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57『手を繋ぐ約束』の書
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『奴隷所有者許可証』…署名欄がまだ無記入なままのそれを、如月は破いた。
「わたくしは罪深い行為をしてしまいました。世界にも、召喚士の加護にも。とても許されることではありませんね…」
深々と頭を下げる世界皇帝を、木蓮、千手、不知火はそれぞれ片膝を付いて仰ぎ見る。
魔物が召喚される歪みや亀裂、魔物達の痕跡も、全て消滅した静謐な空気の中で、彼女は感情を雫のように落としていた。
雫とは不思議なもので、手のひらで受け止めてみたくなる。雫に触れるのは気まぐれか慈しみか。
「…僭越ながら、でいいのかな。亀裂の放置と魔物の召集は僕の個人的な仕返しでもあるよ。陛下の"目的"がことごとく壊れた気分はどうだろうね?
ハッキリ申し上げるが世界への罪なんか全くもってどうでもいい。これ以上、僕の加護に悪さしないでおくれ」
しれっと木蓮は口走った。
ぞんざいな物言いに「貴殿は失礼にも程があるぞ」不知火は木蓮の尻をムギュッとつねる。当然ながら木蓮は不機嫌だ。
「わたくしの"目的"は世界を壊し無に帰すこと。静観するだけを求められた"人形"には、結局、動かす手も足も心も無かった。間違いだらけで無謀な高望みだった…。
壊された目的に、悲しみも怒りもありません。加護が"一緒に護る"と話してくれたからでしょうか。わたくしと手を繋ぐ約束をしました」
三人は顔を見合わせた。苦笑が溢れる。
思案をまとめた千手が歩み寄った。
「加護様がそう言うならね~。じゃあ陛下と加護様の間にオレも混ぜて欲しいっす!」
如月は、憂う瞳を加護の"保護者達"に向ける。
「陛下の望みは冤罪です。今こうして話された"目的"を知る者は身内のみ、魔物達の襲来もいつもの事件で片付く案件っす。更に朗報を申し上げればぁ、死傷者をすんげぇ嫌う加護様が世界の汚れを取っ払いました。もうね、綺麗さっぱり!すっきり!
"平和の終結"を信じて手を繋いでも良いんじゃないっすか?」
如月の返事は待たない。待つ必要もないと、木蓮は手持ちの『奴隷所有者許可証』を取り出して続けた。
「加護は僕の召喚した"転生者"だし、誰よりも理解している大切な子なんだよね。だから言い出したら頑固なことも、約束を守るのを優先することも、自由に取捨選択することも、わかってるし許してる。加護が目を覚ましたら、手を繋いであげて」
相変わらずの木蓮の態度だ。呆れた不知火が締め括った。
「女皇陛下。どうか、我々…世界機関に与する戦闘院や調査院や管理院、各所も信じてはくれませんかな?魔物達よりも遥かに貴女様のために尽力致しますぞ。
嫌で納得の行かないことは、我慢するより、我が儘に手を繋いで歩いてみるべきでは?
"半分だけ魔王"は『愚者』に属するより『我が儘』に属する方がよく似合うと、俺は思った次第です」
もう一人の"半分だけ魔王"の未来は、『愚者』の鎖を断ち切って『我が儘』を選び転生した。
その笑顔を知る不知火は、辿るべき解答も当然ながら知っていた。
「手を、繋ぎます…」
如月の優しい声音と肯定の頷きに、三人の保護者達は黙して拝礼した。
「わたくしは罪深い行為をしてしまいました。世界にも、召喚士の加護にも。とても許されることではありませんね…」
深々と頭を下げる世界皇帝を、木蓮、千手、不知火はそれぞれ片膝を付いて仰ぎ見る。
魔物が召喚される歪みや亀裂、魔物達の痕跡も、全て消滅した静謐な空気の中で、彼女は感情を雫のように落としていた。
雫とは不思議なもので、手のひらで受け止めてみたくなる。雫に触れるのは気まぐれか慈しみか。
「…僭越ながら、でいいのかな。亀裂の放置と魔物の召集は僕の個人的な仕返しでもあるよ。陛下の"目的"がことごとく壊れた気分はどうだろうね?
ハッキリ申し上げるが世界への罪なんか全くもってどうでもいい。これ以上、僕の加護に悪さしないでおくれ」
しれっと木蓮は口走った。
ぞんざいな物言いに「貴殿は失礼にも程があるぞ」不知火は木蓮の尻をムギュッとつねる。当然ながら木蓮は不機嫌だ。
「わたくしの"目的"は世界を壊し無に帰すこと。静観するだけを求められた"人形"には、結局、動かす手も足も心も無かった。間違いだらけで無謀な高望みだった…。
壊された目的に、悲しみも怒りもありません。加護が"一緒に護る"と話してくれたからでしょうか。わたくしと手を繋ぐ約束をしました」
三人は顔を見合わせた。苦笑が溢れる。
思案をまとめた千手が歩み寄った。
「加護様がそう言うならね~。じゃあ陛下と加護様の間にオレも混ぜて欲しいっす!」
如月は、憂う瞳を加護の"保護者達"に向ける。
「陛下の望みは冤罪です。今こうして話された"目的"を知る者は身内のみ、魔物達の襲来もいつもの事件で片付く案件っす。更に朗報を申し上げればぁ、死傷者をすんげぇ嫌う加護様が世界の汚れを取っ払いました。もうね、綺麗さっぱり!すっきり!
"平和の終結"を信じて手を繋いでも良いんじゃないっすか?」
如月の返事は待たない。待つ必要もないと、木蓮は手持ちの『奴隷所有者許可証』を取り出して続けた。
「加護は僕の召喚した"転生者"だし、誰よりも理解している大切な子なんだよね。だから言い出したら頑固なことも、約束を守るのを優先することも、自由に取捨選択することも、わかってるし許してる。加護が目を覚ましたら、手を繋いであげて」
相変わらずの木蓮の態度だ。呆れた不知火が締め括った。
「女皇陛下。どうか、我々…世界機関に与する戦闘院や調査院や管理院、各所も信じてはくれませんかな?魔物達よりも遥かに貴女様のために尽力致しますぞ。
嫌で納得の行かないことは、我慢するより、我が儘に手を繋いで歩いてみるべきでは?
"半分だけ魔王"は『愚者』に属するより『我が儘』に属する方がよく似合うと、俺は思った次第です」
もう一人の"半分だけ魔王"の未来は、『愚者』の鎖を断ち切って『我が儘』を選び転生した。
その笑顔を知る不知火は、辿るべき解答も当然ながら知っていた。
「手を、繋ぎます…」
如月の優しい声音と肯定の頷きに、三人の保護者達は黙して拝礼した。
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