・」
なんとなくユーガがいいように扱われているような気もするが、おそらく気のせいではないだろう。相変わらずですね、とミナは微笑んで、一瞬だけ宿へ視線を向け、ユーガ達に視線を戻す。
「それで、この後どうするの~?」
リフィアの言葉にルインは唸って腕を組み、仲間達を一瞥する。
「そうですね・・・昨日の時点でローム・・・おそらく幻だとは思いますが、とにかく彼を発見した。それは事実ですね、ユーガ」
「うん」
「とすると、昨日の時点ではロームはこの近辺にいた・・・ただ、あの後の調査でもロームの姿は見かけませんでした」
「冷静に考えれば、もう逃げられたと考えるのが妥当ですよね」
メルの言葉に仲間達は頷いて、シノもメルに同意するように口を開く。
「そう考えるのが一般的かと」
「・・・トビが聞いたらキレそうだけど、上手い事ユーガとトビは罠に嵌められたんだな」
ネロの言葉にユーガは何となく申し訳ない気持ちになったがそれを表面には出さずに堪え、でも、と腕を組んだ。
「なんでそんな回りくどい事してきたんだろ・・・?」
「ん?どういう事ですか?」
メルが首を傾げてユーガにそう尋ねてきて、ユーガは組んでいた腕を解いて腰に手を当てて口を開いた。
「いや・・・これまで結構直接的な攻撃が多かったのに、そんな罠を張るみたいな手法に急に変えてくるのかな・・・って」
「・・・なるほど、確かに違和感はありますね」
「だろ?なんか変な感じがするんだよな・・・」
うーん、とリフィアも腕を組んで考え込み、あ、と何かを閃いたように指を立ててユーガに視線を向けた。
「わかった‼︎二つあるんだけどいい?」
「お、うん」
「一つ目なんだけど、これまで直接的に責めてきてアタシ達はずっと勝ってきてるわけじゃん?だから、違う攻め方で意表をつく作戦とか‼︎」
まぁ、とルインは苦笑を浮かべてリフィアに視線を向ける。
「でしたら二ヶ月前のスウォーとの直前の方がその作戦は私達に効きそうですけどね・・・」
確かに。リフィアは言葉に詰まってしまい、何も言えなくなってしまう。それを見かねたネロが、まぁまぁ、と笑みを浮かべながら口を開く。
「もう一つの案があるし、そっちかもしれねーぞ?」
「そ、そうだな‼︎リフィア、二つ目の案って?」
ユーガもそれに便乗して尋ねると、リフィアはピースをした手を右目に当て、人差し指と中指の間から右目が見えるようなポーズを取った。
「作者がテキトーだから‼︎」
「よーし調査再開すっぞ~」
「ちょっとぉ⁉︎」
言葉を遮って調査再開のために歩き出したネロと仲間達をリフィアは追いかけて叫んだ。ー何となくそんな事だろうな、と感じていたのは自分だけではないだろう、とルインは笑みを浮かべながら嘆息し、仲間達に手分けして調査を行うように指示を出した。
~トビサイド~
同刻。トビはベッドに寝転んだまま天井を眺め、中々寝付けずにいた。今朝はユーガに調査の同行を頼まれたが、今はなんとなく気分が乗らなかった。昨日の自分自身との戦いで疲労も溜まっていたし、今はただ休みたかった。まぁユーガは何事もなかったように調査行ったけど。トビは体を起こして嘆息し、昨日手入れを怠っていた、机の上に置きっぱなしの双銃を手に取ったーその時。
「・・・!」
トビの固有能力ー『蒼眼』で得た、彼の超人的な聴力によって、何者かがこちらに近付いてきているのに気付いた。ユーガ達か?いや、あいつらはつい先ほど出て行ったばかりだ。戻ってくるには早すぎる。しかも、靴音の大きさでいえばーかなりの巨漢、といったところか。思考を巡らせたトビの思考を遮るように、トビのいる部屋がノックされる。トビはそれには応じず、銃を両手に持って扉と壁の隙間に体を付ける。ーと。
『トビ・ナイラルツ。いるのであろう』
「・・・!」
この野太く、以前の旅で幾度となく聴いたこの声はー。
「・・・ローム・・・何しにきやがった」
扉越しにトビが『彼』ーミヨジネア四大幻将の一人、『鬼将のローム』に尋ねると、ロームは嘲笑うように、ふっ、と笑ったような声が聞こえ、トビは僅かに銃を握る手に力を込めた。
「そう警戒するな。少し話そうではないか」
「断る。・・・てめぇ、どういうつもりだ」
「なに・・・貴様らに話したい事があるのだ」
トビは疑いを持ちながら、ロームの言葉を待つ。念の為、魔法も使用できるように体内の元素も高めておく。これで、仮に奇襲されても戦えはする。
「・・・『藍紫眼』の少女について」
「・・・メル、のことか」
「そうだ。・・・貴様は『藍紫眼』のことを知っているか?」
「・・・体外、体内の元素を混ぜて一つの塊となるように構成し、結晶を作り出す固有能力・・・さらに、味覚が俺の聴力やユーガの視力同様に超人的な能力を持つ固有能力、か」
これまで聞いた情報、調べた情報を元にトビは『藍紫眼』についてまとめて話すと、扉越しにロームは、そうだ、と同意する。
「『覚醒』前の固有能力ならば、その情報のみで十分だ」
だが、と言葉を継ぎ、ロームはさらに話を続ける。
「『覚醒』・・・しかも『暴走』をしたというのならば、話は別となる」
「・・・なんだと?」
「ならば、教えてやろう。・・・『藍紫眼』の隠された能力を・・・。その、能力は・・・」
「・・・マジなのかよ、それ」
「・・・そうだ」
トビはロームの言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべながら眼を見張る。ーなるほど、確かにそう考えれば辻褄は合うがー。
「・・・おい、なら『暴走』はその現象の表れ・・・という事か・・・?」
「・・・そう言われている。『藍紫眼』の主には気を配るがいい。・・・下手をすれば・・・」
「・・・世界の終わり・・・か。なるほど、つまりてめぇらは「怖いから目を離さないでくれ」とでも懇願しに来たのか?そりゃ随分と滑稽だな、ローム」
「・・・なんだと?」
「・・・起こさせねぇよ、そんな事・・・起こさせたとしても、ユーガが止める」
「ほう、随分と『緋眼』の主を信用しているようだな」
ロームが嫌味を含めながら言うと、トビは口の端に僅かに笑みを浮かべて、嘲笑うように眼を細めて口を開いた。
「・・・はっ、そんなんじゃねぇよ。・・・だが・・・」
「・・・なんだ」
「・・・あの馬鹿のお人よしが移っただけだ」
トビは壁から体を離して、扉へーその先にいるロームに視線を向けた。
「今のうちなら見逃してやらないこともないが?ローム」
「・・・・・・」
トビの言葉に、ロームの靴の音が遠ざかるのが聞こえる。完全に足音が聞こえなくなり、トビは鼻を鳴らして嘆息し、持っていた銃をベッドの上へ置き、顎に手を当てて考えをまとめ始めた。
ー夜。
「ろ、ロームがここに・・・⁉︎」
ユーガとトビの部屋に集合した一同は、トビの話を聞いて驚愕した。トビは椅子に腰掛けながら頷き、メルに視線を向けながら口を開く。
「メル。てめぇについてな」
「私・・・ですか・・・?」
「もしかして」とリフィアがいつもより真面目な声音で口を開く。「メルちゃんの隠された能力、とか?」
「・・・てめぇ、知ってたのか」
「確証はなかったけどね~」
「・・・隠された能力・・・?」
ユーガが首を傾げて尋ねると、トビは頷いてユーガに視線を向ける。
「あぁ。なんなら、メル自身も知らない能力だ」
メルが息を呑んだのを見て、やはりこいつは知らないな、とトビは確信した。トビさん、とミナがトビに声をかけ、トビは今度はミナに視線を向ける。
「・・・その隠された力、とは・・・?」
「・・・『藍紫眼』に隠された能力、それは・・・『もう一人の自分を作り出す能力』だ」
「・・・もう一人の・・・」
「自分を・・・?」
ネロとルインがそれぞれそう口にすると、トビは椅子から立ち上がってメルに再度視線を向ける。
「・・・メル。お前、住んでる街が結晶で覆われた時の記憶、ほとんどねぇんじゃねえか?」
「・・・は、はい」
「しかし、それは『暴走』の影響ではないのですか?強すぎる力を使用した故に、記憶が飛んでしまった、というような・・・」
「メルの瞳自体にその人格が宿っているとしたら?」
ルインの問いにトビはさらにルインに質問を返す。そうか、とネロは拳を手のひらに打ち付けて、トビの問いに対して答える。
「『暴走』したなら、自分の固有能力の力によるものだからある程度の感覚は体に残る・・・でも、それが別人格が操っていたものだとするなら、メルの体にその情報が刻み込まれてなくてもおかしくない、ってことか」
「あくまで推測の理由だがな。ただ、もう一人の人格ってのはマジだと思うぜ・・・なぁ、リフィア」
話題を振られたリフィアはユーガ達に向かって頷いて、メルの頬にそっと手を添えると同時にその眼を閉じた。しばらくそうしていると、リフィアは瞳を開いてメルを真正面から見つめる。
「・・・うん、やっぱりそう。メルちゃんの体の中から、二つの異なるそれぞれの元素を感じる・・・」
「メルはその能力のこと、知らなかったんだよな?」
ユーガが尋ねると、メルは困惑しつつも頷いた。それを確認して、ユーガはトビに視線を向ける。
「つまり、メルの固有能力が覚醒するのと同時に、メルの中のもう一人の人格が目覚めた・・・ってことか?」
「そうだ。しかも自覚はないときた」
「その対処もしようがない、って事だもんな」
ユーガの言葉にトビは頷いて、視線をユーガからルインへと移すと、ルインは怪訝そうに視線を向けてくる。
「ルイン、何か対策はないのか」
「そうは言いましても・・・発動条件がわからないことには、なんとも言えませんね・・・」
「シノちゃんは何かいい案とかないかな?」
リフィアがそう言い、ユーガ達もシノに視線を向ける。シノはいつもと変わらぬ様子で、ただ淡々と言葉を口にする。
「二ヶ月前までは、可能でした」
意味深な言葉を口にすると、ユーガ達は首を傾げーその中で、ルインとトビのみがハッとしたように顔を上げた。まさか、とルインが驚愕の声を上げ、トビがその言葉を継ぐ。
「・・・ソニア・・・か」
「はい」
ソニア、とは二ヶ月前の旅の中でユーガ達が出会った人物の一人で、その素性はーシノの母親、だ。ソニアは、現在のシノの肩書きとして存在している『天才魔導士』になることが夢であったが、シノにその地位を奪われ、シノを捨てた。その後は『天才魔導士』の地位を奪い取るために、ユーガ達の前に立ちはだかった人物で、ユーガ達はソニア達の戦いに勝利し、ソニアがシノを認めようとした瞬間ー。ソニアは、魔法によって体を貫かれた。その攻撃は、ユーガ達の敵でありスウォーの仲間であるー四大幻将、『煉獄のフィム』によるものであった。その攻撃により、ソニアは最後にシノを認めて、亡くなったのだ。だが、なぜ今ソニアの話がー?
「ソニアの固有能力は『安眠』・・・そのソニアの攻撃の中に、シノを拘束した技があったのを覚えてますか?」
ルインの問いかけに、ユーガは頷いた。その後ろで、なるほどね、とリフィアも理解したように手を叩いてまっすぐルインを見つめた。
「ソニアさんの『安眠』はアタシ達の意識を起こしたまま体を『封印』して、体の自由を奪う固有能力・・・つまり、応用すれば固有能力だけを封じ込めて、体に特に異常なく動けるようにする、ってことね」
「なるほど・・・」
ユーガもようやく理解し、その他の仲間達も全員が理解したように頷いた。だが、死者は決して二度と蘇ることはない。できれば早急に対処したい問題だが、かといって四大幻将に関する情報や、メルの住む街で結晶に覆われてしまった人々のことも考えると、何から手を付けていいのかわからなくなる。
「う~ん、まず何からするべきなんだ・・・?」
「確かになぁ・・・やるべき事が多すぎるし、優先度も全部同じようなレベルだしな・・・」
ユーガの言葉にネロは同意したように腕を組んで考え込んで二人で、う~ん、と唸る。すると、メルが何かを思い出したように声を上げた。
「私の住む街に、封印を会得している方がいらっしゃったような・・・すみません、曖昧にはなってしまいますが・・・」
「・・・では、メルの固有能力の封印方法はそちらにしましょう」
シノがそう言うと、でも、とネロが声を上げて首を傾げた。
「先にそっち行くのか?四大幻将のこととか、後回しになっちまうぜ?」
「二手に分かれるのが賢明な判断でしょうか・・・?」
ミナがそう尋ねると、トビはそれを首を振って否定した。
「いや、四大幻将が本格的に行動を開始するかもしれねぇ。どちらか片方に一気に攻め込まれると最悪だからな」
「・・・あ、そ~だ‼︎」
リフィアは人差し指を立てて、ポケットの中を漁り出した。あったあった、と言ってリフィアが取り出したものはー。
「じゃじゃ~ん‼︎通信機‼︎」
「通信機・・・?それ、レイと連絡を取る用のやつだろ?」
「そうそう~‼︎」
「まさか」と、ルインはリフィアに驚いたような視線を向ける。「レイに四大幻将の調査を頼むつもりですか・・・?」
そのまさかだよ、とリフィアは頷いた。確かに、元四大幻将のレイならば、ユーガ達よりは四大幻将の手がかりや行動を掴んでくれるかもしれないがー。
「危険ではありませんか・・・?レイさん、四大幻将を裏切った身の方ですよ・・・?」
「だが、他に何か手がないのも事実だ」
ミナの言葉に即座にトビがそう告げる。本当は、わかっているのだ。レイに頼むことの危険性も、全てトビは理解している。ユーガは小さく頷いて、仲間達を一瞥した。
「とにかく、一旦レイに聞いてみないか?それを決めるのは俺達じゃなくて、レイだからさ」
「うん、ちょっと聞いてくるね」
リフィアはそう言って通信機を片手に、扉の外へと出た。確かに、この話はリフィアがした方が良いだろうな、とユーガは息を吐き、椅子に腰をかけた。
「今回はレイのおかげで助かったな・・・」
翌日。出発の準備を整えていたユーガは、準備を終えて椅子に腰をかけるトビに声をかけた。ま、とトビは眼を細めてユーガに視線を向ける。
「アイツが裏切らなきゃな」
ユーガはその言葉に苦笑して、荷物の準備を進めた。昨日、レイは四大幻将の調査を快く了承してくれた、とリフィアから聞き、ユーガ達は安堵した。ただ、直接関わることはせず、あくまで軽い調査、という形で調査を進めてくれるそうだ。ただ、それだけでもありがたかった。現在の戦力で言えば、一人でも欠けてしまうと厳しい環境であるため、今回レイに協力を要請できたことは、かなり助かった。
「けど、珍しいよな・・・トビが敵のロームを見逃すなんてさ」
「・・・かもな」
「でも、なんで見逃したんだ?実際、ロームを捕まえたりしといたほうが良かったんじゃないか?」
ユーガがそう尋ねると、トビはユーガから視線を逸らして窓の外へと視線を向けた。
「・・・むしろ逃がした方が好都合だからな。どうせこの後、四大幻将の調査はするつもりだったし」
「??」
「馬鹿か・・・いや元からか。あのな、ここで俺達がロームを捕らえたとして、あいつが簡単に情報を吐くと思うか?」
「あ、なるほど・・・泳がせるってことか」
「・・・の、方が確実性は高いだろ」
なるほどな、とユーガは納得して、まとめた荷物を抱えて、よし、と呟いた。トビもそれを確認して荷物を手に取り、てか、とどこか呆れたように口を開いた。
「メルが暴走しなけりゃ事は簡単だったんだがな」
「まぁまぁ、暴走条件は俺達でもわからないんだし仕方ないだろ?暴走しちゃった事は変えられないんだし、俺達の事を頼ってくれたんだから、助けてあげようぜ」
ユーガの言葉にトビは再度呆れたように首を振って嘆息し、ユーガに視線を向けた。
「・・・楽観的すぎて話にならねぇ」
トビの言葉を聞いてユーガは苦笑し、部屋の扉を開ける。仲間達は既に荷物をまとめて宿の入り口に立っており、ユーガ達も合流する。
「準備は大丈夫ですか?」
ルインにそう尋ねられ、ユーガとトビは頷いて応える。では、とメルが口を開いて、仲間達の視線がメルに向く。
「私の故郷ー『ノルディン』へと向かいましょう」
「『ノルディン』⁉︎」
驚愕の声を上げたのは、リフィア。ユーガ達は視線をリフィアに向けて、知ってるのか?と尋ねると、リフィアは目を見張りながら小さく頷いた。
「『魔族』の町の一つだよ・・・‼︎アタシの故郷の『アルノウズ』のすぐ近くの町・・・‼︎」
「な、なんだって⁉︎」
ネロが驚いたような声を上げ、トビも珍しく動揺したようにメルへと視線を向ける。
「・・・つまり、お前は・・・」
「魔族の一人・・・って事か・・・⁉︎」
ユーガの問いにメルは頷き、リフィアへ視線を向けて口を開く。
「リフィアさんは『人間』になるのが目的・・・なんですよね?私はこの眼のおかげで、産まれてすぐに『人間』へと変化したんです」
まさか、メルが魔族だったとは。しかも、リフィアの目的である『人間になる事』を成し遂げた魔族だったとはー。ユーガは言葉を失い、ただ眼を見張る事しかできなかった。
「・・・その眼のおかげ、というのは?」
シノがそう尋ねると、メルは小さく頷いて答える。
「・・・よくわかってないんだけど・・・特殊な瞳を持ってる魔族は、成長が早いんだって」
「ちょ、ちょっと待って」
リフィアが驚いたように考え込み始め、その姿勢のままメルに問いかける。
「キミが魔族だって事はわかったし、ノルディンから来たって事も理解できた・・・。で、でもなんでそれを言ってくれなかったの?」
「私があなた達に魔族である事を話してしまうと、どこかからその話が漏れたら魔族全体が混乱に陥ってしまいますから。今このタイミングでお話したのも、ノルディンに向かう直前で見たところ近くに魔族もいませんでしたし」
「メル」
口を閉じたメルに、トビは目を細めて銃を突きつけた。仲間達が驚愕の声を上げるが、トビは銃を下ろそうとはしない。
「・・・だとしたら、なぜ最初にユーガにそう言わなかった?ユーガに対する説明だけなら、初対面で話ができたはずだ」
「・・・すみません、あなた方がまとまっている時にお話するべきかと判断しました」
「・・・それを信じて、てめぇを助けろってのか?」
トビが銃を握る力を強めると、銃の上部分に手が置かれて、トビはメルから視線を背けて、手を置いた人物ーユーガを見た。彼は、頬をかきながらそっとトビに銃を下ろすように眼で伝える。
「・・・信じられるのかよ、こいつを」
「・・・うん」
「魔族の町・・・噂程度でしか聞いたことはないが、お前らは行ったことがあるんだろ?なら魔族の町に行く危険性もわかってるはずだ」
前回、リフィアの故郷ーアルノウズへ行った時、トビはユーガ達と別行動を取っていたので魔族の町、というのは話でしか聞いていないので、魔族の町に対する警戒も、メルに対しての疑惑も理解できる。ユーガはトビをまっすぐ見つめて、口を開く。
「・・・でも、メルは俺を・・・俺達を頼ってくれた。そんなメルを信じてみたいんだ」
ーまぁ、そう言うとは思っていた。長い期間一緒にいれば、ある程度こいつの考え方も読めるようにはなってきた。
「・・・それに、どっちを取っても危険なのは変わりがありませんし」
ユーガとトビの会話を聞いていたルインが、ユーガ達には視線を向けずに口を開いた。そうだな、とネロも同意したように頷き、ユーガとトビに向かってまっすぐな視線を向けた。
「どうするかはお前らに任せる。俺達はそれを最大限助けてやるさ」
「そうですね・・・メルさんの故郷を助けるか、このまま四大幻将の調査を進めるか、ですね」
ミナがそう呟いて、リフィアとシノもまた、頷いた。トビは一度銃を下ろして、ユーガに視線を向けた。
「・・・ユーガ、ちょっと来い」
「うん、わかった」
「メル、てめぇもだ」
「・・・はい」
正直、ユーガと自分に選択権を設けてくれたのはかなり助かる。どうするのか、どちらを取るのが最善なのか、まだ決められていないのだ。トビは仲間達から離れたところにユーガとメルを呼び、思考を巡らせた。
~ネロサイド~
「どっちが折れるかなぁ」
少し離れたところで話し合っているユーガとトビを見つめながら、リフィアは嘆息しながら呟いた。まぁ、とネロがそれに応えるように、リフィアに視線を向ける。
「お互いの意見もわからなくはないんだがな」
「ですね」とルイン。「頼ってくれたから助けたい・・・という気持ちと、重大な話を事前にしていいメルを信じられない、という気持ち・・・」
「リフィアさんはどちらがよいのですか」
シノがリフィアに視線を向けて尋ねると、そりゃ、と腰に手を当てて答える。
「アタシはメルちゃんを救いたい気持ちが強いな、って」
「・・・そうだな」
ネロも同意したように頷いて、再度ユーガ達に視線を向ける。魔族の住んでいる世界には、特別な魔物もいる。『災魔族』という位置付けがされている魔物で、固有能力を使用した状態での攻撃しか通らない、というものだ。正直、危険極まりない相手ではある。その危険性を理解しながらも、ユーガはメルを救おうとしている。仲間のために、命を賭けようとしている。だが、四大幻将の危険性も捨てきれないのも事実ー。
「・・・頼むぜ、ユーガ、トビ」
ネロはユーガ達に向けて呟き小さく息を吐いた。
~ユーガサイド~
「状況整理だ」
トビがユーガとメルに向けてそう言い、ユーガ達は口を挟まずにトビの話を聞いた。
「今俺達がやろうとしている事は大きく分けて三つ。まず一つは俺とユーガがやっていた、二ヶ月前にスウォーが引き起こした元素の不安定化で凶暴化した魔物を倒す事・・・これは優先度がそんなに高くはない事だ」
ユーガはトビを見つめながら頷きメルも、なるほど、と考え込むように顎に手を当てる。
「二つ目。復活の可能性がある・・・というよりはほぼ確実に復活している四大幻将の調査。これはまぁ優先度が高い事もあり、レイに軽く調査を頼んでいる。そして三つ目はメルの町を救う事」
トビはそこで一度息を吐き、ユーガに切れ長な瞳を向ける。ユーガはそれをまっすぐ受け止めて、緋色の瞳を返した。
「前にも言ったが、メルの町を救うのは四大幻将の調査が終わったあと・・・と言ったよな」
「・・・でも、メルの固有能力でメルのもう一つの人格が『暴走』を引き起こした可能性が高いから、そのもう一つの人格を封じるためにもノルディンに・・・だよな」
「そうだ。だが、四大幻将の目的がいまだにわからない以上、レイ一人に任せておくのも限界がある」
「・・・ルインさんも仰っていたように、ノルディンに行く事も、四大幻将の調査を行う事も、どちらも危険な事には変わりがない、ですもんね・・・」
トビの言葉とメルの言葉、両方の意見を聞いて、どちらを取るのが最善かーユーガは考え込み、トビもまた腕を組んで考え込む。
「・・・メルはどうだ?どうしたいとかあるか?」
ユーガが尋ねると、メルは慌てたように首を振ってユーガとトビを交互に見た。
「私の事はいいので、四大幻将の事を先に追っても構いませんよ・・・?」
「・・・なぁ、トビ」
「なんだ」
「俺達の言う四大幻将の調査、ってどこがゴールなんだろ?」
ユーガの問いかけに、トビは言葉を詰まらせた。なるほど、確かにそうだ。自分の言う『四大幻将の調査』、はゴールが不明瞭すぎる。それに対して、ノルディンに行って町を救い、メルの固有能力を封じる、というのは明確なゴールがわかっている。
「・・・明確な方を潰しておいた方がいい、って事か」
「まぁ、四大幻将を調査しようとするとまた目撃情報から色々探し出さないといけないし・・・そっちはレイに任せて、俺達はメルを助ける、でもいいんじゃないか?」
「・・・なるほど」
「それに、もしメルが俺達の事を騙しそうとしてたら、回りくどすぎない?」
その言葉に関しては、賛同もできないし否定もできない。メルはユーガの固有能力が必要と言っていた。つまり、ユーガでしか扱えない力を求めているのだ。ただ、回りくどすぎる、というユーガの意見も捨てきれないのも事実だ。
「・・・おい、ユーガ」
「ん?」
「・・・今回はてめぇの意見に乗せられてやる。ただし何かあったら、てめぇがなんとかしろ。いいな?」
ユーガはトビの言葉に頷いてーメルがトビを見ながら微笑んでいるのを見て、どした?と声をかけた。
「いえ、なんだかんだ言いつつも、トビさんはユーガ君のことを助けそうだなぁ、と」
「あ?」
「はは、確かにそうかもな」
「・・・おい、町を救うの手伝ってやらねえぞ」
トビが冷静に目を細めてそう呟き、ユーガは慌てて謝った。その光景を見て、再度メルは口に微笑みを浮かべた。
「・・・では、ノルディンに行く、という事ですね」
仲間達の元へ戻ったユーガ達三人は、話し合いで決定した内容を仲間達に伝えていた。ルインが呟くと、ユーガは頷いて口を開く。
「これからまた四大幻将の事を調べようとしても、かなり時間かかっちゃうだろうからさ」
「確かに、そりゃそうか」
ネロもユーガの意見に賛同したようにそう言うと、唐突にトビの肩に腕を回してトビの体に体重をかける。
「・・・おい、何してやがる」
「いや別に?ただ、お前がユーガの意見を通すなんてなぁと」
「・・・その方が合理的な判断だったからだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
「ふ~ん・・・そういう辺り、なんだかんだお前ユーガの事信用してるよな」
「黙れ、死にてぇのか」
トビが棘のある口調でそう言うと、ネロはふざけたように驚いて、トビから離れた。
「でも、否定しないって事はそういう事?」
リフィアがトビにそう尋ねると、トビは嘆息してユーガに視線を向けながらその問いかけに答えた。
「・・・別に信用してるわけじゃねぇ。この馬鹿の意見を通した方が楽に物事が運ぶ場合もあんだろ」
「俺は」とユーガがトビに笑顔を向けながら、腰に手を当てて誇らしげに口を開く。「トビの事めちゃくちゃ信じてるぜ?」
「ユーガさんはそういう性格ですからね・・・」
ミナがそう呟き、シノもそれに続いて同意するようにユーガに向けて言葉を継いだ。
「この旅の中で、最もトビさんと長くいる時間が多いのはユーガさんですし」
シノが口を閉じると、トビは誤魔化すように顔を背けて、仲間たち全員に声が届くように声を上げた。
「・・・どうでもいいからさっさとノルディンとやらに行くぞ。時間がねぇんだろうが」
そうですね、とルインが頷いて応え、トビは背けた顔を仲間達の方へと戻した。本当は、自分が仲間達のことを信用している事を自覚しているし、ユーガ達と一緒にいる時間が楽な事も認めている。ただ、まだそれを公に認めるのはーどこか気が引ける。これから一人で旅をする、というのは、正直無理だろう。魔物の凶暴化も含め、仲間達の存在が当たり前になってしまった。
「リフィアさん」
トビが思考を巡らせていると、メルがリフィアに向けて尋ねる声が聞こえてきて、トビは意識を仲間達の方へと戻した。
「魔族の負の感情に飲まれない結界は、彼等に刻んでありますか?」
「ううん、まだトビ君には刻んでないよ」
「わかりました。では、トビさんに結界を刻むのはお任せします。私は『道』を開きますね」
メルはそう言うと、宿と仲間達に背を向けて両手を前に出し、透き通るような声で以前リフィアが唱えていた転送魔法陣の詠唱を始める。
「安息に眠りし『魔族』の息吹よ、今ここに道を示さん・・・」
メルの言葉が終わると同時に、彼女の足元に魔法陣が展開されていく。恐らく、あの魔法陣の中が『魔族』の住む村に繋がっているのだろう、とリフィアに首元に噛みつかれて結界を刻まれながら、トビはそう理解した。
「魔族の町・・・か」
トビが自分に言い聞かせるように呟くと、ミナがトビに視線を向けてどこか忠告するように人差し指を立てた。
「『災魔族』もいますから、十分注意してくださいね」
「・・・確か、固有能力を使用してないと倒せない魔物だったか」
「はい、それに攻撃力もかなり高いですから」
トビはミナの言葉に鼻を鳴らし、ミナに向けていた視線をまっすぐ元に戻した。
「殺せばいいだけだろ、簡単な話だ」
軽く言うトビに、リフィアもまたトビに向けて口を尖らせた。どこかお小言を言われそうなので、話半分で聞いておこう。
「そんな簡単な話じゃないんだよ~?何より耐久力も上がってるしさぁ・・・」
「だとしても、だ」
「まぁ」とルインがトビをサポートするかのように間に入って口を開いた。「事実、『災魔族』からは逃げられないでしょうし、倒さなければならないのは間違いありませんね」
そういう事だ、とトビは頷いて、視線をメルに戻す。メルの足元にはどんどん魔法陣が展開されていき、綺麗な紋章を伴いながらメルを包んでいく。その形が次第に完全な円となり、メルは乱れた呼吸を整えるように息を小さく吐いた。
「『道』ができました」
「ありがとな、メル」
ユーガがメルに声をかけると、メルはユーガに疲れた顔で微笑んだ。無理をさせてしまったな、とユーガは頬を掻いてメルにポーションを差し出すと、メルはそれを受け取ってユーガに礼を告げた。
「お疲れ様です、メル。疲弊しているところ申し訳ありませんが、すぐにノルディンへ向かえますか?」
「はい、大丈夫です」
メルの言葉にルインは、よろしい、と頷き、仲間達に魔法陣に入るように促した。ルインも先に魔法陣は入り、ユーガとメルもまた、ゆっくり魔法陣の中へと入る。どこか懐かしい魔法陣の輝きが次第に強くなるのを感じながら、ユーガはゆっくり眼を閉じた。
ふ、とユーガが目を開くと、懐かしいひんやりとした空気に包まれ、日光がない洞窟の世界へと足を踏み出した。やはり、ここが別世界だとは信じられないがーグリアリーフにはもはや少ない鉱石などがあるという情報から、それは真実なのだろう。ユーガはトビに視線を向けると、トビは興味深そうに辺りを見渡していて、今回はトビがいるという事にユーガは少し安心感を覚えた。
「そういえば」とミナが思い出したように口を開き、リフィアに尋ねた。「以前の場所は『アルノウズロード』でしたけど、ここも『アルノウズロード』なんですか?」
「ううん、ここは『ノルディンロード』。『魔族』が作る転送魔法陣でこっちの世界に来る場合は、作った魔族に縁のある場所に転送されるんだよ」
なるほど、とミナは呟いて、辺りを見渡し始める。トビもそれに続いて、リフィアに問いかけた。
「この世界・・・グリアリーフの裏世界、といった所にあるように感じるんだが」
「お、察しがいいね・・・その通りだよ」
裏世界か、とユーガは呟き、メルの方へ視線を向けると、彼女は続いている道の先へと視線を向けていた。ユーガはメルの隣に立って、この先か?と声をかけると、メルは小さく頷いた。さらにユーガの隣にルインが立ち、暗闇の先の元素を探るように目を閉じた。彼は目を閉じながら、小さく口を開く。
「・・・確かにこの先に、かなり強いメルの元素を感じますね」
「メルの結晶のせいか?」
ユーガがルインに向けて尋ねると、恐らく、と口元に手を当てて考え込むような姿勢で視線を落とした。
「『覚醒』をし、『暴走』した力が強すぎるが故に、でしょうね」
「それほど、『暴走』した力ってのは凄まじいんだな・・・」
ユーガは鳥肌が立つ肌を抑え込みながら、自身の右眼に手を重ねた。『破壊の力』を兼ね備えている自身の『緋眼』の力が暴走したら、凄まじい被害が出るだろう。メルの結晶を作成する固有能力、『藍紫眼』でも町一つを覆うほどの結晶を生み出してしまうのであれば、同じく強大な力を持つ自分やトビ、仲間達も暴走したらーそう思うと、ぞっとする。
「・・・ノルディンに行きましょう」
メルは仲間達の先頭に立って暗闇の先へと歩き出し、ユーガ達はメルの後に伴って、それぞれの武器に手をかけた状態のまま、足を踏み出した。
「瞬焔烈火‼︎」
「瞬雷烈招‼︎」
ユーガの固有能力の『緋眼』とネロの固有能力の『神速』を解放させた状態でそれぞれの技を交差させ、まともに受けた『災魔族』は断末魔を上げながら横倒しに倒れる。仲間達もそれぞれ固有能力を解放して、『災魔族』を倒していく。ーと、一人で『災魔族』を倒していたトビが『災魔族』に背を向けたその時ー倒れていた『災魔族』が起き上がり、雄叫びを上げながら体内の元素を高めていく。ユーガ達はトビの横に並んで立ち、姿が変形していく『災魔族』に向かって走り出そうとしー。
『グァァァァゥ‼︎』
もとより狼のような姿だった姿から変形し、後ろ足のみで直立し、恐ろしく肥大化した爪を持つーその姿はどこか、悪魔を彷彿とさせるような見た目だ。
「・・・これって、魔物の凶暴化・・・⁉︎」
ユーガがルインに向けて尋ねると、ルインは平静を保ちながらも目の前の存在に畏怖しているのか、頬に汗を流しながらも答えた。
「恐らく、そうでしょう・・・こんなところにまで影響があったのですね・・・」
「・・・来るぞ、構えろ」
トビのその声を合図にしたように、魔物はユーガ達に向けて走り出した。よく見ると、腕や足にとてつもなく肥大化した筋肉が付いている。一発でも攻撃を貰えば、かなり痛いダメージとなってしまうだろう。ユーガは走りながら思考を巡らせ、仲間達から見て左側に回り込んでいく。ーが、凶暴化した『災魔族』は腕を勢いよく振り回すとー。
「うわぁぁ⁉︎」
暴風のような風が吹き荒れてユーガ達は吹き飛ばされる。風の精霊、『シルフ』の恩恵を受けているルインは吹き飛ばされる事はなかったがこれはーかなりまずい。くそ、とユーガは呟いて起き上がり、起きあがろうとしている仲間達の元へと走った。
「皆、大丈夫か・・・?」
「な、なんとか・・・」
リフィアがそう答え、ユーガは小さく安堵しー再度雄叫びを上げた『災魔族』へと視線を向ける。トビとシノが仲間達に回復魔法をかけてくれ、完全に痛みは引かないが少しはマシになった体を確認して、ユーガは小さく息を吐いた。どうする?普通に近付こうにも近寄れない、距離を取ってもーすぐに距離を詰められてしまうだろう。現に、『災魔族』は一定の距離を保っている。つまり、こちらを警戒しつつもいつでも攻撃できる立ち位置にいる、という事だ。
「・・・なるほど」
小さくトビが何かを閃いたように呟き、ユーガ達はトビに視線を向けた。トビは口角をわずかに上げ、わからないのか、と皮肉を込めた声音で仲間達に問いかける。
「・・・俺達との距離を一定に保つ相手・・・つまり、俺達が近付いたら吹き飛ばされるが、俺達が離れたら・・・あいつは恐らく追ってくるな」
「・・・なるほど、そういう事ですか」
「理解しました」
ルインとシノは理解できたようで、ユーガ達は何が何だかわからずに首を傾げるとーその会話を遮るかのように、『災魔族』は雄叫びを上げて再度腕を振るう体制となった。
「まずい、伏せなさい‼︎」
ルインの声に咄嗟にユーガ達は身を低くして地面に張り付くとーその瞬間、ユーガ達の少し上を暴風が吹き荒れた。ユーガはその風に耐えながら、先ほどの作戦の意味を考えーきゃ、と小さく悲鳴が聞こえ、意識を仲間の方へと戻すとー。
「め、メル‼︎くそっ・・・‼︎」
吹き荒れる暴風に耐えきれず、メルが吹き飛ばされそうになっていてーユーガは慌てて地面に張り付いていた体を起こし、その風を利用してメルの手を掴みに行く。
「ユーガ‼︎・・・に・・・‼︎」
トビの声が聞こえた気がしたが、暴風の吹き荒れる音のせいでユーガの脳内では意味を成さない。吹き飛ばされるメルの手を、ユーガは吹き荒れる風を促進力にしてー掴んだ。よし、と小さく呟いて、近くの岩をメルを掴んでいない方の手でしっかりと掴み、空を舞いそうになっているメルを引き寄せた。メルの体が地面に着地し、彼女はそのまま暴風で乱れた服装を直し、ユーガに視線を向ける。
「あ、ありがとうございます・・・ユーガ君」
「大丈夫か、怪我とかないか⁉︎」
「だ、大丈夫です」
良かった、とユーガは安堵し、メルから視線を『災魔族』の方へ戻すと、吹き荒れていた風は収まっていて、仲間達が戦闘を開始しているのを確認して、メルに視線を戻して口を開いた。
「皆のところに戻ろう。歩けるか?」
「はい」メルは服に付いた汚れを払いながら立ち上がり、ユーガにシアン色の瞳を向けた。「急いで向こうに戻りましょう」
「ああ‼︎」
ユーガは仲間達の方へと走り出し、後ろにメルが付いてきている事を確認してから、先程のトビの作戦について思考を巡らせたがー答えは出なかった。
ユーガがメルを連れて戻ってきたのを確認して、トビは高めていた体内の元素を静かに収めて、戦闘を行う仲間達に声をかけた。
「少し相手は任せるぞ」
「トビ、大丈夫か⁉︎」
駆け寄ってきたユーガの第一声で自身の心配をされ、トビは呆れたように眼を細めながら、小さく息を吐いた。
「・・・てめぇらが吹き飛ばされるから、あいつらにした作戦説明をもう一回しなきゃならねぇんだけど」
「す、すみません」
メルが慌てて謝罪すると、ネロが『災魔族』に剣を振るいながら、焦ったような声音でユーガ達に向けて言い放つ。
「おぉーい、早くしてくれ‼︎時間稼ぎにも限界があるぞこれ‼︎」
ネロの声を聞いて、ユーガはトビに再度視線を戻し、トビの瞳をまっすぐ見つめるとートビもそれに応えるように、蒼色の瞳をユーガに向けた。
「・・・いいか、作戦を言うぞ」
ユーガとメルはトビの作戦を聞きながら、思考を巡らせる。ーかなり危険な作戦であることに変わりはないが、ユーガ達は数々の困難を乗り越えてきた。恐らく、ここで失敗するような奴等ではないだろう、とトビはユーガに視線を向けて考える。
「・・・という事だ」
「・・・かなり危険ですね」
メルがそう言うと、ユーガは拳を胸の前まで持っていき、強く握りしめた。それはまるで、彼の決意を示しているようでー。
「それでも、やろう。今までだって、そういう困難も俺達は乗り越えてきたんだ。それに、それ以外にいい作戦はないんだろ、トビ」
「あぁ。今はこれしか思いつかねぇ」
わかった、とユーガは頷き、剣を鞘から引き抜いてしっかりと握りしめる。仲間達が足止めをしてくれてはいるが、あの『災魔族』の攻撃力はとてつもなく高い。きっと、まともに喰らったらかなりまずいだろう。
「行くぞ」
トビが前に立って駆け出し、ユーガとメルもそれに伴って足を踏み出す。全速力で駆け抜ける中、ちら、とトビはメルに視線を向け、心の中で小さく鼻を鳴らした。
(この作戦の要はてめぇだ、メル・・・しくじるなよ)
全ての鍵を握るのは、今回はメルになるだろう。メルがしくじれば、最悪全員が死ぬ。メルの町を救う事も、四大幻将の調査も全てが水の泡となる。しかも今回の相手は、ただの凶暴化した魔物ではなくー『災魔族』なのだ。一筋縄ではいかない事など、一目瞭然すぎる。トビは先程ユーガ達に伝えた作戦を反芻し、双銃を握る手にさらに力を込めた。
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