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31『覗き見しましょう』の書
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自信のなさは魔法の詠唱に影響する。
掻い摘んだ程度の知識では発動しないのも致し方ないと思うべきか…。
「都合良くはいかないものだな」
「ま、自己流だとそんなもんっす~。『追跡魔法』は禁術なんですよ。専門職のオレなら扱えますが。どーもどもぉ♪」
「え?」
独り言に返事、ガシッと手首を掴まれた。
振り向くと「禁術はだーめ!」いつの間に訪れたのか、世界調査士の千手がヘラヘラと気の抜ける笑顔を向けていた。
作り置きごはんの喪失によるダメージが注意力を欠いたのか、不慣れな魔法詠唱による集中力で周りが見えなかったのか。何にしてもグダグダだ。
「そーれにしてもっ!禁術を詠唱だなんて、らしくないっすねぇ。何してたんすか?
忍び歩くのは職業柄なんすけどぉ…加護様ってば意識が散漫するくらい焦ってました?」
冴えた観察眼だ。
「千手様、申し訳ない。実は…」
食事が何者かに盗まれた経緯、『ナンバータグ』の切れ端を見つけた件などを話して聞かせた。千手は顎に手を当てて思考を逡巡させる。そして結論に至った様子で頷いた。
「不知火院長の指先技術によって、加護様があんな事やこんな事が忘れられず、悶えて、懸想して、恋焦がれているのは非っっ常に嫉妬メラッメラなんですがぁ!…当面の問題はサクッと覗き見しちゃいましょうか」
指先技術?
あぁ料理の腕前のことだろうな。だとすれば合点だ。
「不知火教師の腕前は確かに。千手様、感謝する」
「腕前って…うあぁもう!その話は後でじっくりしましょうね~。それじゃあ『追跡魔法』と『時遡り魔法』の禁術の重ね掛けします」
千手は胸元から紙札を二枚取り出すと詠唱しながら印を紙上に組んだ。
淡い白光の靄が生まれ、その中に時間が戻された自宅の光景が浮かび始める…。
「もしかしたら、オレの追っている仕事と因果関係があるかもしれません。勘ですけれどねぇ」
「…疎くてすまない。事件だろうか?」
「事件っす。"勇者候補"の神隠しが近辺で多発してましてねぇ、今日は加護様にも注意を促そうかと思って立ち寄りました」
白光の靄の中に少女が映し出された。
「お役に立てましたら、オレにもご褒美下さいねぇ♪」
少女の足首にはアンクレット。
まだ切れていない状態の『ナンバータグ』が煌いていた。
掻い摘んだ程度の知識では発動しないのも致し方ないと思うべきか…。
「都合良くはいかないものだな」
「ま、自己流だとそんなもんっす~。『追跡魔法』は禁術なんですよ。専門職のオレなら扱えますが。どーもどもぉ♪」
「え?」
独り言に返事、ガシッと手首を掴まれた。
振り向くと「禁術はだーめ!」いつの間に訪れたのか、世界調査士の千手がヘラヘラと気の抜ける笑顔を向けていた。
作り置きごはんの喪失によるダメージが注意力を欠いたのか、不慣れな魔法詠唱による集中力で周りが見えなかったのか。何にしてもグダグダだ。
「そーれにしてもっ!禁術を詠唱だなんて、らしくないっすねぇ。何してたんすか?
忍び歩くのは職業柄なんすけどぉ…加護様ってば意識が散漫するくらい焦ってました?」
冴えた観察眼だ。
「千手様、申し訳ない。実は…」
食事が何者かに盗まれた経緯、『ナンバータグ』の切れ端を見つけた件などを話して聞かせた。千手は顎に手を当てて思考を逡巡させる。そして結論に至った様子で頷いた。
「不知火院長の指先技術によって、加護様があんな事やこんな事が忘れられず、悶えて、懸想して、恋焦がれているのは非っっ常に嫉妬メラッメラなんですがぁ!…当面の問題はサクッと覗き見しちゃいましょうか」
指先技術?
あぁ料理の腕前のことだろうな。だとすれば合点だ。
「不知火教師の腕前は確かに。千手様、感謝する」
「腕前って…うあぁもう!その話は後でじっくりしましょうね~。それじゃあ『追跡魔法』と『時遡り魔法』の禁術の重ね掛けします」
千手は胸元から紙札を二枚取り出すと詠唱しながら印を紙上に組んだ。
淡い白光の靄が生まれ、その中に時間が戻された自宅の光景が浮かび始める…。
「もしかしたら、オレの追っている仕事と因果関係があるかもしれません。勘ですけれどねぇ」
「…疎くてすまない。事件だろうか?」
「事件っす。"勇者候補"の神隠しが近辺で多発してましてねぇ、今日は加護様にも注意を促そうかと思って立ち寄りました」
白光の靄の中に少女が映し出された。
「お役に立てましたら、オレにもご褒美下さいねぇ♪」
少女の足首にはアンクレット。
まだ切れていない状態の『ナンバータグ』が煌いていた。
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