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第二十話①『本音』
しおりを挟む翌朝になるとみる香は布団の上で思考を巡らせる。
今日は終業式だ。しかしいつもより早く目覚めたみる香は布団から出ることなく、昨日の会話を思い出していた。
――――――『ナツヤスミフタリデアソビニイコウヨ、トモダチダシサ』
昨日バッド君と友達になることが出来たみる香はこの彼の台詞になんらおかしな点などない事を理解している。友達なのだから出掛けるのは普通だろう。
だが、檸檬や桃田達に対する気持ちとバッド君に対する気持ちが数ミリほど違う気がするのは何故なのだろうか。それが分からなかった。
友達なのだからバッド君と出掛けても構わないだろう。しかし言葉にし難い違和感がどうしても今のみる香には拭いきれなかった。
「……ん? あれ、待って」
そこでみる香は気が付く。やはりバッド君と出掛けるのはなしだ。
そう決意を固めると瞬時に布団から飛び出し、支度を始めた。
「昨日のお誘いだけど、断らせてもらうね」
「え?」
みる香は終業式が終わり、放課後になるとバッド君を呼び止め教室内で断りの台詞を口に出す。
バッド君は急な断りに驚いた様子を見せた。
しかしみる香はその言葉を言い終えるとバッド君に手を振ってじゃあまたと自席に戻り机に置かれた鞄を肩にかける。
するとバッド君は「みる香ちゃん」と背後から困惑の声を出してきた。
「急にどうしたの? 昨日はいいって言ってくれてたと思うんだけど」
みる香は彼の方へ身体を向けると人差し指をバッド君の顔の前に突き立てた。
「前に言ってたじゃん、男と女が二人で出掛けるのはデートだって! バッド君が言ってたんだよ?」
そう、以前久々原からデートの誘いを受けた時にバッド君に言われたことだ。
それにみる香も久々原との一件から男女二人での外出は遠慮しようと思うようになっていた。
だというのにバッド君と二人きりで出掛けるだなんて、今のみる香には断る他なかった。
昨日は頭からすっかり抜けていたが、今朝思い出したことでみる香の気持ちは固まっていた。
「それに私もあの時懲りたんだよ、その気もないのに出掛けるのは良くないって。だからバッド君とは遊びに行かないよ」
勿論バッド君がみる香を異性として誘っているとは到底思ってもいない。みる香だってその気はない。
だが、男女である以上は二人きりで出掛けるのは躊躇われた。前回の経験が大きかったのだ。
そんなみる香を前にバッド君は自身の首筋に手を当てがいながらこちらに向き合う形で言葉を発してきた。
「うーん、だけど今回のはデートじゃないよ?」
何とバッド君は前回とは正反対の言葉を放ってきた。みる香は思わず怪訝な目を向ける。
「男と女が出掛けるのはデートだって誰かさんが言ってたけど??」
そう言ってバッド君に詰め寄ると彼は困ったような笑みを向けて両手を見せてくる。
バッド君は「まあまあ落ち着いてよ」とみる香を宥めようとしてくるが、みる香の表情はムスッとしたままだ。
「確かに男と女が出掛けるのはデートだね。うん、撤回しないよ」
「じゃあ今回は無理だね」
「だけどさ、俺は君と遊びに出かけたいんだ。友達として」
「ん?」
「みる香ちゃんがデートって思うのは仕方ないけど……俺としてはただの友達として、君と遊びに出かけたいなって思うんだよね」
「むむ……」
「昨日俺と友達になりたいって言ってくれて嬉しかったんだけどなあ」
「…………」
「せっかく友達になったなら、交流を深めたいって思うのは当然のことだと思うんだけどなあ」
「………………」
「みる香ちゃん風に言わせてもらうと、とにかくデートじゃないっていう答えになるんだけどねえ」
その台詞は、以前久々原との紅茶巡りをデートだと言い張るバッド君に対してみる香が放った言葉を思い起こさせた。
こんな言葉まで出されてしまってはもう何も言う事はできない。
「…………っ、わ、分かった! デートじゃないなら! 行くから!」
完敗である。バッド君には敵いそうにない。
みる香はバッド君の誘いを受けると彼は途端に爽やかな笑みを向けて楽しそうにこちらを見た。彼の表情はいつになく涼しげだ。
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