121 / 164
第四十九話①『確かめたい令嬢』
しおりを挟む※今後は更新頻度を増やしていく予定です。
(こちらの文章は近い内に消去させていただきます)
* * *
形南が学校を終えると兜悟朗がいつものように迎えに来ており、そのままリムジンに乗り込む。今日は平尾に会える日だ。
形南は緩みそうな頬を引き締めながら窓の外に目を向けた。
そうして一日前の出来事を思い出す。昨日、嶺歌と話が出来た事が本当に良かった。
前の日は口に出すつもりがなかったものの、感情が抑えきれずに自身の黒い感情を曝け出してしまっていた。だがそれでも嶺歌はそれを悪とは言わずに当たり前の感情だと、そうはっきりと明言してくれていた。
それが形南にとってとてつもなく救いに感じられ、形南は以前よりももっと嶺歌の事が大好きになっていた。
これまでも彼女の事は本当に尊敬しており、好きな友達であったが、昨日の一件からその気持ちは更に上へと向上していた。
嶺歌は形南が想像してきた以上に優しくて、強い心を持っていると今回の件で改めて認識する事が出来ていた。
「兜悟朗」
形南は自分の執事の名を呼ぶ。彼はいつものように迅速に「はい、お嬢様」とこちらの言葉に声を返す。形南はそのまま窓の外に目を向けながら言葉を続けた。
「貴方、もっと休暇を増やしても構いませんのよ。最近は半休を取っているけれど、半日とは言わず一日取っても問題ありませんの」
無論、嶺歌との事を応援したいがためにこのような提案を口にしているのだが、兜悟朗が本当に何を思って嶺歌に接しているのかは、主人である形南にも分からなかった。彼は嶺歌をどう思っているのだろう。
(特別……それは強く感じられるのですけれど)
兜悟朗にとっての嶺歌が特別な存在である事だけは確かだろう。
あの日、嶺歌が海で溺れかけてしまった悲劇の日、兜悟朗の態度全てでそれを理解していた。
彼はいつでも冷静で常に物事を客観的に捉え、淡々と行動を為す執事だ。いや、だったのだ。彼があのように感情を表に出す事は本当にこれまで一度もなかった。
形南が竜脳寺に裏切られた日も、確かに顔に憤りが見えてはいたものの、包み隠さず剥き出しにした事はなかったのだ。
それがあの日だけは、兜悟朗も感情を隠す事は一切なく、いつも穏やかさを保つ紳士的な執事ではなくなっていた。
それはあまりにも兜悟朗が嶺歌を大事に思っているからなのだと――形南はそう確信めいた推測をしている。
「お気遣い下さり有難う御座います。休暇を取らせて頂きご配慮痛み入ります」
兜悟朗はそう言っていつものように柔らかく微笑みかけてきた。形南は兜悟朗の方に視線を向けてその言葉に声を返す。
「元々貴方には休暇が足りなすぎるのですの。私以外にももっと目をお向けなさいな」
そうは言っても形南にはもう分かっていた。兜悟朗がもう自分以外に目を向けているというその事実に。そしてそれを、兜悟朗本人も自覚しているという事に。
その事を形南は少し寂しいと思いながらも、心の底から嬉しいと、本気でそう感じている。
「お心遣い感謝致します」
兜悟朗はそう言って再び柔らかな笑みをバックミラー越しに向けるとそのまま運転を続けた。
形南もそれ以上は何も言わず、彼の運転に体を委ねながら平尾のいる秋田湖高等学校へと向かうのであった。
next→第四十九話②
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる