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第十八話③『翌日』
しおりを挟む多くのお付きの人達から感謝の意を示された嶺歌はその後も数多くの豪華な料理にデザートまで振る舞われ、美味しい料理の世界に浸っていた。形南と談笑を続けながら楽しい時間を過ごしていく。
嶺歌は途中気になっていた事を尋ねた。嶺歌が竜脳寺等に初めて対面した日、形南は嶺歌に見せたいものがあると言っていた件に関してだ。
あの日以降、それどころではなくなっていたため結局聞けずじまいであった。
それを彼女に話すと形南は嬉しそうな顔をして「覚えてくださっていたのですね」と笑みを溢す。まるで花が咲きそうなその形南の笑みは、嶺歌の気持ちを和らげた。
「実は嶺歌の魔法少女姿を目にした日から、私も魔法少女になりきりたいという思いが強くありましたの。ですから特注で衣装をデザイナーに作らせたのですのよ」
形南はそう言うと兜悟朗に合図を出し、彼は素早くスーツケースを持ち出すとそこから目を見張るほどに眩くて可愛らしい衣装が現れた。嶺歌はあまりの豪華なその衣装に思わず目を輝かせる。
「ええっ! めっっっちゃ可愛い!!! 凄いね!! 魔法少女だよこれ!!!」
素直に思った感想を隠さず口に出すと形南はとても嬉しそうに口元を緩め、頬に手を当ててうふふと声を上げた。形南も自慢の衣装なのであろうその服を見て嶺歌は想像をしてみる。
形南が着用して自分と二人で並んだその姿は、とても様になっており、自身の心をワクワクさせていた。
「せっかく作ったんだから一緒に着て写真でも撮ろうよ!」
嶺歌がそんな提案をすると形南はパアアッと瞳を輝かせ、その言葉を待っていたかのように喜びを露わにした。
「まあ! そうしましょうですの!! ふふっでしたら早速今からどうかしら?」
「うんいいね! じゃあ着替えて撮ろう!」
そんなやり取りをして、嶺歌は形南と魔法少女の姿で写真撮影会を始める。
兜悟朗に写真を撮ってもらうこともあれば、嶺歌がスマホを手に持ち二人で自撮りもしていた。自撮りをした事がないという形南も興味深そうにスマホを持ちながら一緒に撮影をする。
嶺歌の魔法少女の姿は、ただのコスプレであると口にすれば支障はないため、カメラの中に残すということ自体に問題はなかった。実際に実物の魔法少女を見られては困るが、写真ぐらいは許されている。
これは魔法協会からもそれに関しての正式なお達しがきており、魔法少女だとバレないのであれば臨機応変にという意味が含まれていた。
ゆえにこのように写真に収める事は全く問題がない。
それに、魔法少女と言われても何の違和感も持たない程に完成度の高い形南の姿と、嶺歌を比べても違いなど分からないのだ。
だからこそ嶺歌は今回の撮影会を心の底から楽しむことができていた。
「現像して近々お渡ししますね」
楽しげにそう口にする形南に嶺歌はありがとうとお礼を告げた。そして撮影会を終えた二人は満足げにソファに腰を掛け休憩を取る。
「お疲れ様で御座います。紅茶をお入れしました。どうぞお召し上がりください」
そう言ってすぐに飲み物を兜悟朗が用意してくれていた。彼の気の利いた行動力には、何度感心しても足りない気がする。
嶺歌は兜悟朗にもお礼を言いながら形南と休息も兼ねて紅茶を片手にゆっくりと話をすることになった。
学校の話や趣味の話と、多くの話をしていく中で話は唐突に妹の嶺璃の話題になる。
「嶺璃ちゃんを初めてお見かけした時、なんて可愛らしいのでしょうと思わず頬が緩みましたの。嶺歌にそっくりなのね」
「嶺璃かわいいでしょ~自慢の妹だよ。甘えん坊だから、そろそろしっかりさせなきゃとは思うけど」
「ふふ、嶺歌がお姉さんというのはとても納得ですの」
嶺歌は改めて形南が嶺璃にブレスレットをプレゼントしてくれた事に対して礼を告げた。しかしあのような子どもが喜ぶ物をいつ購入していたのだろう。
「嶺歌に妹様がいらっしゃるのは事前の調査で知っておりましたの。いつかはお会いするだろうと、常に用意してお持ちしていましたのよ」
「マジかっ! めっちゃ用意良い!」
そのような会話をしてあっという間に時間は過ぎていった。
今回の一件は無事に事なきを得たのだが、話も一段落したところで嶺歌はもう一つやらねばならない事を形南に向けて口にする。
「野薔薇内蘭乃への復讐は来週にしようと思うんだけど都合はつく?」
そう、竜脳寺外理への復讐は確かに終わった。だがまだもう一人報いを与えなければならない人物がいるのだ。彼女への調査も竜脳寺の調査の折にしていた嶺歌だったが、彼女も彼女で中々に癖のある女の一人である事が判明していた。
「ええ、問題ありませんの」
形南はすぐに答えてみせた。嶺歌はその返答に頷き返すと、手元にあった紅茶を飲み込む。
野薔薇内蘭乃。彼女は竜脳寺に形南という婚約者がいると分かっていながらも彼に何度も色仕掛けで誘惑を繰り返し、挙げ句の果てに他人の婚約者を奪い取った性悪な女だ。
これは嶺歌が以前魔法を使用して彼女の過去の記憶を確認したため間違いようのない事実だ。彼女への報復も、もちろん魔法少女として問題なく行える。
肝心な復讐方法だが、実は昨日の出来事でいい収穫があった。今回はそれを使って野薔薇内を反省させようという算段である。
「ですが嶺歌、もうお一人で事を成すという意見には同意出来かねますわ」
「ん?」
「兜悟朗」
「はい、お嬢様」
形南が彼の名を呼ぶと途端にこちらの付近まで兜悟朗が歩いてくる。
相変わらず俊敏なその動きに心の中で敬意を表しながらも嶺歌は兜悟朗が何をするつもりなのか彼の行動を目で追っていた。
「当日はどうか私と共に参りましょう」
「……はいっ!?」
「彼女の動向は私も追っております。情報の交換を共に行い、当日を迎えたく思います」
「兜悟朗も嶺歌も優秀ですの。けれど二人で協力し合えば更に優秀になりますでしょう? ですから、兜悟朗を使ってくださいな。今回は影からなどではなく、正面から嶺歌と共に報復を行いたいのですのよ」
「なるほど……」
形南の意見は的を得ている。嶺歌にしか掴めない情報があるようにきっと優秀な兜悟朗にしか掴めない貴重な情報もあるだろう。
このように前のめりに協力を申し出てくれるという事は本当に、高円寺院家の誇りの問題よりも嶺歌の事を優先してくれているという事だ。
そう改めて感じた嶺歌は、二人の申し出をありがたく受け入れることに決めた。
決行日は来週の金曜日だ。それまでに兜悟朗と情報の交換を行い、最善の準備をしておく。話はそれでまとまっていた。
第十八話『翌日』終
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